「ペサ・ンガイ・ンボンゴ!ペサ・ンガイ・ンボンゴ!(金くれ、金くれ)」 怒号と罵声を浴びせられながら、挑んだプロレス取材。

キンシャサは〈キンシャサの奇跡〉として知られる、ボクシングの世界戦が開催された都市。1974年、モハメド・アリは、ベトナム戦争に従軍するための徴兵を拒んだため、ヘビー級の王座、そしてプロボクサーとしてのライセンスを失ってしまう。最終的に、彼は無罪を勝ち取るが、3年と7ヶ月のブランクを強いられた。しかも、復帰後、王者ジョー・フレジャーに敗れてしまう。そのジョー・フレジャーを破ったジョージ・フォアマンとアリが戦ったのがキンシャサであった。モハメド・アリが「ロープ・ア・ドープ」という戦術でフォアマンの体力を奪い、見事すぎる逆転KOで伝説となった試合が、〈キンシャサの奇跡〉である。

このモブツ・セセ・ココ大統領時代の伝説とは別に、キンシャサでは世にも奇妙な格闘技が人気を博している。それが、今回紹介するプロレスだ。ブードゥーの要素を取り入れ、コスチュームを身に着け、3メートルの高さから飛び降りる。魔法の粉、呪文、ゾンビへの変身など、試合では様々なパフォーマンスが繰り広げられる。

名越啓介奥村恵子はキンシャサに着くなり、プロレスの撮影に取り掛かった。まずは、この街で最も有名なチャンピオン、エディングェを探すことにした。街で聞き込みを始めると、さすがに有名人、彼が住む地区がマテテだとすぐに判明。早速、車で現地に向い、聞き込みを始めると、偶然にも彼の息子と遭遇した。まずは、練習場に案内してもらった。

サッカーができるようなガランとしたアスファルトの広場を利用し、そこにマットを敷いて、鉄アレイやベンチプレスを使い、青空のもと練習している。もちろんロープなど常設されていない。普段は軍隊や消防士の仕事をしながら、レスラーとして活動している選手が多いとわかった。そこでエディングェと出会い、終わることのない金銭の交渉が始まる。

「エディングェはスターだから30ドルくらいじゃモデルを引き受けてくれない。100ドル要求されるが、そんなに高い金は払えない。『コスチュームが良ければ100ドルでもいい』と交渉すると、「お前は俺のコスチュームが悪いと思っているのか」といわれて、「ひえ~怖い」とかブチブチいっていたら、『じゃ明日来い』ってなって。次の日指定された場所で会ったら、案の定、格好良くないコスチュームでガッカリ(笑)。しかも、他のレスラーも10人くらい連れて来るというから期待していたら、他のレスラーは誰もいない(笑)」

しかし、雨季なうえに、国内の政治状況が混乱を極めている状況にも関わらず、明日14時から試合がある、という願ったり叶ったりな情報をエディングェから得た。心躍らせながら指定された会場に向かうと、道中で車が故障。しかも、渋滞にも巻き込まれる。着いたら着いたで試合会場が軍隊の管轄区。ワンブロック進むごとに検問があり、「通りたければ、金をよこせ!」とポリスからせびられる。3箇所でそんなやり取りがあったが、なんとか14時ギリギリに会場に到着し、エディングェに電話をすると、「俺はもう会場にいて、試合はもう終わる」とほざきやがる。約束を守らないのが当たり前のコンゴ人。しかし、エディングェの場合は嘘つきの嫌なヤツだ。ひどい目に合っても、なぜか物事が良い方向に転がるのもコンゴの面白いところ。

試合会場で名越が所有していたコンゴ・プロレスの写真を観せながら聞き込みをすると、その写真と同一のプロレスラーに偶然遭遇。しかも、ブッキングをかって出てくれた。慣れた様子でレスラーたちに電話をかけ、交通費の交渉をし、撮影する約束を取り付けていった。次の日、彼に指定された場所にいくと、結局、4人のレスラーを連れてきた。「よし!明日は30人撮るぞ!!」と調子の良いことを言い続けるあたりは、やはりコンゴ人。キンシャサの様々な地区に住むプロレスラーのもとを訪問して、撮影してたのだが、行く場所、行く場所、見事にゲットーばかり。どの地区でもガンジャの匂いが立ち込めている。エディングェのようなスターを除けば、やはりプロレスラーも貧しい。結局1日4人くらいずつ、1週間かけて30人ほど撮影した。

