Photos : Maruyama Gonzalez

台湾マフィアの実態をドキュメントした『台湾黑社會』シリーズでは、ギャンブルに興じる黒社会の面々が幾度となく登場する。

一振りの賽に多額の現金が動く。日本であれば〈博徒〉であろう、裏社会の住人たち。彼らが、神に頼み、げんを担ぐ姿は、日本と台湾に共通しているのではなかろうか。

そこで、シリーズの最終回は〈運〉について紹介してみたい。

『台湾黑社會』の主な取材地、萬華エリアにある龍山寺(ロンサンスー)。MRTの駅名になっているので、同寺院を訪ねた経験がなくとも、名前を目にしたことはあるはずだ。

龍山寺は1738年、福建省泉州からの移民によって建立された。台湾最古の寺院であり、歴史が長いだけに、多くの神々が祀られている。ご利益も幅広く、開運から学業、恋愛まで、どんな願いも叶えてくれる〈台湾最強のパワースポット〉として賑わっている。参拝者のための各神にちなんだお守りは、土産物としても人気だ。

龍山寺以外にも、たくさんのパワースポットがある台湾のなかでも、今回は、最強の金運をもたらすと評判の、烘地南山福徳宮を紹介する。所在地は南勢角駅。台北の中心部から最寄り駅まではMRT中和線を利用。駅からは、バスかタクシーで移動するのがベターであろう。ここから、一気に廟まで案内をしたいところだが、その前に南勢角には、パワースポットとは、まったく趣向の異なるオススメのスポットがあるので紹介したい。

ミャンマー人街である。南勢角駅から徒歩で10分ほど進むと、華新街という500メートルほどの通りがある。入り口にある〈南洋観光美食街〉の看板が目印だ。 

「なぜ台湾にミャンマー人が?」

当然の疑問だろうが、そもそも台湾とミャンマーは密接な関係にあった。現代の東南アジア事情に明るければ、「軍事政権下のミャンマーから亡命した」と想像できるだろう。もちろん、それで来台したミャンマー人もいるが、台湾とミャンマーには、また別の歴史的繋がりもある。

台湾の建国の父とされている蒋介石。彼が率いる国民党が台湾に渡った経緯は、中国本土で共産党軍との争いに破れた末の逃避行であった。しかし、国民党の全員が台湾に渡ったわけではない。一部の国民党軍は、中国西南部の雲南省に残って抵抗を続けていた。しかし、戦局は悪化し、兵士たちは台湾に撤退することになった。しかし、雲南省はミャンマーと隣接しているので、ミャンマー側に逃亡した兵士もおり、彼らはミャンマー経由で台湾に渡った。そういった兵士たちの多くは、雲南やミャンマーの女性と結婚して家族をもうけていたため、台湾に渡るさいには家族を同伴した。こうしてミャンマー人街が形成されたのだ。

このような経緯を知ると、ミャンマー人街は、東南アジア的な熱気に溢れている、とイメージするかもしれない。だが、実際に足を踏み入れると、ミャンマーを意味する〈緬〉の字が看板に散見されるぐらいで、ごく普通の商店街である。

とはいえ、ミャンマー料理屋、雑貨店、食料品店などが集まっており、台湾のなかでも特異な地域だ。ここ数年で、ハラールフード(イスラムの戒律に基づいて生産された商品)の取扱を意味する「清真」という文字が記された看板も目にするようになった。かつては〈リトルミャンマー〉などと呼ばれていたこのエリアも、その他の東南アジア各国民や、イスラム教徒に向けた料理や商品を提供する店が混在する多国籍エリアなのだ。

こうした台湾のなかの異国を訪ねてみるのも、開運スポットを訪ねる前に、意外なアクセントになるかもしれない。

さて、烘炉地南山福徳宮は、開運ではなく、〈金運〉の神様を祀った廟として地元では有名である。日本では神の祀られている場所は、厳かな雰囲気で派手さを抑えたイメージが強いが、台湾ではそうでもない。

まず、山の中腹には、「本当に神を祀っているのか?」と違和感を抱いてしまいそうな巨大神像が立っている。

この巨大な神像は〈蟠龍土地公(土地の神様)〉と呼ばれ、約100メートルもの高さがあるそうだ。その異様な姿を目にすると、廟で参拝する、というよりも、なにかのアトラクションに来たかのような気分になるが、あくまで金運の神様として地元では有名な廟であるのを忘れないでもらいたい。 

また、山道が険しいので、間違っても徒歩でのチャレンジはおすすめできない。バスやタクシーを利用するにしても、注意が必要だ。流しのタクシーはもちろん、バスの本数も限りがある。さらに、この廟は24時間営業で、地元住民によると「夜に来たほうがご利益がある」そうだ。廟までの急な階段は、体力に自信のない向きには厳しい。だからといって、そこを登りきるとご利益がある、とは約束できない。しかし、廟から眺めは絶景である。夜景目当ての来客が多いのかもしれない。

金運アップを祈願するスポットは、世界中に無数にあるだろうが、自らの宗教観にそぐわないスポットでの祈願に効果があるのか否かは定かでない。だが、自然のなかで祈りを捧げるのは、日本人にとってそれほど違和感はないだろう。そのせいか、「せっかく台湾に来たのだから拝んでおこう」と日本からの観光客も増えつつあるようだ。

こうした運を司るスポットには、大勢の黒社会の面々が足を運んでいる。

過去の取材を振り返ると、多くの裏の人間たちが運を重視していたのを思い出した。

〈地方で組を構える親分は毎日神棚にお供えをして拝んでいた〉

〈あるフロント企業の経営者は毎月氏神にお参りにいく〉

〈台湾人のヤクザが肌身離さずにお守りを身につけていた〉

〈孫を連れた幹部が廟にバイクで来てお参りしていた〉

そうした習慣は、一見すると古風で時代遅れだ。だが彼らは、十分な資金を集めて入念な準備をしたとしても、裏社会で生き残るための命運を分けるポイントで、何より重要なのは〈運〉であるのを知っているのだ。

台湾の黒社会と日本の裏社会、どちらの社会にも共通して、〈運を引き寄せる〉行為が日常に組み込まれている。そうなると、『台湾黑社會』がまったく遠い世界の話ではないように思えてくるだろう。しかし、近づきすぎるのは極力避けるよう、お勧めしたい。

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【台灣黑社會】
AbemaTV Documentaryチャンネルにて。毎週 金曜夜に放送。
7月7日はエピソード1から5(最終回)まで一挙放送。(詳細・視聴予約はこちらから)