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社会派ヒップホップの先駆者 パブリック・エナミーの衝撃

高級車、パーティー、酒、オンナといったお気楽なリリックや世界観が求められていたヒップホップに、ブラック・ムスリム思想を反映した社会派・反体制のステートメントを持ち込んだPEの登場はあまりにも衝撃的で、中流階級の白人たちは明らかに嫌悪感を示したが、”Fight the Power”を合言葉に国境も世代も肌の色も超え、世界中にフォロワーを生んだ。

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“Fight the Power”を合言葉に、国境も世代も肌の色も超える

「誰にもオレたちのソウルを奪えやしねーんだ!」

3年前の10月2日、筆者はニュージャージーのアズベリーパークで開催された<ATP>(※1)にて、パブリック・エナミーのステージを観ていた。ポーティスヘッドがキュレーターを務め、エル・Pがあのカンパニー・フロウを復活させてまで臨んだこの日、PEは名盤3rd『Fear of a Black Planet』(90年)の再現ライヴを含む2時間セットを披露。冒頭のセリフは感極まったフレイヴァー・フレイヴが発したものだが、初めて彼を含む「完全体」を目撃し、彼らの変わらぬ音楽的冒険心に大きな感銘を受けた(チャック・Dはその後、ポーティスヘッドのステージにも飛び入りした)。

映像の中でリック・ルービンが言及しているように、PEは当初「パンク・ロックの黒人ヴァージョン」、すなわちヒップホップ版のザ・クラッシュを標榜するユニットだった。高級車、パーティー、酒、オンナといったお気楽なリリックや世界観が求められていたヒップホップに、ブラック・ムスリム思想を反映した社会派・反体制のステートメントを持ち込んだPEの登場はあまりにも衝撃的で、中流階級の白人たちは明らかに嫌悪感を示したが、”Fight the Power”を合言葉に国境も世代も肌の色も超え、世界中にフォロワーを生んだ。

PEが革新的だったのはアティチュードだけではない。初代DJを務めたターミネーターXのスクラッチ・テクを筆頭に、ロックやジャズ、ソウル、ハード・ファンクからも引用するサンプリング・センス、ダンサー兼サブ・メンバーのS1W(Security of the First World)を迎えた強烈なビジュアル、そしてグルーヴィーな生演奏との融合はヒップホップにおける「ライヴ・パフォーマンス」のあり方をも再定義したのだ。また、スラッシュメタル・バンド=アンスラックスとの競演“Bring the Noise”によって、ロック・リスナーにヒップホップの扉を開いた彼らの功績がなければ、リンプ・ビズキットやリンキン・パークのようなラップメタルの隆盛も起こりえなかっただろう。2013年、PEはビースティ・ボーイズに続く史上4組目のヒップホップ・アーティストとして、ロックの殿堂入りも果たすことになる。

今でこそ人種やジャンルを超越したコラボレーションは珍しくないが、PEの思想は結成32年を超える今でも、1ミリもブレていない。改めて<デフ・ジャム>の先見の明には驚くばかりだ。