『SAPEURS the Gentlemen of Bacongo』ファッションに託すコンゴの未来_01

中学生の頃。靴下のなかになけなしのお金を隠し込み、デニムの後ろポケットに、雑誌に掲載されていた地図の切り抜きを忍ばせ、渋谷・原宿に買い物に出かけていた。90年代初頭の渋谷・原宿、ひとたび駅を降りれば、すぐにチーマーにカツアゲされそうになりながら、どうにかくぐり抜け、目当てのショップに向かう。ショップに入れば、またおっかない兄ちゃんが愛想ない態度で店番をしている。
当時の自分にとっては月の小遣いなど5000円程度だから高価な服を買う機会を得られるのは年に数回。さらに、持って出たお金も親の財布からくすねたものも含まれていたりするから、罪悪感も重なり、とても安易に即決で買い物などできず、何度も何度も慎重に試着をして鏡を見たり、ああでもないこうでもない、本当に自分に似合うだろうかと思い悩む。同時におっかない店番の兄ちゃんの目線が、あきらかにウザそうで冷たく、その緊張感に耐えられず店を出て行きたい気分と戦いながら、なんとか1着を手に入れる。
そうやって手に入れたものはまるで戦利品のようで、家路に着いてからは自分の持っている数少ないワードローブと組み合わせ、全部着てみて試すコーディネートショーが始まる。なんとも情けない、どうしようもない体験だが、そのとき洋服を手に入れるために費やした情熱やファッションに興味を持ち始めた頃の衝動が思い起こされ、さらに洋服を着ることの意味を改めて考えさせられたのが、今回紹介するサプールの人々の生活が綴られたこの本。

コンゴ共和国の首都であるブラザビルに住むサプールと呼ばれる人々。世界でもっともファッションにお金をかける男たちとして知られる彼らの出で立ちと、その精神性、そしてサプールを通してコンゴ共和国が抱える現状までをまとめた『SAPEURS the Gentlemen of Bacongo』がリリースされた。そこで、この本の著者でありフォトグラファーであるダニエーレ・タマーニのインタビューを敢行した。

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まず、サプールを撮影した経緯を教えてください。

もともとアフリカのストリートカルチャーに興味を持っていたこともあり、2006年にコンゴ共和国を訪ねた際、サプールの優雅なスタイルに圧倒されたことが、この本を作るきっかけだね。

では撮影を開始し接するなかで、彼らのファッションの特徴をどのように捉えていたのですか?

サプールのファッションは、ヨーロッパのエレガントなスタイル、特に80年代のパリやイギリスの伝統的な紳士のスタイルから影響を受けているようだ。着ているブランドはモードブランドの物が多く、日本のブランドで言うとケンゾーやKANSAI YAMAMOTOなどはサプールの間でも人気がある。しかし彼らにとってはブランド名が重要な訳ではなく、西洋のダンディズムを継承しながらも、独自の色使いやテイストをもとに自らのスタイルを構築することへ情熱をかけている。そして、本物のサプールとは優しさと仕草が洗練されていることであり、そのために「いかに着こなすか」、その精神性こそが最も問われることを意味している。

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「いかに着こなすか」、について、サプールの人々の考え方とは具体的には、どのようなことですか?

技術的なことで言えば、写真でもわかるようにサプールはとても鮮やかな印象だが、3色以内でコーディネートをまとめなければならないルールがある。サイジングもジャストフィットを心がけ、上質な洋服をセレクトすることをモットーにしている。葉巻やサスペンダー、サングラスなどの小物使いにも細心の注意を払い、さらに歩き方から仕草までをもこだわり抜く。
しかし「いかに着こなすか」について、最も注目すべきことは、彼らのマナーだ。着こなすということは上記のような着こなしのルールだけでなく、サプールとしての心持ちこそがエレガントなスタイルを形成することだということを彼らと接することで伝わってくる。

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© Daniele Tamagni
では、あなた自身は彼らと出会い影響されたり変化したことはありますか?

ファッションで言えば、私はモダンで実用性のあるカジュアルなスタイルが好きで、デニム、Tシャツ、スニーカーを基本としたスタイルがベースにあって、フォトグラファーという職業柄、そういった着易いものが便利なんだ。サプールに出会うまでは、エレガントな正装に関心がなかったけど、今は時折彼らに影響されてパーティーなどでは色使いを取り入れてみることもある。でもサプールのような完璧さ、マナーを真似することはできない。本当にサプールはユニーク。だからこそ私は彼らを大変尊敬している。
そしてまたアフリカが持つ不調和と矛盾を違った観点から考える機会を与えてくれた。サプールはひとつのファッション現象として見えるかもしれないが、これは彼らの良き将来のための戦いでもある。サプールは裕福ではなく、洋服を買うには飲食を我慢し何ヶ月も貯蓄しなければネクタイも買えないほど厳しい生活環境にあり、ある者はビザを取りヨーロッパに行くことを夢見ている。彼らにとってはドレスアップすること、精神的に紳士であることが現実の問題から逃避するひとつの方法であり、その慎ましい環境に僅かな華やかさを与える。サプールの着こなしの完璧さとは、同時にコンゴの社会背景のなかでも前向きに生きる、彼らが出したひとつの答えであるかのようで、実際にサプールは地域の住民から尊敬され、まるで有名人のように愛されている。だからこそ私の作品を通してサプール、そしてアフリカの現状が伝えられたらと思うんだ。

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© Daniele Tamagni

青幻舎
『SAPEURS the Gentlemen of Bacongo』
著者&写真 Daniele Tamagni
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http://www.seigensha.com/books/978-4-86152-499-8