四股踏み続けて29年  横綱UNSANEのひとり相撲ここに極まれり
Photo by Dan Joeright.

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四股踏み続けて29年  横綱UNSANEのひとり相撲ここに極まれり

ニューヨークが生んだ〈スーパー・ノイズロック・キング〉UNSANEが、8thアルバム『ステリライズ』を発表。2008年には、結成30周年を迎える彼等だが、その血飛沫ジャンクロックは、衰えるどころか、更にパワーアップして惨殺モード全開である。横綱モード全開なのである。

90年代、世はまさにオルタナティヴ・ロックのバブル期であった。同時にレコード市場も大バブル。お盆、お正月にセールが開催されれば、西新宿のレコード店には前夜から長蛇の列が発生。レコオタたちは、狙いのレア盤をゲットするため、DOLLやら、FOOL’S MATEやら、その後のMIXやら、さらにその後のREMIXやら、気取ったヤツはNMEやらの音楽誌で時間を潰しながら、開店を待ったのであった。(スマフォなんかありませんでしたからね)

〈レコオタ〉とはいっても、普通に輸入盤を追っている音楽ファンなら、半数がレア盤を求めていたと思う。7インチシングル1枚に5000円以上の出費は当たり前。町の普通の中古盤店でお宝を格安ゲットできた日にゃー、完全ヒーローになれた。いっぽう、「SICK OF IT ALLのオリジナル1stシングルのデッドストックが出た! たった1000円だったよ!」 「残念ー、これはブートでーす。カッティングが〈Revelation: 03〉ではありませんからー」なんて、ハメられるパターンも多数。ニセモノが市場を席巻するくらい、レコード市場は賑わっていたのだ。

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そんな日本オルタナティヴ・レコード市場の主役だったのが、大阪・心斎橋の〈TIME BOMB RECORDS〉。90年代の幕開けとともにオープンしたこのレコード店は、画期的なシステムを導入し、シーンに大きな衝撃を与えた。なんと、DOLLやCROSSBEATなどの掲載広告に、レア盤の値段をがっちりと表示したのだ!! それまでも各ショップのレア盤リストは、音楽誌に広告として掲載されていたのだが、いかんせん値段がわからなかった。寒い暑いを耐えて並び、やっとこさで狙いのレア盤を手にしても、あまりに予想とかけ離れたプライスに、泣く泣くあきらめるパターンも多かった。しかし、TIME BOMBなら購入前からひと安心。ちゃんと事前にお財布と相談しながら、無理のないよう戦いに臨ませてくれたのだ。だもんで、うちの編集長も鈍行列車で大阪まで行ったらしい。彼はボムで『NO NEW YORK』のオリジナル盤と、「どっかのB級サイケデリックバンドのLP。忘れたー」を片手に、再び鈍行で帰京したようだが、〈なぜ通販にしなかったのか?〉なんて質問は野暮である。東京モンはボムに行きたかったのだからー。かく言う私も行った。CROSSBEATの広告で、〈あと1枚でディスコグラフィーコンプリート!〉のブツを発見してしまったから。前置きが長くなってスイマセン。その1枚こそ、今回の主役UNSANEのシングルであった。

まだ続きます。私がボムで購入したのは、UNSANEの〈SUB POP SINGLES CLUB〉シングル。知らない方に説明をしておくと、当時〈SUB POP RECORDS〉は、年会費を払ったメンバーに月イチで限定シングルを送るという、レコオタにはたまらないシリーズを続けており、UNSANEのシングル「Vandal-X」も〈1990年9月号〉としてリリースされたのであった。ボムでの値段は、たしかゴッパチの5800円くらいだった気がする。やっと入手した全裸血みどろジャケを眺めながら、新幹線で帰京したのは20代前半。同行した彼女はSISTERS OF MERCYのなんかを買っていた。ゴスっ娘だった。

