Unknown

禁断症状により、ブレット(Brett)は命を絶とうとした。たった数時間ゲームを禁じられただけで、当時、12歳だった少年の精神は深淵に迷い込んでしまった。アメリカからオランダに移り住んだ彼は、ハーグ(Hague)郊外のヴァッセナール(Wassenaar)にある自宅3階の窓から外を見渡し、真っ逆さまに落下して、路上で頭蓋骨がパックリ割れるのを想像した。『カウンターストライク(Counter-Strike)』をプレイできないのなら、どんなロクでもない最期であろうと、死んだほうがマシだ、と考えていた。

ブレットの父親は、PCの基盤に金属製のロックを取り付け、一定時間が経過するとドライブとの接続が解除されるように改造し、ブレットがゲームをできないようにした。そのためブレットは、暗殺者たちを始末できなくなってしまった。しかし、ブレットが自殺願望に駆られて30分も葛藤しないうちに、友人から電話でゲームに誘われたので、彼は自殺せずにすんだ。

「おそらく他人にとって、たったの30分で思考回路が『自殺願望』から『ゲーム願望』に切り替わるのは、とても不自然でしょう」と現在25歳のブレットは語る。

禁ゲームは不幸の始まりだった。悪化するゲーム依存からくる苦痛は、彼の健康を蝕み、家族の絆を崩壊させ、彼の成人としての生活を蝕んでいる。

ブレットの中毒は、2007年、第1のピークを迎えた。当時、高校1年生だった彼は、カリフォルニア州マリン(Marin)で暮らしており、『ワールド・オブ・ウォークラフト(World of Warcraft、以下、WoW)』に熱中していた。その結果、彼は日々の入浴や歯磨きすらしなくなってしまった。あまりにもゲームに熱中するあまり、彼の睡眠時間は、日に2~3時間以下になってしまった。その結果、高校生活に悪影響が及んだ。教師に教室から追い出されるほど、彼の態度はおかしくなったのだ。その学期、彼はすべてのクラスの単位を取得できなかった。

ブレットはあまりに長時間ゲームをプレイしたせいで、現実とゲームの世界を区別できなくなり、WoWよろしく、バス停への瞬間移動を試みたりもしたそうだ。

夏休に両親の我慢は限界に達した。6月のある夜、午前3時頃、ブレットは2人の見知らぬ男に叩き起こされ、オレゴン州ベンド(Bend)で6週間にわたる「荒野のキャンプ」リハビリプログラム「Second Nature」に強制連行された。彼はそこで、アルコール、ドラッグ依存などで苦しむ10代の若者たちとともにリハビリプログラムを受けたのだ。彼が初めて参加したリハビリの内容を、彼はSkypeで説明してくれた。

「カウンセリングのほとんどがゲームについての話でした」とブレットは教えてくれた。「WoWで世界最高のプレイヤーになったところで、決して幸せにはなれないのがわかりました」

ブレットは、7年間で2つのリハビリプログラムに参加し、ゲーム依存治療のために10万ドル(約1,100万円)以上を費やしたが、未だに週65時間以上ゲームをしている。

Unknown-1

ゲーム中毒に苦しむのはブレットだけはない。過去10年で、人生を狂わされ、人生に終止符を打ったゲーム依存者が世界中で続出した。韓国では、ボイラー修理工のイ・スンソプ(Lee Seung Seop)がネットカフェで『スタークラフト2(StarCraft II)』を50時間プレイし続け、心臓発作を発症して死亡。中国では、オンラインゲームを2週間プレイし続けたシュ・ヤン(Xu Yan)という男性が死亡。アメリカでは、WoWに熱中するあまり娘を餓死させたレベッカ・クリスティー(Rebecca Christie)が25年の懲役刑を課された。

8歳から18歳までのアメリカ人のうち、300万人以上がゲーム依存である、と専門家は見積もっている。また、医学の権威も事態の重大さにようやく気付き始めた。2013年5月の『精神疾患の分類と診断の手引(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、以下DSM-5)』では、過剰なオンライン・ゲーム依存「インターネットゲーム障害」と命名している。DSMは、「オンライン・ゲームを繰り返しプレイし続けると臨床的に深刻な障害、もしくは苦痛が引き起こされる」と警告し、過剰なゲームプレイは、ドラッグ依存症と同様の刺激を神経系に与える可能性がある、と続ける。ゲーム依存を他の依存症と比較すると、全米で依存症と診断されるであろうゲーマーは、コカイン中毒者よりも100万人以上多い可能性があるそうだ。

