スパイクとジョニー・ノックスヴィル (Johnny Knoxville) ショーン・クリヴァー(Sean Cliver) 撮影

30年以上ものあいだ、スパイク・ジョーンズ(Spike Jonze)は、ヴィジュアル・エンターテイメントの世界で活躍している。ストリートのスケートボード写真から、オルタナ黄金期に受賞したミュージックビデオの数々、更に各方面から絶賛された長編映画まで、手にしたカメラと独創的なアイデアで、最高のヴィジュアルを生み出してきた。

この仕事を通じて、スパイクは撮影機材を愛するようになった。「カメラの話なら、映画監督だろうが、写真家だろうが、何時間でも話していられる。みんなカメラについて話すのが大好きだ。カメラは自分の感情をカタチにするのに欠かせないからね」

そんなスパイクに、大のお気に入りを13台ほど挙げてもらった。

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オリンパス OM1

オリンパスOM1は、元々母が持っていたカメラ。今もどこかにあるといいね。僕がカリフォルニアに移り、『Freestylin’』誌の編集者として働き始めたとき、母から貰ったんだ。現地で写真を撮り始めた頃は、ウィンディ・オズボーン (Windy Osborn)やOトッド・スワンク (Tod Swank)なんかの、まわりの写真家は、ニコンに16mmの魚眼レンズを付けてたんだけど、僕には買う余裕がなかった。それで、安いシグマのレンズを通販で買ったんだ。それはそれでなかなか良かったよ。

スケートやBMXの完璧な写真は、この組み合わせだからこそ撮れるんだ、とそのときわかったんだ。トリックを真下から見て、スケーターがどれくらい高く飛んでいるか、彼らがその高さからランプや階段を確認していること、ジャンプや着地の場所が把握できた。このレンズと母のカメラがきっかけで、写真を本格的に始めたんだ。

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ニコン FM2 / ニコン F3

ウィンディはいつもカメラを2台持ってた。ニコンFM2と、ニコンF3にモータードライブMD-12を付けて1秒間に6コマ撮れるようにしていた。僕はどんどん写真に夢中になり、仕事も増えてきた。その頃、『Freestylin’』発行元の〈Wizard Publications〉のオーナーであるボブ・オズボーン(Bob Osborn)が、ウィンディの古いカメラを僕にくれたんだ。彼女は新しいカメラを買ってもらったから、お下がりが回ってきたんだよ。カメラ2台とフルセットのレンズ。いちばんぶっ飛んだクリスマスプレゼントで、ぶっとんだ社員手当だった。

ウィンディはカメラを落とさないよう、革のストラップを手首に巻きつけていた。70年代のトパンガ 渓谷のヒッピーがつくったようなクールなストラップだよ。スケートとBMXの写真は、みんなこのカメラで撮った。

19歳になって、『TransWorld』のグラント・ブリテン(Grant Brittain)のところで働き始めた。僕の写真を見て、採用してくれたんだ。『TransWorld』の表紙や〈Pro Spotlight〉のインタビューでも、僕の写真が使われた。レイ・バービー(Ray Barbee)やエド・テンプルトン(Ed Templeton)、ジェイソン・リー(Jason Lee)、ジェレミー・クライン(Jeremy Klein)、そしてもちろんマーク・ゴンザレス(Mark Gonzales)。たくさん撮ったね。

この2台のカメラで、多くの可能性が広がったのは間違いない。望遠レンズや80-200mmのレンズが使えるようになって、違ったフレームや構図も発見できた。FM2で昼間にフラッシュ撮影したり、1/250秒のシャッタースピードにフラッシュを同調 させたりした。モータードライブも手に入ったから、連写できるようにもなった。このカメラから多くを学んだけど、他の写真家からの影響も大きかった。みんなのことが大好きだったし、たくさん質問もした。特にグラントはとても寛大な先生だった。

