チャポ-ペン-カスティーリョ

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ショーン・ペンと、麻薬王エル・チャポ(ホアキン・グスマン)の密会をお膳立てしたことで、ケイト・デル・カスティーリョは、暗く淀んだ世界の麻薬組織の支配者たちと、その伝説で金儲けを企むマスメディア・マシーンが犇めく世界に引かれた、事実とフィクションの境界線を消し去ってしまった。

しかも、彼女はエル・チャポのインタビューに、自らのテキーラ・ブランド「Honor」の宣伝をねじ込んだ。

カスティーリョの、堂々とした、それでいて、どこにでもいる女の子といった感じの存在感は、メキシコや中南米ではもちろん、アメリカ国内に何億人といるスペイン語専門チャンネルの視聴者にも広く親しまれている。

近い将来、彼女は、ショーン・ペンとグズマンの密会を仕組んだとして、取り調べを受けるかもしれない、とメキシコ当局は出処の曖昧なコメントをニュースサイトに流した。

多くのファンにとって、カスティーリョのイメージは、アメリカのスペイン語テレビ局テレムンド(Telemundo)が放送した人気メロドラマ『La Reina del Sur』の主役、テレサ・メンドーサだ。テレサは麻薬王の妻でありながら、悲劇や抗争をくぐり抜け、自身が麻薬組織の支配者への道を歩んでいく。

そして、このメロドラマが人気絶頂期を迎えていた2012年1月に、カスティーリョは、現実世界の麻薬組織シナロア・カルテルのリーダー、エル・チャポについてツイッターに書き込み、彼に「善良な取引」をするよう呼びかけた。

「なにをするべきか、あなたはわかっているはず」と彼女はツイートした。

このメッセージは、麻薬戦争支持者の反感を煽ることになったが、エル・チャポの気を引くのに成功した。

後にカスティーリョが、メキシコのトップ・ジャーナリスト、カルメン・アリステギ(Carmen Aristegui)に伝えたところによれば、彼女のツイートは、エル・チャポに対する応援メッセージというより、むしろ、メキシコの政治の授業で書く批評文のようなものだったという。

さらに彼女は、そのメッセージを、とりとめなく彼女のこころに湧いた、政治と宗教に対する、ハリウッドスターの気まぐれなご意見のひとつ程度に見せようとした。だが、それは、彼女が現実世界で感じるフラストレーションの裏返しではないのだろうか?

『La Reina del Sur』が放映された2011年は、流血の絶えないメキシコ麻薬戦争が始まって以来、最も血なまぐさい1年だった。殺人事件発生率は、10万人あたり22.8件というメキシコ史上最悪の記録で、未だ破られていない。記録更新の原因は多々あるが、エル・チャポ率いるシナロア・カルテルの勢力拡大に加え、それに対して「目には目を、歯には歯を」と政府がカルテルに対峙したのも一因でもある。

カスティーリョが麻薬王に宛てたあつかましい言葉に対し、批評家は弁明するよう警告した。だが、彼女の言葉は、メキシコ国内や国境を越えたアメリカ国内にもいる、暴行とその恐怖に怯えるのにうんざりしたメキシコ人の共感を得たのかもしれない。

2015年11月、カスティーリョはアリステギに「悪者だって善行はできる」と語った。これは明らかに、ショーン・ペンとエル・チャポが出会った1カ月後の話だ。

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メキシコ・シティで開催された『The 33』のプレミア上映会に出席したケイト・デル・カスティーリョ。
2015年8月。 (Photo by Sashenka Gutierrez/EPA)

エル・チャポは、この女優がメッセージに託した感情に同情したのだろう。

ショーン・ペンは『ローリング・ストーン』の記事で、麻薬王がこの女優に花束を贈ったことを明かし、その後、2人のやりとりは、インターネットを介して暗号化されるブラックベリー・メッセージで交わされていた、と伝えた。この2人の関係、その関係ゆえに実現した密会が、シナロア・カルテルの厳重で有名な通信セキュリティを危険に晒してしまったのだろう。だがどうやら、この組織のリーダーは、その賭けに出てみたかったようだ。

