SPIRIT of CONGO、コンゴ民主共和国キンシャサ取材もいよいよ最終回。今回の取材のメインであった黒魔術プロレスキンシャサ・サプールに続く、最終回のテーマは〈食〉。

名越啓介奥村恵子が宿泊し、拠点としたドミトリーは、ガスが通っておらず、シャワーの設備はあるが水は出ない。ましてや、当然のようにお湯は出ない。電気も1日中使えることは皆無。灯も点いたり消えたり、不安定。生活用水は、ドラム缶くらいの大きさの甕みたいな容器に運んでもらい、湯を沸かすのも洗濯するのも、そこから汲んで使う。1日に手に入る水が少ないため、バケツ1杯で体を洗わなければならないほどだ。「夜、ドミトリーに帰ってきて玄関の灯が点いてると、ほっとするんだよね。別に電気がなくたって生活できるけど、やっぱり灯が点いてると生活はしやすいし、名越くんだってカメラのバッテリーの充電とかをできるからね」。高級地区や管轄地区以外の、ほとんどのキンシャサの地区では、電気も水もガスもままならないため、食事をつくるのもひと苦労。

コンゴ民主共和国はアフリカ大陸の内部に位置するため、海とは面していない。キンシャサは、コンゴ川に隣接する都市であるため、コンゴ川から採れる川魚と、街中で耕している農作物、山で採れる動植物などが、主な食料だ。

コンゴ民主共和国の主食として最もポピュラーなのが、米とフウフウとクワンガ。「フウフウはキャッサバや、とうもろこしや、セムリナを粉にして練ってお餅のようにしたもので、高級なのはセムリナ。スパゲティの原料でもあり、より小さな粒にするとクスクスになる。クワンガはキャッサバが原料で、おそらく葉にまいて蒸しているんだと思う。バナナを少し太くしたくらいの、ういろうのような形で、バナナの葉を巻いて売っている。どちらも手でちぎって、スープなどに浸して食べる。クワンガは、安いし腹持ちもいい。さらに、日持ちもするから、みんなよく食べてるよね」

米、フウフウ、クワンガは、黒豆、インゲン豆、白豆などを水に浸して、干しダラ、トマトを入れて煮たマデスという料理をかけたり、それに浸して食べるのがポピュラー。豆の代わりに、ボンドゥやビテクテクといった日本にはない野菜などを代用した料理も、よく食卓に並ぶ。日本でいうと、小豆を煮たお汁粉などと見た目は似ているが、味はもちろん違う。南米でいうフェジョアーダ、フリホレスは豆を水に浸して、そこに肉を入れるが、コンゴでは肉や野菜を入れる場合もあるが、大衆料理としてはタラを入れて煮るのが最も流布している。ちなみに奥村は、この料理を三週間毎日食べ続けるほど、好物だという。

コンゴ川で獲れるナマズの料理も屋台などで売られている。大きいもので1メートル弱あるナマズを捌き、トマトソースと唐辛子を入れ、それをバナナの葉で包む。ドラム缶の中で火を起こし、その上に乗せて、蒸した料理が〈リボケ〉である。こちらは5ドルほどするものもあり、高価であまり食べれない。ここで紹介した写真は、器が綺麗で、日本の食卓に並んでも不思議ではないように感じる。「実際にすごく美味しいんだけど、しかし名越くん、さすがだね、美味そうに撮っているよね(笑)。しかも、こんなに綺麗な皿で出てきたっけな?」と奥村は笑う。

肉料理のなかでも、鶏料理が食卓に並ぶ機会が多い。食用の鶏は、日本では養鶏場、つまり、狭いゲージの中で育てらるのが一般的だが、コンゴでは、鶏が自由に動ける平飼いが主流。「日本と比べると、鶏は身が締まっていて、本当に美味しいんだよね。日本だとフニャフニャしてて気持ち悪いから、あまり食べないんだけど、コンゴだとよく食べる。卵も黄味が大きく、白身が少なくて、しかも味が濃くて日本より全然美味しい。ゆで卵を売りにくるんだけど、ついつい毎日食べちゃうんだよね」

