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ゴールディーのグラフィティ・アプリ

ゴールディーは、瞳孔が開きそうになるサウンドでブレイクする前も、グラフィティの世界では既に大物だった。「俺にとって描くことは、ごく自然なこと」といつもこの言葉を口にする。そして今日も電車にスローアップし、タギングを続けている。

Photo by Jessica Van Der Weert, courtesy of Goldie and ARTA.

ゴールディー(Goldie)。本名はクリフォード・ジョセフ・プライス(Clifford Joseph Price)。まさしくドラム&ベースの王様であり、現役エレクトロニック・プロデューサーの中では、最も有名な男のひとりである。ボイラールーム* でDJをやった人間の中で、大英帝国勲章のMBE** を授与されたのは、彼くらいのものであろう。

そんなゴールディーは、瞳孔が開きそうになるサウンドでブレイクする前も、グラフィティの世界では既に大物だった。ブリティッシュ・グラフィティとヒップホップ・カルチャーを記録した傑作ドキュメンタリー『Bombin’』(1987年)で大きくフィーチャーされ、MASSIVE ATTACKの3Dことロバート・デル・ナジャ(Robert del Naja)とは、アートバトルを繰り広げたことでも知られている。ゴールディーは「俺にとって描くことは、ごく自然なこと」といつもこの言葉を口にする。そして今日も電車にスローアップ* し、タギング** を続けている。

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ゴールディーは、ミュージシャンとしても大成功したが、現在もグラフィティへの拘りを強く持ち続けている。最近、彼は自身のプロジェクトへのクラウドファンディングを開始した。グラフィティ・アーティストのヘンリー・シャルファン(Henry Chalfant)と共同制作した『Art Rail Transit Authority』、通称『ARTA』と呼ばれる、リアルなタギングとデジタルのインタラクティブ性を融合させる、アプリ開発プロジェクトである。

このアプリで、ユーザーはタグ・データを制作したり、グラフィティ画像をインポートしながら、アプリ上の電車に作品を描くことができる。また、作品をシェアしたり、他のクルーがアプリ上でタグした(またはタグされた)ものを見ることもできる。更に充実したアーカイブも収められるそうだ。

ARTAの魅力を詳しく教えてください。

タグをゼロから創ることもできるし、画像をインポートして、電車に合成することもできる。つまりユーザーがやりたいことが何でもできるんだ。動きをつけたり、角度やサイズを変えたりすることも可能。そこを上からスプレーで少し描き足す。で、ちょっとしたテキストをつけたら完成だ。それをアプリ上で発表できる。競ってもいいし、競わなくてもいい。アプリの中の電車は、ニューヨーク、東京、デトロイトを走り回って、自分のクルーも他のクルーも含めてやりとりができる。つまり、他人のタグをバーチャルでもリアルでもいじれるってこと。それからスプレー缶やカラー、フォント、レイヤーのベースも自分のレイアップ* に格納できる。気に入った作品をアプリのアルバムに入れてTシャツもできる。

どんなアーカイブが入っているのですか?

クラシック・タグやニューヨークのグラフィティ・アーティストのインタビュー動画、それと俺のグラフィティ画像。また、ARTAラジオを開設して、世界中のDJのパフォーマンスや、コミュニケーションのプラットフォームにも使うつもりだ。みんな本当にめちゃくちゃハマるだろう。ここまで3年もかかったんだから。

そもそも、どうしてグラフィティのアプリを創ろうとしたんでしょうか? 何にインスピレーションを受けたんですか?

テクノロジー的にグラフィティが可能になったからだ。俺はこれまでもテクノロジーを使いこなしてきた。目的のためにはハイジャックも厭わないくらいに。そして、音楽の次はグラフィティ。ピンと閃いたのは、こんなもの他になかったからだ。グラフィティ愛好家のためにも創らなきゃいけなかったんだ。

クラウドファンディングで集めた資金は、具体的にどのように使われるのでしょうか?

アプリ発売を記念したデカいイベントに使おうと思ってる。様々なグラフィティ・アーティストを呼び、俺たちミュージシャンのパフォーマンスもする。デジタルとリアルの2つの世界の出会いになる。夏にやる予定だ。

グラフィティをやっている人たちがアプリを信頼してくれるでしょうか? ライター* や、タガー** は、やや懐疑的かもしれません。

とっくに信頼してくれている。グラフィティ・ライターが、グラフィティ・ライターのために創ったものだから。どっかのブランドが企画したわけでも、乗っかろうとしてるものでもない。正真正銘のホンモノだ。既にいろんなヤツに見せたんだが、めちゃくちゃ反応は良かった。続ける自信が湧いてきたんだ。どこかの企業に持ち込むこともできたけれど、そんなことしようなんて考えもしなかっ。これまでずっと自分の足で頑張ってきたんだから。

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あなたは何十年もの間、グラフィティの世界で活躍してきました。そんなリアルな世界をバーチャル化する理由は?

ライターが物理的な制約無しに作品を紹介できるようになるからだ。相互作用がすべてなんだ。本当に情熱を持っているものを表現する、もうひとつの選択肢ってだけだ。iPhoneでサッカーゲームしたところで、ピッチで選手がプレイするサッカーは何ら変わらないだろ。俺たちはテクノロジーに挑戦してるんだ。つまらない『ARTA』もどきのアプリを誰かが創ってくれるまで、なんで指くわえて待ってなきゃならないんだ?

インターネットが存在しなかった頃は、どのようにして他のタガーの情報を手にしていましたか?

初めてのニューヨークでは、TATs Cru* の連中が出迎えてくれた。すぐに仲良くなり、ニックやアイデアをシェアして、情報のやり取りもするようになった。その後は、音楽で成功したから、世界中のどこにでも行けるようになって、その土地の面白い場所やライター、クルーを探したんだ。この間の夏もコロンビアのボゴタに行った。アートと音楽は世界共通言語なんだ。

ARTAがきっかけで、新しい才能との出会いがあるのでしょうか?

もちろん。これはデジタル時代のコミュニケーションのひとつなんだ。昔、電車にグラフィティを描くことで、ライターが自分の腕を街中に見せびらかしていただろ。それと同じことが、物理的な境界無しで実現するんだ。誰が何をやったか確かめて、作品にコメントもできる。フィルやフォント、レア物のアーカイブ資料まで入っている。それに世界中のライターとリアルタイムで繋がることができるんだ。

Above, a photo of Goldie in 1987 by Martin Jones.

あなたがグラフィティを始めてから、このカルチャーで一番変化したのは何でしょうか?

最初は社会の悪だった。今でこそ市民権を得ている。ストリートアートとして。どっちにしても、俺たちは描き続けて、こっそりと街の風景を少し美しくしているんだ。

他に最近やっていることはありますか?

『Shaman Women』っていうキャンバス画の連作を描いてる。いろんな素材と技法を使って、基本的にはグラフィティから学んだものを具現化してる。俺はこれからもTATsであり、いつまでもMetalheadzだ。