Dr. Alexandra Stein. Photo courtesy of subject

北ロンドンにあるアレクサンドラ・スタイン博士(Dr. Alexandra Stein)の家に着くと、彼女は誰かと電話をしていた。「まずあなたがすべき行動は、向こうと連絡を取り続けることです」。博士は親身な口調で電話の相手に語りかけていた。カルトにハマってしまった身内を救うため、その家族にアドバイスをしているのだ。彼女のもとには、信者の家族からの相談電話がひっきりなしにかかってくる。なぜなら彼女自身もカルト団体の元信者であり、現在はカルト研究の専門家だからだ。

10年ものあいだ、スタインは〈The O〉という左派政治カルトのメンバーだった。しかしこの団体から足を洗うと、カルトについての著書を出版し、博士号も取得。現在ではこの分野を代表する専門家だ。今年初めには2冊目の著書『Terror, Love and Brainwashing: Attachment in Cults and Totalitarian Systems』も発表した。自身のカルト経験、カルトの定義、そして、自由主義国のリーダーは実際のところカルト・リーダーなのか否かについて。博士に話を訊いた。

「政治団体は、一般的にカルトとは認識されていません」。温かいお茶を飲みながら、スタイン博士は口火を切った。「しかし実際は、カルトとなり得る。世界には、数えきれないほどの政治カルトが存在します」。彼女はそれを身をもって知っている。スタインは、南アフリカ出身の両親のもと、ロンドンで育った。かなり積極的に政治に参加する家庭だった。「幼い頃から、骨の髄まで政治が染みついていました」

スタインは18歳のとき、稀有な経験と草の根行動主義を求めて米国に移住した。しかし、それらが得られたのは、ほんの短い期間だった。レーガン時代が幕を開けると、仲間たちは散り散りになり、それぞれの生活構築に関心を注ぎ始めた。政治的情熱を持ち続けたのはスタインひとりになり、ボーイフレンドとも別れた。そんなときに出会ったのが〈The O〉だ。ミネアポリスを拠点とし、〈マルクス=レーニン主義〉を標榜する政治カルトだ。

左翼革命を目指し邁進するという〈The O〉の主義主張は、若きスタインを魅了し、最終的に彼女の人生を乗っ取った。〈The O〉は、彼女を、家族や友人たちから隔離し、結婚相手も選び、出産を義務として強制した。また、毎日システム・インテグレーター企業でフルタイムの仕事をこなしたあと、パン屋で8時間の仕事を課せられた。どちらも〈The O〉から指示された仕事であった。当時の彼女は、〈変な雰囲気の、暗い秘密の住居〉で暮らし、大義のために無我夢中で働いていた。

ふたつの仕事のおかげで、常に疲弊していたスタインは、外の世界とかかわる機会をすっかり失った。パンを焼き、コンピューターに向き合うのが、来たるべき革命といったいどう関係するのか、よくわからなかった。しかし当時は、そんな生活に疑問を抱けるほどの精神力も、強さも持ち合わせていなかったのだ。

スタインは、いち度、〈The O〉からの逃亡をもくろんだが失敗した。しかし、1991年にようやく脱出が成功した。そして、いったいこれまで自分に何が起こっていたのか、その解明を始めた。あのときはいったいどうなっていたのか、そしてどうして現在も世界中で洗脳が続けられているのか――、これらの疑問が生涯の研究に繋がった。「政治的カルト集団からヨガ団体、IS、そして、それらのちょうどあいだに存在する様々な団体まで研究しています」とスタインは語る。

2冊目の著書でスタインは、カルトのイデオロギーが何であれ、洗脳のテクニックはいつも同じだ、と世界に伝えた。全体主義者も虐待者も、カルトのリーダーは軒並み同じ手段を使う。そのテクニックを知りさえすれば、カルトの支配から身を守れるのだ。危険なカルト集団が用いる社会心理学の手管は、あらゆる国の学校や大学で教えるべきだ、と彼女は主張する。

「カルトを定義する5つのポイントがあります」とスタイン博士。

  • リーダーがカリスマ的かつ、独裁的である。
  • メンバーを孤立させるグループ構造になっている。
  • 絶対的なイデオロギーがある。(例:「あなたに必要なのは私だけ。他の信念はあなたにはまったく関係がない」)
  • 洗脳のプロセスがある。
  • 結果として、命がどうあれ、リーダーの命令を何でも守る信者をつくり上げる。

「こうして自爆犯ができあがるのです」。そう彼女は結論づけた。「理解されにくいところではありますが、カルトのメンバーは思考能力がまったくありません。感覚も『ない』といってもいいかもしれません」

それは偽りの、ときには無慈悲な友人グループのなかに吸収されるようなものだ。カルトには連帯感があるような気もするが、それは幻想だ。博士はカルトを、〈自分自身で決断する意志も能力も失ってしまった、極めて孤独な人々の屈折した集団〉と表現する。「カルトのなかでは誰も信用してはいけません」。博士はそう注告する。「もし、『ここって何か変じゃない?』などと漏らそうものなら罰せられるでしょうから、どうしようもありません。恐怖を感じていてはいても、外の世界に頼れる人はもういない。だから恐怖をもたらす張本人のカルト仲間にしがみつくほかないのです」

これがカルトの仕組みだ。恐怖と依存の悪循環。〈ストックホルム症候群〉ともいえる。ただし、自ら選んだことは意識しているだけに、より狡猾でわかりにくい。

驚くべきことに、博士は、誰もが簡単にカルトの罠に陥る、とも言明する。これらの団体は、ターゲットの気質の強さというものを逆に利用するそうだ。「『自分には起こるはずがない』と拒絶するのは、人間の特質として自然な反応です。長年、多くの人々が私の体験に耳を傾けてくれましたが、『そんな経験したなんて。大変でしたね。でも、私にそんな問題は起きないでしょう。私は依存しないタイプなんですよ』。みんな、こういいます」

「それに対して怒ってもしょうがない、と私は学びました」。博士は続ける。「恐ろしい現実、いやな現実から距離をとりたいと望むのは自然です。しかし、誰にでも起こり得るということは、ヒトラー時代のドイツを振り返えればわかるでしょう。現実との関係が断たれ、自分の目の前で起こっている事実さえも見えなくなってしまう、そんな状況に陥る可能性は誰にでもあります」

さらに博士の口から衝撃的な見解が発せられた。彼女が設定した〈5つのポイント〉に照らし合わせると、現米国大統領のドナルド・トランプ(Donald Trump)はカルト・リーダーだというのだ。「カリスマ的で、かつ独裁的か? イエス。トップが絶対的な力をもつ、独裁的なピラミッド型組織を形成しているか? イエス。そうなると、カルトリーダー的だとしかいえませんね」。トランプ・ファミリーが政治の中枢を担っている状況についても指摘する。「トランプは絶対的なイデオロギーを有しているか? イエス! 孤立させたり、洗脳させたり、恐怖で脅したり、というプロセスを実行しているか? イエス。トランプ政権は、多くの恐怖を生み出しています。そして、彼のいいなりになる信者がついているか? イエス。早めに政界から追放しないと、さらに過激な信者は増えていくでしょう」

「トランプのやりかたは、カルト・リーダーのそれと変わらない。そう判断するのに充分な根拠があります」。そして、涙ながらに付け加えた。「こうなってほしくなかったんですけどね」