エル・チャポは、彼の生涯が忠実に伝えらることを望んでいた、そしてカスティーリョはそれを実現させるのに、ピッタリな女性だったのだ。ペンは、エル・チャポの目標である、彼自身の伝記映画の製作についても語っている。麻薬王との質疑応答を収めた短編動画には、「ケイト・デル・カスティーリョ・プロダクション」の文字が貼り付けられている。これは、エル・チャポ伝への布石ではないのか。

現在43歳のカスティーリョは、メキシコ・シティの芸能界で活動する両親のもと育てられた。彼女は、メキシコのマスコミ界を支配する巨大複合企業、テレビサ(Televisa)で鍛え上げられた。このテレビサは、メキシコ産の「テレノベラ」と呼ばれる連続テレビメロドラマを世界中に広めたテレビ局だ。

カスティーリョは、幼少から数々の映画に出演し、10代向けのテレノベラ『小さな女の子(Muchachitas、ムチャチタス)』(1991)以来、メキシコ芸能界で華々しい活躍を続けている。彼女は2回結婚し、離婚している。元夫の1人は、有名なサッカー選手。

その後、カスティーリョはアメリカに移住し、連続ドラマシリーズ『Weeds』(2009)や映画『The 33』(2015)の出演を経て、スターの座を確立した。彼女はまた、女性の権利を主張する活動を始め、ジェンダーによる暴行を描いた映画、動物愛護を訴える映画を支持するようになる。

テレビサから生まれたのスター女優は、どれだけ有名になろうと、メキシコで起きる事件について何も語るべきではない、とされている。

だが、カスティーリョにとって、メキシコを長年にわたり支配してきた制度革命党(PRI)メキシコと協力関係にあるテレビサに反旗をひるがえすことは、自然な成り行きだったのかもしれない。2012年にPRIが与党に返り咲いてからというもの、カスティーリョは、エンリケ・ペーニャ・ニエト大統領政権の政府に対し批判的な態度を示している。

この反政府的な姿勢は、メキシコのスターたちがハリウッドで成功し, 祖国が抱える問題に対する否定的なコメントで世間を騒がす、という時代の流れにぴったりとハマったのである。2015年のアカデミー賞授賞式で、最優秀作品賞を受賞したアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥは、メキシコ人に「私たちにふさわしい政府を手に入れ、そして築こう」と呼びかけた。

南カリフォルニア大学でコミュニケーション学を教える、ジョッシュ・カン教授は、カスティーリョは、セレブリティが持つ影響力を良く理解しており、それを、公私にわたって反映させる才能がある、と分析する。彼は、「メキシコのホワイトハウス・スキャンダル」と呼ばれている出来事に対するカスティーリョの反応を指摘し、これは彼女が「メディア界の腐敗や、アメリカとメキシコ両国の政治汚職に対し意見を発することを恐れない」証拠だ、と述べた。

2014年後半、アリステギの下で働くジャーナリストたちは、1つのスキャンダルを暴きだした。もしメキシコがもっと健全な民主主義国家だったら、このスキャンダルは、当時の政権を失脚させていただろう。

アリステギの記者たちによると、1990年代に一世を風靡したテレノベラのスター、アンジェリカ・リベラ大統領夫人が白亜の大豪邸を購入。大豪邸購入の手続きは、ペーニャ・ニエト大統領(当時はメヒコ州知事)と懇意の建設会社グルポ・イガ(Grupo Higa) に一任され、所有者もグルポ・イガであった。グルポ・イガは、当時進行中であったメキシコ高速鉄道建設プロジェクトを落札した中国企業と連携していた、コンストラクトラ・テヤ(Constructora Teya)の親会社でもある。

