© Alec Soth / Magnum Photos

アメリカン・ドリームとは何かという問いに、「アメリカン・ドリームを感じられたとしても、明確に表面化されることは、ほとんどありません。この言葉は、個人主義という約束、つまり、個人に何かをしようとする意志さえあれば、何でもできる自由が保証されている、という感覚に関係していると思います。現実的だとは思いませんが、この感覚が自己理解の根底にあります」とアレック・ソス(Alec Soth)は答えた。

「あなたの夢はなんですか?」と撮影中に、被写体に問いかけることが多いというアレック・ソス。夢とその場で起こる現実が交錯するその様を、写真で表現しようと試みる。2016年にリリースしたVICE MAGAZINE 「THE PHOTO ISSUE」でも、表紙をはじめ、巻頭のストーリーを担当してもらった。異文化での気まずさや居心地の悪さから生まれる事象を、北海道への旅のなかで表現した。同時に、ともに旅をした女性が、感じた世界を言葉にすることで、その場で起こる現実と、彼女の頭の中の空想とを、混在させ表現した。

そんなアレック・ソスの作品を理解するうえで、重要なキーワードのひとつに、〈Stream of consciousness(意識の流れ)〉がある。米国の心理学者、W.ジェームズが提唱した〈意識の流れ〉は、〈人間の意識は、絶えず生まれ変化し続けるが、それをひとつの流れとして捉える〉という心理学用語。これが、J.ジョイスの『ユリシーズ』など、文学表現の手法として使用されてきた。

2004年に出版されたアレック・ソスの写真集『SLEEPING BY THE MISSISSIPPI(スリーピング・バイ・ミシシッピ)』にも、この概念は大きく関与している。昨今では初版が10万円ほどまでプレミアが付き、なかなか手にできなかった写真集が復刊されたのを機に、改めてアレック・ソスにインタビューを敢行した。

ミネソタ州ベイサ チャールズ  © Alec Soth / Magnum Photos

ウィスコンシン州ファウンテンシティ 墓地  © Alec Soth / Magnum Photos

ミネソタ州ミネアポリス ポーリッシュ・パレス キム  © Alec Soth / Magnum Photos

アイオワ州ダベンポート シュガーズ  © Alec Soth / Magnum Photos

イリノイ州ダラスシティ  © Alec Soth / Magnum Photos

当時このプロジェクトを始めた動機を教えてください。

1997年に、『From Here To There(フロム・ヒア・トゥー・ゼア)』というプロジェクトに取り組みました。1枚の写真が次の写真に繋がっていく、というコンセプトのもと、例えば、卵を持つ少年を撮影したあと、鶏を探しにいく、というような撮影をしました。その途中、ミシシッピ川沿いで1枚の写真を撮ったことがきっかけです。〈Stream of consciousness(意識の流れ)〉の手法を、写真でアプローチするために、この川をメタファーとして使おうと決めたのです。

「メタファーとしてミシシッピ川を捉えている」という以前に、ミシシッピ川、そして川が横断する中部地区について、よく理解していない人も多いかと思います。一般的に米国ではミシシッピ川は、どのように捉えられているのでしょうか?

ミシシッピ川は米国の真ん中を、北から南へ縦断している川ですが、決して美しいと讃えられているわけではありません。実際この川は、少なくとも従来の〈美しい〉という言葉には当てはまりません。水は茶色く、川は産業用の艀船で混み合っています。〈ザ・ビッグ・マディー(The Big Muddy(巨大なぬかるみ)〉というあだ名もあるほどです。ほとんどの人は、車で川を渡るだけです。私も家からスタジオに向かう途中、車で川を毎日越えています。ただ、この写真集には、その事実はそれほど関係していません。そもそもミシシッピ川自体は、数えるほどしか撮影していません。それでも、川は私の深層心理に深く刻み込まれています。

