大成功も〈副作用〉でしかない21世紀のメタルヒーローMASTODON
Photos by Cody Swanson.

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大成功も〈副作用〉でしかない21世紀のメタルヒーローMASTODON

グラミー賞へのノミネートがこれまでに3回、様々な映画への楽曲提供、そしてアルバムを出せば、ビルボードチャートベスト10に必ずランクイン。アトランタ出身のMASTODONは、間違いなく現代を代表するスーパーメタルバンドだ。もちろん最新作『エンペラー・オブ・サンド』も大ヒット。しかしこのスーパー4人組はデビュー当初から何も変わっていないのであった。

メタルバンドへのインタビューはだいたい3通り。まずは電話。続いてメール(これは最悪)。そしていちばん良いのは(つまりいちばんレアなケースという意味だが)、直接会話ができる対面スタイルだ。この場合、ライターとアーティスト(場合によっては複数のメンバー、あるいはマネージャー付き。近しい人たちが同席する場合もあるし、なぜか高校時代の友達3人が参加するときもある)は、楽屋のすみっこに追いやられるパターンが多い。もしくは移動車の最前列の席とか。ある程度大物になると、レーベルの立派なオフィスなんてこともある。とにかく、ふたりのメタル野郎へのインタビューのためにマンハッタンの高級ホテルに向かうなんて、ホント普通ではあり得ない。でも、そういえばMASTODONって普通じゃないメタルバンドだった。

彼らの新作『エンペラー・オブ・サンド』(Emperor of Sand)は、2017年4月にリリースされた。バンドは…というか、ベース/ヴォーカルのトロイ・サンダース(Troy Sanders)とギターのビル・ケリハー(Bill Kelliher)は、新作に関する取材をいくつか片づけるため、ニューヨークシティに滞在中だった。そこで、私たち(つまり筆者と、汚くて覇気のないジョージア州のオッサンふたり)は、高級な調度品やら、極上のカーテンやら、飲んじゃいけないトップクラスの酒に囲まれていた。私が初めて彼らに会ったのは何年も前のこと。同じくジョージア出身のBLACK TUSKというメタルバンドの物販担当をしていた。両バンドでのショート・ツアーの最中だった。サンダースとケリハーは、私のことを覚えていてくれたので、こっそり喜んだ。当時のMASTODONはすでに有名で、動員力もあった。アトランタのアンダーグラウンド・バンドたちにとっては夢のまた夢、というくらいの存在だった。しかしあれから6年経った現在、更に彼らは正真正銘のビッグバンドになっている。

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まず、グラミー賞へのノミネートがこれまでに3回(サンダースがいうとおり、全て受賞は逃しているのだが)。『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(The Big Short, 2015)、『モンスターズ・ユニバーシティ』(Monsters University, 2013)、『ジョナ・ヘックス』(Jonah Hex, 2010)など、複数のサウンドトラックも手がけている。さらにメンバーのうち、ドラムのブラン・デイラー(Brann Dailor)、ギターのブレント・ハインズ(Brent Hinds)、ケリハーの3人は、テレビドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』(Game of Thrones)に野人役で出演した。彼らの8枚目のアルバム『エンペラー・オブ・サンド』は、ビルボード総合ランキングのトップ10に食い込み、さらにいくつかのチャートでは1位を獲った(そのなかには週間アルバムセールスチャートも含まれる。エド・シーラン(Ed Sheeran)やドレイク(Drake)よりも上)。また、EAGLES OF DEATH METALとの北米ツアーでは、2200人を収容するニューヨークの代表的ヴェニュー〈ハマースタイン・ボールルーム(Hammerstein Ballroom)〉を筆頭に、各公演をソールドアウトにした。

このふたりにはエゴというものが欠けており、バンドのここまでの成功すらも意に介していないようだ。この成功は、カツカツな暮らし、バンで過ごしたつらい日々、小さな安酒場をまわり続けていた活動、そういう長い年月の〈副作用〉だという。彼らに、「有名になるってどう?」と尋ねるとケリハーは、非常に割り切った答えをくれた。「俺たちの活動がもたらしたひとつの成果、それだけだ。俺たちは結成当初とまったく同じ4人で演奏を続けている。その〈副作用〉のひとつが、有名になることじゃないかな」。彼はそういって肩をすくめた。「つまり、俺たちはこれまで、〈いつかMETALLICAとツアーがまわれるくらい有名になろうぜ〉なんて誓った試しがない。必死でやっていれば報われるんだよ。それだけなんだ」

