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テキサスの草原で『ポケモンGO』を楽しむための苦労と悦び

やつらは現れるのか。

農場でポケモンを1匹見つけるまでに1時間以上を要した。見つけたのは、テキサス南部の陽射しから隠れるかのようにウチワサボテンの間に潜んでいた意地悪そうな顔をした「ドードー」だった。iPhoneの上で親指をすべらせると、このあたりの住人から「釣りの浮き」と呼ばれそうなボールの中に、ドードーは消えていった。

捕まえると、もちろん高揚感はあったが、こういった体験は過程が面白い。36℃の炎天下のピジョットやリザードンを見つけることはできなかったものの、とげとげしいキンゴウカンの茂みの下でガラガラ蛇の抜け殻を見つけた。メスキートの間をちょこまか走るアルマジロやトカゲを見つけ、あまりにもイノシシの痕跡が多かったのでバックナイフより威力のある武器を持ってくるべきだった、と後悔したりもした。

これが、テキサス州ゴリアド(Goliad, texas)の北に広がる何もない土地での、『ポケモンGO』体験だった。ほとんどの『ポケモンGO』プレーヤーとは違う経験だろうが、これはこれで楽しいのだ。

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ここでのポケモン・ハントは楽しいだけでなく、辛い思いもしなければならない。ニューヨークやサンフランシスコ、ヒューストンの友人が、「ジム」や「ポケストップ」だらけのスクリーンショットを投稿している。それを見ると、少し歩くだけでどこにでも何かがあるようだが、私が近所でプレイしても、プレーリーが遥か彼方まで広がっているだけだ。

藪の中にいるモンスターを捕まえはしたものの、結局、『ポケモンGO』は都市生活者のゲームなのを、私が見舞われた不幸は物語っている。ジムやポケストップが、都市開発の行き届いた公園の多いエリアに設定されているのは、ある意味理に適っている。だからといって、この辺りにポケモンがほとんどいないとは、想像もしていなかった。先日、Motherboardのライターが、開発会社であるナイアンティックがこのゲームの前身である『イングレス』のデータを使用しているのが原因ではないか、との見解を提示したが、確かに、このあたりの人たちがイングレスをプレイしていたとは考え難い。

実際、ドードー以外のポケモンをゲットするのに、私は、1ドル払って、ポケモンをおびき寄せるお香を買わねばならなかった。片田舎ではよくあることだ。ガソリン代からインターネット料金まで、田舎税みたいなものが上乗せされる。とはいえ、ポケモンがほとんどいないのはどうなんだろう。確かに残念ではあるが、虚しい時間を過ごしたおかげで発見もあった。ポケモン不在が期せずして安全装置になっているのだ。この辺の住人は「侵入者を見つけ次第撃つ」と何の衒いもなく言ってのける。もし、トレーナーたちが辺りをウロつかずに済めば、彼らは好戦的な住人の標的にならずにすむ。ただ、7月16日深夜、好戦的な発言が必ずしも威嚇ではないのを、残念ながらフロリダ在住の男性が証明してしまった

しかし、こういった経験も必ずしも非社交的ではない。私は、私のスマホを手にした妻と車に乗り込み、時折、電波が途切れてしまう田舎道をポケモン探しに出かけた。丸1時間ものあいだ、誰も通らない道に車を停め、鉄条網のそばで待ち構えていたコラッタを捕まえた。私たちは同じテキサス州の小さな町、ウィーサッチ(Weesatche、人口268人)まで辿り着き、ポケストップの近くにある玄関横のポーチでロッキングチェアに腰かけている老人、次の仕事現場にトレラーで馬を移動させているカウボーイに手を振ったりした。皆、笑ったりスマホに見入ったりしている私たち夫婦に興味津々だったようだが、警戒している様子はなかった。

今週初め、いつものように郵便局へ向かうと、町の北にある道に車が1台停まっているのを見つけた。近くの草地には、運転手と通行人1人がいた。車がオーバーヒートしがちな時期だった。もし、パンクしているならこの辺りではなかなか助けも来ないので、私は車を停めた。

「大丈夫ですか?」と私が声をかけると、彼らは顔を上げた。

「いやぁ…、ゲームなんです」と運転者はきまり悪そうにしていた。以前、そのあたりがピクニックエリアだったのをふと思い出した。無料の「ゴミ捨て場」としてゴミ投棄が後を絶たなかったため、何年も前に郡が閉鎖したのだった。ポケモンGOが利用するイングレスのデータでは公園として表示され、そこにジムでもあるのだろう。「ああ、ポケモンGOですね!」と私は応えた。

