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「同性愛を奨励したり、宣伝したりしないでください。この国の文化には、すでに充分すぎるくらい、それについての知識が浸透しています」

インドのLGBTQ団体のFacebookページに投稿されたコメントは、LGBTQのパーティーが盛り上がり始めたムンバイですら、大勢の人々が抵抗感や恐れを抱いているのを、端的に象徴している。

LGBTQに対する不寛容が表面化したのは2016年末。高級クラブやバーで開催されたカウントダウンパーティで、複数のLGBTQカップルが入場を断られた。同性カップルが入店しようとしたところ、ドアスタッフが立ちふさがり、異性カップル以外は入場できないと告げた。シロ(Shiro)というバーの担当者は、インドのニュースサイトDNAの取材に対し、「経営者側から、男女のカップルの予約だけを受け付けるよう命じられています。指示には従わなければなりません」と説明した。

厳密にいえば、インドで同性愛は違法ではない。しかし、同性間の性交渉は〈自然の秩序に反する行為〉として、刑法第377条で禁じられている。アナル・セックスとオーラル・セックスに関する条項は、以前から波紋を呼んでいた。インド最高裁判所は2013年、英国植民地時代に制定されたこの法律を合憲とし、違反者には最高10年の懲役を科す、と決定を下した。その結果、国内のLGBTQコミュニティだけでなく、多くのヘテロセクシュアルの若者からも非難の声が上がった。

国内には同性愛嫌悪が根強く残るが、急速に現代化する若者は、リベラルな姿勢を示し始めた。最近では、パーティー、コンパ、映画祭、詩の朗読会など、LGBTQのイベントが盛んに開かれ、気心の知れた仲間たちと交流する場となっている。

同性愛者専用のバーやクラブはないが、ムンバイ、デリー、バンガロール、チェンナイなどの大都市にあるバーでは、定期的に〈ゲイ・ナイト〉が開催されている。さらに、ゲイ・ボンベイ(Gay Bombay)、サルベーション(Salvation)、ゲイジー・ファミリー(Gaysie Family)のようなウェブサイトや団体が、オンラインでクイア向けのイベントを主催、宣伝している。こういったイベントは、同性愛者たちが公の場で〈合法で〉交流する、数少ない手段なのだ。

「同性愛者のナイトライフは急激に変化し、今までにない盛り上がりを見せています」とシャム・コナー(Shyam Konnur)は語る。コナーはLGBTQの活動家で、プネやバンガロールでクイアのパーティーを主催するプランナーでもある。イベントには毎回100~150人が参加し、うち少なくとも80人が新規参加者だという。ムンバイやデリーなどの大都市では、参加者はさらに増える。

LGBTQ向けのウェブサイト、ゲイジー・ファミリーは、2012年から400人規模のオープンマイクのイベントを主催している。「毎回15~20%が新規参加者です」とサイト運営に携わるアヌージャ・パリク(Anuja Parikh)は語る。彼女によると、LGBTQのパーティーは今やアンダーグラウンドなイベントではなく、ほとんどが大きな会場で開かれ、ヘテロセクシュアルの参加者も呼び込んでいるという。

しかし、クイアの問題に取り組む映画監督スリダー・ランガヤン(Sridhar Rangayan)は、LGBTQの認知度は、それほど上がっていないと考えている。「パーティーに参加する同性愛者は増えましたが、コミュニティについては認知されていないままです」と彼は語る。「街に来たばかりの人は、関係者でない限り、シーンの存在すら知らないでしょう」。こういった現状の裏には、出会いが目的の催しだと誤解されないよう、LGBTQのイベントの大半が、公に宣伝されないという事情がある。そのため、口コミかFacebookの非公開グループで参加者を募るのが一般的だ。

「まずはアプリの運営チームに連絡し、パーティーの情報を伝えてもらいます」。コナーによると、Grindr、Planet Romeo、Gaydarなどの出会い系アプリも、イベント招待のプラットフォームになっているという。「彼らはとても協力的で、ユーザーはすぐにイベントの通知を受け取れます」

しかし、イベント招待者の情報は非公開であるにもかかわらず、LGBTQに反感を抱き、危害を加えようとする人が紛れ込む場合もある、ともコナーは教えてくれた。家族や職場に暴露すると脅され、金を要求されるなど、脅迫や嫌がらせを受けたユーザーもいる。

22歳のアカンクシャ(Akanksha)も被害者のひとりだ。「以前ワン・シーン(One Scene)という出会い系サイトを通じて、ある女の子とデートの約束をしました。でも、実は彼女は、家族ぐるみで付き合いのある旧友でした。私が同性愛者だということにつけ込んで、お金を巻き上げようとしたのです」。家族に性的指向をばらすと脅されたアカンクシャは、結局、要求された全額を支払った。「両親はおそらく、同性愛者の定義すら理解していません。私が同性愛者だと知ったら、両親は絶望するでしょう」。現在、アカンクシャは、正体を隠すためにハンドルネームを変え、コンパやプライベートのパーティーで相手を探しているという。