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フィッシャープライス PXL-2000

PXL-2000もどこかに残っているといいんだけど…。今は〈Nemo Design〉のルー(Lew)と、たしか割り勘で買ったんだ。ビデオカメラは高かったから、〈トイザらス〉で売ってた100ドルのおもちゃカメラにした。画質の低い白黒で、カセットテープに映像を記録する仕組みだった。

スケートやライディングを撮って、くだらない短編映画をつくってた。誰かの魚眼レンズを付けたりしてね。何を撮ったかは覚えてないけど、ふざけて笑える映像をつくろうとしていたんだ。

その前から、映像制作にはハマっていた。高校では中古のVHSカムコーダーを使って、くだらない寸劇ばっかり撮ってた。ビデオカメラを持っているヤツがいたら、使わせてくれ、って頼んだり、機能について質問攻めにもしていた。でも当時は、映像業界に入るなんて考えてもいなかった。何になりたいかもわからなかったけど、とにかくカメラは好きだったんだ。

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パナソニック SVHS / ソニー Hi8

スケートボーダーのロッコ(Steve Rocco)が〈World Industries〉を立ち上げたとき、ニコンのモータードライブで最初の広告を撮影した。広告にはスチールじゃなくて、シーケンスを使った。スケートボードのトリックはどんどん難しくなっていたから、シーケンスのほうが仕組みがよくわかるんだ。

会社の立ち上げから1年くらい経ったある日、みんなで滑りにいったんだけど、そのときに、「ビデオはつくらないのか?」ってロッコに訊いた。彼は、「やってみたい」といったけど、そんな時間もないから、結局僕が撮ることになった。その場で会社のクレジットカードを渡され、カメラを買い行かされた。それで店でビデオカメラを探して、パナソニックの家庭用カムコーダー…S-VHSを買ったんだ。そして僕の初スケートビデオ、World Industriesの『Rubbish Heap』を撮影した。これが、映像制作に本腰を入れるきっかけだね。

その後、マーク・ゴンザレスの『Video Days』を撮影するときに、2台目を買った。ソニーHi8だ。とてもコンパクトだったから気に入っていた。Blindを撮影したときは、靴の箱くらいの小さなバッグに入れてたんだけど、それを肩にかついで街を歩き回り、撮影時に取り出して使ってた。あれほど小さくて安価なカメラは、多分それまでなかったし、そのおかげで僕たちは、気軽にスケートビデオを撮れたんだ。

あるときマークとくだらない言い争いをした。車のなかで喧嘩になったんだけど、彼がビデオカメラを窓から放り投げたんだ。僕は「おい、マーク! 何やってんだ、この野郎!」と叫んだ。路肩に車を止めて、カメラを拾って電源を入れたら、なんとか動いてくれたんだ。それはロッコのカメラだったんだけど、それで撮影する予定だったので、すごく腹が立ったね。その日はもう撮影する気になれなくて、そのまま帰ったのを覚えている。その場にマークを残してね。カメラだけは持って帰ったよ。

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キャノン スクーピック / ARRI SR2

SONIC YOUTHのライブの帰り際、メンバーがバスに乗り込むところにマークが出くわした。「スケートビデオをつくったんだけど、見たい?」とマークが訊いたら、彼らは「もちろん」と答えた。それで『Video Days』のコピーが、SONIC YOUTHの手に渡った。

そしたらある日、うちの留守番電話にキム・ゴードン(Kim Gordon)からのメッセージが入ってたんだ。SONIC YOUTHの曲「100%」のミュージックビデオ用に、スケート映像を撮って欲しいという内容だった。あのキム・ゴードンから電話が来るなんて、夢のようだったね。彼女が監督のタムラ・デイヴィス (Tamra Davis)と引き合わせてくれて、スケートのパートを撮影した。タムラの横にいるだけで勉強になったね。

