ジジイの活躍にジジイたちが爆笑『龍三と七人の子分たち』_01

(C)2015「龍三と七人の子分たち」製作委員会

私にとってのスターって、王選手と忌野清志郎とビートたけしです。でも王選手はもちろん引退しちゃって、その勇姿は小学生の頃にストップ。清志郎にしてもRCの『カバーズ』やザ・タイマーズ辺りで「あれ?矢印の向きが変わったぞ」と、ちょっと距離を置き始め、お亡くなりになりました。なので、現役はたけしだけなんですね。とは言っても、時は流れ、ダウンタウンなんかも出て来て、たけしにお笑いを求めることは少なくなりました。ではなぜたけしが未だにスターなのか?やっぱ映画ですね。奇しくも「オレたちひょうきん族」が終わり、ダウンタウンの「ガキの使いやあらへんで!!」が始まった1989年、北野武は『その男、凶暴につき』で監督デビュー。彼の魅力である危うさだったり、繊細さだったり、突拍子の無さだったり、社会風刺だったり、悪口だったり、狂気だったり、博識だったり、照れだったり…は、これまでテレビやラジオだけで受け取っていた訳ですが、それらはほんの序の口でしたね。映画ではその「ヤバさ」が何万倍も投下されていたのだからー。とってもとってもな衝撃でした。お笑いに関して言えば、年に一回「27時間テレビ」の火薬田ドンを見るだけで十分になりましたし。

そしてこのたび17作目である『龍三と七人の子分たち』が公開されました。ヤクザを引退したジジイたちが、オレオレ詐欺などで悪事を働く反グレ集団と対決するお話。『座頭市』(2003年)、『アウトレイジ』(2010年)、『アウトレイジ ビヨンド』(2012年)に通じるエンターテイメント作品です。そして『みんな~やってるか!』(1995年)、『監督・ばんざい!』(2007年)以来のコメディってところもミソ。でも『みんな~やってるか!』は、「ビートたけし」名義の監督作品で、実際にはテレビのたけしの方がまだ面白かった頃。『監督・ばんざい!』にしても『TAKESHIS’』(2005年)と並ぶ闇期作品であって、真正面からコメディを撮ったものではありません。なので純然たるコメディ作品は、これが初めてと言ってもイイのでは。ただ、この笑いの部分が賛否両論になるのはしようがないところ。たけしのコントを見て「寒い」って方はキツいでしょうし、余計だとも思うのでは。でもオチも無く、何も起らず、一般的には必要無いでしょと思われるシーンは、これまでの北野映画にも随所に登場していますし、10打数3安打、「7割が凡打かよ」的なシーンの連続こそが北野映画だと思うんです。その凡打が本当に美しい。歩いてるだけーとか、見てるだけーとか、自分とそのサークルにしか影響を与えない時間・生活を、物凄く大事にしている感じがするんですね。そこに笑いを入れちゃったから、慣れない方は更にキツく感じちゃうのかも。だからコメディ映画より、コント映画って言う方がしっくり来ます。ヒット&凡打のネタがズバズバと。

そのコント、ヤクザと老人というキーワードを使ったベタなものがてんこ盛り。震える手を抑えきれない元早撃ちガンマン、もはや自分のひげ剃りさえままならない元カミソリ投げ達人、元ヤクザなのに高齢者無料パスでバスに乗っちゃう…とかとか。主人公の藤竜也と相方の近藤正臣によるカラミも面白いんですが、やっぱ最強は中尾彬ですね。『アウトレイジ』とは真逆のキャラ。めちゃくちゃイジラレてます。そして火薬田ドンやお笑いウルトラクイズのエッセンスもたっぷり。ストーリーはめちゃくちゃシンプルで、逆に「それでいいの?」とツッコミたくなる場面もありましたが、それもスルーっと流れて行く。これまでの作品の中は最も何も考えないで観ることが出来ました。

で、この「何も考えない」ってのは、確実に初めての体験でした。『座頭市』とか『アウトレイジ』は「寄り過ぎ」だと思ったし、闇期二作に関しても自分なりに納得しようとしたり。でも今回は、全くモヤモヤは無かったし、感動も無かった。ただただ楽しかっただけ!それはやっぱこの映画に「ビートたけし」を感じたから。お笑い芸人のたけしを久々に堪能出来たからなのです。もしかしたら火薬田ドンだけでは満足していなかったのかもしれませんね。牛田モウにも会いたかったんだなぁ、私。『監督・ばんざい!』では、お笑いを隠れ蓑としていたのに、北野武はこの映画ですんなりとビートたけしと合体しちゃったのです。

正直言うと、闇二作から『アウトレイジ』、『アウトレイジ ビヨンド』を経ての「キタノブルー」的な作品が今一番観たいです。特に純愛ものかな。自分にとってのベストが『あの夏、いちばん静かな海。』(1991年)なので。でも今回はヨシとしましょう。だって清々しいんだもの。なんたって映画館がウケていた!それに平日の朝だったのに満員!そしてこちらもジジイだらけ(笑)。テレビ界の問題児で「教育上よろしくない」なんて存在だったビートたけしが、私の親世代を笑わせている光景には胸熱くなりました。ええ、本当にイイ雰囲気だったなぁ。それが勝ってしまった。ま、ワンクッション置いてのNEWキタノブルーを待ちましょう。

ジジイの活躍にジジイたちが爆笑。でも自分はまだジジイだと思っていない。あの頃のビートたけしのまま、ジジイをいじっているステキな作品です。緩~く楽しんで下さい~。

『龍三と七人の子分たち』
製作年:2015年
製作国:日本
配給:ワーナー・ブラザース映画、オフィス北野
上映時間:111分

スタッフ
監督・脚本・編集:北野武
音楽:鈴木慶一
プロデューサー:森昌行 吉田多喜男

キャスト
藤竜也
近藤正臣
中尾彬
品川徹
樋浦勉
伊藤幸純
吉澤健
小野寺昭
ビートたけし

『龍三と七人の子分たち』公式サイト