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パキスタンの女性による女性のためのカフェ

パキスタンのパブリック・スペースは、男性に占拠されている。Girls at Dhabasはこの趨勢を改善すべく、カラチ初、女性による女性のためのカフェをスタートさせた。

2015年4月25日、パキスタンでひとりの女性が銃撃された。彼女自身が設立したカラチのアートカフェから帰宅途中だった。ちょうど7年前、この社会運活動指導者はパキスタンの『DAWN』紙に、「インターネットを通じて世界をより良くしたい」と自らの大きな夢を語っていた。

6か月後、「サビーン・マフムード(Sabeen Mahmud)を知っていますか?」と24歳のサディア・カトリ(Sadia Khatri)はカラチの自宅からスカイプで私に質問してきた。「彼女が射殺された夜、私はダバ(dhaba)*(パキスタンやインドの道路沿いにある大衆食堂の一般的名称)で友人とダールを食べていました」。いつものようにカトリは店内唯一の女性客で、男性たちは困惑していた。友人は、オンラインの反応を楽しみにしつつ、彼女の様子を撮影し、カトリはそれをハッシュタグ#GirlsAtDhabasとともに投稿した。彼女は友人が街中で射殺されたのに全く気づいていなかった。その夜、サビーン・マハムードの夢は潰え、カトリのハッシュタグは別の炎上を引き起こした。

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マハムードと同じ様に、カラチはインターネットも活用して、世の中を改善しようとしている。デシ(Desi)* 女性も男性同様、沿道のダバで湯気を上げるチャイ、伝統的なハルワプーリーの朝食を楽しんでいる様子をアップしたい、彼女のセルフィーはそんな女性たちを勇気づけ、道標にもなっている。その結果、カトリはGirls at Dhabasの共同設立者になった。それは、急成長を遂げる南アジア女性のための活動であり、参加する女性たちは、カラチでの飲チャイ、ストリートクリケットで遊ぶ様子、バングラデシュでスクーターに跨る姿、ラホールでピンク色のフェミニスト人力車を引っ張る姿を撮るのに夢中だ。投稿された全ての喜びに満ちたセルフィーによって、女性の自由を厳しく制限していた社会的慣習は緩やかになり、再定義が始まっている。

彼女たちの言葉を借りれば、Girls at Dhabasは「パブリック・スペースを、デシのフェミニストと女性が、自らの言葉と気分で定義する」運動だ。カトリのような女性にとって、ダバは単なる道端の屋台ではなく、彼女の社会移動のシンボルである。西洋のカフェのようにダバは、一般的社会交流の場であるはずだが、パキスタンでは伝統的に男性が男性のためにサービスを提供している。パキスタンのダバに「男性のみ」という看板が掲げられてはいないが、Girls at Dhabasのような活動には批難の目が向けられてしまう。

カトリに、入店すると男性客はどのような反応を示すのか、と質問すると、彼女は「数名の男性はこちらを向き、微妙な表情になります。1、2分ものあいだ凝視し続ける男性客もいます」と教えてくれた。お茶目な短髪、Tシャツにジーンズ姿で、カトリは単に行きたい場所に行くだけでなく、彼女は好きな格好もしている。「少年?少女?、という質問を、失礼なおじさんからされるんですよ」と彼女は笑った。「そんな内容であろうと、座って会話を続けます」

そんな状況はダバだけではない。カトリが説明するように、女性は、パキスタンのほぼ全てのパブリック・スペースから排除されていて、女性の自己開発を妨げ続けている。世界銀行は2015年、パキスタンの女性人口を国民の48.6%と算出したがが、男女格差は145カ国中144位だった。パキスタンのカラチやラホールのような活気ある大都市でさえ、街中を闊歩するのは男性だけだ。

「パキスタンでも、特に大都市のパブリック・スペースは厳格に分けられている傾向があります」とカトリは説明する。「男性50人のなかに、女性は1人くらいしかいません。正直それは不安です。街にいると閉所恐怖症になってしまったかのような感覚に襲われます。私だけではありません。日々、非常に多くの女性がそれについて不満を漏らしています」