今となっては、世界でいちばんビッグなヘビーロック・バンドになったMASTODONだが、今回のインタビューで、彼らのルーツは米国南部のDIYシーンに深く根ざしているのがはっきりとわかった。現在のアトランタ・アンダーグラウンド・ヘヴィロックシーンの状況を尋ねれば、彼らの口からはROYAL THUNDER、WHORES、WITHERED、ORDER OF THE OWL、そしてTHE COATHANGERSなど、地元のバンドの名前がすらすらと出てくるし、ケリハーは〈エンバー・シティ(Ember City)〉の話を嬉しそうにする。エンバー・シティとは、MASTODONが所有する練習スタジオで、なんと10階建てのビルである。彼はそのビルをグラインドコアシーンのアイコンであるケヴィン・シャープ(Kevin Sharp)* とともに建てた。そしてケリハーとサンダースは、いっしょに建物をメンテナンスしている(サンダースによると、彼は〈トイレ掃除の人〉らしい)。ケリハーは、そのビルが最終的に地元のミュージシャンたちの拠点になり、同時に、アトランタのミュージシャンたちを苦しめている最大の問題〈徐々に進行する地域の高級化〉に抗う砦になれば、と望んでいる。

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ビル・ケリハー:まあシーンと呼べるものはあるけどね。バンドが練習できる場所も演奏できる場所もなくなって、シーン自体が消えてしまったような時期もあったんだ。やっぱり地元でライブができないとね。すべてのバンドがツアーできるわけではないんだから。アトランタには、〈529〉っていうヴェニューがある。キャパは200人くらい。あとは〈ザ・アール(The Earl)〉とか。〈ザ・マスカレード(The Masquerade)〉は、いちど閉店したけれど再開した。でもやはり前とは違うね。アトランタはホント、かなり様変わりしている。

トロイ・サンダース:もともと、俺たちが練習スペースを建てたのは、それが楽しそうだったからだし、実際に俺たちは楽しんでいた。俺たちが練習できるように1室だけを借りるって流れにはならなかった。建物1棟を手に入れよう、と計画を主導したのはビルだ。で、去年、アトランタの2大リハーサルスタジオがどちらも廃業したんだ。以前に俺たちが使っていた〈サンダーボックス(Thunderbox)〉だけでも100ものバンドが利用していた。だから需要はあったわけだよ。

ビル・ケリハー:サンダーボックスにはスタジオが10室あった。それぞれの部屋を数バンドが利用していたはずだ。〈アトランタ・ロックスター・リハーサル(Atlanta Rockstar Rehearsals)〉っていう会社が、部屋の時間貸しをしていたんだ。彼らは数年間、〈アバター(Avatar)〉というスタジオと、サンダーボックスを管理していたんだが、どちらも潰れてしまい、事業が立ち行かなくなった。で、俺に電話してきて、俺たちが所有しているビルから数部屋を貸してくれないか? と提案してきたんだ。すばらしい提案だったよ。毎日新しい人たちに会えるし、家みたいな感覚だ。少しは恩返しできている気もする。この活動で、たくさんの人たちが俺やバンドに感謝をしてくれるけど、俺のおかげとか思わないでほしい。この街のシーンが消えてしまうのが嫌なだけだからね。

この前、ゴミの片づけとかをしながらビルのなかをブラブラしてたんだけど、いろんなバンドが練習している音が聴こえてね、そのときに何か達成感みたいなものを味わったよ。「この感じ最高だ」ってね。昔を思い出すし、ここを自分たちの場所にしたい、という夢までかなったからね。今、俺たちは世界中をツアーできる。数年前の「スタジオが閉鎖されるので、持ち物を全て持って帰ってください」と電話がくる心配もない。そのときはTHE WITHEREDのヤツらを雇って、俺たちの練習スタジオから機材を全部運んでもらったんだ。建物が売却されちゃったんだよ。でも今は帰る場所がある。

エンバー・シティにいるときは、MASTODONも〈有名ロックバンド〉ではなく〈いつものメンバー〉になれますよね。ここまでビッグなバンドになりましたが、このような状態とどのように折り合いをつけていますか?