映画フィルムで撮影したのはそれが初めてで、16mmフィルムのカメラを2台使ったんだ。当時の僕は、ほとんどのスケート映像を小型のキャノン・スクーピックで撮っていた。70年代につくられた家庭用の16mmカメラ。操作はとても簡単で、本当に撮るのが楽しかった。あと、ミュージックビデオ用カメラとしては、主に16mmのARRI SR2。でも、SONIC YOUTHはフィルムだったから、タムラと撮影監督のマイク・スピラー (Mike Spiller)が短期集中レッスンを開いてくれて、16mmカメラのフィルム装填や、撮影方法について、色々教えてくれたんだ。映画学校の初授業みたいにね。

ちなみにBREEDERSの「Cannonball」や、BEASTIE BOYSの「Sabotage」など、初期のミュージックビデオも、全部この2台。

BEASTIE BOYSのビデオでは、全部自分たちでやった結果、2台のカメラを駄目にしてしまった。水中の映像を撮りたくて、撮影初日にキャノン・スクーピックをジップロックに突っ込んで、マイクD(Mike D)の家のプールで使用した。アダム・ホロヴィッツ(Adam Horovitz)がアダム・ヤウク(Adam Yauch)にタックルして、プールに落とすシーンなんだけど、袋越しなので全部ぼやけているし、波打っているし、映像的にはとてもひどいものだったんだけど、僕は気にしなかったし、逆にとても満足できた。でも、ジップロックのなかに水が入ってしまったから、カメラは壊れてしまったんだ。アシスタントカメラマンが送風機で乾かしてから、「突然動かなくなった。新品を送ってほしい」って業者に頼んだら、その日のうちに新品が届いたよ。

更に翌日は、大きい方のカメラ…ARRI SRをボンネットに固定して、車でジャンプするシーンを撮影した。そしたらフィルムを固定している部品がふっ飛んで、バラバラになった。だからこっちもお釈迦になったんだ。

カメラは目的のための手段だったから、大切に扱ってなんかいなかった。スケートボードと同じような感じ。新しい板を組み立てるのは楽しいけれど、丁寧には扱わない。目的を達成する道具でしかないという点で、カメラも同じ。スロープを猛スピードで滑ったり、車のルーフにカメラを取り付けたり。ワクワクする映像のためなら何でもする。

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ステディカム

ミュージックビデオの制作が増えるにつれ、35mmの映画用カメラを使うようになった。作品によっては、移動しながら撮影する場合もあるから、ステディカムは重宝している。自分では操作できないので、優秀なオペレーターに手伝ってもらってるんだ。この機材はとても丈夫なだけでなく、素晴らしい構図で撮れるんだ。

ステディカムは、THE PHARCYDEの「Drop」、WEEZERの「Undone—The Sweater Song」で使った。当時ハマっていて、ちょうどその頃クレーンも使い始めた。ビョーク(Bjork)の「It’s Oh So Quiet」の最後のシーンでは、クレーン車も用意してね、彼女とステディカムのオペレーターがトラックに乗って、トラックをバックさせながら巨大なクレーンを上昇させたんだ。おかげさまで流れるような素晴らしい映像が撮れたよ。接写からズームアウトして、階段を上り、廊下を通って…あの機材がなかったら撮れなかったね。

機材やスペックなど、技術的な面からアイデアがひらめく場合もあるんだけど、大抵は先に映像が頭に浮かぶ。だからまず、それを実現する方法を考えなければいけないんだ。

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ソニー モバイルハンディカム DCR-PC5 Mini DV

 90年代のミュージックビデオ業界は、とにかく俗物的だった。つくるのは僕たちなんだけど、映像は消費者のための商品でしかなかった。でも僕はスケートビデオからスタートしたおかげで、この仕事がずっと好きでいられた。

