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ブードゥー。日本では馴染みのない言葉だが、「丑の刻参り」といえば察しがつくだろうか。つまり、相手に呪いをかける秘密裏の儀式である。
イルコモンズという人類学者兼活動家の名を初めて耳にしたのは、1年半ほど前の「怒りの日日」というパフォーマンスだった。改造ならぬ悪造した管楽器で安倍首相に呪いをかけようとする演奏は、政治的な活動、アクティビズムの枠を超え、アートの領域に達していた。3・11から5年目を向える今、デモ以下、テロ未満という反戦反核のブードゥー・アクティビズムの真相を確かめるべく本人の元を訪ねた。
各地の大学で非常勤講師を務めるイルコモンズ氏だが、近い将来起こるであろう首都直下型地震から身を守るべく、西東京の僻地、武蔵陵墓地に引っ越したそうだ。彼いわく、昭和天皇のお墓が安全なら自分も安全だろうと。

2014年9月22日 呪いの日日呪奏団 「呪いの日(々)奉呪 百連奏」 百秒ミックス

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戦争法案に賛成した議員全員を7月の選挙で落選させるという呪力を秘めた作品。

ブードゥー・アクティビズムとは何ですか?

安倍晋三を殺そうと思っているわけではないんです。彼は、民主主義と憲法第9条を盗もうとしている泥棒だと思うので、呪いでそれを封じるわけです。ブードゥー・アクティビズムは、「奪われないように」というコンセプトでできているのです。

アートですか?アクティビズムですか?

岡本太郎はフランスで人類学を勉強し、1960年頃に、しばしば「芸術では呪術である」と主張しました。それを受けて私は、もし呪う相手がいるとすれば、安倍と自民党だと思ったんです。
オバマ大統領のブードゥー・ドールを見たことがありますか? 誰でも簡単に作れる人形で、顔のプリントやロウソク、お香、そして針がセットで販売されていて、これはブードゥー・アートだなと感心して。日本に置き換えると藁人形ですね。

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泥棒除けのシンボルをあしらった紙人形

ブードゥー・アートを始めたきっかけは何ですか?

きっかけは、安倍の「日本を取り戻す」というプロパガンダ・ポスターでした。あいつが取り戻したい日本は第二次世界大戦以前のファシズム的な日本で、僕が取り戻そうとしているのはもっと伝統的な日本の民衆文化です。藁人形と紙の人形です。

誰でも簡単に作れますね。

アーティストにしか創れないものには全く興味がなくて、誰でも創れるアートに興味があるんです。

呪いは効果がありますか?

作品の展示を2度やったけど、1度目は大失敗。その理由は呪いの道具を公開してしまったからでしょうね。アフリカのシャーマンに教えてもらった大原則は、パワーがなくなるので「呪いは決して人に知られてはいけない」だったから。
2度目は、本物とは別に模型を造って展示したんだけど、今のところ安倍を見ていると効果がないなって(笑)。たぶん理由は、呪いにとって大切な「捧げもの」をしてなかったからで、3度目は、ちゃんと「いけにえ」を用意しようと思ってますよ。

黒魔術があれば白魔術もありますか?

「ラブチャーム」というホワイトマジックはありますよ。好意を抱く人間に自分の心を気づかせる。人の心を「操る」という行為が含まれるからグレーじゃないかなと思いますけどね。
多分、この質問はネタ的な意味で訊いたんだろうけど、僕自身は、かならずしも呪いを信じているわけではありません。ただ、人類学者として色んな文化を学ぶのに、そういう態度では何も学べないんですよ。相手を心から信用し、真摯に付き合い熱心に話を聞く、という心構えが前提としてあります。

なぜ現代もなおブラックマジックが存在しているのですか?

