〈ヘヴィメタル・バンド〉といえば、必ず名前が挙がるであろう、METALLICA。何ならウチのおじいちゃんだって知ってる可能性のある、唯一のヘヴィメタル・バンドである。しかしBLACK SABBATHが生み出した〈プロト・メタル〉と、SLIPKNOTのポピュリスト的な〈オルタナ・メタル〉のふたつを結合する役割を担ったMETALLICAは、メタル史におけるパイオニアであり、現代のメタル・スタンダードを築き上げたバンドだ。メタルというジャンルがここまで幅広く、多様化した今もなお、METALLICAの重要性は、直接、間接を問わず大きい。

ANTHRAXやSLAYERと同じく、けんかっ早いデニム野郎であったMETALLICAは、スラッシュ・メタルの先駆者となり、怒涛の勢いでハードロック界の覇者となった。長髪で忠誠を誓う、分厚いコア層も獲得した。それから、よりメインストリームを見据えたメディア・フレンドリーな姿勢へとシフトすると、従来のメタル・コミュニティから抜け出し、世間にも広く知られるようになった。彼らの勢いは、〈MTV世代〉を代表すると同時に、その枠をも超えるほどであった。内輪もめで楽曲制作どころではなくなったり、2000年にはファイル共有サービス企業〈ナップスター〉との係争問題でバンドの信用を失いもしたが、その後の10年で名声と地位を築いた。世界中の巨大アリーナを埋め尽くす熱心なファンたちのため、積極的に大規模なライブ活動をしているMETALLICAは、伝説的な大物ポップ&ロックアーティストとしての信頼度も高い。2017年現在も、彼らの作品は売れ続けている。

何十年も前のMETALLICA作品が、いまだにビルボードチャートにランクインし、ベストセラー入りし続けている理由は、定期的に新たなファンが〈再発見〉するからだろう。デラックス・リマスター盤や度重なるワールド・ツアーをきっかけに、新世代リスナーがMETALLICAの作品を熱心に聴いているのだ。また、〈ちょっと興味がある〉程度のファンも、METALLICAの膨大な作品リストを気軽にチェックできる環境にある(METALLICAはあれほどナップスターを憎んでいたのに、デジタル社会の恩恵にあずかっている。皮肉だ)。しかし、10枚のスタジオ・アルバム、4枚のライブ・アルバム、そして、リイシュー・キャンペーン進行中となると、どこから聴き始めればいいのか、そして次はどこに手をつければいいんだ、と初心者はひるんでしまうだろう。

1986年にリリースされ、600万枚の売上を記録したスラッシュ・メタルの名盤『メタル・マスター(Master Of Puppets)』のデラックス・リイシュー盤が2017年11月10日に発売され、さらに同月18日には『リロード(Reload)』が発売20周年を迎えた。今こそMETALLICA入門にふさわしいタイミングだ。以下のプレイリスト5選を、ぜひ参考にしてほしい。

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スラッシュ編

ネットで「アイツは何もわかってない」とけなされたくなければ、METALLICAの骨格を知るところから始めよう。輝かしきNWOBHM(New Wave of British Heavy Metal)と、パンクロックをベースに当時急成長していたハードコアからインスパイアされ、突如誕生したのが、速くて猛々しい、米国原産のヘヴィメタルのサブジャンル〈スラッシュ・メタル〉だ。スラッシュ・メタルの登場に、極端な音楽性を欲していたオーディエンスは歓喜した。

1983年リリースのアルバム『キル・エム・オール(Kill ‘Em All)』で、当時のメンバーのクリフ・バートン(Cliff Burton:ベース)、カーク・ハメット(Kirk Hammett:ギター)、ジェームズ・ヘットフィールド(James Hetfield:ヴォーカル/ギター)、ラーズ・ウルリッヒ(Lars Ulrich:ドラム)が打ち立てた〈プロトタイプ〉は、彼らのルーツである1970年代後半の音楽の影響下にある。しかし、『ライド・ザ・ライトニング(Ride the Lightning)』(1984)が発売される頃には、その要素はかなり影を潜め、彼ら独自のソングライティングが向上していた。その後、『メタル・マスター』(1986)、『メタル・ジャスティス(…And Justice For All)』(1988)という傑作アルバムをリリースし、彼らは、〈スラッシュ・メタルの神〉としての名声を確立した。なお、1986年、悲劇的な事故死を遂げたクリフ・バートンに代わり、『メタル・ジャスティス』から、ジェイソン・ニューステッド(Jason Newsted)がベーシストとしてバンドに加入した。

