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2パックこと、トゥパック・シャクール(Tupac Shakur)が射殺されてから20年。ジャーナリストのベン・ウェストフ(Ben Westhoff)は、ふたつのことを確信している。ひとつ目は、多くのジャーナリストがこの件に関して無視していること。そしてふたつ目は、1996年9月にトゥパックを殺したのは、当時サウスサイド・コンプトン・クリップスというギャングの構成員だった故オーランド・アンダーソン(Orlando Anderson)だということ。

このふたつの確信を持って、元『LA Weekly』の音楽エディターであるウェストフは、90年代のアメリカに衝撃を与えた西海岸のギャングスタ・ラップの歴史をディープに紐解いた『Original Gangstas: The Untold Story of Dr. Dre, Eazy-E, Ice Cube, Tupac Shakur, and the Birth of West Coast Rap』を上梓した。歴史上、最も血生臭く、危険だった当時のヒップホップシーンについては、映画『ストレイト・アウタ・コンプトン(Straight Outta Compton):2015年』などで既に多く語られている。しかし、ウェストフによると、シーンの概要しか語られておらず、未だに明らかにされていない事実もあり、まだまだ精査の余地があるという。

「この本は、報じられていない事実がたくさんあるに違いない、少し掘れば何かが見つかるだろう、と想定するところからスタートしました」

ウェストフは『LA Weekly』時代に、ドクター・ドレー(Dr. Dre)や、スヌープ・ドッグ(Snoop Dogg)など、多くの著名アーティストをインタビューした。それがきっかけで彼は編集を辞して、執筆に取り掛かった。まず、N.W.A.の創始者で、イージー・イー(Eazy-E)として知られる故エリック・ライト(Eric Wright)の妻トミカ・ウッズ=ライト(Tomica Woods-Wright)、イージー・イーのエイズ合併症を治すためケニアの治験薬を注射したネーション・オブ・イスラム(Nation of Islam)のメンバーなど、ギャングスタ・ラップ・シーンに関わったキャラクターたちを可能な限り探した。ウェストフがテーマに設定したのは、コンプトンのアイス・キューブ(Ice Cube)、ドクター・ドレーといった誰もが知っているようなアーティストのサクセス・ストーリーだけでなく、世界中のファンを熱狂させ、アーティストを死に至らしめるジャンルの隠された真実の発掘だ。

例えば、ウェストフは本書で、シーンで最も愛され、激しいビーフの末、ともに銃弾に倒れたトゥパックとノトーリアス・B.I.G.(Notorious B.I.G.)の悲劇的な関係を描いている。両事件とも未解決のままだが、トゥパックを殺したのはオーランド・アンダーソンだ、とウェストフは確信している。トゥパックがラスベガスでマイク・タイソンの試合を観戦し、射殺された夜、彼とギャング団の構成員だったアンダーソンは諍いを起こしていた。トゥパックとビギー(ノトーリアス・B.I.G.の愛称)への銃撃はそれぞれ無関係ではないはずだ、との憶測もある。いっときとはいえ、二人が友人だったのは周知の事実だ。ブルックリン以外ではまったくの無名で、1993年にデビューシングル「Party and Bullshit」を出したばかりのビギーは、「マネジャーになって欲しい」とトゥパックに頼むほどの関係であった。

「この時のトゥパックは、音楽、そして映画において、ビギーとは比べものにならないほどのキャリアを積んでいました」とウェストフは語る。「80年代末から90年代初頭にかけての多くの情報は、眠ったまま明らかになっていないでしょうから、驚くべき事実が見つかったとしても、驚きませんね」