巧妙に人間の心を踏まえた上でのソーシャル・エンジニアリングだから。つまり、心理的な効果を狙ってやるもので、こっそりやるんだけど、呪いをかけたことをわざと相手に伝わるようにする。かけられた相手は、「そうか」と思って、良心を取り戻し償いをするわけ。
ブードゥー・アクティビズムが拡散されればいつか首相や自民党の耳に届いて、少なからず良心が残っている人間であれば「こんなにたくさんの人に呪われることをやってるんだ」と気づかせなければ、という思いがあって。

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ケニアでシャマニズムを学んだそうですが、その経緯について教えて下さい。

大学では文化人類学を専攻して、1989年から研究のため海外留学をすることになったんです。当時ワールドミュージックが流行していて、アフリカ音楽が胸に響き、どうせ行くなら好きな音楽があるところに行こうと(笑)。そのときシャーマンに出会ったんです。発想が豊かで、音楽の才能、リーダーシップ、そして病気を治す心理学的な手法も心得ていて、アーティストだと感じました。

シャーマンの印象的なエピソードは?

あるとき、産後うつになった女性に対して、「あなたには何の責任もない、魂が悪い霊に盗まれた」と説明しました。魂をもってない霊は人の魂に興味があるが、使い方がわからないからすぐに捨ててしまう。魂がコロコロ転がって川に沈むと持ち主は悪寒を覚える。洞窟に入ると、どんよりした気持ちになる。そういうふうに話していました。
治すには、シャーマンはドラムを鳴らして人を集めて行進し、魂を探しに行く。「そこだ!」と見つけたふりをしてヒョウタンに入れる。そして「これがあなたの魂です」とヒョウタンを頭の上に置いてポンポンと叩くと魂はすっと体に戻る。人の心に寄りそった見事な心理劇だと思いますよ。

2011年9月30日 怒りのドラムデモ Drums of Fury Demonstration Trailer

2012年2月11日 2.11脱原発デモ『怒りのドラムデモ@新宿』

素人の乱などのデモ集団に加わるようになりましたが、音楽で心を動かすことが基盤になっていますね。

96年に帰国して、博士論文を書くはずでしたが、表現活動で忙しくてドンドン大学から遠ざかってしまいました。DJや現代アートをやっているうちに2003年にイラク戦争が勃発し、反戦デモにサウンドシステムがない、社会を変えていく力もない、思い出したのはシャーマン。ドラムの音を聞いて人が集まってくる。ドラムが必要だなと。
ドラムならそれほど練習しなくてもいいし、多少リズムが合ってなくても構いませんからね。複数のリズムが一緒に鳴ってるアフリカ音楽のポリリズムですよ。しかも、タクティカル・アマチュアイズムという、戦略的にプロっぽい演出はむしろ避けないといけないのです。そうしないとたくさんの人が入ってこれないし、増えない。

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自民党を呪う楽器

 

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ずいぶんとすごい楽器を持ち込みますね。

個人的に得意なクラリネットは音が綺麗すぎます。怒りや不満を表現する抗議には向いていません。一方、サックスは黒い気持ちを吐き出す自分にとってサックスは「たましいの下水管」だと思っています。ただ、ちゃんとしたメーカーのサックスは完成度が高くて汚い音が出しにくいので、改造しないと。悪造、変造。音を汚く汚くして。抗議している相手にいい音を聴かせてもしょうがない。

デモに参加することによってトラブルなどありましたか?

2008年7月、札幌のG8サミットで警察からマークされていたのか、デモの最中に逮捕されました。ムーブメントが拡大する前にグループの弱体化を狙う一種の「予防拘禁」だったのでしょうね。そもそも、警備のために、日本全国から何万人もの警官を北海道に送っておいて成果を出せないと税金の無駄遣いだ、と叩かれるので、わざとアクシデントを起こして逮捕するという思惑もあったと思います。そのときトラックの上でDJをやってたんだけど、開始1分ほどで逮捕されたんですよ。Björkの「Declare Independence」をかけていて、イントロまだ終わってないのに!、と思いましたね。

それで解散しましたか?

