筋金入りのストーンズ・スロウ・フリークが集った夜

ストーンズ・スロウ(Stones Throw Records)」のドキュメンタリー映画『アワー・ヴァイナル・ウェイツ・ア・トン(ストーンズ・スロウ・レコーズの軌跡)』の日本盤DVD/Blu-rayリリースを記念して、6月30日(月)、東京・渋谷WWWでプレミア上映会が行われた。

LAのアンダーグラウンド・シーンを18年もサヴァイヴしてきたストーンズ・スロウが、いかに革新的な存在で、いかに多くの人々に支持されてきたのか――。そんな疑問を、所属アーティストはもちろんレーベル関係者の家族にもインタビューを試みながら、真摯に解き明かしていくジェフ・ブロードウェイ監督の手腕はお見事。幼なじみのカリズマの死、盟友マッドリブとの出会い、そしてJ・ディラが遺した軌跡…。8つのチャプターに分けられた本作は、笑いと涙とヴァイナル(レコード)への愛情に満ちた至福の瞬間をいくつも刻み込んでいる。

上映後はMC RYUが司会進行役を務め、レーベル創始者にして映画の主人公ピーナッツ・バター・ウルフ(以下、PBW)を迎えてのQ&Aセッションも実現。ドナルド・ダックのTシャツ(!)にトレードマークのハット&眼鏡で登壇したPBWは一つひとつの質問に丁寧に答え、ヒップホップMCのダースレイダーや、アフターパーティに出演したDJ AFRAからも質問が飛び交うなど、老若男女問わず筋金入りのストーンズ・スロウ・フリークが集結したフロアの光景は、まるで映画本編と地続きのようだった。

この2日後には、渋谷のMICROCOSMOSにて45”(7インチ)オンリーのパーティ<45 Live>を日本で開催するなど、今なお音楽ファンを魅了し続けているストーンズ・スロウ。確固たるセンスと信念が無ければ、ここまでレーベルの磁力を保つことは不可能だったはずだ。さっそく、VICE Japan初登場となるPBW=クリス・マナクとの対話をお届けしよう。

1 ピーナッツ・バター・ウルフが語る、ストーンズ・スロウの歴史とレコード偏愛

Interview with Peanut Butter Wolf(6/30 at 渋谷WWW)
「ドキュメンタリー制作の裏側と音楽産業のいま」

まず、今回特別上映&DVDリリースされたドキュメンタリー『アワー・ヴァイナル・ウェイツ・ア・トン(ストーンズ・スロウ・レコーズの軌跡)』が完成し、世に発表された率直な感想を教えてください。

とても大変だったというのが率直な感想かな。もともと、この映画はフランス人映画製作者のセバスチャン・バウアー(Sebastien Bauer)とルーカス・ブラヤ(Lucas Blaya)がフランス国営TV局のドキュメンタリー番組として作り始めたものなんだけど、TV局側の都合で企画がストップしてしまって。その後、この映画のディレクターであるジェフ・ブロードウェイ(Jeff Broadway)と、編集のロブ・ゴードン(Rob Gordon Bralver)が協力して、彼らの映像に新たな素材を加えて出来上がったんだ。きっと映画3本分くらいの映像があったんじゃないかな(笑)。

加えて、18年間もレーベルをやっているから、今まで関わってくれたアーティストにコンタクトして出演してもらうことも大変だった。でも、みんなには出てもらいたいからね。そこは常に葛藤しながら進めていたよ。

制作する上でどんなことに気をつけましたか?

ストーンズ・スロウを知っている・知らないに関わらず多くの人が観れるような作品になるように心がけた。内容が浅すぎると、よく知る人たちに「こんなの知っているよ」と思われてしまうし、あまりに詳しすぎると、知らない人たちに「マニアックすぎてついていけない」と思われてしまうからね。結果、とても絶妙なバランスで仕上がったと思う。制作に関わった前述のメンバーにはとても感謝している。

ストーンズ・スロウにはザ・ステップキッズのようなバンドから、ギルティ・シンプソンのようなヒップホップアーティストまで、 異なるジャンル・形態のアーティストが所属しています。彼らをひとつの共通項で括るとすれば、それは何でしょうか?

レコードをたくさん持っていることはもちろん、時代やジャンルにとらわれず、古き良き音楽をリスペクトして聞いていることだと思う。それはマッドリブや僕のような世代から、ジョンティやジョン・ウェインのような若い世代にも共通すること。レーベルのアーティスト同士でジャンルを越えて曲を作ったりもしているし、とにかく音楽が好きで好きでたまらない人たちの集まりだよ。

2 ピーナッツ・バター・ウルフが語る、ストーンズ・スロウの歴史とレコード偏愛

ストーンズ・スロウはレーベルという存在を越えてひとつの居場所であり、カルチャーになっていると感じました。新しいカルチャーが形成されるために必要な要素は何でしょうか。

なんだろうね…カルチャーについてはよく言われることだけど、この結果は自分で意図したことではなくて、自然とそうなっていったというか。だから僕自身はよく分かっていないんだけど、恐らく、自分たちが良いと思うものを共有して信じあっていくことが大事なんじゃないかな。

ストーンズ・スロウにはヴェックス・ラフィンなど、当初は他レーベルから注目されていなかった(売れないであろう)アーティストの音源も積極的にリリースする「お金よりも本当にやりたいことをする」というインディペンデントの姿勢が感じられます。映像においても多くのアーティストがこの点について言及していましたが、この姿勢の根本にあるモチベーションはどのようなものでしょうか?

