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アフリカとヨーロッパを繋ぐコカイン・ロード

ヨーロッパで消費されるコカインの大半は、飛行機でロンドン、マドリッドに到着する。ベネスエラで出会った密売人によると、カラカス発のルフトハンザ航空機には毎便、最大で100人ものコーク・ミュールが搭乗しているらしい。

タイ、カナダ、西アフリカ、北欧など、世界を股にかけた、米連邦麻薬取締局(United States Drug Enforcement Administration, 以下DEA)の極秘任務についてはあまり知られていない。捜査対象国政府に、いっさい通知せず遂行される任務もある。

DEAによる極秘任務は、コカイン密売人、武器密売人、テロリスト、腐敗した軍部や政治家が関わる、世界規模の麻薬取引を白日のもとに晒す。世界中が最も驚愕したDEAの捜査は、2013年、ギニアビサウ沿岸で起きた事件だ。ギニアビサウは西アフリカの小国で、極度の政治腐敗により、世界有数の無法国家として知られている。DEAのエージェントたちは、コロンビアの左翼ゲリラFARC(コロンビア革命軍)のメンバーを装い、ギニアビサウの元海軍トップ、ジョゼ・アメリコ・ブボ・ナチュト少将を偽装麻薬取引により拘束した。その結果、少将は、4000マイル(約6400km)離れたブルックリンの刑務所に送り込まれた。

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HBOの「Lines in the Sand」で、DEAの特別捜査官ルー・ミリオーネ氏に取材すると、囮捜査について説明してくれた。

DEA特別捜査官のルー・ミリオーネは捜査を振り返った。「我々は麻薬密売人になりすました。作戦の初期段階では、真のギニアビサウのリーダーとの連携を企む本物のFARCメンバーもいた。潜入できたのは運が良かったとしかいいようがない。潜入後、我々は、FARCメンバーのフリをした」

ナチュト少将と軍隊がベネズエラからコカインを空輸している、との情報をDEAは入手していた。そこで、DEAは、大型の豪華ヨットに少将を呼び寄せ、拘束しようと画策すした。偽FARCとの長期に渡る連携、庇護が得られるのであればギニアビサウを通過するコカイン1トンにつき100万ドル(約1億1千万円)を支払う、という偽のオファーに、少将まんまとおびき寄せられたのだ。

チームはナチュト少将を押さえ込み、逮捕した。ギニアビサウから4000Km、大西洋の真ん中に位置するカーボベルデ共和国までの長い航海にでた。

「当時、我々は、平底船が長距離移動に向いていないのを知らなかった。カボベルデに到着する頃には、船は崩壊寸前だった」。ナチュト少将は、アメリカの法律の下、麻薬密輸の罪で起訴され、ニューヨーク行きの飛行機に乗せられた。

この一件も含め、中南米から西アフリカに密輸されるコカインの最終目的地は、通常、ヨーロッパだ。サハラ砂漠のど真ん中を横切り、大陸を縦断するこのルートには、様々な障害がある。加えて、通過するルートは、「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」をはじめ、過激イスラム集団の支配下だ。

2009年12月の作戦で、DAEのチームは再びFARCメンバーを装い、いわゆる「麻薬密売人」を逮捕した。

「我々は、欧米人誘拐の計画を立てるため、AQUIMと繋がりのあるマリの密売人たちとガーナで交渉した。当然、交渉は作戦の一部だ。現地の状況を暴き、彼らを告発しようとした。彼らは、我々が本当に500キロから1000キロのコカインを、スペインまで運ぼうとしていると信じていた」とミリオーネ捜査官は話してくれた。

「連中は、コカインをスペインまで運ぶのに、1キロあたり3000ドル(約35万円)要求してきた。つまり、あの1回の取引だけで、連中の儲けは150万ドル(約1億7千万円)だ」

DEAが西アフリカで撮影したスクープ映像は、中南米の麻薬カルテル、アルカイーダと提携する過激イスラム集団、両者の関係を世界で初めて実証するものである、と彼らは主張している。

砂漠を渡るコカインの痕

私たちは、ベネズエラで、明らかに西アフリカを目指す1千万ドル(約1.2億円)相当のコカインを目にした。その後、ニジェールのアガデスに向かった。この小さな町は、サハラ砂漠の南端に位置している。ここなら、ヨーロッパに向けて北上するコカインを見つけられるのでは、という期待があった。古代より密輸の要衝であるこの土地は、麻薬取引のおかげで、今でも活気に溢れている。

混沌としたリビア南部を通過する長旅のためにカスタムされた、新品のTOYOTAがアガデスの街には並んでいた。 GPS搭載機器、衛星電話が街の至る所で販売されている。盗賊が麻薬コンボイを奪い何百、何千ドルもの大金を奪い取ろうとしている話を、トゥブ族の男性が教えてくれた。現地で知り合った、ある密売人は、砂漠での大取引に向けて、夕暮に街を発つ10台の麻薬コンボイの情報を提供してくれた。

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過激イスラム集団は、驚くほど街の近くまでくる。最近開催された音楽フェスティバルの主催者によると、「ヘッドライトも灯けずに円周上を走行する完全武装したコンボイ」によって中断されたそうだ。

DAEによると、過激イスラム集団は、この地域を通過するコカインに「課税」しているそうだ。その収益を組織のジハード資金にしている。英政府の報告書によると、AQIMをはじめとした過激イスラム集団は、明らかに教義と矛盾したコカイン課税を問題視していないという。報告書には「神学上、イスラム教徒をサポート目的で麻薬売買に関わるのが教えに反するとはされていない」「麻薬密売に関わるのは『良きイスラムの生活』を支える方法として、神はこれを許す」と記されている。これはまさに「歴史のなかで奴隷商人が奴隷取引を正当化するために用いた方便」そのものなのだ。

DEAの熱狂的な主張にもかかわらず、ニジェールで、コカイン取引の動かぬ証拠は見つかっていない。だが、私たちはリサーチの途中、飛び抜けて有能なジャーナリストに出会った。彼は、約800グラムのコカインを撮影したデータを私たちに提供してくれた。ヨーロッパでの末端価格は5万ドル(約570万円)になる。コカインは地元の警察に回収されたそうだ。

私たちが知るかぎり、これは、コカインがアガデス、もしくはこの地域一帯への浸透を裏付ける初めての証拠だ。ヨーロッパを目指す麻薬は、ほぼ間違いなく、過激イスラム集団が「護衛」する地域を通る。ジハードの資金源である麻薬は、DEAによると、集団によって厳重に守られているはずだ。そうなると、映像のコカインは、ニジェールの密売人(もしくは、ヨーロッパへの交通費と引き換えに、麻薬を運ばされた人身売買の犠牲者)から警察が押収したものであろう。

それだけでない。ニジェール政府は、2006年、笑えるほど少量のコカイン56gを押収し、報道した。間違いなくこのコカインは、売り捌かれたか、警察から流出して密売ルートに戻されたか、どちらかだろう。

ヨーロッパで摂取されるコカインの大半は、飛行機でロンドン、マドリッドに到着する。ベネスエラで出会った密売人によると、カラカス発のルフトハンザ航空機には毎便、最大で100人ものコーク・ミュールが搭乗しているらしい。それだけでは需要に追いつかないので、今この瞬間も、大量のドラッグが大西洋を航行し、アフリカの砂漠を駆け抜けている。その途上で待ち構える、武器商人、テロリスト、政治家の懐を潤しながら、大量のドラッグがヨーロッパを目指していのだ。