そのゴスっ娘と観たUNSANEの初来日公演は1995年であった。血飛沫が轟音となって放たれ、行ったこともないニューヨークの殺伐感を新宿ロフトで自分なりに堪能し、理解したつもりだった。ただ、当時を振り返ってみると、よくもあんな時代にUNSANEが来日できたなと思う。もちろんインターネットなんて普及していない。テレビやラジオで告知されるわけでもない。ロッキング・オンにUNSANEは載っていない。なのに、ライブ会場はいい感じに埋まっている。実は80年代後半から90年代中盤にかけて、そんな外タレ公演はかなり開催されていた。SONIC YOUTH、SWANS、FUGAZI、MUDHONEY、SHELLACあたりのスターは置いといて、どうしてUNSANEは日本に来れたんだろう? どうしてCOP SHOOT COPは来れたんだろう? どうしてCOWS? どうしてSTELL POLE BATH TUB? どうしてジョンスペブレイク前のPUSSY GALORE? ああ、HELMETも爆発前に来ていたなぁ…。もちろん専門誌では取り上げられていたし、招聘者による努力の賜物があったからこそ、大成功とまではいかなくても成り立っていたのだろうが、(FUGAZI、MUDHONEY、COWSは、ボムさんが呼んでいた)でも、やっぱ、あんな血みどろジャンクのUNSANEを筆頭に、米国産地下バンドの日本公演に、たくさんのお客さんが集まるなんて異常だったし、現在の状況に置き換えて考えてみたら、当時のUNSANE級バンドの単独招聘なんて、誰もやらない、絶対に無謀な賭けになってしまうだろう。どうしてお客さんは来ていたのか? どこで情報を仕入れていたのか? その答えこそ、ボムやら西新宿やら吉祥寺やら栄などから、フリスビーの如く全国に飛び交ったレコードにあるのではないだろうか。

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先述の〈SUB POP SINGLES CLUB〉を例に考えてみる。限定シングルなので、プレス枚数は決まっているのだが、その主なメンツとプレス枚数を見ていただきたい。

NIRVANA 「Love Buzz」限定1000枚
SONIC YOUTH // MUDNONEY 「Split」限定3000枚
FLAMING LIPS「Drug Machine」限定1500枚
TAD//PUSSY GALORE「Split」限定2500枚
RAPEMAN「Inki’s Butt Crack」限定2500枚
FUGAZI「Song # 1」限定2000枚
ROLLINS BAND「I Know You」限定4000枚
SOUNDGARDEN「Room a Thousand Years Wide」限定5000枚
POISON IDEA「Taken By Surprise」限定4500枚
NIRVANA//FRUID「Split」限定7500枚
少年ナイフ「Neon Zebra」限定5000枚

そしてボムで購入したUNSANE。

UNSANE「Vandal-X」限定4000枚

「限定盤なのにプレス枚数が多い!」。はい、正解です! そうなのだ。現在の市場に置き換えると、超限定でもなんでもない。初週でこれくらいの枚数を売り上げれば、今ではオリコンチャートにインしてしまう数字なのだ。そんなレコードが5000円以上、NIRVANAクラスになると2〜3万円で市場に出回っていたのだから、通常の限定でもなんでもないLPは、何倍も何十倍も大きなマーケットに流れていたと容易く考えられる。実際、FUGAZIやJEJUS LIZARDなどの大物インディーバンドは、全米でコンスタントにアルバムを1万枚以上売り上げていた。これを世界規模で考えると、さらに膨大な数のレコードが出回っていた事実がわかる。そう、みんなレコードでバンドを知った。レコードでUNSANEを知った。〈聴いてから買う〉のではなく、〈買ってから聴く〉が当たり前の時代だったからこそ、当時の音楽ファンは、情報をレコードからゲットして、ライブ会場に真摯に足を運んでいたのである。その人数は、間違いなく現在より多かったであろう。インターネットでなんでも聴ける時代よりも、当時の方が、UNSANEを代表とする地下モンスターは、ポピュラーな存在だったのだ。

