コカインを見切り「金」に群がるコロンビアの外道たち

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コカインを見切り「金」に群がるコロンビアの外道たち

2000年以降、ゴールドラッシュはコロンビア各地を席巻し、ゲリラ組織、民兵組織を率いる麻薬密売組織は、麻薬取引の損失を埋め合わせるべく、金取引に活路を見出した。金は、国内各地で新たなコカインとなった。

コロンビア金鉱採掘の中心地セゴビアは、第2の首都メデジンの北東200キロ、最短ルートで6時間ほどのところに位置している。埃の舞うセゴビアの住人によると、近年急増する暴力騒動は、ある虐殺事件に端を発しているらしい。莫大な利益を生む地元の鉱脈「ラ・ロカ(La Roca)」の利権に関する会合に向かった鉱山所有者の家族とその友人、合わせて4人が計画的に殺害された。この虐殺事件に地元有力者の関与が噂されていた。その有力者は、ハイロ・ウーゴだ。

ハイロ・ウーゴ・エスコバル・カターニョ。滅多に使われない、ハイロ・ウーゴのフルネーム。彼を理解するには、まず、コロンビアの「金(きん、ゴールド)」事情を理解せねばならない。コロンビアのゴールド埋蔵量は、スペイン人開拓者にとって厄介な戦利品であった。採掘のため、開拓者たちはアフリカ人奴隷を輸入し、植民地の鉱脈でこき使うことになる。 常に利益率の高い金産業だが、ここ10年、金の価値は高騰しており、今ほど金の価値が高かったことはないはずだ。2000〜2007年で金の平均価格は倍増し、1オンス(約28g)279ドル(約32,000円)が、695ドル(約79,000円)まで高騰した。2011年には1オンス1,572ドル(約179,000円)を記録した。ゴールドラッシュはコロンビア各地を席巻し、ゲリラ組織、民兵組織を率いる麻薬密売組織は、麻薬取引の損失を埋め合わせるべく、金取引に活路を見出した。金は、国内各地で新たなコカインとなったのだ。

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コロンビア国内における金産出量の大半は、違法探鉱採掘の成果であり、昔ながらの鉱脈労働者に頼っている。市場の爆発的拡大にともない金堀に乗り出した企業は、見当違いな場所を最新機器で探採掘するのに忙しく、微々たる成果しか挙げていない。 企業は、ダイナマイトで山腹を爆破し、河床をそっくり掘り返し、建設機械でコロンビアの原風景をメチャクチャに荒らしている。彼らが通った残るのは、月面のように荒涼とした風景だ。この類いの事業は、大抵、自発的であろうとなかろうと、犯罪組織と結びつく。そうなると、鉱脈所有者は、地域を支配する違法武装組織に上納金を献じなければならない。 稀に、外道が鉱脈の株主を務めたりもする。結局、金取引による利益の一部が武装組織の活動資金になる。

そんな状況のなか、ハイロ・ウーゴは権力を手にした。彼は金鉱労働者を経験したのち、セゴビア近くの村落で予備警察官を5年間勤めた。彼が、金取引に手を出したのは、1990年代に入ってからだ。鉱山から直接金を購入、精製し、それを溶かしてバー状に整形し、メデジンの大手輸出業社に売り込んでいた。

ビジネスに長けたウーゴは、すぐに、2店舗のゴールド買取ショップを開店し、2008年には大手鉱業会社と交渉の末、放置されていた会社所有地のリース権を得る。彼の鉱脈、ラ・エンパリサダ(La Empalizada)は瞬く間にセゴビア史上最高の鉱脈になった。国内で一大勢力を誇るカルテルから派生した麻薬密売準軍事組織「ラストロホス」との関わりも、このころから始まったようだ。2011年11月1日、栄華を極めたウーゴは、メデジンのヒットマンに銃撃されが幸いにも一命は取り留めている。

セゴビアから30分、ウーゴの故郷レメディオスは不毛の地だ。彼は、村人から王様か神様か、といわんばかりに崇められていた。

虐殺事件が起きたラ・ロカ鉱山のオーナー、セラフィネ・ファミリーは、国内各地方で何世代にもわたり金探掘を続ける、小規模鉱山労働者階級の典型だ。ファミリーは、違法ながらも、18ヶ月間、掘り、爆破し、岩を引き摺り、2011年の春、ついに豊穣な金脈「ラ・ロカ」を掘り当てた。私が訪れた時期、ラ・ロカは、月70万ドル(約8千万円)相当の金を産出しており、セゴビアで最もリッチな独立鉱脈になっていた。教会に巣食うネズミ・ファミリーでしかなかったセラフィネ・ファミリーは、一夜にして神化を遂げたのだ。

セラフィネスが金を掘り当てから間もなく、武装した2人の男性が、一家のメンバー、サウロ・タボルダのもとを訪れた。男性2人はラストロホスの構成員だ。最初は控え目に上納金を要求し、ウーゴが鉱山を欲しがっている、とサウロに伝えた。 ひと月後、セラフィネスは、セゴビア近郊の小村にラストロホスから呼び出される。サウロを含むセラフィネス代表は、川岸の廃れた教会でラストロホスと面会した。ラストロホスは、報酬60,000ドル(約700万円)でラ・ロカ鉱山を乗っ取るよう、ウーゴから依頼されたことが判明した。「決着がつくまでは、1人たりとも逃がさない」とラストロホスの幹部はセラフィネスを脅した。

しかし、セラフィネスは脅しに屈しなかった。2012年12月、ラストホロスに呼び出され、セラフィネスから2人とファミリーの協力者3人が、セゴビアから離れた「死の高台」アルト・デ・ムエトロスに向かった。4人がそこに着くと射殺された。現場を検証した捜査官は同僚に、完全に殺られている、と報告した。

