名越啓介は2016年11月25日に写真集『Familia 保見団地』をリリースし、その二日後、コンゴ民主共和国へと出発した。同行したのは奥村恵子。彼女は、南米やアフリカ諸国を渡り歩き、89年にパパウェンバと知り合い、パーカッショニスタとしてパパウェンバ&ビバ・ラ・ムジカに参加し、96年から数回コンゴへ通い続けるほど、アフリカ・コンゴに精通する人物だ。前回も記したが、第一目的はプロレスやサプールの取材。しかし、幸か不幸か、たまたま外務省が注意喚起を促す時期に取材が重なった。奥村によると、ジョセフ・カビラ大統領の任期が切れる12月19日を過ぎると、暴動のため出国できない可能性があるが、それまでに出国すれば大丈夫とのこと。「いつものことだから」と笑う奥村はパリに住むキンシャサ・ミュージックのメンバーのもとに滞在後、名越と合流した。

こうして、はじまったコンゴ取材。第二回目は名越啓介の写真と奥村恵子による証言をもとに、コンゴ民主共和国の首都キンシャサをレポート。政情不安、ストリートチルドレンと黒魔術、医療としての白魔術、悪徳ポリス、夜の街の有り様、国民性などをお伝えしたい。

名越と奥村は、無事にキンシャサに到着し、合流したが、街中では戦車が往来し、銃弾が飛び交うこともあった。そんな混沌とした状況を生み出したのは、大統領の再選問題。大統領が自身の利益に走るお国柄であるため、住民との衝突は避けられない。

そもそも、米国がコンゴの資源を狙って連れてきたカビラ大統領が、近年、中国の支援に応じたために、米国は同大統領の預金を凍結した。そのため、米国人は、コンゴ人に敵対視され、危険すぎて街を歩けない。

モブツ大統領時代も、最初はアメリカの支援を受けていたため、キンシャサでは5ドル以上であれば、コンゴ・フランとともに米ドルも使用できる。しかも、米ドルのほうが流通しており、米国の影響が色濃く残っているのがわかる。

紛争状態が続くコンゴでは、子供が戦闘に巻き込まれる機会も多い。親が殺された子供を誘拐し、入隊させ、ヘロインで判断力を麻痺させて洗脳するからタチが悪い。ヘロインは街中で簡単に手に入り、コカインもナイジェリアから流入してくるため、入手しやすい。大麻にいたっては、街のタバコ屋でも売っている。「どのゲットーでも大麻の匂いが街中に立ち込めているから。値段も安いし、やることもないからね」という奥村の言葉からも、キンシャサではドラッグが蔓延しているのがわかる。

キンシャサで暮らす人々はいわゆる貧困層である。今回取材で出会った人々の話を統合すると、1ヶ月の平均月収は3千円くらい。職業は靴磨き、電話のプリペイドカード売り、1本単位でのタバコ売り、農家、漁師など。それに対して、一握りの富裕層は、政府やダイヤモンド関係、不動産業、貿易関係や携帯電話の子会社などに務めている。現在一戸建て住宅の建設ラッシュだが、一部の富裕層が、稼いだ元手を武器に資産をつくっては売り、際限なく裕福になる。しかし、他の大勢、特に若者は、長年コンゴに通い続けいてる奥村でさえ、「どうやって金を稼いでいるかかわからない」と不思議がるほど職が不足し、貧しい生活を強いられている。したがって、一般家庭に生まれ落ちたら最後、その後どうやっても貧困から抜け出せない。貧富の差がますます広がっているのが、キンシャサの現状である。

街を歩き国民と触れ合うと、圧倒的な貧富の差を感じる。輸入品はとにかく高価で、富裕層のために売られている。例えば、取材で訪れたスーパーでは、トイレットペーパーが6ドルもした。奥村の言葉を借りれば、「他のアフリカも回ったけど、コンゴは特に貧しい。他の国では明らかにゲットーとされる場所だらけだからね。外国人が街を歩けば、一日中、全員にせびられる。ガードマンやスーパーマーケットの店員、子供と、ありとあらゆる人が『金くれ、金くれ』とせがんでくる。車に乗っていても、みんな目が良いし、こっちは肌の色が違うから、すぐに見つかって、言い寄られる。まぁ無茶苦茶な国だからしょうがないけどね(笑)」

貧困層の家庭では、宗教も助けにならず、むしろ足枷になってしまう。国民が黒魔術を信じているため、自分の子供が呪われている、と黒魔術師に認定されると悪魔払いをしなければならない。多くの市民は金がないため、呪われていると認定された子供を捨ててしまう。およそ3万人ほどいると推測されるストリートチルドレンは、このようにして増え続けてしまう。ストリートチルドレンは生きるために盗みを繰り返すが、不幸中の幸いか、銃を買う金がないため、殺人を犯す子供は少ない。

