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ジャマイカのLGBTコミュニティを取り巻く現状

地球上で最も同性愛嫌悪の激しい場所。

LGBT市民の社会的地位改善を目指し、世界各地で意識と制度の改革が進むなか、ジャマイカのLGBTコミュニティは伝統と偏見に阻まれ四苦八苦している。新天地を求めてジャマイカ国外に難を逃れるLGBT市民も少なくないが、母国の状況を改善しようと奮闘する市民もいる。上掲の動画が制作されたのは2014年。2016年現在、いまだに「反ソドミー法」は効力を失っておらず、ジャマイカのLGBT市民を取り巻く状況は依然として厳しい。しかし、2007年にはBeenie Man、Capleton、Sizzla、Buju Bantonらによる「Stop Murder Music」キャンペーンで発表された「The Reggae Compassionate act」への署名(その後のSizzlaは首を傾げざるをえない所業を繰り返しているが・・・)、レゲエ、ダンスホール界初のLGBTQ擁護を謳うMista Majah Pの登場など、アーティストによる状況改善への努力も小規模ながら始まっている。

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そんな状況のなか、LGBT市民はいかなる生活を強いられ、いかなるジャマイカの明日を夢見ているのだろうか。

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2013年7月21日から22日の未明にかけて、ジャマイカのモンテゴ・ベイ(Montego Bay)で、ドウェイン・ジョーンズ(Dwayne Jones、当時16歳)が、女装してパーティーに参加したのを理由に銃撃され、刃物で複数回切り付けられて死亡した。報道によると、ジョーンズはトランスジェンダーだった。この殺人事件は、ジャマイカ国内のLGBTコミュニティを取り巻く実態を再度浮き彫りにしたが、その実態は本当におぞましい。

2006年、『Time』誌がジャマイカを「地球上で最も同性愛嫌悪の激しい場所」と記載し、国内メディアや、ジャマイカで最も人気のある音楽ジャンル「ダンスホール」の反同性愛感情が強い、と詳細な解説記事を掲載した。ジャマイカ最大の新聞社のひとつである『Jamaica Gleaner』は、同性愛嫌悪に偏った同性愛コミュニティについての記事を定期的に発信している。2013年7月、『Jamaica Gleaner』は、「同性愛族」の男性グループが空き家から強制退去させられた、と報道し、同性愛は生れながらの性的指向だ、との考えを否定する論説を掲載した。「(フランス人のように)カタツムリを食べる」または「ジャックフルーツの味が好き」という動作や嗜好と同様に、同性に惹かれる個人は能動的にそう選択している、と論説は主張している。

ジョーンズの死後、私はジャマイカ人トランスジェンダー、ティアナ・ミラー(Tiana Miller)に意見を求めた。彼女は、彼女のシェンダーや性的指向に対する寛容さが人々を鼓舞し、最終的に彼女と同程度の勇気を示せるようになるのを望んでいる。

ティアナ・ミラー. (写真提供:ティアナ・ミラー)

こんにちは。ことの始まりからお訊きしたいのですが、ご自身がトランスジェンダーである、と何歳で気づいたのですか?

5歳の頃、自らが女の子であるかのように考え始めたの。そして、女性のように振舞うほうが快適、と次第に気付くようになった。すごく辛かった。なぜなら、ジャマイカの社会規範のせいで、まるで自分が間違っているかのように感じてしまっていたから。

あなたの家族や友人は協力的でしたか?

ええ。特に、父親が理解を示してくれた。

素晴らしいですね。ジャマイカの社会全体としてはどうなのですか? 「地球上で最も同性愛嫌悪の激しい場所」という描写に同意しますか?

同意。私たちのコミュニティは、仕事、教育、住居問題など、生存を脅かされる困難に直面している。高校は問題なかった。というのも、当時はまだ性転換していなかったから。けど、それ以上の教育を受けるのは難しい。大学の学位を是非とも取得したい。でも、大学が私の入学を認めてくれないの。

酷い話ですね。適切な教育を受けたり、きちんとした仕事を見つけられないのであれば、ジャマイカの同性愛者たちが経済的な不利を被っているのが容易に想像できます。

そう、彼らはみすぼらしい生活を強制される。運が良い同性愛者は、裕福なパートナーを見つけて、自らの人生をパートナーたちに捧げているわ。

ジャマイカでは、警察による同性愛者たちへの暴力を、注目を集めている裁判が数件行われてきました。ジャマイカ警察はトランスジェンダー市民を適切に保護しているのでしょうか?