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この事件の1ヶ月前、ラストロホスの幹部たちは、ウラベーニョスという地下組織と、ある取引をしていた。ラストロホスと拮抗する国内唯一の犯罪組織ウラベーニョスは、版図拡大の過程でラストロホスから麻薬密売ルート、縄張りを奪うべく抗争を仕掛けていた。そんななか、度重なる殺戮合戦に疲弊した両組織は休戦合意を結ぶ。合意では、北東金鉱山地域の支配権を6億ペソ、3.3百万ドル(約3.7億円)でウラベーニョスに移譲する、と約束が交わされていた。

「高台の虐殺」の後、セゴビアのタカ派ラストロホスは、休戦合意に対する不信、ウラベーニョスに対する疑心から、新たな武装団体を組織した。この組織はコロンビア「北東の守護神」を名乗り、地元住民と鉱山に対して上納金を強要し、マシンガン、迫撃砲、グレネード・ランチャーなどの武器を、腐敗した一部コロンビア軍から入手した。この武装団は、すぐに200人の戦闘員を有す規模に拡大し、ウラベーニョスに抗争を仕掛けた。

北東部の支配権をかけた抗争は、民間人を巻き込んだ。 両組織は、縄張りの住民に絶対忠誠と支援を要求した。商店主、宝くじの売り子、タクシー・ドライバー、鉱山労働者。誰であろうと裏切り者として引っ立てられ、誰もが犠牲者になりうる状況だった。

生き残ったセラフィネスは、国内いちではないものの、未だ大手だったため「北東守護神」にターゲットにされてしまった。ウーゴの企てに加担している、と疑われもした。家族を殺害されたセラフィネスは2つの選択肢に気付く。武力交戦か、権謀術数か。武力交戦であれば、セラフィネスは流血と失財を余儀なくされ、犠牲は大きい。権謀術数であれば、警察、コロンビア軍と「北東守護神」を戦わせればよい。当然、セラフィネスは後者を選んだが、念のため、武装護衛要因を30人ほど雇った。

ミュータント化した「北東守護神」殲滅の任が州検事に押し付けられた。彼のデスクにある進行中の調査に関する資料の中には、警察捜査官によるウーゴ捜査の資料もあった。2012年11月11日、ついに、ウーゴ、「北東守護神」17人の身柄を拘束するための逮捕令状が発行され、地元警察はその後間もなくウーゴを逮捕した。

私は、セゴビアを後にして3ヶ月も経たない2013年2月、セゴビアに戻った。セゴビアは、明らかに非常事態であった。ウーゴ不在にもかかわらず抗争が激化していたのだ。2012年末までに、セゴビアの金の生産量は倍増し、犯罪率は4倍にまで上昇した。レメディオスとセゴビアの殺人率は、国内一二を争うまでに上昇した。

それは終わりなき戦いのはずだった。それがある日、終わりを迎えた。2013年5月初旬、ある共同声明のビラがセゴビアに舞った。そのビラは、北東部の「終戦」を伝えていた。「我々はただ一つの目的のために同席した」「野蛮な流血に終止符を打つ。今日、我々は、平和を享受できることを神に感謝する」。ウラベーニョスと「北東守護神」によるビラには、抗争よりも協調、という結論に至った旨が記されていた。一丸となった外道団は、戦禍を逃れるべく「土地を後にした人々は、戻って下さい」と伝えた。

「北東守護神」の構成員によれば、ウーゴは、セラフィネスを「ウーゴ暗殺未遂事件」の黒幕と勘違いし、セラフィネス殺害を指示したそうだ。その他には、ウーゴがラ・ロカ鉱山を欲したから、との指摘もあった。「北東守護神」のなかには、暗殺未遂事件後、ウーゴがラストロホスの幹部数人に、400,000ドル(約4億5千万円)でセラフィネスを殺害するよう依頼した、と検事に証言する構成員もいた。

セラフィネスも無辜の被害者ではない。投獄された3人の「北東守護神」構成員によると、ウラベーニョスが北東部と鉱山を支配下に収めた数ヶ月後、セラフィネスはウラベーニョスに資金援助をしそうだ。セラフィネス護衛組織の主幹は、セラフィネスによるウラベーニョスへの、「北東守護神」壊滅に有効な情報、活動資金提供を認めた。「俺が悪党どもの情報を俎板の上に載せた。そしたらヤツらは殺し合いを始めた」と彼は豪語した

2012年6月、私は、州検事との遣り取りについて、改めて振り返った。検察当局は「北東守護神」壊滅キャンペーンの最中だった。「外道たちは、我々を『使えるバカ』とバカにする」と悲しげに洩らした。彼をはじめ誰もが周知の通り、コロンビアの「犯罪」は「犯罪がない」ところにで罪を犯したがる。「ある意味、我々は、北東部をウラベーニョスに明け渡しているようなもんだ」と自らを皮肉った。

ウラベーニョスを後ろ盾にしたセラフィネスは、ラストロホスと手を携えたウーゴとさほど変わらないのかもしれない。ウーゴは、血に飢えた武装組織を援助し、結果、自身の終焉を招いた。セゴビアの人々に、どちらにも与しない、という贅沢はありえなかったのだろうか。そんな発想はウブ過ぎるのだろう。セゴビアで起きた類いの、気まぐれで暴力的な覇権争いを超然とやり過ごす、そんな振る舞いはコロンビアで許されない。とあるラストロホスの幹部が断言したように、街にはたった一つだけルールがある。「大魚、小魚を喰らう」