更に本書では、扱いづらいトピックも取り上げている。例えば、ドレーによる女性への暴力問題、イージー・イーの死の真相などであるが、忘れてはならないのが、ドレーとの「Death Row Records」の共同創立者で、元ボディガードのシュグ・ナイト(Suge Knight)の黒い噂。彼は現在、殺人未遂の罪で服役中であるが、「シュグ・ナイトにまつわる話は、人々のイメージよりかなり複雑だ」とウェストフは語る。『Original Gangstas』では、今後物議を醸すに違いない実話を多く取り上げているが、単にラッパーたちを裁こうとしているのではなく、ギャングスタ・ラップという劇的なシーンが見事に考察されている。そもそもこのジャンル自体が、1980年代〜1990年代初頭にクラックやコカインが急速に蔓延した「麻薬時代」の混沌を反映したものであり、N.W.A.のようなグループが表現していたのは、彼らの地元、ロサンゼルスのサウスセントラル地区の日常だったのだ。ウェストフはミネソタ州で育ったが、ドクター・ドレーのソロ・デビューアルバム『The Chronic』や、映画『ポケットいっぱいの涙(Menace II Society):1993年』などに触れ、西海岸ヒップホップのファンになった。そんな彼は本書で、そんな混乱のなかから登場したアーティストたちのストーリーを語りたいと考えたのだった。

「このジャンルはずっと好きでしたが、ジャーナリストとして裏のストーリーに興味が湧いたんです。まさに歌詞のように、暴力的で混沌としていましたから」

ミズーリ州セントルイスに住むウェストフに電話インタビューを敢行し、本書について、そして、明らかにした逸話について訊いた。

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当時のガールフレンド、キム・ウドゥルフと写るアイス・キューブ。1990年。2人は1992年に結婚する。(Courtesy of Sir Jinx.)

イージー・イーなど、ギャングスタ・ラップ系アーティストたちが麻薬の売人だった、というのは知っていました。しかし、ドレーやアイス・キューブは、そのような生活とは距離を置いていましたね。彼らは、ギャングスタのイメージとレコード売上の関係について、どう捉えていたのでしょうか?

アイス・キューブもドクター・ドレーも、N.W.A.以前に所属していたグループではアンチ・ギャングを歌っていた、という事実に驚きました。アイス・キューブはSTEREO CREWというグループのメンバーでした。「Gangs」という曲が同グループにはあります。そこでは「ギャングチームに加入するのは最悪だ」と歌っています。ドクター・ドレーとDJイェラ(DJ Yella)は、WORLD CLASS WRECKIN’ CRUというグループにも所属していて、ドレーが作曲に参加した「Gangbang You’re Dead」という曲で、ギャングのカラー、スタイル、活動を小バカにしています。また、N.W.A.の「Express Yourself」(アルバム『Straight Outta Compton』収録)ではドレーが、「俺はマリファナはやらない/頭がイカれちまうから」といっているのは、ご存知ですよね。しかし彼のファーストソロアルバム『The Chronic』で一転します。そのあとのミュージックビデオで、彼はクラック、コカインをつくっていますから、そういうイメージの方がレコードが売れる、と彼が考えた、そう想像をするのが自然ですね。ただ、彼の名誉のためにいうと、そんなイメージは、彼がやりたい音楽を表現するのに、より良いスタイルだったのでしょうね。ドクター・ドレーは常に、音楽とビートについて考えています。そのスタイルによって、レコード売上を伸ばすだけではなく、彼のサウンドを完成させているのではないでしょうか。

ドレーがストリートのイメージを纏っていくようになるのは、彼が有名になった後に知り合った人間たちを反映しているのでは? 有名になってからのN.W.A.のメンバーは、悪い輩と付き合い始めた印象があります。

グループでの活動開始当初、例えばアイス・キューブはまだかなり若かった。それこそが問題でした。私だって、高校に入学した直後は「酒もハッパもやらない。間違っている。絶対やらない」と決めていましたが、卒業する頃にはすっかり変わっていましたよ。成長すれば、そうやって変化していくのは自然です。ドクター・ドレーがマリファナを吸い始めたのは、『The Chronic』の前にタッグを組んだスヌープ・ドッグ(SNOOP DOG)に感化されたのがきっかけだ、とも語っています。そして同時期にイージー・イーもマリファナを吸い始めました。ドレーが「Ruthless Records」を去ってからです。

私たちの予想通り、シュグ・ナイトは恐ろしい男だとわかりましたか?