ソニー Mini DV…シルバーで長方形のヤツ。これには150ドル(約1万7000円)の家庭用マイクをつないで、たくさんの映像を撮った。Fatboy Slimの「Praise You」のビデオでは、映画館の前でみんなに踊ってもらった。これを使うと、カメラマンはただの観光客に見えるので、人目を気にせずに済む。ファットリップ(Fatlip)のビデオ「What’s Up Fatlip?」でも使った。カメラを持って彼の家に毎日通い、街をドライブしたり、クルーもつけないで、気ままに撮影した。撮影中、彼にいろいろ質問して、結局自然とドキュメンタリーになったんだ。その作品も『What’s Up Fatlip?』というタイトル。

TV番組『ジャッカス(Jackass)』のファーストシーズンも、まるまるこのカメラで撮った。悪ふざけを隠し撮りしていたので、目立たないカメラが必要だったんだ。

『ジャッカス』のファーストシーズンを撮った夏に、アル・ゴア(Al Gore)の2000年大統領選のドキュメンタリーも制作していたんだけど、これも同じカメラを使った。このカメラがあれば、クルーはひとりで充分。大きいカメラと大勢のクルーによる大きなプロダクションと、自分とカメラだけの〈ワンマン・クルー〉の現場を往ったりきたりしていたよ。

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ARRI Alexa / ソニー DCR-VX1000/ IKONOSKOP

最近はAlexaも使ってる。映画用のデジタルカメラで、撮れる画がこれほど気に入ったのは初めて。これで『her/世界でひとつの彼女』(her, 2013)を撮った。今もたくさんの映像で使ってる。

今年の夏は、フランク・オーシャン (Frank Ocean)のツアーのプロデュースとデザインを手伝った。このツアーでは、巨大なショーのなかに親近感と手づくり感を演出したかった。オーディエンスの真ん中に小さなステージをつくって、メインステージには巨大なスクリーンを設置した。カメラを何台かステージに置いて、スクリーンにライブ映像を映したんだ。ルールとして、事前に録画した映像は流さないと決めていたから、ステージ上の映像を使わなければならない。全面オレンジの背景に彼の輪郭を浮かび上がらせたときは、ステージ上のオレンジのテープをアップで撮って、質感がわからないようにピンぼけさせたんだ。

ライブ中にヴィジュアルを変化させたかったから、僕ともうひとりのカメラマンは、4台ずつカメラを持った。赤外線付きの白黒の防犯カメラ、90年代にクラシックなスケートビデオ用に使っていたソニーVX-1000、そしてIKONOSKOPという変わったデジタルカメラもね。濃い色のボディでとても目立つんだ。そしてAlexa Miniにアナモフィックレンズを付けて、映画的なヴィジュアルも取り入れた。

大事なのは感覚で、カメラは感覚を活かすための道具だってこと。このツアーでは、音楽や映像が目の前でリアルタイムでつくられているような感覚を、オーディエンスに味わってほしかった。

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iPhone

iPhoneでは数え切れないほど撮ってる。いつもポケットに入れてるしね。2、3年前に撮ったカニエ・ウェスト(Kanye West)のビデオは、特に気に入っている。「Only You」って曲なんだけど、彼に歌を聴かせる母親の視点から書かれているんだ。レコーディング中にスタジオで聴かせてくれたんだけど、あれはいつ聴いてもいい曲だ。1度ビデオは完成したんだけど、プライベートな曲の割には洗練され過ぎた印象があった。木曜日にその映像を見て、その週の土曜日に撮り直すことにした。撮影は、彼の家の裏の公園。どんよりした雨の日で、45分くらいで撮り終えた。全部iPhoneでやったんだけど、素晴らしい仕上がりになったよ。クルーは僕と友達だけ。彼にブームボックスを用意してもらって、音楽を流しながら撮った。とてもシンプルな内容だけど、曲に合う気がしていたし、カニエもしっくりきたみたいで満足してくれたね。スケールなんて関係ない。しっくりきて、楽しめれば、正しい方向に進むのは確かなんだ。