Photo : Maruyama Gonzalez

台湾といえば、いまや女性誌の特集の定番となっている大人気の観光地。思い浮かべるイメージも絶品料理やB級グルメ、スイーツなどのグルメや雑貨などのショッピング、マッサージ、寺廟などのパワースポット……。どれもいいものばかりだろう。また東日本大震災の際に約200億円もの義援金を送ってくれたので、親日のイメージもかなり根付いているだろう。

以前、筆者が台北のスターバックスでコーヒーを注文した際に、女性店員から「どこから来たの?」と聞かれて「日本からです」と返した。すると、「日本大好き!」とコーヒーを注いだカップにメッセージを書いてくれたのだ。

こんなちょっとした台湾での親日体験は友人知人からもよく聞くので、台湾人の日本への憧れのようなものを身近に感じ取ることができる。だが、これは表の世界だけではない。親日現象が裏社会でも起きているのをご存知だろうか。

数年前のことになるが、東アジアでの裏社会の位置づけについて、自称・貿易商の台湾出身の男から聞かされたことがある。

「われわれからしたら日本は兄弟ですよ」

「どういうことですか?」

「中国とは違って歩調を合わせられるということです」

「ビジネスパートナーになりえるということですか?」

「そうです。中国はスタンスが違います。中国の黒社会の歴史は古いです。でも、日本のヤクザも歴史がある。中国はそんなものは関係なく、単なる商売の相手のひとつに過ぎないと思っています」

中国系の犯罪組織といえば、香港を拠点にした新義安や三合会、14Kなどが知られている。本土には黒幇(マフィア組織)が省ごとに無数に存在しており、こうした組織は、国内での活動が多いが、海外との取引にも積極的だ。系列組織の海外進出や、既に基盤を持っている海外組織との付き合いがあるからだ。

中国の黒社会が海外を目指した背景には、歴代為政者の力の強さがある。清王朝や中国共産党などの取り締まりや弾圧を受けて、彼らは海外に逃亡したのだ。近代になると、出稼ぎ先で出身地ごとに固まってマフィアを結成するようにもなった。蛇頭(スネークヘッド)のような、拠点を持たずに密入国ブローカーとしての地位を確立する組織も生まれた。様々な結成の動機や形態はあるが、中国の黒社会が海外に強いのは、どんな国にも同朋がいるからだろう。

こうして中国黒社会の活動の幅は広がると同時に、表世界の中華人民共和国も著しい発展を遂げて経済大国に成長した。世界中に張り巡らされた中華ネットワークのおかげで裏社会は、主要な取引先を東アジアに限る必要もなくなった。

このような背景から、対中国という方向性で日本と台湾は接近しているのだろうか。

「もちろん中国への警戒心はあります。でも、台湾の黒社会の人たちは日本の裏社会に憧れや親しみを持っていますよ。だから協力できる」

自称・貿易商の男の発言がどこまで本当なのかはわからないが、東アジアの裏社会の関係性のいっ端が垣間見えた気がした。親日で知られる台湾が、裏でも表でも同じく日本に親近感を抱いてくれているのだ。

実際、その距離感は裏の商売でも活かされている。現在、日中黒社会の取引を結びつけているのは台湾の黒社会である。特に、中国から大量の覚醒剤を輸入できるのは、台湾を経由しているからだ。

昨年の覚せい剤の押収量の7割が中国から密輸されたもので、総量は1トンを超えている。その多くは台湾からの船便で運び込まれた。

このやり方に落ち着いたのは、いくつかの主要ルートが取り締まりの強化によって壊滅したからだ。それらのルートのほとんどが、飛行機の乗客に扮した運び屋による密輸だった。日本の組織は、多重債務者やホームレスなどを運び屋として使っていた。コンドームに詰め込んで飲み込んだり、手荷物に細工して運ぶのは、どうやっても限界がある。もとを取るため、大量に運ばせようとして露見するケースも多かった。

当然、当局の取り締まりが厳しくなり、密輸が困難になると、国内では深刻な覚醒剤不足が続いた。そこに対処するために、台湾と日本の組織が上手に連携してこの危機を乗り切ったのだ。

これではまるで東日本大震災後の美談のようもあるが、大前提として、覚せい剤の密輸入は当然違法行為であり、容認はできない。とはいえ、台湾の裏社会も親日的なので、密接に結びついているのは間違いない。

こうした日本と台湾の結びつきの理由は、裏社会の人たちの考え方が共通しているからではないかと思う。

以前、九州で裏社会取材をしたさい、警察の取り締まりが厳しくなるなか、どうやって活動に必要なものを都合するのか、と質問したことがある。

「名刺の印刷はどうされているんですか?」

「え?」

相手の幹部は「なんでそんなことを聞くのか」といった感じだった。

「そんなの普通に印刷してますよ」

「どこでですか? 取り締まりの対象になっていると聞きましたが」

「韓国でやってますが、別に問題ないですよ」

このやりとりで、自分の裏社会観が国境に縛られていたことに気づいた。むしろ、拠点と周辺エリアの連携に国境は関係ない、というのが裏社会的な考え方なのだろう。実際、沖縄の裏社会取材では、台湾のマフィアと交流がある人物が「沖縄だけで商売を考えたら先細りですよ。こっちの人は内地や台湾なんかを含めて考えるのが普通です」と教えてくれた。

台湾は日本と同じく島国で、国土も移動も限られている。だからこそ、常識にとらわれずに広く大きな視点で裏社会を捉えなければいけないのだろう。

普通の観光旅行では気がつかない台湾の裏側に目を向けることは、既存概念を揺さぶる体験になるかもしれない。そんな裏台湾の歩き方、日本と台湾の関係などを、これからしばらくまとめていきたい。

次回以降もお読みいただければ幸いである。

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