さらにDSM-Vでは、ゲーム依存は、もはや精神疾患として認めざるを得ないが、その症状を診断するのに有効な医療モデルは未だにない、と指摘している。それに対して、世界有数の「若年層のメディア依存」研究者、ダグラス・ジェンタイル(Douglas Gentile)博士は、従来の依存症患者診断と同様の診断で問題ない、と確信している。ゲーム依存者を診断するために、ジェンティル博士のような専門家たちは、ギャンブル依存症や薬物依存症患者の症例から得た手がかりを組み合わせて対応している。ゲーム依存者にも耐性、離脱症状、抑制喪失など、他の依存症患者と同様の特徴があり、社会生活や学業に支障をきたしもする。しかし、博士は自論に対する懐疑的な見解も承知しているので、彼は、1999年にメディア依存について研究を始め、「懐疑派の見解が誤りであるのを示そうと努力を重ねた」そうだ。

「ゲーム中毒は決して精神疾患ではない、と確信した」。それよりも現在は「ゲームに依存してしまう原因」の究明に情熱を注いでいる。

ゲーム中毒にステレオタイプはない。私は、様々なオンラインフォーラムでコメント投稿者にコンタクトを試み、42歳の元アルコール依存症患者のスコット(Scott)に辿り着いた。彼がゲームにのめり込んだきっかけは、オンライン賭博だった。それから、彼は取り憑かれたように戦略ゲームとパズルゲームをプレイするようになり、何度かアルコール依存症をぶり返し、妻と離婚した。その後、彼は、ゲーム依存から回復するための12段階プログラムを実施するグループをオンラインで見つけた。

Reddit上で、私は、22歳の男性ともコンタクトした。彼はフォーラムで、自身が取り憑かれたようにプレイしていた27のコンソール・ゲームと数百ものフラッシュ・ゲームのタイトルを列挙していた。彼は、全寮制リハビリ学校に入学したおかげで、最近、「酔いが覚めた」のに加え、ゲーム依存者向けのオンライン支援グループの影響もあり、ゲームせずに「クリーン」な状態で生活しているようだ。

そして私は、WoW依存から抜け出した70歳のパトリシア(Patricia)にも話を訊いた。彼女はアルコホリック・アノニマス(Alcoholic Anonymus, 以下AA)のメンバーであり、ガンを克服した経験もある。数年ものあいだパトリシアは、1日8〜12時間ゲームをプレイし、仕事よりもゲームを優先していた。「私は、実生活に関心がなくなってしまったんです。ただただゲームの世界に没頭し、そこにいたかったんです」と彼女は当時の心境を吐露した。彼女は、自身をパトリア(Patria)という名前のキャラクターに投影していた。その名前を、ゲーム依存者支援グループ、コンピューター・ゲーム・アディクト・アノニマス(Computer Gaming Addicts Anonymous、以下CGAA)でも使用した。彼女は、クリスマスディナー、孫の訪問、年老いた夫との時間ないがしろにした。2011年、パトリシアが酔いから醒めると、彼女はコカイン中毒者と同様の強烈な離脱症状に襲われ、不眠、不安、幻覚に悩まされるようになった。

しかし、パトリシアは、AAでのパートナーであり、43年間連れ添った夫が致命的な病に罹患しているのに気付き、最期まで夫を看病した。

「本当に後悔しています」と彼女は口を開いた。「夫との時間を無駄にしてしまいました。何でもできたはずなのに、私はただゲームしていたんです」

「言葉がありません」と彼女は続けた。「私は中毒でしたが、そうとは気付いていませんでした」

Unknown-2

ブレットのゲーム依存は、1995年のクリスマス、彼の兄が祖母からメガドライブをプレゼントされたのに端を発している。兄のメガドライブを気に入ったブレットは、『ベア・ナックル(Streets of Rage)』と『ソニック・ザ・ヘッジホッグ(Sonic the Hedgehog)』をプレイしまくった。その数年後、エンジニアの父親は、インテルCeleron搭載の低価格PCをブレットのために購入した。それ以降、彼は数年にわたり『スタークラフト(Starcraft)』に取り憑かれた。彼の母親は「ゲーム時間」を制限したが、プレイできない時間にブレットは、ゲームの攻略法を思案し続けた。

2003年、父親の仕事の都合によりオランダへ移住が決まったが、ブレットは、友だちや幼少期を過ごした環境を離れるのを気に病みはしなかった。「オランダに引っ越す数ヶ月前にPlayStation 2を購入しました。アメリカのプレステは、ヨーロッパのそれと互換性がありませんから、オランダでゲームを買えない、と不安が頭を過ぎりました」とブレットは当時の懸念を回想した。しかし、そんな懸念もなんのその、ブレットはコンピューター・ゲームの『カウンターストライク(Counter-Strike)』にのめり込んだ。この『カウンターストライク』は、大人気シリーズである『コール・オブ・デューティー(Call of duty)』にシェア率を抜かれるまで、トップクラスの人気を誇るオンライン・シューティングゲームだった。彼が使っていたPCの情報処理速度400MHz、解像度300dpi、フレームレート15フレーム/秒、サウンドは再生不能の超低スペックだったが、彼は『カウンターストライク』の虜になったのだ。

