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政府とFARCの和平合意の是非を問う国民投票に参加する先住民女性. Photo by REUTERS/Jaime Saldarriaga

コロンビア共和国のフアン・マヌエル・サントス大統領の2016年ノーベル平和賞受賞が決定した。9月26日に実現した和平合意への署名に至る、4年以上にも及ぶ政治的努力がその理由だ。しかし、サントス大統領の受賞直前、10月2日、投票率は32%という低さであったものの、和平合意の是非を問う国民投票では、反対票が僅差で賛成票を上回り、コロンビアの先行きに暗雲が立ち込めた。国民投票の後、ノーベル平和賞を受賞したサントス大統領は、同賞で受け取る賞金を内戦の犠牲者たちに寄付する、と発表したが、それだけでは何も解決しないだろう。大統領のノーベル賞受賞など意に介さない和平合意反対派の動きは以前にも増して活発になり、和平合意の当事者である反政府組織の内部には、合意条件の履行に異を唱える幹部もいる。

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コロンビアの元大統領、アルバロ・ウリベ(Alvaro Uribe)氏は、2002-10年の在職期間中、国内最大の反政府組織FARC()と対峙し、熾烈な軍事作戦を遂行した。ウリベがこの3年、反政府組織と現職大統領の歴史的和平合意妨害に尽力した結果、かつては対ゲリラ戦の盟友であった現職のアン・マヌエル・サントス大統領を敵にまわした。

2016年10月2日、ウリベ氏の尽力は報われ、コロンビア国民は和平合意に叛意を顕したため、サントス大統領が推進する和平合意への賛意は、国民投票の結果、紙一重の差で敗北した。今、ウリベは新しい合意条件を提示しようとしている。コロンビア国民22万人以上が戦死し、約700万人が移住を余儀なくされた、52年にも及ぶ内戦の首謀者FARCにとって、ウリベ氏が模索している条件は厳しい内容になりそうだ。

「『反対』の勝利により、短期的には困難な状況に陥るだろうが、勝利を得て安心した。もし『賛成』が勝利すれば、コロンビアは、より困難な状況に追い込まれていただろう」と3日夜、ウリベ氏はCNNに告げた。「われわれは、みんながが交渉の場に残り、合意の再交渉が実現するよう提案している」

国民投票の敗北に至るまでのあいだ、サントス大統領は、FARCとの交渉において「プランBはない」と言明していた。現在、大統領が決断を国民に委ねた結果、歴史的契約でありながらも政治的後遺産になってしまった和平合意を、大統領がなんとか成立させようとするなら、新たな交渉を進めざるを得ない。

10月5日、サントス大統領とウリベ元大統領の会談が実現した。両者は、和平実現にむけて対話を続ける、と合意したものの、それ以外の点で両者の見解は全く合致しなかった。

しかし、簡単に政敵との妥協点を見出せる、平和を求めるコロンビアが血塗られた数十年の歴史を経てなお内戦を再開する、そんな2つの選択肢しかない、と勘違いするような単純な政治家がいないのは確かだ。

以上は、FARCについて考える以前の問題だ。

2日の国民投票は、サントス大統領とFARCのティモチェンコが、9月26日に開催された記念式典で和平合意に署名してから1週間も経っていなかった。その結果、和平合意の実施は暫定的に進行していた。

投票結果の衝撃がティモチェンコを襲ったが「FARCは、合意に忠実であり続ける」と3日に発表した動画で彼は断言している。彼の発言は、反政府組織による和平合意の再確認、既に決定した条件変更への不満、そのどちらとも解釈できる。「今回の国民投票には何ら法的効力はない。投票の影響は政治に対して『のみ』である」

その後、サントス大統領は、突如、停戦合意の期限を10月31日に設定した。ティモチェンコは、大統領の決断に不快感を示している。彼は、4年以上にも及ぶ交渉の結果を放棄せざるを得ないであろう再交渉の場に、反政府組織を前向きに参加させられるのだろうか。

FARCのパストール・アラペ(Pastor Alape)前線司令官は、「全部隊は安全が確保できる場所に移動すべきだ」とツイートし、進行中の組織解体と武装解除を速やかに中止するよう主張した。

