The Saxon sound system crew, 1983. Photo courtesy of the Maxi Priest collection
「まだハダーズフィールドにいた幼少期に壁ごしに聞いたベースの音が、私の一番古い記憶」。ノッティングヒルの<タバーナクル>で、2016年1月5日から17日に開催された『サウンド・システム・カルチャー:ロンドン(Sound System Culture: London)』展のキュレーターであるマンディープ・サムラ(Mandeep Samra)は回想する。「隣の人がよくブルース・パーティをやっていた。それにサブリミナル効果があったのかもしれない」イギリスのサウンドシステム・カルチャーは、レゲエ史のなかで極めて重要な役割を果たしている。1954年のロンドンで、カリブ移民だった若き日の「デューク」・ヴィンセント・フォーブス(”Duke” Vincent Forbes)が単純なシステムを組み、スカやカリプソを大音量で流し始めて以来、イギリスのサウンドシステムはシーンの最先端を走り続け、ダンスミュージックシーンに影響を与え続けている。
当時は警察からのいやがらせもかなりありました。その手の場所にいると、警察の手入れがあり、全員がボディチェックされ、システムを止めさせられ、クラブを閉鎖させられます。しかし、慣れるもので、それもイベントの一部になりました。若者が集まって楽しもうとすると、必ず邪魔したがる連中がいます。わかるでしょう。私は、サウンドシステムのボリュームに興味があります。ジャー・シャカが全力でやるようなシステムを知ってしまったら、ルーツレゲエやダブを聴くならそれでなければ、と間違いなく感じるでしょう。ダンスパーティは、音楽を経験するには最高の方法なのでしょうか。ルーツ・レゲエを経験するのに最高なのは間違いないでしょう。でも、それより深いところがあります。1950年代初期の「デューク」ヴィンセント・フォーブス(”Duke” Vincent Forbes)みたいな初期のサウンドをやってた連中が育ったブルース・パーティの会場ですら、ビルが揺れて天井から漆喰が落ちてきましたからね。そんな珍事も音楽の大事な一部です。サウンドシステム初期の連中はいろんな面で競いあっていました。一番いい誰にも知られてないレコードを見つけてくる、最高のMCにマイクを握らせる、一番クリアな音を出す、音を割らずに一番大きなボリュームで演る。サウンドのデザインとスペックにぴったりあった音づくりの腕前を誇示していました。ボリュームは間違いなくいち要素ですが、70年代終盤は、それが重視されすぎていた気もします。初期のブルース・パーティは人と出会う場所でした。ダンスして自分たちで楽しむだけでなく、カリブ海に浮かぶ自らの出身地に関するニュースをシェアする社交場でもあったんです。人との交流も目的でしたから、必ずしも、デカいボリューム一辺倒だったワケではないんです。でも、70年代半ばになると、ジャー・シャカやファットマンみたいに、死ぬほど凄いボリュームで攻めてくるサウンドシステムが現れました。たいした経験でしたよ。サウンドを体感したんですから。
胸板が音をたてるんですね。全身に音が入り込んだようなものです。ある意味、自分がスピーカーの延長になってしまうんです。それから、貴方も好きでしょうけれど、体を乗っ取られる快感は他では味わえませんからね。80年代のイングランドのサウンドシステム・カルチャーについて教えてください。1980年代は、この国のレゲエにとって最高の10年でした。ロンドンだけでなく、全国から才能ある連中がどんどん出てきました。ルーツをやるバンドがそこかしこに登場したんです。ジャマイカから届くカセット、「サウンドテープ」が人気になると、英語で教育を受けた、英国生まれの歌手が、突然、ジャマイカのサウンドの要素を取り入れるようになったんです。本物のストーリー・テラーの誕生です。ダブ・プレートの重要性が下がり、DJやシンガーのパフォーマンスが大事になりました。SaxonのようなサウンドシステムにMCやシンガーがいたんです。才能あふれる世代でした。1984年にパパ・リーバイ(Papa Levi)の「Me God Me King」がジャマイカでNo.1になりました。後にも先にもこんなことはありません。すごいことでした。サウス・ロンドンのルイシャム出身の若者が地元のユースクラブで腕を磨き、ある日突然、レゲエ・サウンドシステムの本拠地であり、レゲエ・カルチャー発祥の地、ジャマイカでNo.1ヒットを飛ばしたんです。ジャマイカのDJやMCが形無しになり、英国生まれのスタイルを取り入れるの目のあたりにしたのは、実に誇らしい出来事でした。
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The Saxon sound system crew, 1983. Photo courtesy of the Maxi Priest collection