魔術は医療の場でも利用される。コンゴではマラリヤやエボラ熱など死に至る病が蔓延しているが、病気を治すために、古来から伝わる白魔術が施される。具体的な治療法は、例えば太鼓を患部にあて、6/8拍子で叩き、波長を共鳴させ治療する。東洋医学の波動治療と似ているのも面白い。

確かにコンゴは混沌としている。警察はいったい何をしているのかと疑問に思う人もいるかもしれない。しかし、警官が最もタチが悪い。「ポリスは拳銃を持っているし、権力があるから、とにかくケチをつけてきて、何もしてなくても捕えてくるからね。それで、金をせびってくる。解決方法は金しかない。払えないと応戦すると、今度はタバコをせがんでくる。ガンジャをせがんできた者もいて、こちらが持っていないとわかると、『じゃ、ガンジャ代でいい』と。大麻は法律で禁止されているのに、まさかポリスがガンジャをせがむのか、って感じだよね。特に外国人は金を持っていると信じているから、あいつらからしたら、歩くATMだよね。コンゴ人にせびるのは当たり前。外国人には、よりせびってくる」。今回の取材では、2週間で10回ほど警察に捕まった。詳しくはプロレスの回に補足するが、牢獄に入れられたケースもあった。その際、不覚ながら20ドルほど奪い取られてしまった。逆にいうと、金さえ払えばどうにかなる。金がなければどうにもならない。そのまま監禁されていただろう。

警察も正当な給料が貰えないため、市民から強奪しなければ生活ができない。女性の暮らし方も、そんな貧しさゆえの価値観になっていく。夜のバーに出向くと、名越に言い寄ってきた女性がいた。「気づいたら女の子が『話そうよ』みたいな感じで言い寄ってきて。名越くんは外国人だし、実際は全然、金持ってないけど、金持ってそうに見えたんじゃない(笑)。横にひっついて、ビールせがみながら、いっしょに踊って、帰りは抱きついて離さない。名越くんはリンガラ語もフランス語も喋れないから、その娘もくっついているしかなかったんだろうね(笑)。プロの娼婦ではないけど、バーにはお金持ちの男を求めて女の子も寄ってくるから、外国人は結婚相手として理想的なんだろうね。どっかで綺麗な服を見つけて着飾って良い旦那を見つけたら万々歳。女の子が貧困から抜け出す方法は、男しかないからね」

また、名越はコンゴ女性のヌードを撮ろうと売春宿を訪れた。路地裏に赤いライトがポツンと灯った場所に、ひっそりとした売春宿があった。その宿の脇に、オバちゃんたちが溜まっていたが、みんな黒人で暗闇だから、話していても顔が見えない。部屋の中に入ると1畳か、2畳ほどの部屋に蚊取り線香が置いてあって、「写真を撮らせてほしい」と頼むと、やはり金。部屋代が10ドルで、その子が10ドル、全部で20ドルくらいで売春を請け負っている。写真を撮りたい、と伝えると100ドル以上要求された。しかも、その前に、「大麻をくれ」と男勝りな要求をされ、結局、いくら取られるかわからない、と撮影を断念した。売春宿に向かう途中に、案内してくれたコンゴ人から聞いた話によると、1ドルの売春婦もいるようだ。

貧しいが、文字の読み書きは得意。まず、部族の言葉を喋り、公用語のリンガラ語も喋る。さらに、学校の授業がフランス語のため、フランス語も喋れる。したがって、最低3ヶ国語、トライリンガルが多い。学校を出ても仕事に就ける保障がないため、ドロップアウトする子供も多いが、ほとんどがフランス語を喋る。コンゴ人との交流のなかで、フランス語を覚えた奥村いわく「正式なフランス語かどうかはわからない」とのこと。

今回の取材では、街中を徒歩と車で移動したが、交通事情も凄まじい。特に雨季だったため、ヌカルミだらけで、あちこちに凹凸ができ、グチャグチャ。信号もなければセンターラインもない。右、もしくは左側通行というルールもない。そもそも交通ルールなんて何もない。カオス状態。常に罵声が飛び交っている。車に乗っていても、譲り合いの精神などいっさいない。怒涛と勢いのみで、いったもん勝ち、やったもん勝ち、強さ勝負の世界。「ごめんなさい、私が悪かった」なんて言葉は死語。それでも事故が少ないというのは不思議だ。今回の取材中、バイクとバイクが正面衝突したのを目撃した。その場面でも、お互いエンジンをふかし続け、「譲ろう、退こう」なんて微塵も感じられない。結局、ぶつかりあったまま、罵声の浴びせあい。それがコミュニケーションにも見えてくる。まるで、B級映画の喧嘩シーンのごとく日常が流れていく。車が衝突するギリギリで行き交うのは当たり前。運転手は全員、毎日切れっぱなし。いっけん大人しそうなドライバーも、ハンドルを握ったら例外なく罵声を発する。どこのゲットーでも、同じような光景が見られる。道が悪くスピードが出せないため、結果的に交通事故が少ないのだろう。何れにせよ、それほどカオスな交通事情にも関わらず、事故が少ないというのは面白い。

