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2016年初頭、米国人ジャーナリスト、ライアン・フェイス(Ryan Faith)は、第三者ならではの視点で日露関係を読み、今後を展望した。国内では感情的に扱われることの多い北方四島だが、いち国際関係として捉えれば新たな視点が開ける。2016年末の日露首脳会談の結果を踏まえて当記事に接すれば、当事者であるが故の利点、欠点を知るヒントになるかもしれない。

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日本の安倍晋三首相は、日露両国が最終的に平和条約を締結するための会談を要請している。日露間で平和条約が締結されていないのは、驚きだろう。

現在の状況を確認する。ロシアはウクライナを併合しようとしている。日本と中国はほぼ恒久的な緊張状態にある。1940年代以降、日露間で戦争ははない。

厳密を期せば正確さに欠けるものの、ソビエトと日本軍の戦闘は、1945年末で全て終了したが、外交の場で戦争は続いている。太平洋戦域では、1951年、日本と各国がサンフランシスコ講和条約に調印し、正式な平和が訪れた。しかし、南千島列島を占領していたソビエトは、講和条約への調印を拒否した。ソビエト連邦と日本の正式な停戦交渉は、5年後の1956年10月19日まで長引いた。その結果は、両国間の平和状態ではなく、戦闘状態終了の宣言だった。

北西環太平洋の地形に詳しくない読者のために説明する。約1,300Kmのあいだに点在する島々からなる千島列島は、日本の北東端とロシアのカムチャッカ半島南端を繋いでいる。点在する島々の南岸は太平洋に面し、北岸はオホーツク海に面している。

日本とロシアは、広島と長崎に原爆が投下されるまで、ここ数世紀のあいだ、諸島をめぐって争いを繰り広げていた。ソビエトは千島の端から端まで、全島に殺到し、さらには北海道に上陸し、本州侵攻の準備まで始めていた。ソビエトの作戦が実行される直前に、日本はポツダム宣言を受諾した。

1945年、日本が連合国に降伏して戦争は終結していたが、同国は、千島列島のうち何島かの領有権を頑として譲らなかった。ソビエトは、自国の列島領有が、ほぼ完全に合法である、と認識しており、日本に領有を諦めるよう強く要請した。当時は冷戦の影響はなかったので、日本はソビエトの要求を拒否できる立場ではなかった。にもかかわらず、日本は、千島南端4島は日本固有の領土であり、大日本帝国時代に獲得したのではない、という主張を決して放棄しなかった。

1956年、日ソ共同宣言により、日ソ両国は、領有についての合意に達しないまま、交戦状態の終結を表明した。千島列島問題の解決は、平和条約を正式に締結するための〈To Do〉リストに組み込まれた。平和条約の棚上げは、両国に外交交渉の余地を残し、長引く会議を終わらせた。

その後、月日は流れ、ソビエト連邦が崩壊してロシア連邦が誕生した。それでも、領土問題は未解決のまま、平和条約も締結されていない。両国の熱狂的国粋主義者は別に、この問題は、等閑に付されるべきではなかろうか。

しかし、問題に結びつく興味深い2つの事柄がある。核兵器と化石燃料だ。

現在に至る領土問題は、原爆投下による第二次世界大戦終了に端を発している。まずは、核兵器と領土問題について。

潜水艦搭載型核ミサイルは重要な安全保障手段である。もし、強大な核の魔力とともに他国が忍び寄ってきたら、潜水艦に搭載されたミサイルは奇襲を挫く有効な手段になる。しかし、そのためには、核兵器を搭載した自国の潜水艦を、敵国が発見して破壊するのを防がなければならない。

アメリカとロシアは、敵国に自国の潜水艦を発見されないよう、両国それぞれの戦略を執っている。アメリカは、ミサイルを搭載した静音性の高い潜水艦を、いかなる兵器の射程にも収まらない極めて辺鄙な海中に配備し、海流になりすますよう懸命に努力しながら、深海をくまなく航行している。これは、巨大な干し草の山の中に目に見えないほどの針を隠すかのようなアイデアだ。

