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北朝鮮の最高指導者、金正恩(キム・ジョンウン)の異母兄である金正男(キム・ジョンナム)が、2017年2月13日にマレーシアのクアラルンプール空港で殺害された。Facebookで彼の個人アカウントを見てみると、彼の人生のもうひとつの面が見えてくる。なんともかわいいリスが木の実を食べている姿がプロフィール写真。しかもそのリスには、2015年のパリ同時多発テロ事件の際にFacebookで導入されたトリコロールフィルターがかけられている。そして彼はその写真に、「ヨーロッパが恋しい!」とコメントを残している。

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インターネットやメディアでのリベラルな発言から、北朝鮮政府からは要注意人物のひとりとされていたであろう金正男。2月末には、暗殺に使われたのは猛毒の神経ガス〈VX〉だと報じられた。

金正男は、〈金哲〉(キム・チョル)という名義の偽造パスポートを使って旅しており、それと同じ名前をFacebookの、最近削除されたアカウントにも使用していた。韓国の元諜報員チャ・トゥヒョン(Cha Du-hyeong)が『NK News』に語ったところによると、金正男は隠遁生活を送ろうとしていたわけではないようだ。なぜなら、旅行の写真、セルフィーなどをFacebookのプロフィール写真でオープンにしていたし、金正恩のそっくりさん〈キム・ジョンウム〉や、プーチンの公式ページ、そしてシンガポールにあるガールズバー〈キミドリ〉(フーターズのアジア版のような店)などに、何も考えずに〈いいね!〉していたからだ。

Facebookで金正男を特定するのは容易だった。なぜなら、1970年代後半にジュネーヴとモスクワで学んだ、と学歴を公表していたからだ。本当に彼のページだったのか否かを証明するのは不可能だが、『NK News』が情報筋から入手した情報によると、金正男は、このアカウントを2015年までは頻繁に使用していたそうだ。

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金正男のFacebookページに掲載されていた写真

〈遊び人風ライフスタイル〉をネットに投稿するは、金正男殺害を計画する北朝鮮の諜報機関を煙に巻こうとしていたのでは、と推測する報道もある。2012年、彼は、北京で襲撃されるも生き延び、平壌にいる弟の金正恩に命乞いの手紙を送っている。彼のFacebookページでは、5つ星ホテルに滞在し、世界中を旅する様子が、マカオや上海の高層ビル群をバックに撮った写真などから確認できた。

金正男は亡命を計画し、そのせいで北朝鮮当局に狙われ、Facebookページへの投稿が原因で命を落としたのだ、とする向きもある。暗殺の数日前、金正男は数年前、韓国に亡命しようとして失敗した、と韓国のある新聞が報じた。これは北朝鮮にとって、金正男を葬るには十分な理由であっただろう。また金正男は、北朝鮮政府を「世界に向けたジョークだ」とも評していた。

しかし、ワシントンにあるUSコリア研究所(The US-Korea institute at SAIS)の客員研究員マイケル・マデン(Michael Madden)によると、金正男のインターネット上での行為は、世間が考えるほど軽率ではなかったようだ。「彼は、相当用心深くEメールをしていました。〈キム・チョル〉の名で使用していたFacebookは、他のユーザーたちに正体を気づかれ、メッセージや友だち申請、〈いいね!〉が大量に送られるような状況にもならず、単に、家族や友人とコンタクトをとる手段だったのでしょう」

金正男は、SNSでアカウントを作成するずっと前から北朝鮮当局に監視されていた、とマデンは分析する。「海外留学中は、誘拐防止のために、常時監視されていました」とマデン。「彼は監視されているのをわかっていたので、インターネットの利用には安全なパソコンを使い、監視を最小限に抑えるためのソフトウェアをインストールしていました」

金正男がメディアの前で語った言葉こそ、彼の身を危険に晒した原因だ、とする専門家もいる。「彼のFacebookのアカウントが大きな要因となったとは思いません」。〈北朝鮮の自由〉(Liberty in North Korea)という非営利団体で研究主任を務めるソキール・パク(Sokeel Park)はそう語る。「ここ何年ものあいだ、彼はメディアの前で、体制にとって都合の悪い発言をしてきました。それらが彼の首を絞めたのではないか、そのために殺されたのでは、と私は睨んでいます」

ジャーナリストの五味洋治は、『父・金正日と私 金正男独占告白』を出版した。数時間にわたるインタビューのなかで金正男は、2001年、東京ディズニーランドで遊ぶために、偽造パスポートで日本に入国したのが北朝鮮政府を激昂させてしまった、と語っている。それ以来、金正男は海外で生活していた。「彼が北朝鮮中枢の権力機構から追放されてから時間は経っていましたが、彼は、金ファミリーでありながら、体制を批判できる唯一の人間でした」。2月下旬、五味は『ジャパンタイムズ』にそう応じた。「彼が予期せぬ変化をもたらしてくれるのではないか、と私は期待していました」

五味によるインタビューが、正男の命を危機に晒した、とマデンは予想する。「日本のジャーナリストとの関係、彼の物言いが北朝鮮関係者にとって面白いはずもなく、発言の詳細が書籍として出版されると、正男はひどく怒り、ジャーナリストとの縁を切りました」

韓国国家情報院の現院長、李炳浩(イ・ビョンホ)によると、北朝鮮当局は2011年より金正男の暗殺を企てていたらしい。金正男は、マカオでは中国政府の庇護を受けていた。

「複数の情報源から、今回の暗殺の少なくとも1年前から正男は監視されていた、という証拠を得ています」とマデン。マカオや北京にある彼の自宅を特定するのは比較的容易で、現地警察が毎日監視していたそうだ。

「現在、中国公安部は警備を強化し、昼夜を問わず、車両によるパトロールを実施し、彼の自宅周辺は私服警官が警備しています」。なぜなら金正男には、残された妻、息子、娘がいるからだ。