数えきれないほどの紆余曲折を経験したMETALLICAだが、キャリアの要所で、自分たちが誕生に寄与し、磨き上げた1980年代の〈スラッシュ美学〉に定期的に回帰する。『デス・マグネティック(Death Magnetic)』(2008)、『ハードワイアード…トゥ・セルフディストラクト(Hardwired… to Self-Destruct)』(2016)を聴けばわかるが、21世紀になってMETALLICAが伝説的なバンドになれたのも、初期METALLICAをMETALLICAたらしめた〈美学〉を、彼らが忘れないのが大きな要因だろう。上記2作では、ニューステッドの後釜として加入したロバート・トゥルージロ(Robert Trujillo)のベースがフィーチャーされている。彼は、SUICIDAL TENDENCIESの元メンバーであり、オジー・オズボーン(Ozzy Osbourne)のバックを務めた経験もある、メタル界の渡り鳥だ。彼をメンバーに加えたMETALLICAは、スラッシュ・メタル界の重鎮〈ビッグ・フォー〉(=METALLICA、ANTHRAX、MEGADETH、SLAYER。スラッシュ・メタル四天王)による、そりゃ人も集まるよ、と思わざるを得ない、ちょっとズルいジョイント・ツアーを開催している。

プレイリスト:「メタル・マスター(Master Of Puppets)」 / 「ハードワイアード(Hardwired)」 / 「クリーピング・デス(Creeping Death)」 / 「スルー・ザ・ネヴァー(Through The Never)」 / 「ザ・フォー・ホースメン(The Four Horsemen)」 / 「ザット・ワズ・ジャスト・ユア・ライフ(That Was Just Your Life)」 / 「ブラッケンド(Blackened)」 / 「アトラス、ライズ!(Atlas, Rise!)」

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メインストリーム編

1991年リリースのセルフタイトル・アルバム、通称『Black Album(ブラック・アルバム)』は、史上有数の売り上げを誇るロック・アルバムとして知られ、販売枚数は全米だけで1600万枚を越える。このアルバムは、ゾッとするようなMVとともにヘヴィメタルを世間に知らしめただけでなく、GUNS N’ ROSESが『Appetite For Destruction』ツアーで打ち立てた〈アリーナ・ロック〉の定義を、約4年たらずで書き換えてしまった。AC/DCやKISSが轟音ロック・バンドとして崇拝されていた時代に、METALLICAは、さらに音圧の高い演奏で〈轟音〉の定義をアップデートし、ポータブルCDプレーヤーのヘッドフォンで聴いても、スタジアムのスピーカーをとおして聴いても、リスナーが満足するサウンドをつくりあげた。彼らの楽曲のパワーを体感したいのに、チケットを買う余裕がない金欠ファンには、1993年リリースのDVD、『Live Shit: Binge & Purge』という最高のオプションが用意されている。家でゆっくり楽しもう。

確かに『ブラック・アルバム』は、メインストリームの音楽に慣れ親しんだリスナーにはかなりヘヴィで、攻撃的に響いたが、ヘットフィールドのフックの効いたコーラスや、プロデューサーのボブ・ロック(Bob Rock)による洗練されたミックスのおかげで、世間に受け入れられた。そのやり方を踏襲し、ロジカルに進化させたのが1996年の『ロード(Load)』と1997年の『リロード』だ。この2作では、テンポを落として、よりロック的なスタイルを取り入れながらも、当時黎明期にあったニュー・メタル的サウンドも聴こえてくる。完璧に時代の波に乗っていた。『ブラック・アルバム』のリリース時点で既に、NINE INCH NAILSやMARILYN MANSON、KORNなど、先駆的アーティストが世間に受け入れられるための下地がつくられていたのだ。しかし、その流れを継ぐかたちで2003年に発表された『セイント・アンガー(St. Anger)』は、ポップなのだが、サウンドがどうも変だし、そもそも長すぎる、という理由でファンのあいだでも物議をかもした。

