Cover: ASSOCIATED PRESS

イングランドのマンチェスターに衝撃が走った。5月22日月曜日の夜、アリアナ・グランデ(Ariana Grande)のコンサート会場で自爆テロ事件が発生し、22名が死亡、59名が負傷した。

この事件について、武装組織〈イスラム国:IS〉は、ソーシャルメディア上で「カリフの戦士ひとりが爆弾を仕掛けた」と犯行声明を発表。攻撃はさらに続く、とも表明している。ISのプロパガンダメディアであるアマーク(Amaq)通信でも「イスラム国の兵士が攻撃を実行した」との報道がなされた。自爆した男は、リビア出身の両親を持つサルマン・アベディ(Salman Abedi)容疑者(22)で、サルフォード大学に通うマンチェスター出身の英国人であった。その後24日にリビア治安当局は、サルマン容疑者の弟、ハシム・アベディ容疑者(20)を首都トリポリで逮捕したと発表。ハシム容疑者もマンチェスターの大学生で、4月16日に英国からリビアへ出国。事前に兄のテロ計画を知っていたと供述し、兄と自分がISのメンバーであることも自供したと報道されている。また同時にリビア治安当局は、ふたりの父親であるラマダン・アベディ容疑者も逮捕したが、その容疑は発表されていない。いっぽう英国警察当局は、これまで事件に関連して6人の男性と1人の女性を逮捕。そのなかには、サルマン容疑者、ハシム容疑者の兄であるイスマイル・アベディ容疑者(23)も含まれている。

テリーザ・メイ(Theresa May)首相は、この攻撃を受け、テロの脅威レベルを5段階中最高の〈Critical:危機的状況〉に引き上げた。新たな攻撃に備えて、武装警察と軍兵士を動員し、警戒を強めている。またメイ首相は、今回のテロが無防備な子供や若者を標的にしたことから、「おぞましく卑劣な攻撃」とも表現した。このテロでは、8歳の子供が死亡たほか、負傷者にも大勢の若者や子供たちが含まれており、負傷者59名のうち、12名が16歳以下の子供だったと報じられている。

爆発直後の会場内の様子.

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テロの翌日、現場に居合わせた人びとは、徐々に明らかになる情報をつなぎ合わせつつ、何とか逃げ出せた幸運に感謝しながら、このテロによって街が変わってしまうのでは、と不安を募らせている。

キャロライン・ヨーマン(Carolyn Yeoman)は、月曜の夜までアリアナ・グランデをほとんど知らなかったという。経営心理士の彼女は、13歳の姪、アリーシャがアリアナの大ファンであったためコンサートに付き添った。アリーシャの母は、がん治療のため、体調がすぐれなかったからだ。

キャロラインとアリーシャは、マンチェスター・アリーナの前方に座っていた。最後の曲が終わり、ふたりが会場を出ようと立ち上がった直後、大きな音が鳴り響いた。

「周りの人たちは、コンサートで使う風船が割れた音だと話していました」とヨーマンは語った。「でも私には、銃声のように聞こえました。前にもあったテロリストによる銃乱射事件のように感じたのです」

何が起こったのかわからないまま、逃げなければと直観したヨーマンは、姪を連れて座席後方の出口を目指した。

10代の姪とコンサートに行き、爆発の現場に居合わせたキャロライン・ヨーマン. Photo by Tim Hume

「アリーシャに『手をつなぎなさい』と指示し、椅子を乗り越えて、なんとか出口にたどり着きました。経緯はあまり覚えていません」

会場内は大混乱だった。「そこらじゅうに、叫んだり、呆然としたり、立ちすくんでいる子供たちがいました。姪も私も泣いていました。姪は私の手にしがみつき、ふたりで車に乗るまで、ひたすら走り続けました」

ジョージーナ・ロペス(Georgina Lopez)も、8歳の娘の初めてのコンサートに付き添っていた。爆発が起こったときの様子を彼女はこう語った。「最初は何があったのか、誰もわかりませんでした。終演直後だったので、スピーカーの音ではないか、という声も聞こえました」

「でも、そのあと悲鳴が聞こえ、パニックが伝染病のように広がっていったのです。パニックに陥った人たちは、逃げようと出口に押し寄せました。みんな大声で叫びながら、椅子を乗り越えようと必死でした」