トロイ・サンダース:個人的は、ここまで登りつめるのに相当長い時間がかかっているわけだから、寿命は長いだろうって考えている。もしバンド結成から1年半とかでここまで来ちゃったら、俺たちのエゴは手に負えなくなっていただろうし、軋轢もあっただろう。もしかしたら解散しているかもしれない。ああ、バンドはなくなっているかもな。17年前の結成時に、メンバーが共有していたのは、自分たちの音楽を人々に届けたい、そして自分たちのために活動する、という強い気持ちだった。皆で初めて会ったとき、ビルがそういったんだ。だから「どうですか、最高のツアーやりませんか? 私たちはRELAPSE RECORDS* です。ウチからアルバム出しませんか?」なんて具合に進んできたわけじゃない。

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ビル・ケリハー:最高なのは、俺たちはずっと、やりたい音楽をやってこれたって事実。それに俺たちは、これからも一生メタルバンドとしてやっていくとか、デスメタルバンドだとか、クラストコアだとか、そういう定義付けをされるような契約は結んでない。俺たちのファンはイカれてる。アイツらは、俺たちが違った音をやると、全サウンドから全歌詞をこき下ろし、誰がどこを歌っているかとか、前作と違うサウンドの理由とか、ある曲が最低な理由とかを並べるんだ。トロイ、ブレント、ブランをうならせたくて、俺はリフとかいろんなアイデアを捻り出すようにしてる。別にFacebookで、どっかの誰かに絶賛されたくてやってるわけじゃない。そんなのはどうでもいい。俺たちの原動力はそこにはない。インターネットのコメントで、『MASTODONには裏切られた。「Show Yourself」みたいな曲をやりやがって』みたいなのがあったんだけど、あれには笑ったよ。てか、お前ら誰だよ。『裏切った』って何だ。俺たちはやりたい音楽をやってるだけだ。もしやりたくなれば、ド直球のポップソングだってリリースしてやるよ。そんなヤツらに応える必要はない。俺が気にするのはバンドメンバーの意見だけだ。あとは俺の嫁さんの意見だな。

トロイ・サンダース:リハーサルでどんな演奏をするか。俺たちが前に進む原動力はそれだ。ビルがつくったリフを基に作業して、その日にワンフレーズのヴォーカルを考え付き、そこから掘り下げていけたら最高だ。俺たちがすべてを掌握しているんだから。すなわちサウンド、メロディ、歌詞のテーマ、次のツアーのTシャツのデザイン。それをどうするか? みんな俺たちが掌握している。一度作品が世に出れば、大々的に人々はそれに触れるようになるから、もしかしたら顰蹙も買うかもしれない。だけどそんなのは俺たちにとってはどうでもいい。俺たちは作品の出来によっては、メンバー同士でハグしたりハイタッチするほど誇りをもっているんだ。俺たちの手を離れてしまえば、もうあとは関係ない。

ビル・ケリハー:MASTODONのFacebookページをわざわざフォローして、そこにしょうもないことを書き込むヤツらがいるんだよ。ありゃ何だ? クールぶりたいのか? ニキビ面した14歳のガキが、パンいちでパソコンの前に座りながら書き込んでるんだろ? 「17年追ってきたバンドがこれか?」「3回もグラミーで敗れたっていう証明書はどこだ?」

別の話題に飛びますが、ケヴィン・シャープとはエンバー・シティをいっしょに建てただけではなく、アルバム収録曲の「Andromeda」でもゲストに迎えています。この曲は、まさに私たちがMASTODONに期待していたとおりの、ノイジーでザラザラのサウンドに仕上がっています。この曲はケヴィンの声に合わせて創ったのでしょうか?

トロイ・サンダース:アルバム制作にゲストを呼ぶと、いつだって曲自体がそのゲストに自然と寄っていくんだ。たとえば、新しい曲をつくりながら、「あれ、この曲って10年前のMARS VOLTAっぽくねぇ?」って思ったら、MARS VOLTAで歌っていたセドリック(Cedric Bixler-Zavala)にオファーするだろうね。ケヴィンのときもそんな感じだった。この曲は相当ヘヴィだったから、ケヴィンの声でいこう、と決めた。