プレイリスト:「エンター・サンドマン(Enter Sandman)- Live In Mexico City」 / 「キング・ナッシング(King Nothing)」 / 「オール・ナイトメア・ロング(All Nightmare Long)」 / 「ヒーロー・オブ・ザ・デイ(Hero Of The Day)」 / 「ジ・アンフォーギヴン(The Unforgiven)」 / 「アティチュード(Attitude)」 / 「セイント・アンガー」 / 「ドント・トレッド・オン・ミー(Don’t Tread On Me)」

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バラード編

METALLICAが急速にお茶の間人気を獲得する以前、ラジオやケーブルテレビでヘヴィメタルが流れるとすれば、いわゆるロックバンド的なパワー・バラードだった。お涙頂戴ギターソロ、タメすぎのドラムをバックにメソメソと心情を吐露する、あのバラードだ。CINDERELLA、POISON、SKID ROW、WARRANT、WHITESNAKEなど、数多のバンドが、そんなバラードでチャート上位にランクインしていた。1980年代、ゴロつき時代のMETALLICAも、バラードに手を出した。しかし「ワン(One)」や「ウェルカム・ホーム(サニタリウム)(Welcome Home (Sanitarium))」の歌詞を見れば明らかなように、テーマは失恋ではない。ひとりの人間が体験する恐怖だ。

METALLICAの〈定番から外れたバラード〉志向は、1991年の「ナッシング・エルス・マターズ(Nothing Else Matters)」に結実する。METALLICAというバンドの全ディスコグラフィーのなかでも、頭ひとつ飛びぬけた、深い意味を持った曲だ。物悲しく壮大なこの曲は、メタル・バンドとしてダークネスの追求を妥協せずとも、多くのオーディエンスに届く音楽をつくれることを証明した。妥協してまで人気を獲得したグラム・メタル・バンドは、その代償に苦しむが、「ナッシング・エルス・マターズ」の流れをくむ「ヒーロー・オブ・ザ・デイ(Hero Of The Day)」(1996)などのバラードは、そういった苦しみとは無縁だ。バラードというジャンルにMETALLICAが与えた影響は、もっと強調されてもいいはずだ。TOOLやMASTODONといったバンドとMETALLICAの決定的な違いがここにある。

プレイリスト:「ナッシング・エルス・マターズ」 / 「ジ・アンフォーギヴン・トゥー(The Unforgiven II)」 / 「フェイド・トゥ・ブラック(Fade To Black)」 / 「ザ・デイ・ザット・ネヴァー・カムズ(The Day That Never Comes)」 / 「ワン」 / 「マイ・フレンド・オブ・ミザリー(My Friend Of Misery)」 / 「ジ・アンフォーギヴンⅢ(The Unforgiven III)」 / 「Turn The Page」

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ロックンロール編:

ハメット、ヘットフィールド、ウルリッヒらのルーツが知りたいなら、1998年発表の『ガレージ・インク(Garage Inc.)』だ。新録のカバー曲だけでなく、過去のレア音源も合わせて収録されたこの2枚組アルバムでは、BLACK SABBATH、BUDGIE、DIAMOND HEAD、ボブ・シーガー(Bob Seger)など、ハードロックに多大な影響を及ぼしたアーティストや、DISCHARGE、THE MISFITSといったパンク〜ハードコアへのオマージュを聴くことができる。特にハードロックの影響は、METALLICAのディスコグラフィーに色濃く表れている。METALLICAは、メタルに止まらず、ハードロックの名曲も生み出している。

