壊れゆく豪華客船コスタ・コンコルディア

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壊れゆく豪華客船コスタ・コンコルディア

彼が撮らえたのは、醜くも美しい廃船となったコスタ・コンコルディア号の姿。船に忍び込むまでのいきさつ、幽霊船に乗船した感想を彼は語ってくれた。

コスタ・コンコルディアの座礁から丸4年が過ぎた。2012年1月13日、乗員乗客4200人を乗せたイタリアの豪華客船コスタ・コンコルディアは、地中海に浮かぶジリオ島の沖合で岩礁に衝突。その衝撃で船体に開いたに70メートルもの亀裂から浸水し、転覆、沈没した。この惨事により、32名が死亡したが、残りの乗客は無事だった。2015年2月11日、同船の船長フランチェスコ・スケッティーノに過失致死などの罪で懲役16年と1ヶ月の判決が下った。彼はこの判決を不服とし、現在控訴している。

コスタ・コンコルディアが引き起こした大惨事、それに便乗して詐欺を働こうとした女性の登場、裁判所で繰り広げられたいざこざ、巨大豪華客船の引き揚げ作業は世界中の関心を集め続けた。作業には複雑な工程が必要で、船体を水面まで持ち上げるために特注プラットフォームを建設し、空気タンクを取り付けるなど数ヶ月に及ぶ作業は多額の費用を要した。船体が動いたのは、事件からすでに2年以上が過ぎた2014年7月末。その後、同船は、曳舟でジェノバ港まで運ばれ、現在も停泊している。この先1年で内装を撤去し、解体された船の残骸は売りに出される。

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写真家ジョナサン・ダンコ・キエルコースキーは、引き揚げられたコスタ・コンコルディアに忍び込んだ。そこで彼が撮らえたのは、醜くも美しい廃船となったコスタ・コンコルディア号の姿だった。船に忍び込むまでのいきさつ、幽霊船に乗船した感想を彼は語ってくれた。

どうしてコスタ・コンコルディア撮影のアイディアが浮かんだのですか。

コスタ・コンコルディアの座礁事件以来、ずっと興味があった。どうしたらあんなに巨大な物体が、ささいなミスと、ちょっとした岩にぶつかるだけで転覆するのか不思議でしょうがなかった。それから、海底から船を直立に起こすための技術、500人もの作業員、9,600億円を超える作業費用も気になっていた。解体のため、船がジェノバ港に運ばれたのを知って、見てみたくなったんだ。

見るだけでなく乗り込んだんですね。

1度目ははうまくいかなかった。沿岸警備隊に捕まって、引き返すしかなかった。2週間後にもう1度トライしたら、うまくいった。

どうやって忍び込んだのですか。

船は海中で桟橋に固定されていたんだけど、海岸のある場所から200メートルしか離れていなかった。だから、泳いでいったんだ。子供用のゴムボートに、カメラと着替えを乗せて、その陰に隠れながら泳いだ。

そのときは捕まらなかったんですね。

日曜の夜に泳いで渡ったんだけど、周りには誰もいなかった。日が出るまで外で待ってから、忍び込んだ。捕まらないか不安だったけれど、誰も来なかった。その日の午後まで船の中にいたんだ。

船内の第一印象を教えて下さい。

現実離れしていた。30分か、長くても1時間程度しかいられないと覚悟していたから、撮影に集中した。船内の間取り図をあらかじめ入手し、撮りたいスポットも何箇所か決めておいた。そこからは成り行きまかせだった。1時間かそこらで、ようやくコスタ・コンコルディアにいる実感が湧いてきた。

どんな感じでしたか。怖くはありませんでしたか。

怖くはなかった。船内はとても穏やかだったけれど、いたるところに乗客がパニック陥った痕跡が残されていたから、悪夢を見ているようだった。通路はとても狭く、天井は低かった。廊下を進むと、スーツケース、ベビーカー、車椅子がそこらじゅうに投げ散らかしてあった。乗客は荷物を詰め込んで、救命ボートに向かったんだ。彼らは、どこかの時点で、荷物を投げ捨て、走り始めたんだろう。甲板の救命ボートに、4000人もの乗客が殺到する様を想像してみるんだ。あちこちでパニックが起きたのが手に取るようにわかるはずだ。

今回の撮影に対してためらいはなかったんですか。30人以上が犠牲になりました。

この悲惨な大事故の痕跡を、船が原型をとどめているうちに、大惨事を目に見えるカタチで記録するのが大切な気がしたんだ。解体されてからでは遅い。正式に許可を得るつもりだったけれど、やりとりの中で、画像記録は残したくない、と断られた。忘れたかったんだろう。しかし、この事故にまつわるたくさんの疑問がまだまだ残っている。

写真はコスタ・コンコルディアの大惨事の痕を撮らえているのですが、美的でもあります。朽ち果てる様子は、ある意味、美しいのでしょうか。

黙り込んだ豪華客船業界に物申したかったんだ。どんな惨事があっても、そこには、華やかさ、幻想、きらびやかさが溢れ返っている。そんなもんは虚飾だ、ってのをこの写真で明らかにしたかったんだ。