タクシー運転手のモハメド・イクバル(Mohammad Iqbal)が、会場付近の通りでコンサート帰りの客を待っていると、突然アリーナから大勢の人々が駆け出てきた。10代の少女と母親が、叫びながらタクシーに近づいた。「母親はけがをしていて、女の子は泣いていました。出血は確認できませんでしたが、女の子は激しく泣きじゃくっていました」と彼は事故直後の状況を語る。「足を撃たれたので緊急救命室に行きたい、病院に向かってほしいと、母親に頼まれました」

負傷者を病院へ搬送したタクシー運転手、モハメド・イクバル. Photo by Tim Hume

彼は、赤信号を全て無視して病院に急行し、「彼女は持ち物を全部アリーナに置いてきてしまった」ので、夫に連絡できるよう携帯電話を貸したという。イクバルの同僚たちも現場に駆けつけ、観客を病院へ搬送したり、安全な場所に避難させた。

「何があったのか、とても説明できません」とイクバル。「ここは、もう今までと同じ街ではありません。昨夜、全て変わってしまったのです」

イクバルのタクシーの後部座席には、けがをした女性の血痕が残っている。彼はこの攻撃によって、37年間、幸せに暮らしてきた街が、すっかり変わってしまい、自身が信仰するイスラム教のイメージにも影響するのではないか、と懸念している。「あのような行為は個人によるもので、宗教は関係ありません。彼らのせいで、私たちのイメージは悪くなるいっぽうです」

現在もマンチェスターでは、厳戒態勢が敷かれている。23日には、地元のショッピングモールで不審な荷物が発見された、という報告から避難指示が出された。また、病院ではテロ被害者の手当ても続いている。今回の事件は、12年前の7月7日に起きたロンドン同時爆破テロ以来、国内最大規模になる。厳戒態勢下で、市民は普段の生活を取り戻そうと必死だ。

市は「マンチェスター・スタンズ・ユナイテッド(Manchester stands united)」という標語を掲げ、断固とした姿勢を打ちだしている。血液バンクには希望者を断らなければいけないほどドナーが詰めかけ、カフェでは救急医療班に無料で食べ物が提供されている。また、23日の夜には、市の中心部で追悼集会も開かれた。

ベン・チャップマン(@BenChapmanITV)のツイート

マンチェスター・アリーナの犠牲者を追悼するため、アルバート・スクエアには非常に多くの人たちが集まりました。2017年5月24日午前2時14分

アンディ・バーナム(@MayorofGM)市長のツイート

黙とうが始まる前に見た光景。これがマンチェスターという街です。ありがとう。2017年5月24日午前2時36分

一方、現場に居合わせた人々は、今も事件の詳細を把握しようと努めている。ヨーマンは火曜日の朝4時まで、「お茶を飲みながらニュースを観ていた」という。「朝5時に目が覚め、また涙があふれてきました。あのとき、14~15歳の子供たちが、どうしたらいいかわからず、さまよっていました。亡くなった可哀想な女の子のニュースを観るたびに、泣いてしまいます」

この事件によって街が変わらないように、と彼女は願っている。「イングランド北部は住みやすい地域です。まさかそんな場所で子供を狙うなんて」。姪のアリーシャが事件からどんな影響を受けるのか、どんな後遺症が残るのか、まだはっきりとはわからないが、ヨーマンによると、姪はしきりにテロを心配し、今後、コンサートに行くのを不安がっているという。

攻撃のあと、ロペスの娘も「ひどく意気消沈している」そうだ。

「昨夜、娘は一睡もできず、逃げた彼女を犯人が追いかけてくるのではないか、と怯えていました。ニュースを観て、何が起きたのか把握していますが、なぜ罪のない人たち、特に子供たちが、こんなに恐ろしい目に遭ったのかは理解できません。もちろん、私たちにもわかりません。彼女には到底受け入れがたいことです」

ロペスの娘がコンサートに行くのは、今回が初めてだったが、もう行きたくないと話しているという。「気持ちはよくわかります。あの晩、娘は踊ったり歌ったりして、思い切り楽しんでいました。それを台無しにされてしまったのですから」