2人がコンゴを訪ねた12月は雨季のど真ん中。キンシャサの気候は10月から5月までが雨季で、6月から9月までが乾季。雨季は道のあちこちで大きな水溜りができ、車での移動は、より時間を要す。気温は年間を通して、さほど変化がなく、昼間は35度、夜は25度くらいまで下がるのだが、特に雨期は、お世辞にも過ごしやすいとはいえない。昼間は埃が舞っていて汚いが、夜深くになるにつれ、多くの住民が寝静まり空気が澄み渡る。昼間は暑いが、夜になるとまだ涼しいため、仕事がない若者が夕方以降、バーに集り遊びだす。

24区あるキンシャサ各区の道沿いには、DJがいて踊れるスペースが設けられたバーがある。100人くらいを収容できる大きなバーも、いくつかある。最も大きなバーは、パパウェンバの本拠地でもあるマトンゲ地区にあり、常にライブが行われている。ボゥマルシェ地区には高級なバーや娼婦バーが立ち並ぶ。コンゴの最新音楽が聴ける地区といえば、ンドンボロ。リンガラ・ミュージックが主流だが、コンゴ・デジタルミュージックとナイジェリア・デジタルミュージックが、最近の流行りだそうだ。また、どの地区でも街を歩くと道端のいたるところにテーブルがあり、曲単位で音楽を売っている。パソコンとスピーカーで、それぞれ自慢の音楽を流している。クラブの入場料も払えない金のない若者は、そんなゲットーに集まり、1ドルくらいで買えるビールを飲みながら、スピーカーから流れる音楽で踊っている。「クラブはもちろん、道端でも最新の音が流れているよね」と奥村。

ライブは、およそ深夜の1時を迎える頃から始まり、朝の10時までノンストップで続く。また、キンシャサの地面のほとんどが土で、コンクリートで舗装されていない。高いビルもないため、音がどこまでも抜けていく感覚を味わえる。様々な音が共鳴し響き渡り、気持ち良い空間が出来あがる。何度もライブをしている奥村いわく「あれは癖になるよね。朝になると爆音ともデジタルともいえない、コケコッコーとか、生命の音も聞こえてきて、うるさいとは全く感じない。音が空気に混じって溶け込んでるように感じられるから、心地よい音楽が止まることなく、川のように流れてる感覚に包まれる」そうだ。音楽の街であるキンシャサでは、バーはもちろん、昼夜問わず、街のざわめきとともに音楽が聴こえてくる。

30代、40代は、貧しくても多少お金を持てるが、結婚の概念は希薄。お金がないと結婚ができないため、一般的には結婚をしない。ただ、子供がいる者がほとんど。女性や親も「結婚しました、私の子供です、孫です」という感覚が乏しく、「あぁできちゃった」くらいの感覚で、結婚にこだわる国民性はない。男性は入籍に重きを置かず、浮気してはならないという考えは全くない。女性ですら、貞操観念がないように感じるほど大らかだ。

底抜けに明るい性格のコンゴ人が多く、概ねポジティブな発言を繰り返す。一体どのような発想のもと、前向きな発言ばかりするのか不思議に思う場面も多い。奥村が体験したエピソードも秀逸だ。「以前、シゲエって楽器をパリのレコーディングスタジオに置きっぱなしにして帰って、後日取りにいったらバカンスで閉まってて。しかも、パリのバカンスだから、だいたい1ヶ月くらい帰ってこない。その後ライブも控えていたから、ライブにも出れない。もう無理だと思って、えんえん泣いていたら、バンドメンバーのコンゴ人が、『そうだ良い考えがある。おまえもバカンスに行けばいい!!』みたいなことを本気でいうのよ(笑)。発想がポジティブというかなんかさ(笑)」

