若き写真家が見る歪んだ世界 vol.9
石川竜一
Photos by Ryuichi Ishikawa

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若き写真家が見る歪んだ世界 vol.9 石川竜一

「若き写真家が見る歪んだ世界」第9回目は2015年9月、自身3冊目となる写真集をリリースした石川竜一の作品とインタビュー。

「若き写真家が見る歪んだ世界」第9回目は2015年9月、自身3冊目となる写真集をリリースした石川竜一の作品とインタビュー。

今回の作品のコンセプトを教えてください。

僕は基本的に人を撮るのが好きで、スナップもポートレートもそうですが、外に出て自分のイメージというか想像を超えたときに、なんじゃこりゃーって思って撮影したりしますね。

今回の作品はアウトローな人々が被写体となっているのが目立ちます。被写体はどのように選んでいるのですか?

この作品のモノクロの写真は2009年に撮影したものがほとんどで、カラーの写真は最近撮影したものも含まれるのですが、僕の身内というか友だちを撮ったものになります。ただ暴走族だけは友だちではないです。友だちと毎晩夜中、家の近くの駐車場で酒を飲んでいたんですけど、そこの空き地には暴走族もいつも来ていて。それで折を見て声をかけて撮影した感じです。僕の家の裏を暴走族がいつも走っていたから、めちゃくちゃうるさいなって思っていて気になってはいたんですよね。実際にうるさすぎて、勘弁してくれと思ってたこともあったし。それでその場所にいた人に声をかけて。

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単純に怖くはなかったんですか?

はじめに声を掛けたときはドキドキしましたね(笑)。友だちではなく、ただ単純に同じ場所にいた人だっていうのもあったからかもしれません。それで、写真撮らせてくださいって言ったら、「おい!免許証だせって」。

懐かしい感じがすごくしますね(笑)。

出たぁー、中学生かいって思いましたよ(笑)。それで「お前明日倉庫来いよ」って、なにそれ、いきなりー、みたいに思って、それで次の日倉庫に行って話をしたら、「走る時連絡するから電話番号交換しようぜっ」てなって。

良かったですね、拉致さられたり、ボコボコにされそうな展開ですもんね(笑)。

はい(笑)。それで自分のスクーターで一緒に走って、並走しながら片手でシャッターを押してって撮った作品がほとんどですね。

また、成人式の写真を見ると当時良く報道されていたのを思い出しました。

最近はだいぶ落ち着きましたけどね。もともと沖縄では成人式が行われる会場に酒の樽を持ち込んで、鏡割りをするみたいな習慣があって、それが報道されることでエスカレートしてって、国際通りでやる人もいたんですけど、それで急にこんな感じで盛り上がっていったっていうのが僕の印象です。

他にもスケーターやクラブで遊ぶ人など、様々な若者が切り取られています。

僕にとっては単純に身近な人だから、一般的には特別な感じがする人たちかなとは思ってはいたけど、自分のなかでは違和感がないというか。なんか暴走族にしてもクラブで遊んでいる人にしても、僕自身も、いつもモヤモヤしていて何かにムカついているっていうか、ある程度の年齢なんですが、大人っていうか社会に対してムカついてる。それも吐き出し方とかもわからないっていうのが、共通してあって。そういうのがその頃の自分たちの感じ。でも、なんか、この時は何を撮ろうかってことをあんまり考えてなくて、だから単純に友だちとか気になるものを撮っていました。

暴走族、クラブ、パンク、スケートボードなど、違うカルチャーの人が一緒に遊ぶってことが、なかなか見受けられなくて不思議な感じもします。

僕にとっては同じように魅力的なイメージ。いつもカメラを持って、那覇だったらこいつらと遊んで、沖縄市だったら違うやつらと遊んだりしてたから。また、その人というより、その人の状況、自然体で、解放されていて自由な感じがその人から伝わってきたときに写真を撮りたいって衝動にかられていたんだとも思います。例えばクラブで遊んでいる人も昼間はサラリーマンだったりするから、そしたら昼間は撮りたいとは思わないというか、遊んでいるときにハメを外したりしているのとかを撮りたいって感じることが多いです。

また、東京では不良というか、目立つ若者が少なくなってる気がしますが、沖縄にはたくさんいるのですか?