当時はもう〈ガレージ・バンド〉ではなかったMETALLICAだが、ガレージ・スピリットをうかがわせる曲もわずかながらある。『ロード』に収録された「ツー・バイ・フォー(2 X 4)」を聴いていると、かびくさい飲み屋的なイメージが浮かぶ。「フューエル(Fuel)」の核にブルースがあるのは明らかだ。『リロード』の「プリンス・チャーミング(Prince Charming)」、『セイント・アンガー(St. Anger)』の「スウィート・アンバー(Sweet Amber)」などは、初期MEGADETHというよりは、むしろ初期QUEENS OF THE STONE AGEだ。『ハードワイアード…トゥ・セルフディストラクト』では、『ブリティッシュ・スティール(British Steel)』期のJUDAS PRIESTを彷彿とさせるリフとアグレッシヴさが印象的な、約7分にも及ぶ「ナウ・ザット・ウィア・デッド(Now That We’re Dead)」で原点回帰的スラッシュ・サウンドを鳴らしている。

プレイリスト:「ツー・バイ・フォー」 / 「インヴィジブル・キッド(Invisible Kid)」 / 「プリンス・チャーミング」 / 「ナウ・ザット・ウィア・デッド(Now That We’re Dead)」 / 「スウィート・アンバー」 / 「フューエル」 / 「ウェイスティング・マイ・ヘイト(Wasting My Hate)」 / 「バッド・シード(Bad Seed)」

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実験的芸術編

METALLICAは数曲しか知らない、というリスナーは、彼らに文化的素養があることを知らないだろう。しかし、デニム野郎時代から、マカロニ・ウエスタンの名作『続・夕陽のガンマン(The Good, The Bad And The Ugly)』(セルジオ・レオーネ監督、1966年)の挿入歌「黄金のエクスタシー(L’Estasi Dell’Oro)」をSEにするなど、節々から素養を匂わせていた。『ロード』~『リロード』の売れ線期にも、MV監督に映像作家・写真家のアントン・コービン(Anton Corbijn)、アルバムのアートワークに異端のアーティスト、アンドレス・セラーノ(Andres Serrano)を起用。また、THE MISFITSのカバーと同じくらいの情熱と愛をもってニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズ(Nick Cave & The Bad Seeds)のカバー曲を演奏している。マリアンヌ・フェイスフル(Marianne Faithfull)やルー・リード(Lou Reed)など、1960年代のアート・ロックのアイコンたちとのコラボレーションもある。1999年には、サンフランシスコ交響楽団との共演を収録した『S&M~シンフォニー&メタリカ(S&M)』をリリースしている。

実のところ、METALLICAのディスコグラフィーは、ヘドバン必至のリズムやリフだけで出来ているワケではない。目利きの音楽ファンをも満足させる作品が多々あるのだ。前述の『S&M~シンフォニー&メタリカ』で聴くことのできるオーケストラアレンジはすばらしい。特に斬新かつ映画的美しさを備えた「フォー・フーム・ザ・ベル・トールズ(For Whom The Bell Tolls)」や「オブ・ウルフ・アンド・マン(Of Wolf And Man)」は想像以上だ。『デス・マグネティック』の収録曲は、平均7分を越えている。しかし、ルー・リードのポエティックなスタイルの歌唱が光る、すばらしいポスト・ロック・ソングである、『Lulu』の約20分に及ぶクロージング曲「ジュニア・ダッド(Junior Dad)」に比べれば取るに足らない。約40年の活動で生み出されてきた数々の楽曲群のなかにある、こういうMETALLICAらしからぬ、ときに〈異様〉ともいえる作品が、〈METALLICA=頭のからっぽなメタル・バンド〉というイメージが誤解であることを示しているのだ。

プレイリスト:「ザ・ビュー(The View)」 / 「フランティック(Frantic)」 / 「ザ・メモリー・リメインズ(The Memory Remains)」 / 「フォー・フーム・ザ・ベル・トールズ(『S&M』収録)」 / 「ジュニア・ダッド」 / 「ロー・マンズ・リリック(Low Man’s Lyric)」 / 「ダーティー・ウィンドウ(Dirty Window)」

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