街を歩けば、頭にお盆のような大きな受け皿を乗っけた行商とよくすれ違う。ビニールに入った水やアボガド、ピーナッツなどの食料から、ライター、タバコ、ビールなど、ありとあらゆるものを頭に乗っけて移動しながら、販売している。扇風機の蓋をカゴ代わりにして、頭に乗せる行商もいる。

また、道端には屋台がポツンポツンと並んでいる。そこでは、先ほど紹介したリボケだったり、フルーツや野菜が売られている。マンゴーも屋台で売られているのだが、上の写真でもわかるように、日本で売られている黄色く熟したものとは異なるものもある。「日本で流通しているような、熟した黄色い甘いマンゴーも売っているんだけど、青いマンゴーも売ってる。若くて緑色なんだけど、食感はキュウリなどの野菜のように硬くてコリコリしていて、塩をかけて食べる。これはこれで美味しい」

ちょっとした広場に屋台が集まった市場もある。そこにはビンゾと呼ばれる、幼虫なども売られていた。こちらは野菜とトマトとピーナッツを混ぜ合わせたソースとともに煮て食べるのが通例。見た目はグロテスクだが、タンパク質とビタミンが豊富で栄養価が高いとされている。こちらの写真のビンゾは乾燥しているが、生の白い状態でも売っていて、その状態のまま食すこともある。

さらなるゲテモノもある。黒魔術レスラーの傍で、彼らが連れていた猿や蛇などが食料として売られているのだ。干した猿や蛇、ワニなどの動物や爬虫類も売っていた。それを煮て食すのだが、独特の匂いが鼻をつく。基本的にはキンシャサでも山側の住民が食すものらしい。

ジャンクフードは、輸入品を扱う高級スーパーには並んでいるが、一般的な庶民には手が届かない。したがって、基本的には化学調味料を摂取しないため、庶民の食生活は不衛生で質素だが、ある意味、健康的ともいえる。駄菓子や菓子パンなども、ジャンクフードと同様に入手しづらいが、バナナやタロイモなどを揚げてチップスやフリットにした菓子は、街中で普通に流通している。

飲み物は、サトウキビのジュースがあるが、フードプロセッサーやミキサーなど、当然流通していないため、フルーツを使ったジュースは、ほとんど売られていない。雑貨屋やバーでは、ファンタやコーラ、スプライトも売っている。すべて1ドルほどで、ビールと変わらない値段で手に入る。飲料水としては水道水が最も汚く、次いでビニール袋入りの水。最も綺麗なミネラルウォーターは、1ドルほどで手に入る。

キンシャサには、高級な〈食〉もあるにはある。一部の金持ちが住み、日本大使館もあるンゴンベ地区には、パリにあるようなカフェテリアがある。庶民は、食堂では、およそ1食1ドルくらいで食事をとるが、そこのコーヒーは、1杯6ドルほどもする。つまり、ここのコーヒー1杯で、庶民の6食分の外食に相当する。このような現実からも、まざまざと貧富の差を実感せざるを得ない。また、2016年12月の滞在では、1ドルが930フランだったが、奥村が今年の5月にキンシャサを再び訪れると、1ドルが1400フランまで高騰していたそうだ。つまり、半年で約500フランも物価が高騰している。埋めようのない貧富の差は、このような不安定な物価変動にも原因がある。

夜になっても屋台は開いている。「フランスやベルギーなどの朝食は、クロワッサンかバゲットとヨーグルトくらいでシンプルに済ませるんだよね。アメリカのように卵やベーコンが食卓並ぶわけではない。そのためか、キンシャサでも朝はパンなどだけで軽く済ませる習慣がる。朝はパンだけ売ってる屋台もあるけど、だいたい、昼くらいから出てきて、夜は遅くて10時、11時まで開いている屋台もある」。上の写真の屋台では、隣にハムや卵、チーズ、トマト、玉ねぎ、ハム、ソーセージなどが並んでいて、好きな具材を注文し、さらに、その場で卵をオムレツにしたり、パンを焼いたり調理もしてくれ、およそ1ドルから2ドルほどでサンドイッチをつくってくれる。