しかし、インターネットの進化と共に、マーケットは、あっちゅーまに消えてしまった。〈聴いてから買う〉どころか、〈買わなくても聴ける〉になった。と、同時にバンド自体も淘汰されてしまう。情報が速くなればなるほど、地力のないバンドは、簡単に消費され、飽きられ、捨てられた。そしてアイドルだったあのアーティストたちも、流れに乗れずに踠きはじめた。HELMET、JEJUS LIZARD、STEEL POLE BATH TUB、COWS、COP SHOOT COP…。現在も活動中のバンドもいるが、残念ながらもう現役バリバリではない。初々しかった日本公演の思い出を肴にして、酒を飲んでいるに違いない。いや、ごめん。いる。まだまだバリバリがいる。前置きが長くなって本当にスイマセン。ボムでお世話になったUNSANEだ。

そのUNSANEが8thアルバム『ステリライズ(Sterilize)』を発表した。実に5年ぶりのアルバムであるが、その前も5年だったので、久々感は皆無だし、インターネット時代にはこれくらいのほうがいい。ついでにいうと、4thアルバム『オキュペイショナル・ハザード(Occupational Hazard)』から、5thアルバム『ブラッド・ラン(Blood Run)』までは8年があいた。1997年から2005年の期間だったので、時代が大きく変化したネットの洗礼から、見事に逃れられたともいえる。そう、巷の状況なんて気にしなくても良かったのかもしれない。ラッキー。そんなUNSANEの歴史を簡単に振り返ってみよう。

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UNSANE『ステリライズ』

UNSANEは、1988年にニューヨークにて結成。中心人物は、ヴォーカル/ギターのクリス・スペンサー(Chris Spencer)。活動を始めた頃、ここ日本では、PUSSY GALORE〜BLUES EXPLOSIONのジョン・スペンサー(Jon Spencer)の弟とされていたが、これはまったくのデマ。当時リリースされた日本盤CDのライナーにも明記され、私自身も何十人もの人々に「ジョンスペの弟のバンドだよ! ジャンク兄弟だよ!」と触れ回ってしまった。この場を借りてお詫び申し上げます。ごめんなさい。’91年にファーストアルバム『Unsane』を、今や総合ビッグレーベルに成長した〈MATADOR RECORDS〉からリリース。〈首チョンパ死体ジャケ〉同様に、キレまくりの〈ノイズロック〉で瞬く間にシーンの中枢に躍り出た。その後、オーヴァードーズによってドラマーが死亡するアクシデントがあったものの、MATADORが大手レーベル〈ATLANTIC〉の傘下になったため、93年にはセカンド・アルバム『トータル・ディストラクション(Total Distraction)』で、まさかのメジャーデビュー。ジャケは〈人を轢き殺した車〉。もちろん血みどろ。こんなのがメジャーからリリースされる時代だったわけだが、やはりメジャーとはウマが合わず、サード『スキャタード、スマザード&カヴァード(Scattered, Smothered & Covered)』は、ノイズロックの名門〈Amphetamine Reptile〉より95年にリリース。ジャケは〈惨殺後のトンカチ〉。もちろん血みどろ。初来日、そしてSLAYERとのツアーなどでキャリアを積んだUNSANEは、さらに名門の〈Relapse Records〉に移籍し、『オキュペイショナル・ハザード(Occupational Hazard)』を発表。ジャケは〈血みどろの橋脚〉。その後、長期休止状態に入り、カリフォルニアに移住したクリス・スペンサーは、94年からUNSANEのベーシストとして加入しているデイヴ・カラン(Dave Curran)と共にTHE CUTTHROATS 9を結成。UNSANEと大差ないノイズロックをかます。そして05年にブラッド・ラン(Blood Run)』でUNSANEは見事復活。ジャケは〈血風呂から引きずられた死体〉で、同時期には再来日も果たした。続く07年には、マイク・パットン(Mike Patton)のレーベル〈Ipecac〉より、〈ポリエチレンシートに包まれた死体〉の6th『ヴィスクイーン(Visqueen)』 ‎を、12年にはジェロ・ビアフラ(Jello Biafra)の〈Alternative Tentacles〉から、〈血だらけで真っ赤の右手〉の7th『Wreck』をリリース。この時期を前後として、UNSANEの活動自体はゆったりと進んでいく。しかしクリス・スペンサーは、積極的に別プロジェクトも展開。EINSTÜRZENDE NEUBAUTEN、OXBOW等のメンバーによるCELANや、TODAY IS THE DAYのスティーヴ・オースティン(Steve Austin)とはUXOを結成。それぞれ胸アツのノイズロックを展開。この人、本当にノイズロックが好きだなぁ。完全に血みどろが染み付いて落ちなくなってるのだ。