私はミシシッピ川が流れる、寒さで有名な北部のミネソタに住んでいます。北部の文化的なルーツは、スカンディナビアやドイツ系の人々が、移り住み、彼らによって街が形成されています。したがって、住民と接すると、〈よそよそしい〉と感じるかもしれません。川を下って、南の州へ向かうと、気候は温暖になり、文化的にもアフリカ系アメリカ人の影響が感じられます。ミシシッピ川沿いとひとことでいっても、北部と南部では、気候や住民たちの特質を表す思考や行動の様式が大きく異なりますが、どの州もニューヨークやロサンゼルスなどの沿岸部の街からは、遠く離れています。それでも、ミシシッピ川やその周辺の地域は、アメリカ文化に大きな影響を与えてきた歴史があります。アメリカにおける最も重要な小説ともいえる、『ハックルベリー・フィンの冒険』の舞台はミシシッピ川です。さらに、この国が誇る音楽、ジャズやカントリー、ポップスなども、南部に暮らしていたアフリカ系アメリカ人の奴隷の文化にルーツがあります。

何度か、ミシシッピ川沿いを撮影していますが、この写真集の撮影では、北部がまだ寒い初春にミネソタを出発して、暖かい南部地域へ向かい、最終的にはルイジアナを目指しました。

写真集にもジョニー・キャッシュ(Johnny Cash)が幼少期を過ごした家の写真が収められていますね。個人的にはニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコと、アメリカの大都市にしか行ったことがありません。それらの街への憧れも強かったです。しかし、この写真集からは、アメリカの未知なる世界が垣間見れて、とても興味深いです。この世界に触れると、ドナルド・トランプが大統領に当選するのもわかる気がします。写真集のイントロダクションでも、アメリカ人にとってミシシッピ川沿いの中部の州は、〈飛行機が上空を通過するだけの場所〉だと多くの人が思っているという記述もありました。

米国のメディアカルチャーは、ニューヨークとロサンゼルスに支配されているといっても過言ではありません。実際に私がこれまで携わってきた多くの新聞や雑誌は、ニューヨークかロサンゼルスに拠点があるメディアがほとんどです。強大なメディアカルチャーがある東西の沿岸部と、それに挟まれた広大な中部地区とでは、文化や価値観などが、大きく分断されています。それがトランプ大統領の当選にも関係しているのでしょう。しかし、この〈飛行機が上空を通過するだけの場所〉は、中心と周辺、あるいは沿岸部と中部という単なる二元的な区分では測れない、ずっと複雑な文化と背景があります。例えば、今私が住んでいるミネソタは、米国でサンフランシスコの次に同性愛者に優しい地域とされています。南部には奴隷制という負の遺産がありますが、多くのアフリカ系アメリカ人による文化は、白人主体のリベラルな文化が漂う街よりも、ずっと友好的だと考えられています。アメリカ中部は、一般的な認識よりも、ずっと複雑で豊かだと感じます。しかし、何かしらの映画を観たり、ニュースを読んでも、それを捉えるのは難しいでしょう。

では、ミシシッピ川をメタファー的に、〈Stream of consciousness(意識の流れ)〉という表現方法をとった理由を教えてください。また、この写真集にはベッドを撮った写真が、いくつか掲載されています。 2016年にリリースしたVICE MAGAZINE 「THE PHOTO ISSUE」でも、ベッドが写っている写真を表紙にしましたが、ベッドも、あなたが写真表現をする上で欠かせないメタファーになっていると感じます。何か特別な思い入れがあるのですか?

昔からベッドが大好きで、子供の頃、私のベッドは宇宙船でした。安全に夢や空想の世界を探検できる場所です。 幼少期はひとりで過ごすことが多く、空想の世界を創り出し、要塞や架空の友達を思い描いていました。頭のなかに豊かな世界を思い描いていたのです。一般的に写真とは、自分の外にある世界を写し出すものですが、そこに私の内なる世界を写しこませようとしています。だからこそ、プロジェクトのタイトルを『SLEEPING BY THE MISSISSIPPI』にしました。それは、外側の世界であると同時に、私のなかにある夢の世界を表しているのです。

今でも1時間以上空想にふけることはあるのでしょうか?

