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アメリカ、もしくはヨーロッパにおいて、グラフィティは挑戦でもある。なぜなら、その行為は、逮捕される可能性も孕んでいるからだ。息を呑み、激昂する鼓動を抑えながら、限られた時間で自らのスタイルを表現する。まさに冒険だ。クリエイティブな趣味が、危険なライフスタイルに転じると、まさに「チキン」から脱した真のグラフィティ・ライターになれるのだ。

ソウル香港に続いて、私はバンコクを訪ね、タイのグラフィティカルチャーの歴史と現在の姿を取材した。滞在中、ニューヨークとニュージャージーを中心に活動しているMAYHEMクルーのオリジナルメンバー、CHIP7と出会った。MAYHEMは、若くしてこの世を去ったSACE aka Dash Snowとも関わりの深いクルーだ。タイは、CHIPの祖国であり、彼自身もここ数年はバンコクで生活している。賑やかなサイアム・スクエアで一緒にコーヒーを飲んでいると、CHIPは私にこういった。「このタイの言葉を知ってるか? suay?(美しい?)、あるいは mai suay? (美しくない?)だ」

「タイの人々は何につけてもそういうんだ」と、CHIPは続けた。「美しいか? 美しくないか? 人は洋服についても、サングラスについても、壁面についてもそう話すんだ。タイのグラフィティは、他国のように犯罪の種ではない。誰かの家がタギングされていたとしても大丈夫。たいていアメリカでは、そんなのを目撃したら2秒以内に警察に通報するだろう。しかし、ここでは、ペインティングを目撃しても、「いいね!」と親指を立てるだけなんだ」。警察の取締りが強化された、と噂されたりもしたが、他の犯罪で警官に見つかるのと同様、数バーツ渡すだけで解決できたそうだ。私は、数人の地元のライターに、タイでのグラフィティを取締まる法律について訊ねたが、明確な回答は得られなかった。やはりケース・バイ・ケースのようだ。

アジア各国のシーンと同じく、タイのグラフィティシーンは生まれたばかりだが、とても独特なルーツがある。その始まりの一端は、大学間の縄張り争いにあるそうだ。それぞれの縄張りをスプレーペイントで主張していたらしい。「僕たちは、それをインスティチューショナル・グラフィティ(institutional graffiti)と呼んでいる」と、タイの若いライター、COZは説明してくれた。十代の頃、彼は海外でグラフィティを学び、現在、この地域で最も才能豊かなライターになった。「インスティチューショナル・グラフィティは、ロサンゼルスのヒスパニック系男性が描いたように見えるけれど、実際はタイの独自性に溢れている。学生は、学校の名前を描いて他の大学と張り合うんだ。学生たちはライターでないけれど、この街にグラフィティのツールを持ち込んだんだ」

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バンコクは、グラフィティ先進国からの影響も大きく受けている。COZ以外にも、海外グラフィティの虜になったタイのアーティストはいる。躍動感溢れるスローアップと、巧みなピーシングで知られるオールドライター、CIDERは、90年代にカリフォルニアで過ごし、そこで、アメリカ有数のグラフィティクルー、MSKと関わった。つまり、REVOK、SABER、RIMEなどの著名ライターと活動をともにしたのだ。CIDERは90年代後半に帰国し、アメリカのポップカルチャーに刺激を受けたタイの新世代ライターたちに影響を与えた。

「CIDERが戻って来てから、タイのグラフィティシーンは本当のスタートを迎えた」とCOZは語る。「当時、人々はグラフィティに触れ始めたばかりだった。スケートボード・マガジンやミュージック・ビデオ、その他いろいろソースを通じてね」。数少ない地元アーティストのCETRUやLOBATTたちが、マンガ風のキャラクターを描いていた時期に、CIDERはアメリカ仕込みのタグをベースにしたグラフィティを持ち込んだ。COZはさらに続ける。「CIDERは、リアルなグラフィティをタイに持ち込んだ。そこからタイのグラフィティは進化を始めたんだ」

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バンコクのグラフィティシーンは、まさに開花し始めたところだが、約3年前に、シーンは深刻な状況を迎えていた。アメリカから訪れたライター数人の影響もあり、派閥争いが勃発したのだ。巻き込まれた地元ライターたちは、アメリカン・マナーを気取り、街の至るところでお互いの作品をディスりあった。その結果、バンコクのグラフィティシーンは分裂してしまう。あるライターによると、その時期の悶着で、バンコクのシーンは5年も退行してしまったそうだ。

幸いにも、ここ1、2年で状況は改善され、新しいライターたちは、物真似ではない個性的な作品を生み出している。少数のキッズライターは、相変わらずタフ・ガイを演じ、縄張り争いや抗争に興じているようだが、COZ、FLORE、BEKOS、ROMESらはCIDERを追い、ルーツであるニューヨークのローワー・イースト・サイドで目にするようなグラフィティを描いている。そういったグラフィティは、街の中央にあるショッピング・エリアから運河の周辺まで、どこにでもある。

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他国に比べてバンコクのペインティングは、とてもリラックスしているようでもある。ある午後、私は、アメリカ出身ながら、現在はバンコクを拠点に活動しているSADUE 907とCHIPのペインティング現場に向かうため、ボートに乗った。運河が多いバンコクでは、ボートが重要な移動手段である。

その日は猛暑であったが、先にあった暴風雨により空気は澄んでいた。私たちはCHIPと落ち合うと、氷のように冷えたタイ・ビールを地元の習慣に従ってストローで飲みながら、運河沿いののペインティングスポットに向かった。陽がゆっくり沈み、歩行者、通り過ぎるボートの乗員たちの視線を集めながら、CHIPとSADUEは作品を描いていた。CHIPは、大胆な色合いでアシッド感溢れるタギングに、今春他界したPRINCEに哀悼の意を表して、彼のシンボルマークも加えていた。

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強い探究心から生まれるCHIPのグラフィティ・スタイルは、伝統的なタイの芸術と、未来的ファンタジー世界を融合し、完全にCHIPのオリジナル・スタイルを確立している。その結果、現在、彼自身のミックステープを取り入れた短編実写映画製作から、レッドブルのようなグローバル企業のアートワークのプロデュースまで、CHIPは様々なプロジェクトに携わるようになった。しかし彼の精神は、法を犯しながらグラフィティに明け暮れた時代に深く根付いている。

CHIPは、タイでのグラフィティカルチャーの未来に肯定的だ。他のアジア諸国では、短いグラフィティのキャリアを、そのまま商業ベースに乗せる誘惑もある。しかし、CHIPはこう話す。「タイには、たくさんの才能を持ったアーティストたちがいる! 本当なんだ! 例えば、伝統的な寺院の壁画の複雑さは、タイ・カルチャーに根付いている。国民のアイデンティティの一部なんだ」。現在、タイのグラフィティ・シーンは、規制の緩さも手伝って、活気溢れるバンコクに鮮やかな色彩と創造性を注入できる、ユニークなチャンスに恵まれている。それは、屹立するタイの伝統と、国際的アウトロー・カルチャーが
融合する、他国にはないチャンスでもある。

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