ファイヤー、おっぱい、血、マスクなど、グロテスクな題材を多分に用い表現するその意図とは?若き写真家シリーズ第6回は菱沼勇夫をクローズアップ。
Photos by Isao Hishinuma

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若き写真家が見る歪んだ世界 vol.6 菱沼勇夫

ファイヤー、おっぱい、血、マスクなど、グロテスクな題材を多分に用い表現するその意図とは?若き写真家シリーズ第6回は菱沼勇夫をクローズアップ。

大きい街、例えば東京のような街で暮らしていると、1分1秒常に仕事のことを考え、あっという間に時間だけが過ぎていく。また年を重ねれば重ねるほど、猛烈なスピードで1年が過ぎ去っていき気づいたらまた夏が来ている。ある程度の知恵がついているからこそ、自分に必要のない情報はショートカットし生きることの気軽さに慣れ浸る。一般的には、おそらく充実した日々と言われるだろう暮らしぶりなのだろうが、、、。

一方で毎日毎日一瞬一瞬を振り返るほど暇でもないし、そんなにも感受性が豊かでもない。立ち止まって見つめたところで、いったい何があるのかと言い訳がましく思う気持ちもあるのだが、、、。
若き写真家が見る歪んだ世界、第6回目は、ファイヤー、裸体、血など、グロテスクな表現方法を用いる菱沼勇夫を紹介したい。

まず写真を始めたきっかけから教えて下さい。

僕は本格的に写真を始めたのが専門学校からで、その後出版社常駐の社カメとして働くことになります。物撮りだったり取材だったりを会社員として請け負う仕事に就きました。それが、今のように作家として作品を創るようになったのは、もともとブラックカルチャー好きだったことがきっかけで、ジャマイカに一週間ほど旅行に行ったことから始まります。そこで見た光景を写真にしたら絶対面白いって確信して。それで、会社をやめてお金を貯めて、改めて数ヶ月ほど滞在しこの作品を撮りました。

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ジャマイカのどういう部分に魅力を感じ、何を表現したいと考えたのですか?

単純にジャマイカが持つ色合いとか人のバイブスなどに惹かれて。手法としてはポートレートを中心としたドキュメンタリー写真で、そこで暮らす人々の魅力を伝えたいと考えました。ただ滞在中、それまで会社に勤めていた際は日常が忙しすぎて自分の内面と向き合う時間がなかったのですが、ジャマイカでは考える時間がいっぱいできたこともあって、改めて自分を見つめ直したときに、自分でも得体の知れないモヤモヤとしたものがあることに気づいてしまって。これは何らかの形で表現しないと先に進めないと思って。

ここで一気に目覚めちゃうんですね(笑)。

そうですね(笑)。タイトルも「Let Me Out」って、「私を出して」って叫びに近いニュアンスで名付けた作品を創ります。

かなりパンチがあるシリーズですよね?

1番上の写真は、僕は福島の出身なんですが、会津は馬刺しが名物なので馬を飼ってるところが多くて。それで馬の頭って捨てちゃう部分だから加工場に連絡して送ってもらったものを撮影しました。1000円くらいで送ってくれて有り難いです(笑)。2番目の写真は僕の血なんですが、知り合いの看護師に注射器で抜いてもらって、それをそのときに付き合っていた彼女に塗りたくり撮影しました。裸になることで、すべてをさらけ出し、その先に向かえるんじゃないかと思っているので、このような表現方法をとっています。3番目の写真は僕自身がマスクをかぶっています。マスクには、自分自身を超えて未知の扉を開くための役割があると思っています。

では、セルフシャッターで撮っているのですか?

いいえ実は父が撮っていて。父とコラボレーションしてみました(笑)。

変な家族ですね(笑)。

いやいやすごく愛情のある一般的な家庭に育ったんですよ。父が趣味で山や森の写真を撮っていた影響もあり写真を始めたというのもひとつのきっかけではあります。

この作品で一気に菱沼さんのコンセプトが明確に打ち出されていると思うのですが、、、。

まだまだ実験的な部分が多いですが、自分の内向きなモヤモヤした部分をいかに表現できるかというテーマを形にし始めます。

次の作品はいかがですか?

これは地元である福島の猪苗代湖で撮影しました。180センチくらいのマネキンを持って行って、浜辺でガソリンを染み込ませて担いで湖に入っていって火を付けて。それを連続写真で燃えていく様を写したものです。結構なファイアで、危なかったです(笑)。

これはどういう意図があるのですか?

「Beginning」ってタイトルを付けていて、終わりのようであって始まりでもある。つまり、僕の中では儀式的な感じがしていて、自分の得体の知れない邪悪な部分を人のようなものに投影し燃やすことによって、何か新たなものへ向けての始まりという意味合いを持った作品としています。

ではこちらの作品は?

この作品はドクロの模型に、自分の糞をパテのようにペタペタと肉付けしていって作ったものを撮影したものです。

結構ド変態ですね(笑)。

生きるために必要不可欠な排泄する行為、一般的には忌み嫌われる糞とドクロの死のイメージを合わせることで、生と死のなにか大切な部分をあぶり出すことができるのではないか、と思い撮影しました。

どうやってペタペタ貼るんですか?

ゴム手袋はしていました。爪に入るのは嫌だし、そのあとシャッター押すのが嫌で(笑)。

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それにしてもグロテスクですね(笑)。ではこちらの作品は?

これは今まさに撮りためている作品で、「Kage」ってシリーズです。1番上の写真がさっきの「Let Me Out」のシリーズで、馬の頭を撮影したものを、土に埋めていて1年後に堀起こして撮影しました。まだ中がぐちゅぐちゅしてて臭かったですね。2枚目はさっきの彼女のその後バージョンと、3枚目は父のポートレートです。このシリーズは「Let Me Out」から派生させていて、偶然出くわした場所のイメージから撮影したものも入れています。ちょっと感情が感じられる作品になっていると思いますし、ドキュメンタリーっぽいテイストも加えています。自分の内向きの表現から、外に向かっていくイメージをプラスすることでシリーズ化できればと、手探りですが進めている状態です。

ここまでざっと見てきましたが、めちゃめちゃ良い人、見た目は穏やかに見えますが、まさかこんな狂気が内面に潜んでいるとはとても思えないんですが、、、。

みんな、なにかしら持ってるんじゃないかって思ってるんですよね、ドロドロしたものを抱えているような気がしています。僕のことでいうと母が高校生のときに他界したこともあって、血のつながりを強く感じています。父と撮影しているのも、血のつながりを表現できたらという思いもあります。みんな誰しも自分自身の内面を見つめてみたら大なり小なり、色々あるんだと思うんですよね。だからこそ、僕は作品を通じて見てくれた人が忙しい日常のなかで、少しでも自分の内面と向き合えるようなきっかけになってくれたら嬉しいなと思ってます。変なところで真面目な部分があって自分の内面と向き合う大切さみたいなことに気付いたからには、表現しなくてはと使命感にかられ作品創りをしています(笑)。

菱沼勇夫

1984年生まれ。福島県出身。最近の展示に「Let Me Out (ZEN FOTO GALLERY)」や「Kage (TOTEM POLE PHOTO GALLERY)」がある。また、2015年12月8日~12月20日までTOTEM POLE PHOTO GALLERYで展示予定。「Let Me Out」という写真集をリリースしている。
http://hishinumaisao.com/