いや、素人の乱の活動は2011年の9月ごろ実質的にストップしたんですが、敗北したわけじゃなくて、役割が終わったからです。原発事故が起こった当時、 大きなことができない自粛ムードでしたが、それでもデモをやって自粛ムードをぶち破りましたね。
入り口をつくった人間がずっとそこに居座ると、次の人が入ってこれないから、それで、MCANSEALDsと交代しました。

反原発デモのおかげで原発はほとんど止まったまま再稼働していませんが、SEALDsは空回りしている印象があります。具体的な政策を変えなかったからですか?

60年代の左翼は物事の見方がペシミスティックでした。「散々抗議運動をしたのに、日米安保条約が強行採決された」、「やっても無駄だった」と悲観するんですよ。まあ敗北したわけで。それで団塊世代は転向したの、「政治運動をやっても世界は変わらない、じゃあビジネスをやろう」と。その世代がまさに今の世界と日本の状況をつくったわけですよね。そうじゃないですか? ただ、今の若者にその敗北感はあまりない。秘密保護法が強行採決された夜、国会前で夕方の4時から朝の6時までずっと抗議をしてて、 まったく悲壮感はなかった。いいな、若い人たちが(笑)。

たくさんの人がモヤモヤしていると思いますが、簡単に抗議する方法はないでしょうか?

2012年の夏に、MCANのメンバーとして首相官邸に行き、当時の首相に「この国にはアクティビズム・フォビアと名付けたくなる文化がある。社会運動に対する嫌悪感、それを突破するのが大事だ」といいたいことを言ったんです。
テレビ局は報道統制を自主的にやっているじゃないですか、圧力を受けてニュースキャスターを入れ替えたりしていますよね。この間の国連の人権委員会による報道の自由度ランキングで、日本は72位までガーっと下がった!
自閉してメディアは、テレビだけじゃないですね。たとえばTwitterやFacebookでね、同じ価値観や考えが、同じ人たちの間をグルグルと回って、外まで出て行かない。フィルターがかかっている。しかもそれは自分がかけたフィルターで、自分の知りたくない情報が入ってこないようにクローズド・サーキットに閉じ込められている。
大切なのは、そのクローズド・サーキットから出ることです。日頃触れているものの外に出てみればいいんですよ。たとえば今までフォローしなかった人たちをフォローしてみるとか。

実は、 僕はTwitterで非公開リストがあって、訳のわからない連中をそこでこっそり観察しています。

実は僕も同じようなことをしてます。たとえば「「あにめあいこんさん」という非公開のリストがあって(笑)、ときどきそこをのぞいてみるようにしています。ほかにもいくつか非公開のリストがあるのですが、そういう自分とは考え方や生き方が違う人たち、いわば、自分にとっての他者ですね、その人たちの考え方やものの見方をじっと観察しています。もしかするとこれは、異文化を理解しようとする文化人類学者の業かもしれませんね。

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実際にデモに行くよりは敷居が低いですね。

よく「デモに行け」というけど、いきなり行かなくてもいいと思う。7月からの選挙に行くことのほうが大事。

誰が総理大臣になれれば日本は正しい道に戻れますか?

誰がなったって戻れない(笑)。アメリカのタウンミーティングみたいなものを少しずつできるようになればいいかもしれないが、今アメリカが正気を失ってますよね、トランプとか。アメリカはもう模範にならなりませんね。

九州人として災害についてどう思いますか?

九州の人はフランクで大人しい、ただ怒らせると怖いというステレオタイプがある。まあステレオタイプじゃなくて実際にそんなところがあるから、今は災害でそれどころじゃないけど、いずれ怒り出すでしょう。あと口が悪いから(笑)それなりの反撃をしてくるはずですよ。

どんな反撃ですか?

まずは次の選挙でしょうね。いまは心のなかにしまいこんでいる怒りを選挙にぶつけてくれるんじゃないでしょうか。ただ結果については、それほど大きな期待を持ってはいません。ともかく自民党の議席を3分の2以上にさせなければ、ひとまずそれで十分だと思っています。大切なのは、「呪い」のように持続性のある不断のポリティクスだと思います。

2011年5月7日 原発やめろ!デモ 素人の乱@渋谷 DANCE Bloc(DJ TASAKA)

2011年8月6日「素人の乱」原発やめろ!デモ

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