夜でなくても、酒と大麻は必需品。不良、愚れているに関わらず、出会った若者の大勢がやっていた。「キンシャサでは〈スカイ・ナ・ベド(スカイとベドしかない)〉っていう。俗語でスカイが安い酒、ベドが大麻。若者は、これをミックスしてやるんだよね。仕事がない、イコール金がない、遊ぶものもない、楽しみがない、だから、俺たちには、これしかないって意味なんだけど、どっちも安いから、どっかから金が入れば、みんなで飲んで吸っている。私の知ってる限り、プロレスラーもサップも、みんなゲットーに住んでいて、そのうちの半分以上の人が、やるんだよね。今から撮影しましょうってなると、これがないと、やらないし。もちろん大麻をやらない人もいて、その子たちは酒を飲む。サップも景気付けに、どっちかやらないと、あんなにテンションが上がらないでしょう? それもあって常にどっちかやってたと思うよ。法律では、一応禁止だから、知らない人の前ではやらないけど、隠れてやってるだろうからね」

「大げさにいうと、白い米粒とハエ、どっちが多いんだって思うくらいだからね(笑)。ただ、ハエと戦いながら食事をするってのは本当で、信じられないくらいいるからね」という奥村の言葉や、街を歩いているとゴミ溜めが発酵し、煙が立っている場面によく出くわし、やはり衛生面では不安を感じざるを得ない。

また、マラリアが蔓延するコンゴでは、蚊との戦いも強いられ、蚊帳を用意しなければ、おちおち眠りにつくことさえできない。しかし、宿泊したドミトリーでは網戸があったとはいえ、2人とも途中で蚊帳を使わずに眠っていた。奥村に関していえば、重度の熱帯性のマラリアにかかったこともあり、98%助からないというほどの痛い目にあっていたにも関わらず…。もちろん普通に帰国し、何も異常はない。名越は「もともと、蚊に刺されにくいから大丈夫ですけどね」と出発前に笑っていた。さらに、黄熱病の予防注射を打たないと、コンゴには入国できないのだが、それを面倒くさがって何度もすっぽかし、さらにはコンゴ入国の際、その接種証明書を忘れてきたり(笑)。そんな些細なトラブルもあったが、なんとか無事に取材が終了した。

コンゴ民主共和国キンシャサでは、その土地に根ざした食文化が発達していた。確かに、マラリヤやエボラ熱の蔓延や、政情不安、経済状況、医療技術など、様々な問題を抱えており、コンゴ人の寿命は、およそ50歳未満で、子供の死亡率も非常に高い。「日本では、キンシャサやコンゴっていうと、可哀想とか危険だというような報じられ方が、どうしても多くなるんだよね。だけど、現地で人々と接すると、どんな苦境に陥っても、希望を捨てず、どん底の苦しみをも原動力として、そのなかから何かを生み出そうとする情熱だったり、走り続け、躍動し続ける強烈なエネルギーに溢れている感じがする。さらに、アフリカの大地に秘められた大自然のパワーがそれに交錯して渦巻いていて、生き生きとした生命力が感じられるから、魅了され続けているんだよね。きっと、死ぬまでこの街に通い続けるんだろうな」と奥村はいう。

コンゴ民主共和国、キンシャサで生き残るには、人間が本来持っている生命力の強さに委ねるしかない。水も電気もガスも食料もお金も、どうやっても満足に確保できない。だからこそ、生命力だけが、コンゴ民主共和国で生き残る最も重要な術なのだ。パワフルでエネルギーに満ち溢れたバイタリティーを持っていないと生きていけない。裏を返せば、強靭なバイタリティーを持った者のみが生き残り、街には計り知れないほどのエネルギーが溢れている。

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