南アフリカ〈スマーティーズ〉

ファッションとは何か。恥に対する文化的慣習、労働者のユニホーム&衣装、礼節を求められる儀式の際の服装、他人からの評価のため、自己表現のひとつなど、様々な時と場所と場合によって、欠かせないものとなる。では、後進国の人々が、自身を着飾る理由はどこにあるのだろうか。ダニエーレ・タマーニ(Daniele Tamagni)の『ファッション・トライブーグローバル・ストリート・スタイルー(FASHION TRIBES GLOBAL STREET STYLE)』では、劣悪な社会背景で生きながら、ファッションで解決を模索する人々を紹介している。

ダニエーレのインタビューに入る前に、まずは、彼が撮影し、そして本書に収められている、7つの国と都市の〈ファッション・トライブ〉を紹介しておきたい。

南アフリカ〈ヴィンテージ・クルー〉

01ジョーバーグスタイルのバトル(JOBURG STYLE BATTLES)
南アフリカの首都ヨハネスブルグでは、アパルトヘイトが廃止されて以降、非白人たちの戦いが、アイデンティティーの獲得へと変化した。その手段として、個性的で派手な身なりのファッションで、街を練り歩く者がいる。この章では6つのキッズ・クルーを紹介している。
〈ヴィンテージ・クルー〉は、予想もしないようなミックス(彼らはその感覚を不条理と呼ぶ)スタイルのダンスクルー。ダンススタイルのルーツは、80年代にアメリカのゲイクラブで流行し一般化したヴォーギング。レディー・ガガやダイ・アントワードとツアーに同行するなど、成功を収めるいっぽうで、同性愛差別などの新たな問題とも戦っている。
〈スマーティーズ〉は、この国のポップカルチャーを築き上げたクリエイター集団。肌が黒い彼らが、鮮やかなファッションを身に纏う様を、チョコレート=肌、コーティングされた色鮮やかなキャンディー=ファッションで例え、著名なチョコレート名を、自身らのクルー名として用いている。
他には、イタリア人が仕立てるスーツの技術に芸術性を見出し、アメリカ公民権運動に携わった政治家のスタイルを探求する〈サルティスト〉。グッチやクリスチャン・ルブタンなど高級ブランドを着ているが、それらや現金を街中で破壊し燃やすことで、西洋社会への反発を誇示する〈イジコタネ〉。〈スマンゴリ・ダンス・クルー〉、〈テンビサ・レボリューション〉といったダンス・クルーも掲載されている。

セネガル〈クザリー・ファッション〉

02クザリーファッションとディリアンケ(XALEY-FASHION AND THE DIRRIANKHE)
1960年にフランスの植民地から独立したセネガル。現在も一夫多妻制が認められており、それに抗うように、ファッションを通じて戦う女性たちが取材されている。
〈ディリアンケス〉とは、セネガルで伝統的に続く女性ファッションを継承する。ふくよかであることをエレガンスとし、ブーブーという被り物の色鮮やかなドレス、煌びやかなアクセサリー、部屋中に充満するほどのティウライェ(香水)を駆使し、性愛の神、エロースからインスピレーションを受け、〈誘惑〉をアートに昇華すべく振る舞う。
一方、〈クザリーファッション〉とは、セネガルの伝統的な美に争う若い女性。足が長く、くびれたウエストを目指す。また、ウォーキングのスキルをアピールするためにランウェイを開催し、世界的なモデルになるキャリアを夢みている。ファッションスタイルは、バーニュという西アフリカのプリント柄に、ライダースジャケットをコーディネートするなど、自国の伝統を引き継ぎつつ、西洋文化をミックスしたスタイルが、独自性を感じさせる。
〈ディリアンケス〉と〈クザリー・ファッション〉。世代によって異なるスタイルや思想を持つ彼女らは、2001年まで女性が土地を持つことを許されなかった社会で、ファッションを通して生きる術を模索している。

キューバ

03ハバナの若者たちとボディ&ソウル(HABANEROS IN BODY AND SOUL)
1959年のキューバ革命以降、長きにわたりアメリカとの国交が断絶していたキューバ。革命以前のアメリカ的文化と、社会主義になってからの文化、アメリカとの国交が回復した後のグローバル的文化が、現在のキューバには混在している。首都、ハバナで暮らす若者たちは、キューバから脱出した移民からの仕送りや、闇市でブランドロゴや音楽的にアイコニックなモチーフを手に入れ、それぞれ同時に身に纏う独自のスタイルを試みたりもする。ドルマークが形どられたバックル・ベルト、ブランド名がデカデカと施されたトップス、そして、チェ・ゲバラの肖像やキューバ国旗を、同時にコーディネートする者もいる。グローバリズムへの羨望と、自国文化への誇りが共存する人々を、写真に収めている。