間違いなくNO。家のないトランスジェンダー市民はストリートで暮らさざるをえないのだけれど、本来、守るべき役割の警察がトランスジェンダー市民たちを探し出して、追い払っているの。彼らのライフスタイルが気に食わない、という理由でね。

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トランスジェンダー市民がホームレスなのは当たり前の問題なのですか?

そう。家賃を支払うために稼ぐのも、安全に暮らせる物件を見つけたりするのはすごく難しい。だから、ホームレスになってしまう。

ご自身のジェンダーのために肉体的暴力を受けた経験はありますか?

あるわ。以前、襲われたりもした。その場を逃れたから、大きな怪我を負わずに済んだけど、その経験は当然ながらトラウマ。

現地を取材しましたが、「同性愛者・トランジェンダーお断り」エリアがたくさんありました。

当然、そのような場所は存在するわ。このルールはスラムの中でさえ適用される。

ジャマイカで発生した同性愛嫌悪に端を発した襲撃事件のいくつかは、おぞましいものです。私は、あるゲイの人権活動家が殺害され、その後、大勢のジャマイカ人が彼の死を祝った、という出来事がありました。このような事例によって、身の危険を感じることはないのですか?

もちろん。怖いから、「同性愛者・トランジェンダーお断り」といった場所には近づかないようにしているの。だけど、同性愛嫌悪のホモ・サピエンスの凶暴さは恐ろしい。

性的指向をあえてオープンにするLGBTは、ジャマイカに大勢いるのですか?

みんな身の危険を感じているから、同性愛者とトランスジェンダーのコミュニティにあまり結束力がない。だから、同性愛者、トランスジェンダー・コミュニティーの成員に、みんなあまりなりたがらなの。

あなたはジェンダーや性的指向にとてもオープンですが、ご自身を勇敢だと思いますか?

私は勇敢よ。変化を望むのであれば、私がインスピレーションを与えなければならない。トランスジェンダー市民は、みんな普通で、人間らしい生活を送りたいだけ。それを表明するためにも、私は自らを人目に晒す必要があった。トランスジェンダー市民は、私みたいに、国や政府への挑戦を厭わないキャラクターを必要としているわ。

ダンスホール・カルチャーがジャマイカの同性愛嫌悪の原因となっている、とメディアでよく取り上げられていますが、あなたの見解を教えていただけますか?

それより主な原因は、教会そのものと、「正しい」「間違い」を規定する教会の社会的倫理規範に由来しているはず。私は、人間がどれほど残酷になれるか、そして、どれほど偏見を抱けるかに困惑している。なぜなら、教会は私たちを慰めるのではなく、私たちを悪魔と呼び、激しく非難するから。

それはちょっと非合理じゃありませんか。

でしょ? だけど、私は全然気にしていない。

現地取材のさい、LGBTのナイトライフシーンをあまり目にしなかったのですが、あなたたちはどこにいるのですか?

今はないけれど、以前はあったのはごくごく普通のクラブ。

ジャマイカは、反ソドミー法を変更し、同性愛に対する国のあり方を更新するのでしょうか?

近々、そうなるでしょう。

それはジャマイカのゲイカルチャーが大きくなっているからですか? それとも、他国から圧力が原因なのでしょうか?

両方。だけど、それは時間が経てばわかるだろうから、予想したりはしない。

あなたはその闘いの中でどのような役割を担うのでしょうか?

ジャマイカ初のトランスジェンダーの大使になって人権の尊さを提唱したい。他にも、フェミニズムに則した振付師にもなりたいし、やりたいことは山ほどあるわ。

素晴らしいですね。ありがとうございました。

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ティアナ・ミラーは現在もあらゆる方面で活動中。彼女同様、ジャマイカの明るい未来を創ろうと奮闘する団体についてはこちら