女性が外出する際は、必ず女性か男性の付き添いと一緒だ。女性1人での外出は稀で、仕事に就く女性にとって、通勤、という選択肢はない。パキスタンで性差を克服できるのは、男性の移動と同じように移動をコントロールできる上流階級女性しかいない。労働者階級の女性は常に急がざるを得ず、街中をブラつく暇もない。歩道で立止まる、なんて選択肢はもちろんない。とはいえ「上流階級の女性には知的自由があるけれど、仕事後の移動は、結局、運転手に頼るんです」とカトリ。

路上でのセクシャル・ハラスメントへの恐れも、女性の外出を妨げる原因になっている。「南アジアの女性は街中にいません。女性たちは、路上は危険だからレイプされるかもしれない、と恐れています」とカトリ。「統計的にみると、女性に対して発生する暴力の多くは普通、知人から、もしくは家の中で被るケースが多く、街中で赤の他人からはあまり受けません。多くの女性たちは、街中にいるのが安全なのに、家こそ安全な場所だ、と勘違いしています」

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リプロダクティブヘルスを求める団体、ラトガース(Rutgers)が実施した2012年の調査によると、パキスタン女性の66%が性的暴力を経験している。2015年ヒューマン・ライツ・ウォッチは、パキスタンではここ10年のあいだに何千もの名誉殺人が発生した、と報告している。これは、世界経済フォーラムの2015年世界男女格差レポートで145カ国中144位* という不名誉に甘んじた原因の1つでしかない。このランキングは「経済的機会」「教育の機会」「政治的な影響力」「寿命」の4要素を基に各国の男女格差をランク付けしている。

街中にいれば女性は安全、といえども、パブリック・スペースでの安全が約束されているわけではない。「確かにハラスメントはあります」とカトリは同意した。南アジアでは、冷やかし、性的含みのある言動、体への接触、痴漢行為などを含む「Eve teasing」が増え続けている。一聴穏やかな響きだが、その言葉が指し示すのは、どれも穏やかならざる行為だ。「私たちは女性を危険に晒そうとしているのではなく、街は私たち女性にも開かれており、それを主張する手段もあるんです」とカトリは強調した。

Girls at Dhabasによるキャンペーンでは、街中での活動を発表するだけではなかった。参加した女性たちの言葉によると、「公共性を訴えるだけでなく、私たちも所有して、ダバの家父長制をひっくり返そう」と主張している。新たなハッシュタグ#dhabaforwomenとともに、クラウドファンディングでの資金集めを始めた。その主張はシンプルだ。女性やマイノリティに、安全でくつろげる空間を提供すべく、2016年内にカラチ初の女性による女性のためのダバをオープンさせる。彼女たちは、そのための目標資金1万ドル(約102万円)のうち2,639ドル(約27万円)を1カ月で集め、現在、5,249ドル(約54万円)が集まっている。

Girls at Dhabasは、パキスタン、シンド州のハイデラバードで既に成功を収めている同団体が運営するダバ「Khanabadosh Writers’ Café」が手本になれば、と願って止まない。Khanabadosh Writers’ Caféでは、女性客のために、パキスタン男性の大勢にとっては当たり前の映画、ライブなどを楽しむ機会を提供している。カトリがいうように、できるだけ大勢の女性を外に連れ出すのが活動の目的である。「実際に外出するまで、外出が可能だとわからないんです」と彼女は強調する。

Girls at Dhabasは、女性が外出できるよう勇気づけようとしている。それは、行き過ぎた男性支配への挑戦でもある。「外出を力づくで妨害する人はいません。外出をためらうのは社会的スキーマでしかなく、みんなの心構えを変えるのは可能です」とカトリは説明する。「私にとっては飲チャイですが、誰かにとってはパキスタン北部一人旅かもしれません。女の子がすべきでない、とされている何らかの行動です」

「とある場所に女性がたくさんいたら、願わくば、そこが安全で希望にあふれた快適な場所だ、そう感じてもらいたいんです。それが理想です」と彼女は笑った。「とてもシンプルですよね」