「ゲームの中で相手プレイヤーを殺せるようになるまで、1ヶ月かかりました」。このゲームは技術的難易度が非常に高いにもかかわらず、彼はプレイを続け熟練の域にまで達した。彼が『カウンターストライク(Counter-Strike)』に惹かれた理由は、「相手プレイヤーを叩きのめせるだけでなく、相手よりいかに優れているかが数値化されるから」だそうだ。

彼の両親は、ゲームのなかでデジタルテロリストを虐殺する彼の才能を、あまり気にかけていなかった。彼の父親は、PCロックのキーを用心深く保護した。しかし、もしもブレットがゲームをプレイできないならば、彼は途方に暮れてしまうだろう。彼の父親は、ブレットの敵意むき出しの生意気な態度を思い出しながら、当時の彼を「獣」と称した。ブレットがゲームの世界を離れると、時折、心中を「自殺」という言葉が過ぎったそうだ。

ビデオゲームが鬱の原因になる、という恐るべき仮説がある。しかし、その仮説もまた的確ではない。ジェンタイル博士は研究初期、メディア依存とゲームが鬱を引き起こす可能性に疑問を抱いていた。3年に渡り、3,000名の子供たちを調査した博士は、ゲームと鬱病の病理的関係には「鶏が先か卵が先か」に似た複雑な構造があるのを発見した。精神衛生上の問題、注意欠陥障害を抱える人々は、より現実逃避癖があり、ゲームに依存する傾向が強く、ブレットのように、若い頃からいつもゲームをプレイしてきた若年層は、注意欠陥障害や社会不安障害を患い易いらしい。それらの障害により学校生活に不具合が生じ、若年層ゲーム依存者はより深刻な精神疾患やゲーム中毒になるそうだ。

「ゲーム云々の話じゃないんです。それでは余りに単純すぎる」とブレットの父親は頭を抱える。「おそらく、息子をみていると、ゲームそのものというより、それ以上の『何か』に満足しているようです」

ブレットの精神状態は、2004年、オランダからカリフォルニアに戻っても、悪化し続けた。この年にWoWがリリースされたのだ。カリフォルニアでは、学校からノートパソコンが支給された。このノートパソコンはロックもされていない上に両親の許可やパスワードを必要としないので、ブレットにとっては願ったり叶ったりだった。結果、ブレットは学校の課題に手を付けなくなり、延々とWoWををプレイするようになってしまった。「ゲームする前に『宿題をしなければ』という考えも心に全く浮かばなくなった」そうだ。彼は、ゲームのなかで「ボバビルダー(BobaBuilder)」という名のオークの戦士を操った。それからすぐに、彼はゲーム以外の会話ができなくなり、例えゲームの話題だとしても、1~2分しか話せなくなってしまった。

「自らの成長よりもキャラクターの成長が重要だ、と思い込んでいました。なぜなら、ゲームはより数量化されていて、可視的で、実生活より面白く、簡単でわかりやすかったんです。それに、ゲームのなかにはやるべきことがたくさんあります」

WoWのようなゲームは、生来の「悪」ではないし、本来、それで中毒になりはしない。事実、インタビューに応えた中毒者は、皆、彼らの選ぶゲームは、ゲーム依存と無関係だと強調していた。彼らは、『テトリス』から『ヘイロー(HALO)』まで、ありとあらゆるゲームにしがみついた。

「問題はゲームではありません」とネット上で知り合った21歳のゲーム中毒、コーナー・S(Cornor S.)は語る。「中毒ゲーマーにゲームについて質問してもしょうがない。回復途中のアル中に、何を飲んでいたのか質問するようなものです。問題はゲームでなく、ココにあるんです」とSkypeで自身の頭を指して応えた。

Redditのゲーム中毒に関するフォーラムでコメントしていたDansNewLifeは、個人的な経験を踏まえ、「依存症とは苦痛からの解放を求めた結果だ。例えば、熱くなったストーブから手を離す方法を考えるように。悪しき嗜癖を止めれば、すべての苦痛がフラッシュバックする。依存症患者にとって、それを止めるのはとても苦痛で、それは、苦悶の生活に引き戻されるのも同然だ」と投稿している。

現在、ブレットは、コンピューター技術者になるために、A+の成績取得を目指している。サンタバーバラ・シティーカレッジ(Santa Barbara City College)で断続的に講義に参加しているが、複数の学期を連続した修了したためしはない。さらに、リハビリ中でありながら、彼は、依然としてゲームを続けている。ブレットは私とのSkypeで、ここ6日間の入浴を妨げている100以上ものゲームを興奮気味に列挙し、入浴に15分かけるならゲームする、と息巻いたが、「今のところ、そんなにたくさんプレイしていない」そうだ。

彼の父親は落胆しながら、「今の息子の症状は、荒野のキャンプに放り込んだ時期と同じくらい悪化している。ゲーム依存によって、息子は6、7年分の人生を無駄にしている」と付け加えた。