あの悪さは本物ですね。彼はガタイもよく、躊躇なく邪魔者を排除できる男です。彼自身、どんどん力をつけたうえに、同じようにデカくて恐れ知らずの男たちとツルんでいました。Death Row Recordsという相当な影響力のあるレコードレーベルの権力を握っていました。ですから、あらゆる手段で、たくさんの人間を脅していたんです。ただ、「シュグ・ナイトという男がいかに悪いか」を本書の焦点にはしたくありませんでした。それに、そういう捉え方では状況を単純化し過ぎてしまいます。シュグがチャリティーに寄付した金額などについて、いろんな関係者が証言していますし、それに彼の指示で動き、暴力を振るっていた図体のデカイ取り巻きたちにしても、実は地元のゴロツキで、彼らをシュグは助け、仕事を与えていた、とも伝えられています。彼は、これまで語られてきたよりも複雑な男ですよ。でもとにかく脅迫はしていました。現在、もし彼が刑務所に収監されず、誰かが彼の邪魔したなら、すぐにでも相手を脅迫しているでしょうね。

本書では、ドレーによる女性への暴力沙汰など、扱いづらいトピックにも触れています。こういった事実を出版するのに不安はありませんでしたか?

本書では、事実を確信できない内容は扱っていません。もし「怪しい」と疑念が湧いたら、「誰それの証言によると……」というフレーズを加えるよう心掛けました。ドレーの暴力についてのあらたな説は、裁判所の資料や目撃証言によって裏付けられているので、全く不安はありません。誰かを裁く意図などありませんでしたから、とにかく正確な記述を心がけました。もちろん家庭内暴力は間違っています。女性に対する暴力は、どのようなかたちであれ良くない。私は、本で紹介しているようなキャラクターと同じバックグラウンドで育っていません。私にとって大事だったのは、暴力的行動を非難しながら、真実をすべて明らかにする作業でした。

 興味深かったのは、アイス・キューブとイージー・イー、2人とネーション・オブ・イスラムの関係です。当時、多くのラッパーは、なぜ、ネーション・オブ・イスラムと繋がっていたのでしょうか。

まず、当時、あらゆるジャンルのリーダーたち、地域のリーダー、宗教的リーダー、政治家、黒人、白人、とにかくリーダーの大勢が80〜90年代のヒップホップに批判的だった、という背景があります。その一方、ルイス・ファラカン(Louis Farrakhan)を指導者とするネーション・オブ・イスラムは、ヒップホップとそのアーティストを支援していました。ネーション・オブ・イスラムには、有名人と組んで活動を続けてきた歴史があります。数々の有名人が、「自分の身を守りたいが、警察は信用できない」といって、この団体に頼ってきました。ルイス・ファラカン自身も若い頃には音楽をやっていたので、ミュージシャンやラッパーに敬意を抱いていました。ですから特にアイス・キューブは黄金期、そして問題提起の時期には、黒人エンパワーメントの理想、アフリカ系アメリカ人の文化にとっての最善とは何かについて、ネーション・オブ・イスラムをかなり参照していたようです。

アイス・キューブとネーション・オブ・イスラムとの関係については知っていましたし、彼が団体のメンバーたちを護衛につけている写真も見ました。でもイージー・イーと団体との関係は全く知りませんでした。

イージー・イーと団体の関係は、アイス・キューブのそれとは違いましたからね。団体は主に、彼がHIVに感染し、エイズを発症した際に保護していたんです。病床の彼と結婚して妻になったトミカ・ウッズ=ライトに請われ、彼は団体を呼び寄せます。面白いのは、団体は、エイズに対する治療法を探しており、イージー・イーに対しても彼らがエイズに効くと信じていた治療法を施しました。それが、ケニアで臨床試験をされていたケムロンと呼ばれる薬でした。ネーション・オブ・イスラムは、入院中の彼に、それを一時期投与していたんです。当時はまだまだ、エイズ治療暗黒の時代で、市場には何も出回っていませんでした。だから人々は、そういう試験段階の薬に命を救う可能性がある、と縋ったんです。

ネーション・オブ・イスラムの団員とこの話はしましたか?

ケムロンを注射した男性と話をしました。

彼らは、言い訳などしていましたか?