ボリビア〈チョリタース〉

04フライング・チョリータス(FLYING CHOLITAS)
〈チョリタース〉とはギャザーのあるフワリとした鮮やかなスカートを穿き、レスリングをおこなうボリビアの女性たち。同国では、西洋的な美とは異なり、ふくよかな女性が、健康的で社会的成功を意味し、人気を集める。そんな国民的な美意識を踏襲しつつ、自立した女性としての強さを主張するのが〈チョリタース〉だ。男女の労働分離に反対し、男性のように力仕事に就けるのを証明するために、肉体的な強さを強調する女性たち。それと同時に、美しさも主張する。その手段がレスリングだ。ボリビアでは農村で働く女性、そして首都ラ・パスで生きるエリートとされる女主人〈セニューラス〉という2つの階級がある。〈チョリタース〉は、田舎の農民出身者が多く、仕事を求めて子供と彼女たちだけで都会へやってくる。ほとんどがバイリンガルで、3ヶ国語を話せる者もいる。農民出身だが都会で暮らし、オシャレで、パワフルで賢い。そんな武器をアピールし、女性としての新たな地位を獲得するために、〈チョリタース〉は戦っている。

コンゴ共和国〈サプール〉

05我が道をゆく紳士たち(GENTLEMEN OF TRANSGRESSION)
フランスの植民地から1960年に独立したコンゴ共和国。飲食を我慢しなければ、ネクタイも購入できないほど、切迫した環境で暮らす人々が、ヨーロッパのダンディズムをもとめ、ファッショナブルな着こなしを披露する〈サプール〉。ヨーロッパや日本の高級ブランドのスーツを基本とし、3色以内でコーディネートをまとめ、サイジングはジャストフィットを心がけるなど、一見華やかなスタイルだが、厳格なルールも存在する。彼らが、食べるものにさえ困窮しているにも関わらず、ファッションに固執する理由は、着飾ることでしか自らの存在を誇示できないからである。〈サップ〉になり、街を歩けば喝采を浴びる。切迫した社会情勢で、着こなし、立ち振る舞い、精神性が、現実からの逃避、あるいはポジティブに生きるための手段として、多くの国民から愛されている。

ミャンマー〈ビルマ・パンクス〉

06ビルマ・パンクス(BURMA PUNKS)
約100年にも及ぶ植民地支配後、50年にも及ぶ軍事政権が2011年まで敷かれていたミャンマー。そんな同国の社会状況に反発するように生まれたのが、〈ビルマ・パンクス〉。サプールのダンディズムとは異なり、70年代のイギリス・パンクスのスタイルを模索する。素足の僧侶による軍事政権反対運動、政治犯とされた民主化運動のリーダー、アウンサン・スー・チーの解放など、自由を求め戦うものに呼応するように、〈ビルマ・パンクス〉が出現した。過去は軍事政権への反発、現在は現状を維持し、より自由な社会へと進むためにアナーキストであり続け、パンクスとしてのスタイルを誇示し続けている。

ボツワナ〈アフロ・メタル〉

07アフロメタル(AFROMETALS)
1966年イギリスから独立したボツワナは、ダイヤモンド、金、銅、亜鉛など、豊富な鉱物資源に恵まれ、長期的な経済成長を遂げた国である。一方で、深刻なエイズ問題に悩まされる同国からは、死を連想させるスタイルを誇示する〈アフロ・メタル〉が出現した。ライダースジャケットにビョウを打ち付け、世界的なメタルバンドのTシャツを身にまとい、動物を連想させる図柄や角など、アフリカを連想させるアイテムをコーディネートに取り入れる。全身ブラックのスタイルから、観る者に喪服を連想させる。skinflintというバンドの「Dipoko(ディボコ)」という曲の歌詞は、スピリチャルな邪悪さを探求し、生け贄の儀式がある〈ジュジュ(黒魔術)〉のオカルトにも触れている。それを愛聴するファンもいる。死が身近にある環境だからこそ、あえてアフロ・メタルたちは、死をテーマにすえたカルチャーと向き合い、死をも恐れない精神性を主張している。

以上のように7つの国で、アイデンティティーを模索し個性的なファッションで主張する人々を、本書は伝えている。これをもとに、写真家であり著者であるダニエーレに、より深く話を聞いてみた。

コンゴ共和国〈サプール〉

今回の写真集のテーマを教えてください。

このプロジェクトはファッションを一般化してるのではなく、〈ファッション・トライブ〉として表現しています。コミュニティーの創造性から見えてくるアイデンティティーについて語っています。彼らの創りだしたアイデンティティーへの帰属意識こそ、南アフリカ、セネガル、ミャンマー、ボリビア、コンゴ共和国、ボツワナ、キューバと、すべてのチャプターに通じる本作のテーマです。彼らはグローバル化した西洋社会から影響を受けつつも、自分たちのルーツを忘れず、自分たちのテイストに合わせて、それを変容させています。

セネガルとボツワナを取り上げた理由を教えてください。セネガルの場合〈ディリアンケス〉と〈クザリーファッション〉のあいだにある世代間の差異については、他の先進国でも存在します。ボツワナのアフロメタルも、世界中にメタルが広がっている現状を考えれば、一般的とも感じます。セネガル、ボツワナをあえて被写体として選んだ理由を教えてください。