しかし、ロシアのミサイル潜水艦はそれほど高性能ではない。そのためロシアは、たとえ巨大な干し草の中に隠しても発見されるだろう、と想定した。そして、ロシアは別の妙案を採用した。海軍基地の稜堡化だ。

基本的にロシアは、隠れおおせるほど高性能ではない自国の潜水艦が他国に発見、破壊され、手痛い損害を被る可能性を把握している。ロシアは、狭く、支配の容易な水域を利用して、自国の潜水艦が敵国の潜水艦に発見されないよう警戒し、探索している潜水艦を探知し撃退しようとしている。この戦略は、干し草の中に針を隠すようでいて、実際は、干し草に近づいてくる敵の鼻をへし折る戦略だ。もしアメリカが稜堡戦略を取れば、ミシガン湖の監視であろうと核ミサイル搭載潜水艦を派遣し、セントローレンス水路を航海するロシア海軍を猛追するであろう。

話を千島列島に戻そう。地の利から偶然オホーツク海に建設されたソビエト太平洋艦隊の海軍稜堡は、突如として世界の関心を集めるようになった千島列島に接している。島々のあいだをぬって航行しなければならない千島列島海域は稜堡防衛戦略上、敵艦を厳重に監視し、機雷を存分に敷設できる重要な海域だ。それに加え、島にはあらゆる軍事施設を受け入れられる。

机上の空論であれば、潜水艦探索用の対潜哨戒機を北海道から発進させられるが、それは米国の潜水艦が稜堡のなかを、意のままに航行するのとは全く別の問題である。そのため、ロシアがこの列島を手放すと、同国が有する〈核の抑止力〉が著しく脆弱になってしまう。

もしそうだとしたら、なぜ、安倍首相は2012年の選挙でのマニュフェストを履行するために、2013年、モスクワ訪問を敢行したのだろう。〈非核〉を頑なに貫く日本は、いったいどうして、ロシアの核抑止力の傘下に入りたがるのだろう。

この振る舞いは経済と切り離せない。オホーツク海底には、航海と貿易航路の自由など、ちっぽけな利益を凌駕する経済効果をもたらす石油、天然ガスがある。日露両国は海底油田の共同開発を予定している。つまり日本は、海底資源から利益を得ようとしており、そのために利用できるものは全て利用するつもりなのだ。

今はどこに目を向けるべきか。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、日本が千島についてとやかくいわないのであれば2つの小島を返還する、と提案した。しかし、この提案により、国粋主義者たちが国境を越えていがみ合い、歩み寄りが困難になっている。色丹島と歯舞群島の返還は、はじめの1歩であり、後々、国後、択捉島も返還されるだろう、と日本の期待は高まっている。

さらに詳しく調べる。プーチン大統領の提案には、理にかなった素直さがあり、全く馬鹿げたものではないことが2島の地理的条件から明らかだ。この2島は千島列島の中でも、太平洋側に位置しており、ロシアが国後、択捉島を保有する限り、太平洋からオホーツク海へのアクセスを管理できるのだ。

2島の返還、というと日本にとっては最善の妥協点のようでもあるが、ロシアにとっては、同国の全領土に比べればちっぽけな2島に過ぎない。日本の極右勢にしてみれば、2島返還であれば由々しき失敗であろう。

となると、なぜこの交渉が重要なのか。そもそも、日本はモスクワとの緊密な関係を求めている。現状のまま太平洋で本格的な戦争が起きれば、北辺で起きるであろう中国、ロシア海軍との戦闘激化は避けられない、と日本は予想している。遠方とはいえモスクワとの協力関係を確固たるものにする、もしくは、モスクワが東京にあからさまな敵意さえ向けなければ、日本は、国際情勢のなかで自国に有利な戦略的ポジションを維持できる。とにかく、東京がモスクワと昵懇の間柄であれば、それは、危機的状況における切り札であり、暫定的にでも国交を開き続ける理由になる。

最終的に、たとえ両国が合意に達しなくとも、より多くの選択肢を交渉材料として残しておけば、双方が納得できる何らかの解決策を見出す機会も増え、2国間の継続的な対話も可能になるだろう。