今のところ先行きは不透明だ。

しかし、政治力が勝利した。今回の騒動のなかでも、一番の勝利者はウリベ元大統領だ。数多の騒がしい反対運動は、和平合意の撃沈に大きな役割を果たした。

ウリベ氏を支援する和平合意反対派「ウリビスタ(Uribistas)」は、反政府組織の幹部たちが内戦中の残虐行為を自白すれば懲役を免れる、もしくは減刑されるであろう特別裁判、FARCが政党に移行するのであれば向こう10年のあいだ、国会内で同組織に議席が割り当てられる、という和平合意の諸条件を問題視した。

「FARCは今回の結果に直面して国民が組織の味方でないのを痛感し、『ハバナでの合意』以上の敗北を認めざるを得ないでしょう」とはNPO団体「ワシントンオフィス・オン・ラテンアメリカ(Washington Office on Latin America)」の幹部で地域安全保障政策を担当するアダム・アイザックソン(Adam Isacson)の見解だ。「反政府組織が今より譲歩しなければならないとなると、彼らが合意を受け入れる可能性は低くなるかもしれません」

FARCの現状は、とりわけデリケートだ。戦闘員7、000余名の一部は国連監視下の解体促進キャンプに移住し、一般市民としての生活を始めようとしていた。

「現在、和平プロセスは凍結中です」とアイザックソン。

和平合意によって、いつでも活動を再開するであろうFARC戦闘員の逮捕令状は留保されている、ともアイザックソンは指摘した。他のアナリストによると、戦闘員たちは、もしFARCの解体が実現したら、自らが報復から守られるのか否かを気にかけているようだ。それと同時に、国民の大勢がFARCを憎悪するなかでの組織解体努力とともに、戦闘員による麻薬密売を止めさせねばならないFARC幹部の苦境にも関心が集まっている。

「FARC内部で、変革への見解が相違しはじめているかもしれません」とロンドンを拠点に活動するコンシリテイション・リソース(Conciliation Resources)の紛争解決専門家クリスティアン・ハーボルツハイマー(Kristian Herbolzheimer)は見解を示している。「この状況がどう転ぶかは、内戦でも平和でもない手詰まり状態がどれくらい続くかにかかっているでしょう。FARCの政治参加を、政府に妨害させるのは矛盾しています。今や反政府組織は、法に従い、現行制度を尊重する、と決定しているのですから」

2日の投票結果の衝撃は大きく、サントス大統領の先行きは不明確になった。ウリベ氏に比べるとカリスマ性に欠け、コロンビアの懸念事項よりも国際的コーラスグループに熱をあげ、遅々として進まない数々の経済政策への批判を受けるサントス大統領の支持率は、2日の投票前、20%台まで既に下落していた。

サントス大統領がいようといまいがコロンビア政府は救いようがない、と断定し、2018年の大統領選に視点を移す専門家もいる。政治的駆け引きは既に進行している。ウリベ氏の強力な後援を受ける、和平合意反対派のオスカル・イバン・スルアガ(Oscar Iván Zuluaga)元財務相は、2018年の大統領選への立候補が予想されている。ウリベ氏の大統領選再出馬は憲法により禁じられている。

「政府は政治的にも致命傷を負っている」と著名なコロンビア政治アナリスト、ホルヘ・レストレポ(Jorge Restrepo)はチリの『La Tercera』で言明した。「この状況は、経済に重大な影響を及ぼすでしょう」

多くの専門家は、6月、EUからの離脱を決定した英国の国民投票とコロンビアの大番狂せを重ね合わせている。

「今回の合意は、度重なる交渉によって成立した最善の結果、と断言できます」と元メキシコ外務大臣であり、ラテンアメリカの武装反乱組織に関する数多の著作を上梓しているホルヘ・カスタニェダ(Jorge Castañeda)は、メキシコのRadio Fórmulaでコメントした。「今回の顛末は、われわれにとって重要な教訓でもあります。賢明で正当で合理的な選択が、今日の世界では寄る辺を失っているのです」