主催者のコナー自身も、イベント中止を求める政治家の関係者から、何度も殺害の脅迫を受けたという。さらに、「こういったイベントは安全なのか、または攻撃される危険はないのかと、電話で訊かれることも多いです」とコナー。「そのたびに、口先だけの脅しだから心配ない、と伝えなければいけません」

インド中の大学で、何本もの自らの作品の上映会を開いてきたランガヤンによると、小さな都市のほうが状況は複雑だ、という。こういった都市では、多くの人がFacebookのアカウントを使い分け、偽名を使ってLGBTQのイベントに参加しているそうだ。「同性愛に対する考えは様々です。暴力沙汰はありませんが、LGBTQのコミュニティが息子や娘をクイアに変えてしまうのでは、という根拠のない不安が広まっています」とランガヤン。「結局のところ、インドでは家族がすべてなのです。年配者が受け入れさえすれば、状況は変わるでしょう」

「彼らが受け入れれば、家庭全体の考えも変わるはずです」とランガヤン。「隣人、友人、親戚全員に、息子や娘が同性愛者だと伝えられるようにすべきです。同性愛を恥じる風潮を終わらせる必要があります」

有名なLGBTQ活動家、ハリシュ・アイアー(Harish Iyer)は、インドの同性愛嫌悪の原因は、生殖を重視する伝統にあるのではないか、と予想する。「インドの民間伝承には、次世代に遺伝子を残すことを重要視する逸話が、非常に多いのです」

しかし、ヒンドゥー語やヴェーダ語の古代の文献には、神々の同性愛描写もいくつか見受けられる。オルタナティブなセクシュアリティーは、インド社会とは切り離せない。スピリチュアリティーや伝統を重視する社会にとって、現在広まりつつある同性愛嫌悪は、自らの歴史に逆らうことを意味する。

このような嫌悪感は、トランスジェンダーに対しても顕著だ。インドでは、出生時に男性だったトランスジェンダーを〈ヒジュラ(Hijras)〉と呼び、第三の性を法律で認めているものの、トランスジェンダーはLGBTQのコミュニティ内ですら歓迎されない。LGBTQのパーティーの主催者が、「フェム、女装、オカマお断り」と告知するのも珍しくない。

「トランスジェンダーは、同性愛者のパーティーを含め、公の場に出づらいのが現状です」とランガヤンは説明する。「映画館やモールで、理由もなく入場を断られる場合もあります」。この裏には、トランスジェンダーに対する国全体の嫌悪感がある。最近の調査では、55%以上のインド人が、トランスジェンダーは「インドの伝統文化に反する」と考えており、彼らが「罪を犯している」と応じた回答者は全体の49%にのぼる。

さらに、レズビアンたちも、同性愛者の交流の場にほとんど顔を出さない。大半のイベントは、ヘテロセクシュアルの参加も歓迎しているので、来場する女性のほとんどはストレートで、同性愛の男性と一緒だと居心地が良い、という理由で参加しているだけだ。そのため、同性との出会いを求める女性は、プライベートなホームパーティーにしか参加しないのだ。「LGBTQのオープンイベントに参加するのは、同性愛の男性、ナンパに煩わされたくない女性がほとんどなので、私は滅多に参加しません」とアカンクシャ。「今までの恋人たちとは、友達のパーティーかネットを通じて知り合いました。コミュニティのいち部だけが注目されて、レズビアンが無視されているのは、とても残念です」

パリクによると、ゲイジー・ファミリーはこれを問題視し、レズビアンとトランスジェンダー向けのパーティーを開催しているという。「女性は内気で、男性参加者が、女性参加者より少ないパーティーだと安心できる傾向にあります。LBTのパーティーを開催してから、私たちは間違っていないことを確信しました」とパリクは語る。パーティー開催後、LBT向けのイベントがないのに失望していた参加者から、大きな反響があったという。

インドの大都市では、毎年恒例のプライド・パレードに加え、クイアのイベントも公の場で盛んに開かれており、コミュニティが抱く疎外感は解消されつつある。しかし、ランガヤンは楽観しているわけではない。「個人的には、LGBTQが壁を乗り越えた、コミュニティの外から注目されている、とは感じません。この国には、私たちの意見を聞き入れてくれる司法制度もありません。まずは政府に働きかけ、もっと理解を広める必要があります」

「そのためには、大勢のLGBTQが『私たちはここにいる』と胸を張って宣言すべきです」