世界で最もデスメタルなランドスケープ

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世界で最もデスメタルなランドスケープ

長らく続く写真史の文脈で語るのが難しい、ランドスケープを撮影するインカ&二クラス・リンダガード。オカルティストの美的感覚、あるいは〈デスメタル〉的とも、とれるような表現を具現化する撮影方法から、ふたりが共同製作をするに至った経緯などを探るインタビュー。

時代が時代であったら、インカ&二クラス・リンダガード(Inka and Niclas Lindergård )は、魔女裁判にかけられていただろう。2人は、洞窟の入口の内側をオーロラで彩ってしまうなど、信じ難い方法で地球を操れるようだ。とはいえ、それは魔術でもPhotoshopのトリックでもない。インカ&二クラスは、自らの本領を、細心の注意を払いながらどこまでも根気よく取り組む忍耐力だ、と断言する。ふたりの作品を、あえてカテゴライズするとしたら、〈風景写真〉の括りに入るだろう。なんだかんだいっても、ふたりが撮影しているのはランドスケープだ。しかし、そんなレッテルは、ほとんど意味を成さない。ふたりが撮影するのは、長らく続く写真史の文脈で語るのが難しい写真なのだ。

ふたりの2冊目の写真集『ヴィーナスベルトと地球影(The Belt of Venus and the Shadow of the Earth)』をご覧いただければ、納得できるだろう。このタイトルは、写真界有数のテーマである〈夕焼け〉に由来する。〈ヴィーナスベルト〉とは、太陽が沈むとき、地平線越しに放たれる光の〈ピンク色の縁〉であり、〈地球影〉とは地球が大気に落とす影を意味する。この2つの現象が生む、美しいピンクからブルーへのグラディエーションを、われわれは〈夕焼け〉と呼んでいるのだ。

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インカ&二クラスは、技術が高いだけの写真家ではない。人の心を捉える語り部でもある。出会いのエピソード、人生を再肯定したタンザニアのコーヒー園での経験、ニュージーランド随一の魅惑的ビーチについて語ってくれた。

2人が出会ったのはいつですか?

2005年、写真の勉強をしている頃、スウェーデン南部で出会いました。二クラスは、スウェーデン北部の出身で、鉄鋼業に従事していました。彼は、80年代のメタルが大好きで、まさに王道のメタルなロン毛でした。

インカは、昔の写真製版印刷に興味を持っていました。彼女は、生まれながらのべジタリアンで、ヒッピー風、おばあちゃん風の服を自分でつくっていました。お互い奇妙に感じ、興味を持ちました。すごく小さな村で、アパートもすごく近所でしたから、たくさんの時間をいっしょに過ごしました。

共同制作を始めたのはいつですか?

学校を卒業した後、一緒に作品をつくろう、と相談を始めました。同時に私たちはプライベートでも交際を始めました。勉強中も何かと助け合っていたので、お互いの作品を良く理解していました。そして、何年か前は、はるか彼方、タンザニアのコーヒー園で友人が所有する、とても簡素な家屋で生活しました。室内の照明には自動車用のバッテリーを利用し、どちらかがシャワーを使うときは、もう一人がポンプのような装置を動かさなくてはならないような生活です。ポーチからは、キリマンジャロが眺められました。

結局、そこで3ヵ月過ごしたのですが、毎日、ただただ働いていました。デュオとしてどうするべきかをはっきりさせるために、そこで考えたアイデアを、どんなちっぽけなものでも実行しようと決めたのです。結局、滞在中に撮影した数千枚の写真から、確か4、5枚を今回の写真集に使用しました。一緒に作品制作をはじめて約9年になりますが、今となっては共同作業以外、考えられません。

『ヴィーナスベルトと地球影』に掲載されている多くの写真は、自然現象とは思えません。撮影方法について教えてください。

常に極力シンプルな機材を使います。ありふれたデジタル一眼レフカメラ1台、ストロボライト1台、レンズ1本です。フラッシュを6台、ウィンドマシーンを利用するような、大規模な撮影ではありません。たくさんの作業をちょっとずつ、とにかく積み重ねるのが重要で、適切なタイミングを待つことがプロセスのほとんどを占めています。すべての状況が完全に整い、ふたりが想定する以上の写真が撮れたら、最高ですね。

この作品集は、写真を介してしか体験できないであろう事象を中心に構成されています。写真が撮らえている全ては、露出した瞬間に起きています。風のなかに粉を投げ込み、枝で立体作品を組立て、岩を照明で少し彩色するのは、私たちにとって、風景、自然の力、カメラとの協業です。私たちは、物理的世界と写真の世界をつなぐ架け橋としてのカメラの役割を模索したい。

あなたたちの作品の性質を考えれば、是非ともお聞きしたいのですが、世界中の特筆すべき美しい場所をいくつか教えてください。

とにかく、アイスランドでしょう。特にヨークルスアゥルロゥン(Jökulsárlón)、そして漂着した氷山で覆われた黒いビーチです。これまで4度、足を運びましたが、毎回、魅惑されます。

2つ目は、ニュージーランドのコエコヘ(Koekohe)ビーチです。初めてビーチに着いたときは、すべてが魔法のようで、霧が立ち込め、空はゴールデンピンクでした。10分で魔法が解けるだろう、と焦り、すぐさま慌てて走り回り、物を並べて撮影しました。でも、1時間経っても、光は全く変わらなかったので、落ち着いて、次にすべき作業を考え始めました。1時間ぐらい別のアイデアを試しましたが、光は変わらず、まるで、日の出が完璧な位置で凍り付いてしまったみたいでした。くたくたになるまで1日中働き通しました。ゆっくりと〈完璧な日出〉から〈完璧な日没〉にいつのまにか移行してしまったみたいで、全てが現実を超越しているようでした。

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3つ目は、日没時のヨセミテのグレイシャーポイント(Glacier Point)です。有名なロケーションですので、いつも大勢の人がいますが、それには理由があります。ノルウェーのロフォーテン(Lofoten)諸島、イタリアのドロミーティ山地トレ・チーメ・ディ・ラヴァレド(Cime di Lavaredo)も外せません。

自然を撮影しているのでしょうが、作品からは別世界のような印象を受けます。今までオカルトに興味を持ったことはありますか?

自然の神秘には、いつもうっとりします。北欧神話、異端の宗教、お土産屋のスピリチュアルな絵葉書、あらゆるものに神秘の兆しを探しています。オカルティストの美的感覚、儀礼精神にはずっと興味があります。写真や風景を、〈デスメタル〉的、とよく表現しています。もちろん、前向きな意味です。

次のプロジェクト、2017年に取り組もうと思っているものは?

2月はオランダのロッテルダムで展示があります。1月にはメキシコで撮影してきました。それ以外では、二冊目の写真集である『ヴィーナスベルトと地球影』を出版したばかりなので、今は裸同然です。今まで取り組んだ全ての作品を写真集に収めたので、ある意味、私たちは、今から再出発するのです。楽しみな反面、少し不安でもあります。今は、写真を使った立体作品創りに取り組んでいます。石膏の立体物に写真を映したり、自然界の物体にイメージを溶け込ませたりしています。私たちにとって、これは、全く新たな試みですね。