正直に言って、どのアーティストが売れるかはリリースするまで僕にも予測できないし、誰にもできないこと。メイヤー・ホーソーンのように全くの無名の状態から1stシングルでいきなりブレイクする場合もあれば、なかなか売れないアーティストもいる。アーティストと契約するということは、彼らの音楽を広め、ファンを見つけることによって彼らを助けることが自分の責務になるということだから、売れない時は責任を感じる。 また、アーティストによっては「ファンの数が増えたからといってモチベーションが上がるわけじゃない」と言う人もいるし、僕自身も、レコードの売れることを生きがいにしているわけじゃない。…とは言ってもこのビジネスは続けていきたいし、従業員のためにもお金は稼がないといけないからね(笑)。そこはバランスをとってやっているよ。

3 ピーナッツ・バター・ウルフが語る、ストーンズ・スロウの歴史とレコード偏愛

レーベルのオーナーとして長い間音楽産業に関わり続けてきたと思いますが、昨今のリスナーや音楽産業はどう変化していると感じますか?

昔はレコードを作ることやスタジオを借りるのにも結構なお金がかかったから、ファンに音楽を届けること自体が難しかった。今は作った音源をすぐにネットにあげることができるけど、簡単すぎるからこそ、見つけてもらうことや印象に残ることが難しい状況にあると思う。
インターネットは音楽産業そのものを変えてしまったけど、僕はとてもエキサイティングなことだと思っている。やろうと思えば、SoundcloudやYoutubeで一日中好きなアーティストを掘ることもできるからね。実際、今日もここに来るまでの数時間、ネットでミュージック・ビデオを掘ってきたんだ。

注目している日本のアーティストがいれば教えて下さい。

今でも覚えているのは、数年前に前座で出てもらったZEN-LA-ROCKと一緒に出ていたJOY & HAMMERの二人。彼らのダンスは衝撃だったね。あとは、ストーンズ・スロウ15周年の記念のときにMixをしてくれたやけのはら。彼のDJもすごく気に入っている。全体的に、日本のDJのクオリティーはすごく高いと思う。

4 ピーナッツ・バター・ウルフが語る、ストーンズ・スロウの歴史とレコード偏愛

アワー・ヴァイナル・ウェイツ・ア・トン
(ストーンズ・スロウ・レコーズの軌跡)

英題:Our Vinyl Weighs A Ton (This is Stones Throw Records)
Disc 1:DVD&Blu-ray/1時間34分/日本語字幕付き/NTSC/リージョンフリー
> Chapter 1:The American Dream(アメリカン・ドリーム)
> Chapter 2:Stones Throw Today(現在のストーンズ・スロウ)
> Chapter 3:The Madlib Invazion(マッドリブ・インヴェイジョン)
> Chapter 4:A Champion Sound(チャンピオン・サウンド)
> Chapter 5:The Illest Villain(イルな悪党)
> Chapter 6:The Last Donut(最後のドーナッツ)
> Chapter 7:The Wild West(荒野の西海岸)
> Chapter 8:The Rebound(復活)

Disc 2:Sound Track CD
> 01. Madlib “Cue 1”
> 02. Madlib “Cue 2”
> 03. DaM-FunK “Don’t Go Swag” (Live)
> 04. J. Dilla “Lightworks”
> 05. Tony Cook “Get To The Point”
> 06. Madlib “Cue 4”
> 07. Charizma & Peanut Buttwer Wolf “Methods”
> 08. Silk Rhodes “Face 2 Face”
> 09. Mayer Hawthorne “Wish It Would Rain”
> 10. Vex Ruffin “Technology”
> 11. Homeboy Sandman “Whatchu Want From Me”
> 12. The Stepkids “Legends” (remix) ft. Krondon & Percee P
> 13. Jonti “Nightshift In Blue”
> 14. James Pants “In the Eyes of the Lord”
> 15. Lootpack “The Anthem”
> 16. Quasimoto “Low Class Conspiracy”
> 17. Madlib “Cue 9”
> 18. Madlib “Cue 10”
> 19. Jaylib “McNasty Filth” ft. Frank-N-Dank
> 20. Madvillain “All Caps”
> 21. Baron Zen “Gotta Get Rid of Rick”
> 22. Folerio “Second Chance”
> 23. Aloe Blacc “I Need A Dollar” (Live In Studio)
> 24. 7 Days Of Funk “Do My Thang”
> 25. The Quakers “Fitta Happier” ft. Guilty Simpson & MED
> 26. Myron & E “If I Gave You My Love”

Stones Throw Records
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Text by Kohei UENO
Interviewed by Kentaro Okumura
Photo by Masato Yokoyama