既にご存知の皆様も多いだろうが、オーストラリアのアーティスト、ポール・シェーンベルガー(Paul Schonberger)が発表した写真集『Up and Over』が興味深い。被写体は、アジアのハゲ。主に、アジアの中年男性、つまり「オヤジ」のバーコード・ヘアーにピントを合わせている。この写真集、間違ってもオヤジをバカにしているワケではない。色あせた過去の栄光を回顧する類いの、悲哀に満ちた写真集でもない。むしろ、ハゲに新たな価値を付与しているのだ。なぜこんな酔狂な写真を撮るのか、ポール・シェーンベルガーに、その真意を訊ねた。どうしてこのプロジェクトを始めたんですか。元々は趣味でした。アジアで見かけたオヤジたちの、風変わりなキャラクターに惹かれてしまったので、写真を撮り始めたんです。ストーカー、と思われるかもしれませんが、フレンドリーな気持ちで、敬意を払ってシャッターを押しています。明確な意図とともに始まったプロジェクトではありません。
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冗談ではなく、わたしは、人生の先輩たちから刺激をうけています。オヤジの振る舞い、行きつけの場所、服装、すべてに興味があります。
先日、イカしたオヤジを目撃しました。上半身は、パリッとしたシャツとネクタイでキメているのですが、下はジャージでした。とても個性的ですよね。それはすごい。基本的に彼らは、全く何も気にしていないようです。とてもユーモラスです。そんなオヤジが私のテーマなんです。ある種のファッション・リーダーとして、彼らはもっと尊敬されて然るべきです。ハゲ同好会もあるようですが、オヤジは友情を築きやすいのでしょうか。彼らは、自らの人生に、とても満足しています。生きいきと楽しげで、他人にの目など気にしません。外で将棋をしたり、寝転んだり、思うままに楽しんでいます。写真集の舞台は、主に、日本、韓国、中国、シンガポールですね。やはり、ハゲにもお国柄はあるんですか。お国柄、というより、地域、職業によります。
バーコード内に階級格差があるんですか!?もちろん。階級格差がうまれてしまうのは仕方がないことです。とびぬけて威丈高なハゲもいれば、妄想癖のある否定的なハゲもいます。実に個性的で魅力的です。バーコード・コミュニティーには、そう簡単に参加できませんからね。アジア各地にいろいろな呼称があります。バーコード、八二分け、スプリンクル、スプレー塗装。挙げればキリがありません。ヅラしか解決策はない、と思われていましたが、朗報ですね。身体能力向上のために、あらゆるものを摂取してハゲたアスリートもたくさんいます。彼らは、良くも悪くも、バーコードの道標です。アンドレ・アガシは、自らの外見と稼ぎに偏執的なまでにこだわり、長年ヅラを被り続けていました。しかし、結局、「オレはハゲ」とカミングアウトしました。ヅラを気にして試合に負ける、なんてことは、ハゲにあるまじき醜態です。ハゲで稼いだ金を分配するべきです。
アジアでもう一度行きたいのはどこですか。韓国です。オヤジだけでなく、面白い子供がたくさんいました。ただヒマそうに座っているだけなんですけどね。オヤジは午前2時でも外にいます。音楽を聴いたり、屋台で買い喰いしたり、好き勝手な格好でタムロしています。彼らこそリアル・バーコードです。人目を憚らず、人に迷惑もかけず、自分勝手に生るのは素晴らしいですね。オヤジは、ただただ自らのビジネスに勤しみ、人生を謳歌し、生きいきしています。オヤジの人生に祝福あれ、ですね。バーコードはライフスタイルです。