もちろん、コンゴではスムーズなほうだが、やはり金のトラブルは、毎分毎秒付きまとう。コーディネートしてくれた彼に、ひとり20ドルで30人、合計600ドルのギャランティを提示した。当たり前だが、こちらも最初に全額を渡すわけがない。100ドルずつ渡していたのだが、1日で渡した100ドル全部を使い切り、「金がないから今日はできない」とゴネだす。こちらも予算以上の金を払う気は無い。毎日、喧嘩を繰り返したが、無事に30人を撮り終えた。日本に帰ってきてからも、しばらく電話がかかってきているが、そんなのは当然無視。「金をせびられるかもしれないからね(笑)」

プロレス興行の主催は金持ちがやるのが通例。およそ2000ドルで開催できる。出演料は1回で1.5ドル程度。人気レスラーになると200ドルくらいまで跳ね上がる。入場料が10ドルくらい。ラジオとテレビで宣伝し、あとは口コミで広がる。また、アンゴラなど他国に出張して、試合を開催しているが、大した金にはならない。プロレスラーは、それだけでは暮らしてはいけないから、金に必死になるのはわかるのだが。

そしてポリスとのトラブル。ゲットーを巡り、プロレスラーを撮影したさいも、当然のように、撮影のたびに捕まった。そのなかで、全身サラダ油まみれのレスラーを撮影したときのこと。レスラー4人も含めて、理由もなく全員ポリスに捕まった。プロレスラーとともに警察署に連行され、名越はおもわずカメラを構えたという。「恵子さんにダメだっていわれたけど、やっぱり撮りたいじゃないですか? 取調室のような小さな部屋に、訳のわからない格好をした大男が4人押し込められて反省していたんですよ。集合写真を撮ろうとしたら、ポリスにえらく怒られて(笑)。たぶん、金があったら撮らせてもらえたんだろうけど。金があったら何でもできる国だから」。結局は20ドル、ポリスに支払い、その場から脱出できた。

写真を観てもらえばわかる通り、コンゴのプロレスは、パンチがある衣装やメイクが特徴だ。血をどこからか買ってきて、頭に斧をぶっ刺したり、ゾンビみたいに変装したり。撮影をしてわかったのだが、レスラーが自宅のドアを出るところから、パフォーマンスが始まる。まるで檻から出てきた動物のように、首を鎖で繋がれて登場したり、周りで見ている地域住民を盛り上げようと演技を始める。街中を歩き回ると、子供たちが「リボマ、リボマ(バカという意味の名前)」と大声で歌いながら手拍子とともにはしゃぎだす。やはり、彼らはスターなのだ。

だが、取材を進めるなかで黒魔術を使う団体に出会った。第二回の記事でも触れたように、ストリートチルドレンが増え続ける理由のひとつに、黒魔術がある、と記したが、黒魔術はプロレスにも欠かせない。衣装や得意技に黒魔術の要素は不可欠だ。例えば、コンゴ・プロレスのチャンピオンで権力者のエディングェは、相手の内臓を食べた、気合いで倒した、と語る。観衆の半分が、彼の黒魔術を使った奥義を信じているが、残りの半分は嘘だと信じていない。もちろん、当然のごとくやらせだ。

奥村に黒魔術について聞くと、「ブードゥー教だよね。結局、黒魔術って、ブラジルはカンドンブレ、キューバはサンテリア、ハイチはブードゥー、全部アフリカからきている宗教。アフリカの原始宗教は日本の萬の神と同じで、山の神。動物の絵とか、裸に獣のアクセサリーをしていたり、顔を白く塗っていたり、頭に包丁を刺したり。赤い服を着た本気で黒魔術を信じているようなレスラーを撮影したときは、本当に怖かった。部屋に入るときに、手を叩いてから入るよう強要されたり、他の民家の庭で撮影していたら、住民のおばちゃんたちがチョー怒ったり。『やめてやめてやめて!!』って叫び続けてたからね。おそらく、自分の庭に入ってきて変な魔術をかけられても困るから『出ていけ』って怒ってんだと思う。子供は何も知らないから、面白がってついていくけど、他の人は、みんな逃げちゃうよね。プロレスラーの黒魔術を信じてるのは、たいてい貧しい人だからね。「あいつを殺してくれ」とか、魔術を悪い方に使うし、呪い系だから、おどろおどろしい。日本の蝋人形と似てるよね。黒魔術の格好は、ひと目見てわかる。蛇を持っていたり、血を流していたり、気持ち悪いからすぐわかる」

嘘のようでリアルにあったコンゴ・プロレス。予想を上回る〈ヤバいプロレス〉だった。次回は最終回。テーマは〈食〉。食と思って油断していると、痛い目にあうかもしれない。そこはコンゴと名越と奥村の組み合わせ。乞うご期待。

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