ビル・ケリハー:俺はケヴィンに参加してほしかった。親友のひとりだしね。それにアイツはグラインドコアの父だよ。ホント、俺たちの音楽は、どの曲でもどの部分でもいいんだけど、ケヴィンの声がぴったり合う。すばらしい歌い手はたくさんいる。いつか俺たちも、デイヴ・グロール(Dave Grohl)のPROBOTみたいな豪華プロジェクトをやって、ただ楽しむだけのアルバムをつくりたいね。そしたら絶対スコット・ケリー(Scott Kelly)* も呼びたい。アイツは〈5番目のMASTODON〉みたいなもんだ。スコットのヴォーカルスタイルに合う曲は結構ある。過去3枚の作品ではスコットに参加してもらおうと決めていた。だから彼に打診したんだ。彼とは良い関係を築けている。

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あなたたちとのコラボレーションで、NEUROSISを知ったキッズも大勢いるんじゃないでしょうか?

ビル・ケリハー:そうかもな。そうやって恩返しができているのかもしれない。NEUROSISはいろんな意味で、俺たちに影響を与えてくれたバンドだし、今でもそう。見落とされているバンドはたくさんいる。正しく評価されていない。先日ISISを聴いていたんだけど、あのバンドのすごさっていうのも完全に忘れていたね。俺たちはできる限りそういうバンドといっしょに何かをするようにしている。俺は作曲をしているときも、いろんなバンドの影響を受けている。そういうやり方で活動できている。そこに意義がある。そうやっていろんな影響を受けて、まとめて、MASTODONの曲にするんだ。

トロイ・サンダース:音楽は俺たちからあふれ出てくるし、歌詞もそうだ。人生におけるそういうステージ、そういう瞬間を生きてきて、それが率直かつ自然なかたちで反映されている。それだけ。俺たちは自分自身に対しても、俺たち自身の音楽に対しても、とてもオープンだし正直なんだ。元気があろうとなかろうと、あらゆる状況をMASTODONという〈アート〉に昇華させる。最後はポジティブにとらえられるように努力しているんだ。アルバム『クラック・ザ・スカイ』(Crack the Skye, 2009)で、初めて俺たちは、かなりダークなテーマを、最終的に自分たちが美しいと思える作品、これから先も残る作品に仕上げられた。良い経験になったよ。自分の率直な心から生まれたアート以上に、すばらしくて誠実なアートはないだろう。他のやり方なんて俺は知らない。

ビル・ケリハー:それらに、メタファーやストーリー展開のテクニックでひねりを効かせ、聴く人それぞれが自分のものとして聴けるような〈旅〉として提示する。解釈は自由なんだ。俺はそういう音楽が好きだ。THE MELVINSなんかを聴いてると、何を歌ってるかまったくわからないんだけど、歌詞の世界のなかで何が起こっているのか、それを自分の言葉で表現できる。そして、情景が浮かぶんだ。俺たちの音楽もそれと同じように人々に届いているはずだ。それで心が癒される、だからすばらしいんだ。気分が最悪だったり、憂鬱だったりすると、俺は最高に鬱々としたアルバムを聴く。こういう気分のときはコレ聴けば、OK、というアルバムが、俺たちにはそれぞれある。薬みたいなもんだ。MASTODONも誰かの薬になっていればうれしい。まだこのアルバムが発売される前、Facebookでいろんなメッセージを読んだんだ。「先週、父をガンで亡くしました。このアルバムの曲をずっと聴いていますが、元気をもらっています。気分転換になるんです」、なんてメッセージもあった。そういうのを読むたびに、俺たちのやっていることは間違っていない、と確信するんだ。

ビル・ケリハー:デモをつくっていると、俺のフレーズとか、トロイが歌うフレーズが、なんか聞いたことある、思うときがある。過去の音源を確認して、「やべ、これ同じじゃねぇか。使えないじゃないか」となる。今回は「Steambreather」でそれがあった。オープニングのリフを書いて、練習して、嫁さんの前で演奏してみたんだけど、彼女の反応が「え? 何でこれ演ってるの? これ前にも聴いたけど」だったんだ。お尻のビデオになった「The Motherload」でしょ、といわれて、「ああ、そうだ!」となった(笑)。ホント似てたんだ。チューニングは違ったけど、それでも同じで、あれはヘコんだな。自分たちの作品をチェックする機会が絶対必要だ。90曲以上あるから。たまに、こういうことが起きる可能性もある。俺たちは過去の俺たちの焼き直しなんかしたくない。新しいリフ、アイデアはたくさんある。常にフレッシュでいなきゃだめだ。〈フレッシュを食べよう〉だよ(笑)