言い訳? いえ、まったく。彼はイージー・イーの入院中、彼のための警護部隊を率いていました。イージー・イーの妻が部隊の管理担当になったので、そこでケムロン投与の役目も終わった、と彼はそう語っていました。

先ほどあなたは、アイス・キューブとネーション・オブ・イスラムの関係は、黒人のエンパワーメントに対する見解に基づいている、といいました。その時期以降のアイス・キューブのソロアルバムに収録されている曲、N.W.A.のファーストアルバムの曲を聴くと、人種について歌われている内容の多くが現状にも当てはまる気がします。例えば「BLMBlack Lives Matter)」運動などにおいて、ギャングスタ・ラップにはどんな意義があるのでしょう?

多くの関連性があるはずです。例えば、N.W.A.の「Fuck The Police」は、ロサンゼルス暴動を象徴する曲でしたが、現在でもデモでは流されています。ファーガソン、ボルティモア、バトンルージュ、アメリカ各地で流されているんです。また、トゥパックの政治的理想、そして、彼が音楽やインタビューを通して伝えたメッセージに触れると、今日の「Black Lives Matter」と通じる多くの点が明らかになります。特にアイス・キューブとトゥパックは、現代の運動にまでパワーを与えているでしょう。

現代のヒップホップシーンに、ギャングスタ・ラップが与えた影響に関してはどうですか? ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)やYGなど、現在の西海岸勢にギャングスタ・ラップのサウンドは息づいているとお考えですか?

YGとスクールボーイ・Q(Schoolboy Q)のサウンドのなかには、確実に西海岸のギャングスタ・ラップの黄金時代の要素が息づいていますね。2016年にリリースされたYGの最新アルバム『Still Brazy』は、特に影響が顕著じゃないでしょうか。ギャングスタ・ラップは消えていません。違う名になっているだけです。トラップやラチェット・ミュージックなどは、ギャングスタ・ラップと類似点が多くありますしね。

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あの時代については、様々な憶測が飛び交っています。イージー・イーの死についてもそうです。HIV検査で陽性反応が出てから死ぬまでの期間が短すぎる、といわれています。あなたもこの著書で触れていますね。

取材対象からいろんな話を聞きました。私は、すべて真剣に捉え、ひとつひとつ体系的に精査し、嘘と真実を分類しました。医者とも話をしました。エイズの専門医です。昔の話やイージーの死亡診断書なども参照しましたから。

 「結局、誰がトゥパックを殺したのか」って訊かれませんか?

それこそ、みんなが知りたい事実ですよね。結局、犯人は捕まっていないし、そもそも世間的にも「アイツだ」という意見の一致もありません。様々な説がありますので、例えファンであっても追い続けるのは難しい。トゥパック射殺犯については、少数のあいだで常に熱い議論の対象になっています。しかし、本書で行き着いた結論には確信があります。グレッグ・ケーディング(Greg Kading)の本、そして、それを元にした映画『Murder Rap』が参考になりました。ケーディングは、ビギーとトゥパック、両方の事件の捜査に参加し、多くの重要な物証を集めたロサンゼルス市警察の元刑事です。

あなたはオーランド・アンダーソンが犯人だという説を支持していますが、パフ・ダディ(Puff Daddy)が彼に金を払って射殺させた、という説についてはどうですか?

それについては慎重を期したいです。というのも、パフ・ダディの噂は、オーランド・アンダーソンの叔父であるケフ・D(Keffe D)の証言がソースです。トゥパックとシュグ・ナイト暗殺の報酬として100万ドルをパフィはオーランドに支払った。トゥパック射殺のさいも、オーランドの車にパフィが乗っていた、とケフ・Dは証言しています。しかし、これは彼の一方的な見解です。しかもケフ・Dは、収監を逃れるために司法取引していました。だから彼は警察に協力的だった。パフィが絡んでいる、という事実を当初、彼は一切口にしていませんでした。話が変わっているんです。

ではあなたが「確信している」というのは、主にオーランド・アンダーソンについてですね。

その通りです。トゥパックとDeath Rowスタッフは、マイク・タイソンのタイトルマッチ後にオーランド・アンダーソンを襲いました。だからオーランドには動機があります。私がインタビューしたほぼ全員、オーランド・アンダーソンがトゥパックを殺した犯人だ、と信じています。そしてグレッグ・ケーディングが集めた証拠も踏まえると、犯人は彼に間違いない、と確信しています。