ダム開発とカンボジア先住民のディアスポラ

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ダム開発とカンボジア先住民のディアスポラ

南アフリカ出身の写真家ギャレス・ブライト(Gareth Bright)とカナダ人のフォトジャーナリスト、リュック・フォーサイス(Luc Forsyth)は、2015年4月以来、少しずつ川岸を見て回り、ダム建設の影響を確認するプロジェクト「A River’s Tail」を展開している。

All photos by photojournalist Luc Forsyth

全長約4300キロメートルのメコン川は、ヒマラヤ山脈の源流に始まり、6つの国々を流れ、6000万もの人々の生活を支えながら、南シナ海に注ぎ込む。

たおやかなメコンの流れと支流は、ハイペースでダム開発を進める電力会社にとって可能性を秘めた金脈だ。しかし、流域の村々で生活するコミュニティにとっては不幸なことに、ダム開発は、農地を水底に沈め、水生生物の生態系を破壊し、その結果、コミュニティの生活をも危機的状況に陥れる。

南アフリカ出身の写真家ギャレス・ブライト(Gareth Bright)とカナダ人のフォトジャーナリスト、リュック・フォーサイス(Luc Forsyth)は、2015年4月以来、少しずつ川岸を見て回り、ダム建設の影響を確認するプロジェクト「A River’s Tail」を展開している。彼らの最新エピソードは、セサン2下流水力発電事業がカンボジアの先住民コミュニティを引き裂くさまを明らかにしている。まもなく、彼らの土地は、約10メートルの水底に沈んでしまうだろう。

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電力会社の進出にともなう現地の複雑な事情について、フォーサイス氏と話した。

「A River’s Tail」はどんなプロジェクトなんですか?

友人(ギャレス・ブライト)と私は、日常の業務から離れて休息を取ろう、と決めて木造の漁船を購入し、カンボジアの田舎で過ごした。2週間、漁船に乗って東南アジア最大の湖、トンレサップ湖へと注ぐトンレサップ川を巡航した。そこから、いざ仕事に戻ろうとすると、Lien AidというNGO団体から連絡がきた。もう少し旅を続け、メコン川全域をめぐってみないか、ともちかけられたんだ。そんな経緯でこのプロジェクトを始めたのが2015年3月。ベトナム、カンボジア、ラオスをまわって、2月には中国に入った。終わるまでに1年以上はかかるだろう。

あなたたちは最新エピソードで、苦境に立つプノン族を紹介しています。彼らの置かれている現状について教えてください。彼らにとってダムにはどんな意味をがあるのでしょう?

プノンはカンボジアの中でも、孤立したところにある。人口統計をみると、カンボジアでは、都市に多くの人口が集中している。人口の大半が都市の住民だ。それに対して、北東地方にはたくさんの先住民がいる。プノンもそのひとつだ。

彼らは貧乏な農夫だ。私たちが出会ったコミュニティの住人たちは、外の世界のモノを必要としておらず、自給自足で生活を営んでいる。夜になれば戻ってくるのがわかっているから、ブタを柵の中に押し込めたりしない。だから、そこら中に動物がいる。とても田舎で、住民たちは地場としっかり結びつき、自然の恵みを享受している。しかし、現在、セザン2というダムの水路建設が進んでおり、もうすぐ完成するよていだ。放水が始まれば、村全体が10メートルの水底に沈んでしまう。

電力会社は移住や補償を約束したんですか?

電力会社が提示している条件は不平等だ。家族の人数や、年齢、収入状況によって差がある。たとえば大家族と独り身の寡婦だと、もらえる補償はまったく違う。貧しければ貧しいほど、補償は魅力的に映る。補償を提示しているのは、ダムを建設している中国企業Sinohydroだ。

プノン文化は何千年もの歴史がありますよね?

歴史について詳しい記録は残ってないが、数千年になるだろう。モーターくらいは使っているけれど、彼らの生活様式は数百年、もしかしたら数千年前から変わってない。文化は土地に根付いているから、みんな漁師か農民だ。先祖代々住んできた土地を棄てるのは、文化そのものを根絶やしにしてしまう。

しかしこういう大企業が移住を補償しているとなると、コミュニティにどういった影響を与えるのですか?

もちろん土地を離れたくないだろう。補償は、彼らの希望を満たすものではない。土地などを欲した民間企業が移住の補償をする、といった取引は、カンボジアだけでなく東南アジアではよくある。私はもちろん、住民たちもおそらく、実際の移住先を見ていないだろうが、企業が提供するのは現代的で素敵な住居だ。ワラや竹ではなく、コンクリートで電気も引かれていれば、最初は魅力的に映るだろう。でもそんな住居に引っ越したところで、そこには日々の仕事もなく、教育機関や病院といったインフラの不備にすぐ気付くだろう。移住後の生活環境は、前よりもひどいはずだ。だからこの手の補償は、今よりもまともな住居と金をエサに、貧しい住民から略奪するのと同じなんだ。

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現在、企業は土地の売却について半数の住民から同意を得ている。残りの半数は自給自足農家で、裕福ではないのに補償額がそこまで高くない住民だ。コミュニティが完全に真っぷたつにされてしまっている、そんな状態だ。

住民たちとの会話はどうでしたか?

村は微妙な雰囲気だ。ダム反対派は、活動家のようにメディアキャンペーンを試みたり、地元のNGOと一緒に活動したりしている。移住プランを受け入れた住民は口を開かない。

開発関係者にも話を聞いたんですか?

彼らはかなり活発に開発現場を訪れるので、今までに何度も会った。でも、私たちの質問に答えてはくれない。この問題について電話こそしていないが、メールは8~9回送っている。返信はない。

東南アジアにおける開発は、あなたの目から観て、今後どうなるのでしょうか?

メコン川は複数の国をまたいでいるから、ひとつの国が所有する場合とは違う。皆が一丸となって運動をするとなると、それぞれに事情があるし、他の地域と共闘するのは難しい。もし5つの国の政府が協調して資源、コミュニティを守ろうとするなら、問題は起きないはずだ。しかし、カンボジアやラオスのような国は、そういった資源を保護していられない。ラオスは東南アジアの「バッテリー」となるべく、メコン川に多くのダムを建設する、と決定した。現在、おそらく13~15カ所にダムがあるはずだ。カンボジアも同様の計画を立てている。

カンボジアやラオスのような国に対し、ダムを建てるな、というのはフェアじゃない。両国ともアジアの中でも最貧国だから開発は必要だ。富裕国はダムを建てて自国の経済と電力をまかなってきた。だから、メコンの貧国にダム建設を止めろ、というのは偽善だ。とはいえ、東南アジアでダム開発をしようとすれば、文化的、環境的な犠牲が発生してしまう、という認識が確実に不足している。水力発電業界を発展させるべきではない、と否定する気はないが、周辺住民や生息動物に悪影響を及ぼすダム開発がある、という報告が発表されたら、もう少し関心を示すべきだ。さもなくば、未来の世代が苦しむだろう。