「そう」と女性。「バトルですか?」と聞かれたが、私はまだ必要なレベルに達していなかったのでバトルはできなかった。とはいえ、未だにクレイグリスト(Craigslist)よりも手貼りの手書きメッセージボードを多用するこんな場所にまで、ナイアンティックのゲームを楽しむために足を運ぶ人がいるのに驚愕した。それ以前には、ポケモン狩りに興じていたら飼料店の老人に話かけられもした。そのときは、こんな老人までプレイしているのか、と目を見張ったが、彼は実際のハンティングに使うアプリについて私が話をしている、と勘違いしていただけだった。

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『ポケモンGO』騒ぎは、人口密度が1平方マイルあたり8人の郡では、ちょっとした問題でもある。このあたりでは、何もない場所からゴリアドまで、どの方角からでも50km弱はあるが、ゴリアドに着けば、歴史好きならよだれをたらしそうなものがいくらでもある。1749年創設のヌエストラ・セニョーラ・デル・エスピリトゥ・サント・デ・スニガ教会、テキサス初の酪農場とされる牧場に加え、テキサス革命の主要な跡地であるプレシディオ・ラ・バヒーアまである。つまり、ポケモンが1匹もいない状態が数十キロも続いた後、突如としてサンアントニオ川沿いにポケストップやジムが山ほど出現するのだ。

いつもなら静まり返っているゴリアド州立公園の管理人、ブレンダ・ジャスティス(Brenda Justice)は、ゲームのおかげで公園に関心が集まるのを歓迎する一方、辺鄙な場所ならではの問題が発生しているのを認めた。ポケモンGOのためにきちんと入園料を支払う者もそうでない者もこの地を訪れるため、テキサス州公園野生生物局は州全域にわたる対応策を検討している、とジャスティスは教えてくれた。

「われわれは、多くの人が入口で立ち止まっているのを見かけましたし、道路の真ん中で止まったり、交通の邪魔をししまっているのを目にしたりもしました。それがゲームのせいだ、と最近わかったのです」。予想していなかった安全面での問題をジャスティスは懸念していた。「昨夜はとても大変でした。ここでは日没後、キャンプその他の目的での教会敷地内立ち入りは禁止されています。公園も22時に閉まります。でも23時になってもスマホからの小さな灯りがあちこちに見えました。数時間前には、私の犬がガラガラ蛇に噛まれたんですよ」

とはいえ、ポケモンGOにも良いことはある。私たちがここで送っている生活に他所の皆が関心を抱いてくれる。夕暮れ時、ポケモンGOを起動したままひとけのない教会に向かって車を走らせていたところ、2つのルアーモジュールが遺跡の北に表示されいるのに気づいた。見たのは初めてだったので、トレーナーを探してみた。

崩れかけている築260年の壁にもたれ、週末に家族と一緒に州立公園でキャンプに来ていたテキサス州ラ・ベルニアから来たデヴィン・ホール(Devin Hall)とトリスタン・ストーン(Tristan Stone)が、崩れかけた築260年の壁にもたれていた。2人によると、ここ、ゴリアドから105km北に位置し、同じくポケモン不在に悩まされている彼らの町よりも、私の町は、州立公園があるだけまだいいそうだ。

「公園内ではタマゴがたくさんみつかるんだよね」とストーン。川が近いせいもあるようだ。「僕らが住んでるところには何もない。だからポケモンも見つからないし、ポケストップもないから大変なんだ」。ホールはゴリアドでストライクも見つけたと付け加えた。どうも北の方では見つからないモンスターらしい。

「ラ・ベルニアよりもいいモンスターがいるんだ」とホール。そして、ポケモンを探して、町の醸造所などポケモンGOがなければ行くはずもない場所にも足を運んだらしい。今立っている教会の跡地に興味を持ったのもそのためだそうだ。

「ポケモンGOをやってなかったら、キャンピング・カーから絶対出なかったよ」とホールは続けた。「ここまで800mくらいだろ? 教会のボロボロのドアや日時計なんかも見たし、せっかく来たんだから銘鈑も読むよ」

これこそ『ポケモンGO』の良さではないだろうか。「リビングから出よう」と外出が奨励されてきたが、そうはならなかった。しかし、このちょっとした現実を拡張してくれるアプリのおかげで行動して他人とかかわり、私たちの認識は豊かになっている。地図上にシミのように記載された地名の隙間に、たくさんの素敵な「何か」が隠されているのだ。都市化が進む世界でそんな事実に気付かせてくれる切掛は何であれ賞賛に値する。

自らの生活空間が当たり前になっている私たちにとって、ポケモン探しは、これまで愛してきたものを再発見する機会であり、熱中すればするだけ、今まで気づかなかった「何か」を見つける切掛になるのだ。