このメキシコで起きた「カサ・ブランカ(白い家)」事件で、職を失ったものは1人もいない。しかし、事件の調査報告書は、ペーニャ・ニエト大統領とアンジェリカの結婚は、ペーニャ・ニエト大統領が現職を得るための政治的ビジネスだったのでは、と拭い難い疑惑を投げかけている。

2015年、カスティーリョは、アリステギのインタビューで、テレビサの女優がもらう程度のギャラでは、7億円相当の豪邸購入などできるハズがない、と彼女の元同僚を非難した。政府は大統領夫人を守るべく、この見解を否定した。

カスティーリョは「テレビサには深い愛着がある」そうだ。「私の両親はテレビサのおかげで生活することができた。でも、私たちがそんな多額のギャラをもらったことは1度もない」

カスティーリョのメキシコ国内政治に対する物言いは、彼女の、メキシコ・メディアの限界を突き破るちょっとした才覚でもある。

彼女は、何ヶ月にも渡って、Netflixの 『Ingobernable』というタイトルの連続ドラマの収録にかかりきりだった。このドラマでカスティーリョは無慈悲な大統領夫人の役を演じている。

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カスティーリョとメキシコ人俳優ディエゴ・ルナ。2014年12月(Photo via EPA)

1月11日の朝、カスティーリョは広報担当者を通して、取材訪問の要請を断った。

エル・チャポは、再びメキシコの刑務所に戻った。信じがたいことに、昨年7月、手下に掘らせたであろう約1.6kmのトンネルを、逃走用に改造されたバイクで駆け抜け脱獄した刑務所に再び収監されたのだ。メキシコ当局は、ショーン・ペンとグズマンの密会が逮捕につながった、と発表している。

ショーン・ペンが説明するとある場面でのカスティーリョは、彼女のお気に入りの役だった「テレサ・メンドーサ」の人格が乗り移ったようだ。彼女は勇敢にも、ペンとスタッフを乗せたトラックのハンドルを握り、追いかけてくる嵐を振り切り、エル・チャポとの密会場所に向かった。『La Reina del Sur』のストーリーの元となった小説の著者は、「あなたの、未だに、テレサ・メンドーサ的なところが好き」とカスティーリョに向けてツイートした。

ショーン・ペンとカスティーリョが、アメリカもしくはメキシコ当局による取り調べを受ける可能性も否定出来ない。2015年9月、カスティーリョはアメリカ合衆国の市民権を取得を、ドナルド・トランプに伝えている。「はっきり言わせてもらいます。あなたを支持しません」

カン教授は、「もし、ショーンやカスティーリョが、ジャーナリストを気取り、彼らを追いつめたとしても、我々が目にするのは『政治ごっこ』だ。スペクタクルから生み出されるスペクタクルでしかない」と懸念する。「二人がいくら追い詰めても、刑事免責問題、汚職、大量死を防ぐための闘いには何の役にも立たないだろう」

『ローリング・ストーン』のインタビュー、エル・チャポとカスティーリョのやりとりは、カスティーリョと、彼女のテキーラ・ブランドのマーケティングに対する、大きな疑問を呼んでいる。 それと同時に、麻薬王たちを美化するナルコ・バラッド、アメリカのヒップホップ、大ヒット映画や人気ドラマを産出し続ける、ナルコ・ポップ・メディア全体にも疑いの眼差しが向けられている。

カン教授は「『ケイト・デル・カスティーリョ・プロダクション』の名を、インタビュー映像の最後に表示させたということは、カスティーリョは、超えてはいけない一線を超えてしまったということなのか? これは、彼女がエル・チャポの伝説を『所有』しているということなのか? そして、彼の伝説を所有しているとなると、彼女はこの伝説を『コントロール』できるということなのだろうか?」と疑問を呈し、こう続けた。「今のところ明確な答えはわからないが、唯一わかることがある。一連の出来事で、彼女は、誰からもネタにされる『格好の的』になってしまった」