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接近禁止命令を確認するサリナス署の警察官ジャッキー・ボーン(Photo by Johnny Magdaleno/VICE News)

シーザー・ヘルナンデス・オーティス (Cesar Hernandez Ortiz) は、緑のボタンアップシャツとブラックジーンズ姿のまま目を閉じ、胸の下で手を組んでいた。壁の近くにあるイエス・キリスト像が、彼の棺を見下ろしていた。

2016年、母の日、カリフォルニア州サリナスのアパートの前で佇んでいた22歳のオーティスは、近づいてきた男に銃撃された。男はそのまま逃亡。胴体を中心に数発撃たれたオーティスは、病院に着く前に死亡した。

デビー・アギラ (Debbie Aguilar) は、オーティスの棺の側に跪き、祈りを捧げた。彼女はオーティスの知り合いではなかったが、銃によって愛する人を亡くす悲しみはよくわかっていた。彼女の息子も2002年、銃で撃たれ、ここアルタ・ビスタ葬儀場で、棺の中に横たわっていた。享年18歳だった。

現在、アギラは、ギャングの抗争で家族や知人を失った女性のために、サリナスでNPOを運営している。「この世で最悪の瞬間です。私もあの世に連れて行って欲しい、一緒に棺に入りたい、そんな気持ちのまま、家に帰らなくてはならないのですから」と語る。

オーティスの事件を含めて、今年、サリナス警察署が捜査している銃による殺人事件は16件。被害者のうち12人が24歳以下の若者だ。2015年の銃による被害者数は103人、うち31人が死亡。サリナス史上最悪の記録であり、そのほぼ半数が24歳以下だった。

シカゴやロサンゼルスなど、数百万の人口を抱える大都市に比べると小さな数字だが、15万7千人しかいない地方都市にしては大きな数字である。バイオレンス・ポリシー・センター(Violence Policy Center:VPC)は、10歳から24歳までを若者と定義し、FBI、アメリカ疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)、カリフォルニア公衆衛生局(California Department of Public Health:CDPH)のデータを集め、過去5年中4度に渡り、サリナスを含むモントレー郡を「カリフォルニア州の若者殺人事件多発地区」に指定。さらに、そのデータが公表された2011年以来モントレー郡は、カリフォルニアのギャングによる若者殺人事件の年間件数で毎年トップになっている。

「カリフォルニアの他都市と比べ、間違いなくサリナスはギャング問題が多く、町には無数の銃が出回っている」とサリナスのケリー・マクミラン (Kelly McMillin) 警察署長は語る。

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ジャッキー・ボーンが窓外に目をやると, ノルテーニョスの標語「快楽は一瞬, 痛みは一生」が側面に描かれたトラックが通った.(Photo by Johnny Magdaleno/VICE News)

FBIの統計によると、昨年のサリナス市民10万あたりの銃による死者数は19.7人。全国平均の7倍以上の数字だ。これは、アメリカの危険な大都市ベスト3常連であるカリフォルニア州オークランドと大差ない。

「この地域の子供たちは、常に戦闘状態のなかで成長していく」とアギラは教えてくれた。「友達の葬式に参列し、その直後に下の世代が彼らの葬式に参列するんです」

そして、サリナスでの殺人事件解決率は24%。カリフォルニア州平均の半分以下であり、全国平均の64.5%にも遠く及ばない。他の犯罪都市と同様、ギャング抗争が盛んなサリナスの住民は復讐を恐れ、事件の捜査に協力したがらない。

テレサ・ヘルナンデス (Teresa Hernandez)の息子、当時14歳だったアロンソ(Alonso)は2010年、学校からの帰宅中に射殺された。その数年後、ヘルナンデスは食料品店でひとりの女性に声をかけられた。「誰が撃ったか知っているけれど、家族がギャングに襲われるのが怖いから警察に連絡できない」と告げられた。

「ある意味、私も理解できる」とテレサ。「みんな同じ地域で育った。でも怖くて何もできない。だから町は良くならないのです」

息子アロンソの事件も未解決のままだ。

「警察を信じてはいても、警察は匿名を保証できない、と住民はわかっています」とサリナスで若者の暴力を考える団体「安全と平和のためのコミュニティ・アライアンス(Community Alliance for Safety and Peace:CASP)」のディレクター、ホセ・アレオラ (José Arreola) は語る。「裏切り者は殺される、という雰囲気が漂っています。恐れるのは当然でしょう」

