2017年に疵ついた7つの芸術作品
(左)The Aspen Times のスクリーンキャプチャ. (右)YouTube のスクリーンキャプチャ.

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2017年に疵ついた7つの芸術作品

芸術的遺産をもっと大切にすべきだ、との願い虚しく、2017年も貴重な芸術作品が壊された。草間彌生、アンディ・ウォーホル、トマス・ゲインズバラ、クリストファー・ウール…。2018年こそ悲劇が起こらないよう、このリストを頭に入れて、芸術作品を堪能したい。

私がこの世で最も恐れるのは、腎臓結石と核戦争を除くと、美術館の警備員に叱られることだ。臆病者だからか、私は、文化を守る神聖な守護者に抗って侵害する、あの特有のきまり悪さが怖い。

ありがたいことに、これから紹介する誰とも、私は違う。

私は、芸術的遺産をもっと大切にすべきだ、との願いから、2016年に壊された貴重な芸術作品のリストを作成した。しかし、2017年も芸術作品が壊れた。

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草間彌生《かぼちゃ》

2017年2月の終わり、ワシントンDCのハーシュホン美術館で、草間彌生の「Yayoi Kusama: Infinity Mirrors 」展がオープンして1週間もたたないうちに、とある来館者が、かぼちゃの彫刻作品を壊してしまった。セルフィーを撮ろうとして倒れ込んだそうだ。

美術館の広報担当者、アリソン・ペック(Allison Peck)は、鏡張りの部屋《Infinity Mirrored Room—All the Eternal Love I have for the Pumpkins》で起きた不慮の事故を、正式に発表した。ペックは、ウェブマガジン〈Hyperallergic〉の取材に「作品には…若干の損傷があり、この部屋は一時的に閉鎖します」と応じ、『New York Times』には、来館者が小さな台から「足を踏み外し」作品を傷つけた、と報告した。

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2015年、草間彌生による同様の作品が80万ドル(約9000万円)で落札されたが、ペックは、〈artnet〉の取材に「《Infinity Room》内のかぼちゃ自体に価値はない」と応え、ひとつのカボチャを入れ替えるコストは「取るに足らない」と説明した。代わりのかぼちゃはすぐに届き、翌日、作品の公開が再開された。

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トマス・ゲインズバラ《ウィリアム・ハレット夫妻》

3月、ある男がトマス・ゲインズバラ(Thomas Gainsborough)の名画にドリルのビットで傷をつけると、ロンドンのナショナル・ギャラリーの東棟への立入が禁じられた。高名な英国人画家の絵を傷つけた63歳のキース・グレゴリー (Keith Gregory)は、頭のなかの声に「絵に印を付ければ、家族が気付いてくれる」と唆されたそうだ。

数千万ドル相当の1785年に制作された絵画は、2ヶ所に疵が残り、約1万3500ドル(約150万円)相当の損害を被ったが、10日かけて修復された。元ホームレスで、妄想と幻聴の治療中だったグレゴリーは、器物損壊の罪に問われた。しかし、12月、精神疾患を理由に、告訴は取り下げられた。

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クリストファー・ウール《Untitled 2004》

5月初旬、コロラド州 アスペンの〈Opera Gallery〉で、サングラスとハットを身につけた身元不明の男が、米国人画家、クリストファー・ウール(Christopher Wool)の作品を切りつけた。

《Untitled 2004》には、300万ドル(約3億4000万円)ちかく価値がある。男の動機も身元も不明だが、ギャラリーのオーナー、グレゴリー・ラーミ (Gregory Lahmi)によると、この男は、〈鋭利な何か〉でカンバスの2箇所に穴を開けたという。絵画所有者の代理人は、弁護士を通じて、損傷は「最小限」だと発表したが、修復費用は明かさなかった。

捜査は続行中だが、アスペン警察は11月、地元警官は「アスペンから国際刑事警察機構に捜査令状を送る手続きの最中」であり、国際的な捜査に乗りだしている、と同警察は発表した。

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サイモン・バーチ《14th Factory》の王冠

7月、ロサンゼルスの〈14th Factory〉で開かれたマルチメディア・アーティスト、サイモン・バーチ(Simon Birch)の個展で、ある女性がセルフィーを撮ろうとしてバランスを崩し、アヴァンギャルドな王冠をのせた台座が将棋倒しになった。

バーチの〈仲間〉を自称する男性がYouTubeに公開した、一連の出来事を捉えた動画は、これまでに700万回視聴されている。

この映像は、個展を宣伝するためのやらせだ、との疑いもあったが、バーチは、不慮の事故であり損害は約20万ドル(約2300万円)にのぼる、と発表した。

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ジャク・ニュワシーシ《フクロウの夜の女性》

8月、モントリオールの〈First Peoples’ Festival〉で、ある市役所職員が、行方不明になり殺害された先住民女性を弔うための木製トーテムを、誤って壊してしまった。〈Montreal Gazette〉によると、先住民〈アティカメク〉 のアーティスト、ジャク・ニュワシーシ(Jacques Newashish)がチェーンソーと斧を使い、3日かけて制作した《La Femme De La Nuit Hibou(The Owl Night Woman、フクロウの夜の女性)》は、浄化の儀式で燃やされる予定だったそうだ。

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残った木端を片付けた職員は、このイベントの担当者から、完成間近のトーテムをゴミといっしょに処分するよう指示されたという。「作者が伝えようとしていたのは、行方不明になった先住民女性とその家族が受けた不当な扱いについてです。そう考えると、この作品の運命は皮肉です」とニュワシーシのパートナーであるクロード・ジャレット (Clode Jalette)は、Facebookに投稿した。フェスティバルの主催者は、この出来事を「不運な過ち」として、「もっと慎重になるべきだった」と認めた。

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アンディ・ウォーホルのオリジナル作品2点とその他諸々

リストの最後に滑り込んだのは、12月下旬に、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)のオリジナル作品2点を傷つけたと非難されている女性だ。CBS系列のテレビ局KHOUによると、フリーランスの法廷記者、29歳のリンディ・ルー・レイマン (Lindy Lou Layman)と、トランプ大統領に選挙資金を提供した ヒューストンの著名な弁護士、アンソニー・バズビー (Anthony Buzbee)、両者の初めてのデートで事件は起こった。

2人は、バズビーの豪邸にいた。バズビー曰く泥酔していたレイマンは、彼が彼女のために何度もUberを呼び、その後、数時間経っても帰るのを嫌がったという。挙句の果てに、彼女は、バズビーの高級なコレクションを破壊し始めたそうだ。報道によると、彼女は50万ドル(約5600万円)相当のウォーホルのオリジナル作品2点、別の高価な絵画に赤ワインをかけ、それぞれ2万ドル(約230万円)相当の彫刻作品2点を壁に投げつけたという。30万ドル(約3400万円)相当の美術品を壊したとされるレイマンは、器物損壊罪で逮捕されたが、3万ドル(約340万円)で保釈された。「彼女は、ルノワール(Renoir)とモネ(Monet)の絵も壁から引き剥がしました」とバズビーは〈Texas Lawyer〉に語った。「幸運にも、このふたつの作品は無事でした」