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Photo : ASSOCIATED PRESS

2016年、フィリピン大統領選挙戦中に悪名を世界に知らしめたロドリゴ・ドゥテルテ(Rodrigo Duterte)氏。6月に大統領に就任して以来、その暴力の脅威を現実に振りかざしている。ドゥテルテは、麻薬戦争による子供たちの死を「巻き添え被害」と呼び、300万人の麻薬常習者を「殺したい」と公言。民間人にも、麻薬犯罪に関わっている者を襲撃するよう、公に奨励した。さらに12月12日、彼は2013〜2016年のダバオ市長時代に、犯罪者と思しき市民を自らの手で殺害した、と発言。これに対し、12月20日、国連のザイド・ラド・アル・フセイン(Zeud Ra’ad al Hussein)人権高等弁務官は、「フィリピン司法当局は、法規範の順守と司法権の独立を示す必要がある」として、同国にドゥテルテ大統領を殺人容疑で捜査するよう要請した。

ドゥテルテ氏の大統領就任後、警察と自警団によって殺害された容疑者の数は推定6000人以上にのぼる。その脅威にどこよりも晒された場所は、彼が7年のあいだ市長を務めたダバオ市である。

わたしが初めて「ジェイ」に会ったのは、ダバオのNGOに勤務していた2009年。当時、すでに、「リスト」に彼自身が載っている、と予想していた。リストとは、自警団〈ダバオ・デス・スクアッド(Davao Death Squad)〉が保有する非公式の殺害ターゲットリストである。この自警団は、犯罪行為に関わった疑いのある市民を即座に処刑するとされ、同時に、公的な法執行機関とも密接に連携している、と噂されており、各方面から強く批難されている。特に国連は2009年、当時ダバオ市長であったドゥテルテ現大統領が殺傷行為を奨励している、と非難し、次のようにコメントした。「ダバオ市長はこのような殺人を、まったく止めようとせず、それどころか殺人を支持する公式発言をしている」

私は夜の公園で、ジェイ、そして彼の友人たちと、彼らの生活や地域の治安などについて教えてもらった。いちどリストに載ったら「排除されるのは時間の問題だ」とジェイ。

ダバオ市民の多くは自警団を支持している。実践的な犯罪撲滅策、と捉えているからだ。ある住民は、デス・スクアッドの行為はダバオにとって有意義だ、と言明した。「彼らは、通りを掃除しているだけだ」。デス・スクアッドの自警により、ダバオの治安は劇的に改善され、大きく評価された。2015年5月の報道によれば、フィリピンの他都市でもダバオを真似たデス・スクアッドが結成されているという。

手っ取り早い犯罪対策で大衆の支持を得たドゥテルテは、2016年5月の大統領選で40%の得票率を得て当選した。彼は選挙期間中、葬儀場を死体で埋め尽くし、マニラ湾に死体を山ほど捨てて「魚を太らせるてやる」と発言した。その死体のなかには、ダバオのストリートキッズのような暫定犯罪者もいる。

ダバオで一緒に過ごした9人の少年たちは、全員が路上生活者で、全員がリストに載っていた。彼らは殺される順番をだいたい予想していたが、いつ殺されるかまでは、わからないようだ。彼らの生い立ちには、崩壊家庭、不運な日常、愚かな自己判断、という類の不幸が付き纏っていたが、この街では、若き日の過ちこそが早過ぎる死を招く。ターゲットリストには、軽犯罪、路上生活、悪い仲間とのつきあい、ラグビーと呼ばれる接着剤を簡易ドラッグ代わりに吸引するなどが「罪状」とされている。このラグビーには、空腹感抑制の作用があり、貧困生活者には抗いがたい魅力のドラッグなのだ。

次にジェイの姿を見たのは、数ヶ月後にスカイプ・コールを受けたときだった。彼は頭に包帯を巻いていた。刃物が頭蓋骨まで達したが、なんとか生き延びたという。オートバイに乗ってやってきた暗殺者は、彼を見つけると即座に5回刺した。1回は頭を、2回は膝を。現場は、ジェイがスカイプをしているようなインターネットカフェらしい。ジェイだけではなく、彼の友人たち襲撃されたそうだ。

リストに載った犯罪者に、裁判を受けられる希望はない。さらに、人違いも頻発しているという。殺人を実行したあと、「こいつじゃなかった」と自警団が大声で会話しているのを耳にした、との目撃者情報もある。しかし2016年初頭、ドゥテルテは発言していた。「犯罪者10人の命に価値などあるか? これほどの大きな悲劇を前にして、愚か者が100人死んだところで何の意味があるというんだ?」

死傷者は、デス・スクアッドのメンバーによって業務用肉切り包丁で刺されている。ほとんど公衆の面前で襲撃されているが、目撃者は、恐怖のあまり事情聴取に出頭しないか、そもそも聴取自体なされない。ジェイと友人たちがなじみの場所でも殺人はあった。いつも車を止めている通りでもあった。『トイ・ストーリー』のバズ・ライトイヤーに似た、赤と黄色の蜂のマスコットで知られるファストフード店「ジョリビー」の前でも殺人は発生した。

ジェイと通りを歩きながら、私は、「なぜ逃げないのか?」と尋ねた。ダバオはホームタウンだから、と彼は断言した。母を亡くし、父の暴力を逃れ、彼はダバオにやってきた。ジェイは友人のソルを紹介してくれた。デス・スクアッドの次の標的は自分だ、とソルは予想していた。

数ヶ月後、Facebookのメッセージで、ソルの予想が的中したのを知った。彼は命を落とした。それから7年の間に、ソルの兄弟も殺され、もうひとりの兄弟は投獄された。彼の両親は、街から犯罪を一掃する、というドゥテルテの計画に家族を奪われた、何千人もの遺族たちの仲間になった。

12月14日、2人のフィリピン上院議員が、人を殺めた、と主張するドゥテルテ大統領の弾劾を求めた。米国政府も、ドゥテルテ政権下で発生する人権侵害への懸念増大のため、数百万ドル規模の経済援助の凍結を検討する、と警告した。こうした威嚇射撃を受けても、大統領の支持率は高く、「私刑執行人」として知られるドゥテルテを止めようという動きはまだ本格化していない。