2016年4月、17歳のフェリペ・ロカ・サンドバル (Felipe Rocha Sandoval ) は、住んでいたアパートの前で至近距離から数回銃撃された。2日前に起きた16歳の若者が射殺された事件を、サンドバルが目撃したために口封じで銃殺された、と彼の家族や、元警察官で現サリナス市長のジョー・ガンター(Joe Gunter)は信じている。

サリナス警察は、事件の目撃者保護のため、匿名ホットラインやメールでの情報提供を呼びかけている。「告げ口したら殺されるのではないか」「(サリナス・バリーで働くメキシコの不法移民が)在留資格の提示を要求されるのでは」と目撃者を不安にさせないためでもある。しかし、メキシコをルーツに持つ住民たちは、自国の悪名高き汚職警察官に慣れているので、サリナス当局を信頼していない、と警察、活動家、住民は口を揃える。

サリナス住民の4分の3はヒスパニック系アメリカ人だが、ヒスパニック系の正規警察官は全体の3分の1に過ぎない。そんなアンバランスな状況のなか、2014年にある事件が起きた。サリナスの警察官が、相次いで4人のヒスパニック系男性を銃殺してしまったのだ。植木バサミやナイフで市民や警察官を脅した暴漢2人。レストランを襲撃し、警察官に偽物の銃を向けた強盗。拳銃の型にした指を警察官に向けた男。4人の血中アルコール濃度は法定限度の2倍以上、更に体内からはメタンフェタミンや他の薬物も検出された。しかし、1人の被害者の母親は「息子は統合失調症だった」と主張した。警察は「そんな証拠はなかった」と反論した。

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テレサ・ヘルナンデス, アンジェラ・ドラード, デビー・アギラ, そしてデビー・ソルトと, 銃に命を奪われた家族の写真. (Photo by Johnny Magdaleno/VICE News)

この件についてモントレー郡検事は、警察官に落ち度はなかった、と判断した。しかし、マクミラン警察署長は、世間からの抗議の高まりを受け、米国司法省(United States Department of Justice、以下DOJ)に見直しを要請した。2016年3月に公表されたDOJの報告は、サリナスの警察官は「精神疾患に罹った患者や、そういった住民が引き起こす事態の沈静化に対処するための充分な訓練を受けていない」と発表した。また、同報告によると、サリナス警察は「警察官の責任能力向上に努めていない」、警察と住民との関係には「大きな綻びがある」そうだ。

マクミラン署長は、DOJの報告する「大きな綻び」は認めた。しかし、彼とガンター市長は、最初の報告に対しては、「警察官は、市の保健局による危機介入訓練を受けている」と否定した。

更にマクミラン署長は、「長年、警察官不足に苦しんでおり、数が増えなければ、アウトリーチ活動、近隣地域との密接な関係を築けない。深い信頼関係を築くために、立ち止まって住民と会話したり、コミュニティの会合に参加する暇がない」と。「そのような関係が、非常に重要であると長年考えているが、まったく進められない」

モントレー郡の他の都市同様、サリナスの警察官も年々減少している。現在の正式な警察官は137名。2008年より50名も少なくなっている。

「リーマンショック以降、当署は人員削減を余儀なくされている。状況が改善されればうまくいくはずなのに、何もできない状態だ」マクミラン署長は諦めを顕にした。「私たちは現在、素早く問題に対応するよう努めてはいるが、広範囲にわたるギャング捜査、コミュニティとの信頼関係構築を実現するには圧倒的に人員が足りていない」

3月のある晴れた水曜日、私は取材のため、ジャッキー・ボーン(Jackie Bohn)警察官とパトカーに乗っていた。その日は、他にも12人の警察官がパトロール中であったが、そのうちふたりは休暇を返上して出勤していた。午前7時30分、「家に強盗が入った」と通報があったが、警察官がその家に辿り着いたのは午前8時44分であった。

「強盗に襲われたのはその家族にとって、これまでの人生で最悪の出来事だろうけれど、物事は大局的に捉えなければならないんです」とボーンは冷静だ。「誰も刺されたり、撃たれたり、襲われたりしていなければ、警察は現場に駆けつけたりはしません」

学童施設「ヘブロン・ハイツ」にいる14歳のオスカー・ヌニェス(Oscar Nuñez)、15歳のガブリエル・ディエス(Gabriel Diez)は、近くで銃撃があったため、サッカーゲーム『FIFA 16』を中断し、トイレに隠れていた。彼らは、「ギャングになった友達と関係を持たないように」と指導されている。サリナスでギャングチームに入る平均年齢は13歳。ヌニェスの24歳の兄は、ギャング「ノルテーニョス(Norteños)」在籍中に犯した罪で、現在服役中である。

ふたりの若者は、サリナスのギャングによる銃撃や暴力を止めるために何が必要だと考えているのだろう?