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そんな別活動を経ての『ステリライズ』であるが、やはり本家本元のノイズロックは、UNSANEが最高だ。今や恒例となったレーベル移籍は今回も成されており、今作はSunn O)))のグレッグ・アンダーソン(Greg Anderson)主宰の〈Southern Load Records〉からのリリースとなった。作品内容も、これが見事なまでにUNSANEのままで…ってか、本当にまったく変わらない。どっから聴いてもUNSANE。よく知らないけど、スピッツみたいなものだ。それこそファーストアルバム『Unsane』の次に、この『ステリライズ』がリリースされても、誰もがすんなり受け入れてしまうほどの王道ノイズロックが確立されているのだ。弦で人を切り裂いてしまいそうなジョリジョリのギターと絶叫ヴォーカル、地を這う鈍器系ベースライン、そして「もう死んでるって!」と叫んでも止めようとしない撲殺ビート。悪魔と契約したブルースの系譜も確実に呼吸しているし、グルーヴィーでありながら、ウネるのではなくではなく、一方的に襲ってくる波動の感覚が気持ち悪いし、マジおっかない。どれだけ私たちは血飛沫を浴びせられるんだ。どれだけ包丁で切られるんだ。どれだけトンカチで殴られるんだ。どれだけ車で轢き殺されるんだ。これはもうUNSANE史上何度目かの横綱全勝優勝四股しこアルバムなのであった。

とにかく変わらないのがUNSANEの強みだ。音楽市場の劇的な変化により、90年代のオルタナ系バンドのほとんどが、生存競争に負けてしまった。しかし、もうちょっと考えてみると、音楽スタイルを合わせなくてはならないくらい、自身の放つべき音が確立されていなかったともいえる。レコードが売れなくなっても、CDが売れなくなっても、〈聴いてから買う〉になっても、〈買わなくても聴ける〉になっても、アーティスト側がそこに合わせる必要はないのだ。何事にも惑わされないガチガチのオリジナリティがあれば、いつでも勝負できるし、いつでも勝てるし、勝負する必要もない。だって、ひとり相撲なんだから。そして実際にUNSANEは、ずっと勝ってきた。15勝0敗を29年間も続けてきたのだ。

さて、だったらやっぱり生で大横綱の取組が観たい。でも先述通り、20年前よりも日本におけるUNSANEのファンは減っているだろう…というか、増えていないだろう。キッズのみなさんにぜひUNSANEを知ってもらいたい。そして聴いてもらいたい。好きになってもらいたい。あれなんすよね…、レコード復活なんすよね? レコードブームなんすよね? 正方形の厚紙を小脇に抱えてりゃクールなんすよね? 内容なんて関係ないんすよね? ラフトレのトートバッグに入れたら最高すよね? だったらぜひUNSANEのDiscogsを覗いてください。悔しいけど、ボムさんで購入した「Vandal-X」が884円から! 西新宿で6000円出したデビューシングルは1324円から! サードシングルなんか661円ですぞ!! 通常アルバムのCDに至っては、300円台なんだからー。『ステリライズ』を皮切りに、UNSANE作品のコンプリートをスタートさせちゃうのはいかが? ちなみに『ステリライズ』のレコードは、限定300枚のレッドヴィニール。時代を感じるプレス数であり、もちろんSouthern Loadのサイトでは、速攻ソールドアウトになっている。しかし、そんなブツこそ、探し甲斐があるわけで! 新しい〈レコオタ〉さんたちが集合する来日公演を、久々に心から味わってみたい。

UNSANE『ステリライズ』9月27日 日本先行発売(日本盤はボーナストラック2曲収録)