私はセネガルやボツワナを選んだわけではありません。〈クザリーファッション〉、〈アフロメタル〉の女の子たちを撮りたかったのです。例えば、ロンドンやパリやニューヨークといったファッションの中心地に行きたいと願っている〈クザリーファッション〉の細くて若い娘たちは、他の後進国で暮らす同世代の女性と変わりません。しかし、セネガルのダカールだからこそ意味を持つのは、彼女たちの美的感覚が、それまで続く国の伝統的な美意識と相反するからです。彼女たちよりも上の世代の女性たちは、伝統的な衣類で身を包んでいます。また、〈ディリアンケス〉は伝統的な衣類を着ていますが、違った形で、性的魅力、美的感覚、美しさを表現しています。したがって、この場合も、一般化したいわけではなく、特定の女性性について語ろうとしていたのです。もちろん、同じような事例は他国でもあるでしょう。

ボツワナの〈アフロメタル〉がユニークなのは、80年代のヘヴィーメタルやカウボーイスタイルと、アフリカのアクセサリーをミックスしたスタイルに、独自性を見出したんです。彼らの好きな音楽も、すごく特異です。ボツワナは南アフリカと並び、アフリカのロックシーンを牽引しています。〈アフロメタル〉の音楽とファッションは密接な関係です。自然やダイアモンド鉱山で知られている国なのに、面白いですよね。私は常にアフリカのステレオタイプを壊し、違った側面を見せようとしています。

南アフリカ〈ヴィンテージ・クルー〉

南アフリカの章では、他の章と比較して、より多くの集団(ヴィンテージクルー、スマティーズ、ザ・サルティスト、イジコタネ、スマンゴリ、テンビサ・レボリューション)を撮影しています。

私が知る限り、ヨハネスブルグは、ラゴス、ダカール、ナイロビと並んで、アフリカでも有数のクールな街で、ファッションも、デザイナーたちの成長とともに大きな進化を遂げています。私の写真集でも、ダンスシーンに登場したポスト・アパルトヘイト世代の人々を撮影しています。彼らは、ファッションとコンピューターの狭間で生きています。したがって、私は彼らを〈ヨブルグ・スタイル・バトル〉と呼んでいます。

写真からは、それぞれの国のファッションと、社会的背景が感じられます。なぜ、これらの国やコミュニティーに焦点を当てたのでしょうか?

この本は〈南側の世界〉の都市における、特定のサブカルチャーやコミュニティーを扱っています。ファッションだけに焦点を当てているわけではないので、それらの国々におけるファッションの状況を単純化して語ることはできません。ファッションを扱いたければ、チャプター名も〈フライング・チョリータス〉ではなくボリビアのファッション、〈我が道をゆく紳士たち〉ではなくコンゴのファッションという形で、別の本をつくっていたでしょう。

また、〈サプール〉が、コンゴ・ファッションのすべてを代表しているわけではありません。エレガントな社会を模索する〈サプール〉たちは、ダンディーなスタイルを貫き、同国の一般的な人々のファッションとは全く違うからこそ、アイデンティティーを持っているといえるのです。本書で取り上げた国々は、セネガルと南アフリカを除き、国全体で見れば、とても小さなファッション・マーケットであるという特徴があります。

アイデンティティーの確立をファッションに求めるのは、なぜでしょう? 今回撮影した被写体を例に教えてください。

ファッションは面白い。それは社会、あるいは社会の矛盾を理解するための鍵となるからです。ファッション、外見、スタイルを通して、人となり、その人の理想が理解できるようになります。例えば、〈サプール〉は裕福でないのに、金を節約してまで着飾ります。一見矛盾しているようですが、そうではありません。また、コンゴ国民の大勢が、〈サプール〉のような服を着ているわけではありませんが、〈サプール〉はコンゴの社会や歴史と深く関係しています。私たちは外見に気を使う消費社会に生きています。私の本は、〈社会の複雑さ、多様性を憶測で決めつけない〉というメッセージを伝えているのです。また、この本では、ファッションを主題として扱うことに疑問を呈し、音楽、パフォーマンス、宗教、スポーツとの関連で捉えようとしています。他の文脈との繋がりを探しているのです。

なかにはスポーツに関係のあるチャプターもあります。おそらく次回は、スポーツについての本をつくるかもしれませんが、今回はスポーツがテーマではありません。〈チョリータス〉のファイターというチャプターは、試合ではなく、彼らが伝統的な衣装を着てレスリングをしているのがポイントです。荒々しいスポーツなのに衣装に気を配り、気品を持って戦っている姿を写そうとしました。それは〈サプール〉が気品を競うコンペティションで〈戦っている〉のと全く同じです。

ダニエーレ・タマーニ
イタリア出身の写真家。コンゴ共和国のサプールを捉えた写真集『サプール・ザ・ジェントルマン・オブ・コンゴ(SAPEURS the Gentlemen of Bacongo)』(青幻舎)をリリース。また、南アフリカ、セネガル、ミャンマー、ボリビア、コンゴ共和国、ボツワナ、キューバにおいて、ファッションで個性的に自己を主張する人々を捉えた著書『ファッション・トライブーグローバル・ストリート・スタイルー(FASHION TRIBES GLOBAL STREET STYLE)』(青幻舎)がある。