「たぶん、子供に銃を売らない」とヌニェスは答えた。

「警察官がもっとパトロールするべき」とディエスは答え、更に「でも警察は頑張っているんだ」と付け加えた。ヌニェスは、警察には触れなかった。

ギャングの活動が盛んなカリフォルニアの各都市当局は、自区の警察官が、高給を提示する他都市当局、暴力の少ない地域当局に引き抜かれるのを阻止しようと躍起になっている。昨年サリナス警察署は、職歴合計11年になる19人の警察官を雇うのと同時に、職歴合計130年になる16人の警察官を失った。

「知識も経験も流出してしまう。新しい警察官をコキ使わなくてはならない。もう限界状態だ」とマクミラン署長は吐露した。

FBIと連携して10年のあいだ、「スレーニョス(Sureños)」や「ノルテーニョス」などのギャング団を牽制し続けた「モントレー郡ギャング特捜部隊」が昨年、解散を余儀なくされた。すべての警察官を通常業務に戻さなくてはならなくなったのが、解散の主な理由である。

しかし、「明るい兆しもある」と市当局の関係者は期待する。サリナスの予算・財政部門のディレクターを務めるマット・プレッシー (Matt Pressey) によると、新設される「若者向けギャング対策プログラム」により多くの予算が割かれるそうだ。ギャングにならずに済む子供が増えるかもしれない。

「過去数年のデータを調べると、ギャング団に入る子供の年齢が徐々に上がっています。銃を扱う年齢層も上がっているので、私たちの意図が少しずつ若者に浸透してきたのではないでしょうか」とガンター市長。

昨年サリナスは、殺人件数、銃による殺人件数ともに過去最高を記録したが、25歳未満の銃による死者数は、2012年及び2013年のそれと比べて3分の1以上減少している。

2014年、市当局は、消費税の1セント値上げが可決された際、向こう15年のあいだ、公共事業プロジェクトから学童プログラムまでのあらゆる地域創生計画に総額300億円の予算を割り当て支援する、と公約した。しかし、ヒスパニック系若者の権利擁護団体「MILPA」の共同創業者ホワン・ゴメス (Juan Gomez) は、予算の50パーセント以上が警察に割り当てられ、結局、サリナスの各学校に今よりも多くの警察官が配置されるだけだ、と指摘する。彼は、若者を守るのに本当に必要なのは、コミュニティ主導の対策、社会福祉サービスの拡充である、と説明する。

「もちろん、深刻な事件が起きれば、市民の安全を確保するために警察官を呼ばなければなりません」「しかし、学校で子供の安全が保障されなのであれば、警察官に助けを求めるより先に、カウンセラーに相談すべきです」

ある土曜日、アギラや女性たち、そして子供たちのグループは、銃撃や殺人が幾度となく発生したクロスター公園に集まった。女性たちは、銃の暴力で亡くなった家族の写真を胸に抱えていた。写真のなかには、14歳の若さで命を落とした子供もいた。

デビー・ソルト(Debbie Sorto)は、通りで誰かを見かけると、孫や甥の殺人に関係があるのではないか、といつも疑ってしまうそうだ。アンジェラ・ドラード(Angela Dorado)の6歳になる娘は、当時34歳だった夫が庭で花を植えている最中に銃殺されて以来、突然真夜中に叫び声をあげながら目を覚ましてしまうらしい。

そして、2015年にサリナスが失ったひとつ目の命は、メリッサ・ガーナー(Melissa Garner)の息子で当時25歳だった、ポール・モラレス・ジュニア (Paul Morales Jr.) の命だ。

「目撃者が情報を提供しなければなりません」とガーナーは言明する。「そして母親は、子供が何をしているのか、誰と遊んでいるのか、常に会話しなくてはなりません。みんながもっとお節介を焼くべきです」