ここ最近、瞑想をはじめました。瞑想が素晴らしいのは、心がいかに漂いやすいかを学べるからです。私たちは絶えず、今この瞬間に起きる現実と、頭のなかで再生される映像のあいだを行き来しているのです。アートを使って、漂う心に馬具をつけ、サーファーが波に乗るように、その流れに乗るのが好きです。

〈Stream of consciousness(意識の流れ)〉という表現方法をとったのも、その辺りに秘密があるのですね。

確かに想像を具現化するのは好きですが、それが実際に実現することはありません。現実世界はいつも、想像とは違う、奇妙で不思議な事象と出会います。

この撮影で、あなたが想像、あるいは認識していた事象を超えたものが、おさめられているということですね。巻末のキャプションにも記されていますが、それ以外で印象的なエピソードがあれば教えてください。

印象的かどうかはわかりませんが、誰かの世界に足を踏み入れられたとき、撮影が終わった翌日にでも、そのストーリーを誰かと共有したくなります。写真家という職業は、他人のドアをノックし、家のなかに入る口実になります。刑務所のようなエキゾチックな場所に入れるかもしれません。『SLEEPING BY THE MISSISSIPPI』では、アメリカ最大の重警備の刑務所を訪れました。しかし、それと同じくらい、普通の人の家に入るのもスリリングです。ひとつの例がハーマンのベッドルームです。ユニークな塗装を施された家を撮っていたら、出て来た男性が腕を振って、なかに入るよう合図してくれました。そこで魔法のようなものを見つけました。

そのような、あなたの表現に対して、当時はなぜ8×10という大判カメラを使っていたのですか?

8×10というと、よくディテールについて、また、写真を撮るまでの準備に時間を要する、という話になりますが、どちらも私にとっては欠かせません。しかし、このカメラの最も好きな点は、余白が表現できるからです。このカメラで撮った写真には、他のカメラでは捉えられない立体感が浮かび上がり、それが観る人を写真に引き込み、私と一緒に川沿いを旅している体験になるでしょう。写真家として写真が好きな理由は、写真を観た人に〈体験〉を与えられるからです。この体験を定義づけるつもりはありません。私はただ、人の繋がりのようなものをつくりたいのです。

なるほど。では、改めて今回、写真集『SLEEPING BY THE MISSISSIPPI』が復刊されました。新たに数枚写真を加えていますが、その理由を教えてください。

加えた写真は2枚です。1枚は、写真集の最後に入っていた私のバイオグラフィーの写真で、もう時代遅れで使いたくなかったので、新しいものに差し替えました。また、タイトルページの前に新しい写真を追加しました。人の気配が全くない、冬の川の写真です。この純粋さが出発点にぴったりだと感じたのです。この写真は、改めて写真を見返していたときに発見したもので、当時はネガに傷があり使えなかったのですが、今はデジタルで修正でき、写真集に収録することができました。

あなたの写真には言葉も重要な要素だと感じますが、例えば日本語に翻訳した日本版もつくってもらえたら嬉しいです。

いいアイデアですね。ただ、今のところ日本語訳が付いた写真集をリリースする予定はなく、確かに、もどかしい状況です。私自身も、日本語で表記された偉大な写真集の文字が読めなくて、ガッカリすることがよくありますから。

ケンタッキー州ウィックリフ 釣り人  © Alec Soth / Magnum Photos

アーカンソー州ダイエス ジョニー・キャッシュの幼少期の家  © Alec Soth / Magnum Photos

ルイジアナ州アンゴラステート刑務所 ジョシュア  © Alec Soth / Magnum Photos

ミズーリ州ハンニバル 蝋人形館 ジム  © Alec Soth / Magnum Photos

ルイジアナ州ニューオリンズ 灰の水曜日 アデリン  © Alec Soth / Magnum Photos

ルイジアナ州ケナー ハーマンのベッド  © Alec Soth / Magnum Photos

Alec Soth『SLEEPING BY THE MISSISSIPPI』がイギリスの出版社、MACKより2017年8月、復刊された。なお、プリント付きの特装版も150部限定でリリースされている。