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大統領選、普通選挙が実施され、危機的状況から脱しつつある中央アフリカ共和国だが、内紛の火種はくすぶり続けている。何か一つ間違えば、ルワンダで起きた虐殺のような惨劇につながる恐れもある。武装組織の傘下にあるクリスチャンの組織アンチ・バラカと、大多数がムスリムから成る組織セレカの衝突により、2013-14年だけでも、1000余名の死者を数え、100万人以上が自らの土地を追われた。罪のない人々が捕らえられ、焼かれ、撃たれ、宗教上の理由で食べられてしまった。

首都バンギに滞在している間、私はカメラマンのレオとともにアンチ・バラカ地方支部の指導者を訪ねた。アンチ・バラカを始めクリスチャン組織は、戦いの目的を、イスラム原理主義者が主導権を握るのを防ぐため、と主張している。しかし、彼らは無差別な攻撃を繰り返しており、信仰外の動機が目に付く。アンチ・バラカは罪のないムスリムを冷酷に殺害している、という恐ろしい噂も広まっている。

われわれは、アンチ・バラカのいち指導者、エモーションに出会った。「エモーション」は渾名で、激昂して号泣する奇特な癖が由来らしい。決して、恐怖にかられて号泣するのではないことを付け加えておく。彼は、組織がいかに規律正しく、どれほど平和を希求しているか、世間の誤解を正したいらしく、組織の兵士たちを紹介したい、と提案してくれた。もちろん、我々は、彼の誘いにのった。兵士たちの溜まり場に向かう道中、エモーションは、持っていかなければならないモノがある、と車を道の端に寄せ、窓から仲間に向かって叫んだ。仲間の一人が車に駆け寄り、四角い皮飾りがあしらわれたネックレスをエモーションに手渡した。

「それは何ですか?」

「お守りだ」と彼は答えた。「防弾チョッキよりも強力で、弾、マチェーテ(長刀のなた)から身を守ってくれる。ロケット弾も当たらない」

「魔法ですか?」

「そうだ。これはグリグリだ」と教えてくれた。

彼がネックレスをつけた後、アンチ・バラカが警備する検問所に案内された。私たちは車から降り、グリグリを身につけているアンチ・バラカの男性たちに、撮影許可を求めた。

「もちろん」一人の男性が快諾した。「でも、あなたには私が見えていない」

「なぜですか?」

「私は『あなたには見えない人間』だ」

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グリグリというネックレスを身につけたエモーション

当然、彼の発言を聞いた誰かが吹き出すと思っていた。しかし、誰も反応せず、皆当惑したような顔で私を眺めるばかりだった。車に戻り、いくらか賢そうな地元の運転手、ハーベに、笑い話として「目に見えない」男性の話をした。

しかしハーベは、「彼は間違っていない」と笑いもしなかった。「ここには『目に見えない人』が大勢いる」

ハーベの発言には同意できなかったが、撮った映像を確認する、と約束した。

街に戻る途中、フランスとアフリカの兵士たちを撮影するために停車した。彼らは、軍の検問所を通過する車をチェックしていた。フランスの将校が近づいてきて、フランス軍がどれだけ治安維持に貢献しているか、一方的に語ってくれた。私は彼に、フランス軍に協力している地元の兵士たちは魔法を信じているのか、グリグリを身につけているのか、と尋ねた。

「グリグリを身につけている者もいるが、こっちのほうがいい」と防弾チョッキを叩いた。

中央アフリカ共和国は、大勢がクリスチャン、それに次いでムスリムとアニミズム信仰者がいる。しかし、ほとんどの人々は信仰に関係なく、聖書やコーラン同様、魔術を信じている。例えば、この国では、訴訟の4割は魔法がらみで、弁護士たちは原告たちに、被告を魔法で呪わないよう、厳しく指導している。また、動物に変化する魔術は暇つぶしとして人気があるそうだ。

小さな皮飾りをつないだネックレスが、爆弾や砲撃から身を守ってくれる、と多くの兵士たちが信じていても驚くことではない。しかし、西洋的で想像力の欠落したわれわれからすると、非合理を感じずにはいられない。この信仰の起源を探そうと、我々は、ハーベに魔法使いを紹介してもらった。彼に会えば、無敵の透明人間に変身できる牛皮飾りの秘密が明かされるはずだ。

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魔法使いフィリップ

我々は、バンギ郊外にある、薄暗い小屋に案内された。壁には、イエスの肖像画、中央アフリカ共和国の歴代大統領たちの額付きポスターが飾られていた。

プラスチック製の椅子に座ると、魔法使いフィリップの登場だ。彼は、30代半ばで、カーキのパンツにドルチェ&ガッバーナのTシャツで実を固め、戦争は彼にとってよい商売だ、と話し始めた。彼は、グリグリをアンチバラカの兵士たちに販売しているそうだ。このグリグリはセレカとの戦闘において、重要な働きをした、と彼は主張する。

レオは仕事柄、銃弾やロケット弾から身を守らなくてはならない。フィリップは、薬草を並べてそれぞれの効能を説明する。私たちは、70ユーロ(約9200円、中央アフリカ共和国の平均日給の50倍以上)請求された。半分しか払えない、もう半分は明日でもいいか、とお願いした。

しかし、フィリップは60ユーロを今支払い、その残りを明日払うよう要求してきた。我々は、魔法使いに従うのが得策だ、と判断し、条件をのんだ。ハーベは彼に、黒魔術の呪詛を防ぐ魔法をかけてもらっていた。

翌日、同じ場所を訪ね、フィリップと世間話をした後、レオが購入した最新の装具を見せてもらった。

レオが防弾チョッキなしで戦場を切り抜けるために、フィリップはこう指示した。「グリグリを身に付けたまま、生理中の女性に触れてはならない。守らなければグリグリは効かない。それから、女性の下着が干されている洗濯紐の下を歩くのもダメだ」

フィリップの説明はしばらく続いたが、その内容は、ほとんど月経がらみだった。同じ話題が続き、うんざりしていた。しばらくして、私は、彼の月経トークが、われわれの疑問にたいする返答ではないか、と気付いた。それは、グリグリを身に付けた兵士が射殺されたら、フィリップはどう弁解するのか、という疑問だ。

グリグリを身に着けた兵士が戦死した場合、月経中の妻や恋人に触った、洗濯紐の下を通ったに違いない、と主張すれば、フィリップが責められることはない。

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フィリップが魔術に使用する薬草

レオにグリグリを手渡したフィリップは、私に、なぜネックレスを買わないのか、と詰め寄ってきた。内心、ペテン師がつくる「魔法の紐」に70ユーロも払えるか、とバカにしたが、口にはせず、手持ちの現金が足りないからだ、とハーベに通訳してもらった。

そして、次に中央アフリカ共和国を訪れるときには、自分のネックレスも購入する、と約束した。誰もが魔法を信じる国で、術をわがものにした男を目の前に、私も魔法を信じていたのかもしれない。もし私がネックレス購入を約束しなければ、フィリップに恐ろしい呪いをかけられる、と軽くチビってしまったのだ。

ホテルに戻り、ここ数日間で撮影した映像を確認した。透明人間だと言い張った男性は、映像にはっきりと映っていた。

中央アフリカ共和国の魔術は一種の宗教のようなもので、人々は、グリグリが身を守る、と信じていた。恐ろしい状況下で勇気を奮い立たせる、暗示でしかないまやかしだ。信仰は個人の自由、とはいえ、大勢の罪なき非戦闘員を殺す民兵を奮い立たせる、シャーマンを騙る輩どもを野放しにしたままでよいのだろうか…