恋愛においても、日本人とは全く異なる価値観がある。

「女の子を口説くとき、『こんばんは、今日いっしょに寝ましょう』っていきなりくる。こっちは、『あんたのこと、よく知らないし、すぐにはできんよな』と応えると、『じゃ何日後ならいいのか? 会って3日後とか、日本には規則があるのか?』って聞いてくるから、『それはないよな』って返すと、『じゃ、いいじゃん』って迫ってくる。『明日また会って考えよう』って躱そうとすると、『いつ死ぬか、わからない。明日のことはわからないし、今しかないから、今しよう』って食い下がる。『恋人じゃないから』って断ると、2週間後くらいに同じやりとりするんだよ。『好きだ』って。『友達でしかない』っていうと、真剣な顔して、『2週間経ったから、気が変わったと思った』って(笑)。日本でいう、お茶飲もうくらいな、気軽な感じで、とりあえず声を掛けるみたいな。それにも理由があって。コンゴ人、ポコポコ、すぐ死ぬんだよね。周りでも死ぬんだけど、だからこそ、考え方が〈今〉しかなくて、〈今〉にしか生きてないから、過去をウダウダ悔やまないし、未来もクヨクヨ心配しない。発想がおかしくて笑えるし、全然落ち込まない。本当に最高だなって思う。日本人みたく落ち込んだりしてると気が狂うって良くいわれる」

約束の概念も、これまた面白い。

「恋人と水曜日に待ち合わせをして待っていると、土曜日にきて、『水曜日っていったじゃん』っていうと、『誰が、月曜日、火曜日を決めたんだ』『明日っていうのは、今日より未来のことで、誰が月火って決めたんだ』って。発想が生まれたまんまで、本来持っている人間の真理を突いてる気がして感心するんだよね」

「近代社会って規則をつくって、みんな守ってるけど、コンゴでは車が故障したり、雨が降ってきたり、約束を守れない事態が頻繁に起こる。それで、ルーズが当たり前になって、わかっちゃいるけど、守れない。だから罪悪感もない。人を待たせり、迷惑をかけると悪いという観念がない。逆に、こっちも気を使わなくて済むから、楽っちゃ楽なんだけどね。全員が全員、生きてるだけで他人に迷惑をかけっぱなしだから、迷惑をかけて当たり前。そのかわり、約束を守れなくても文句は言わない。気を使って人の顔色を伺うのは皆無。そうじゃないと生きていけないのがコンゴ」

また、貧困と国民性についての話も面白い。

「止むに止まれず、お金を取るしかない。根は悪い奴だとは思わない。ゲットーでも、悲壮感や退廃ムードはなくて、汚くて貧しいけど、暗くて重い空気はない。米国のスラムなどは、退廃的な空気が漂っていて、オドロオドロしいように感じるけど、コンゴにあるのはカラッとした怖さだけ。アフリカを回っていても、どこも貧しくて、病気が多かったり、確かに悲惨。日本では、そういう面だけを強調する報道が多いけど、コンゴは可哀想、悲惨を原動力にして素晴らしいものが生まれてくる。ゴムを極限までビーって伸ばして、パッと離すとパンっていくじゃん。それってさ、最高に伸ばすから、早いわけじゃん。悲惨に悲惨を重ねていくと、それが原動力になって、ファッションとかアートとか、音楽とか、エネルギーがとてつもないものになる。あとは、アフリカが持つ大地のパワーも感じる。地面がコンクリじゃなくて、土のままだから、例えば、ラテンの国より、同じマンゴーでも身も葉っぱも、何でも大きいんだよね。アフリカの大地が持つエネルギーと相まって、人間の原初的なエネルギー、人間らしい力強さが渦巻いてるように感じる。そもそも、そこで勝負していかないと死んじゃう、明日死ぬことになるかもしれないからね」

コンゴ民主共和国で生まれた大勢にとって、貧困から抜け出す手段は、音楽、アート、スポーツ、ファッションくらいしかない。国外でお金をもらう仕事に就くしかない。勉強しても仕事に就ける保障がないから、文化で勝ち抜くしかない。ヨーロッパなど、先進国に移住しても、人種差別が激しいので、差別がない自国を変えるしかない、とニュージェネレーションとされる若者は自覚している。

前回の記事でも記したが、東部が混乱状態のため、キンシャサには様々な部族が集まってくる。そのため様々な部族の音楽やファッション、反戦運動と関連したアートなどが、キンシャサ住民たちにも流布し、ミックスされ活発になっていく。フランスが第二のパリに仕立てようとするのは、そのあたりに理由があるのだろう。

アフリカのなかでも、音楽、アート、スポーツ、ファッションが発展するキンシャサ。次回の3回目は、昨今隣国のコンゴ共和国の影響で注目を集めるサプールに迫る。

「SPIRIT of CONGO ープロレス、サプール、黒魔術ー 01 混乱を辿るコンゴ民主共和国の歴史」はこちら

「SPIRIT of CONGO ープロレス、サプール、黒魔術ー 03 キンシャサ・サプール」はこちら

「SPIRIT of CONGO ープロレス、サプール、黒魔術ー 04 黒魔術プロレス」はこちら