暴走族は減りましたけど、街を出歩けばまだまだたくさんいます。僕の体験でいうと若い人たちの安定しない感じは、沖縄の社会とも絶対に繋がっていると思います。例えば新卒の平均の月収が16万とかで、真面目に働いていても、それ以上給料がほとんど上がることがないっていうことをみんな知っているから、そしたら、まともに働けるかって思うし、一方で公共事業とかで助成金をもらってる人とか、基地の地主だったりは、めちゃくちゃ金が余ってたりして。そういうのが生んでいる歪みみたいなものをやっぱり感じるので。

例えば基地があるということも、そのひとつに入りますか?

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沖縄で暮らしているとやっぱり生活の中に基地がある状況が当たり前になってて、身内のなかで基地で働いてる人もいるし、米兵と付き合ってる女友だちもいるし。だから、そういう当たり前になっている環境で生活してると反対かどうかっていうのはあまりなくて、普通に何十年もかけて作られた今まで通りの生活だから。ただ、基地がなかった頃の、もともとの生活がどうなのかって想像したり話を聞くと、やっぱり反対っていうのはあると思うから、それも一因になっていると思います。ニュースも毎日基地の問題についてやってるし、意識的に考えないにしてもひっかかってくるから。自分としても正直どうして良いかわからないんですけどね。

そんな沖縄の社会の中で石川さん自身、個人としては、どういうことに憤りを感じていたのですか?

そもそも写真を始めたきっかけにもなるんですが、高校を卒業した後うつ状態みたいになった時期があって。それまでは、ずっとボクシングをやっていたんです。結構打ち込んでいてアマチュアですが、全国で3位になるくらい。ただ、中学の頃からプロの人がたくさん所属しているジムに通っていたんですが、間近でプロの人たちを見ていて思っちゃったんですよね。選手生命が短いとか一生する仕事ではないなって。だから、高校卒業したらやめようと考えるようになって、実際にボクシングをやめたんです。ただ、それまでボクシングだけしかやってこなかったから、それがなくなったときに、自分には何もできることがないって改めて実感してしまって。まあ、ボクシングの練習が大変で逃げたかったっていうのもあったんだと思います。

そんななかで憤りが溜まっていったってことですね。そこで写真と出会う。

そうですね。ただ、ボクシングしかしてないから友だちともほとんど遊ばなかったし、例え遊んだとしてもスケボーとかしてただけなんで、将来のこととかを考える感じではなかったですよね。酒飲んでスケボーしてっていう。学校に忍び込んでガラス割ったり、そんな感じだったから。だから、ボクシングを辞めたのは良いんですけど、逆に何も無くなってしまって、どうしていいか分からず、なんかちょっとうつっぽくなっていて、働いたこともなかったから、ただ道をふらふら歩いていたっていう毎日。それでこのままじゃと思って、本当に何もわからず、持っていたお金を全部使ってカメラを買ったんです。

つまり、そんな状況のなかで、吐き出す手段として写真を見つけたっていうことですね。今年木村伊兵衛賞も取り、写真家として生活していく道が見えたんじゃないですか?

いえいえ。それは全然で。もちろん取材してもらうこととかは増えたのですが、生活は全くできてはいません。

では、他にも仕事をしてるんですか?

してないです。はっきり言って自分でもここ10年どうやって生きてきたんだろうって思うくらい、働いたこともないし、写真で生活もできてないし。自分でも良く生きてこれてるなって、なんでか良くわかりません(笑)。

でもボクシングよりも写真の方が、将来的に見えているとういうことですよね?

どうなんでしょうか(笑)。ただ、今後も沖縄だったり、海外とか場所に縛られず、この作品と同じように自分が出会った人や環境を撮って行きたいなって。だからスナップもポートレートも含めて変わらず写真を撮っていけたらと思っています。

写真を撮ることで沖縄の何かを伝えたい?

僕としてはどこにでもあるものを撮っていると思ってるんで、沖縄でないと撮れない特別なことではないと思うし、たまたま住んでいるのが沖縄であって、それがこの作品では友だちを撮っているものをまとめた感じだから。場所が沖縄というよりは、そこにいる人とかそこで起こっていること、つまり、人について興味があるから。こういう気持ちってなんなんだろうとか。だから撮りたいものが沖縄のことじゃないので、東京だったり海外だったりで、今までと同じように自分の想像を超えるような物事に出会えたら、シャッターを押すみたいに写真を撮り続けていきたいなって思っています。

石川竜一

1984年沖縄県生まれ。『絶景のポリフォニー』『okinawan portraits 2010~2012 』で2015年度木村伊兵衛賞を獲得。今年今回紹介した『adrenamix』をリリースする。