これまで見てきたように、コンゴ民主共和国はベルギーから独立後、1960年から64年まで国名がコンゴ共和国であったこともあり、西に隣接するコンゴ共和国(首都がブラザビル)と、混同されがちだ。キンシャサとブラザビルは、コンゴ川を跨いだ対岸に位置する。ふたつのコンゴは、それより北に位置するアンゴラとともに、15世紀まではひとつの〈コンゴ王国〉だった。19世紀、現在のコンゴ民主共和国はベルギー領になり、フランス領になったコンゴ共和国とは異なる文化が育まれていく。

〈Société des ambianceurs et des personnes élégantes(お洒落で優雅な紳士協会)〉の頭文字をとって〈サップ〉と呼ばれる文化が、両コンゴで、似て非なるスタイルで浸透している。サップを体現するとサプールと呼ばれる。発祥に関しては諸説あるが、一説では、第一次世界大戦でフランス軍に従軍したコンゴ共和国の兵士が、ブラザビルに戻る際にフランス紳士を模したスタイルを持ち込み、誕生したといわれている。その後、コンゴ川を渡りキンシャサにも伝わったとされる。

お隣、コンゴ共和国のサプールは、ファッションに世界で最もお金をかける者たちとして知られ、ブラザビルが90年代後半の内戦を経た後、世界中に知られるようになる。日本ではダニエーレ・タマーニの写真集やNHKでドキュメンタリー番組が放送されるなど、近年盛り上がりを見せている。そのスタイルは、ヨーロッパや日本の高級ブランドのスーツがベース。ピンクやブルーなど、色鮮やかなアイテムを着こなしている印象だが、そのスタイルには厳格なルールがある。コーディネートを3色以内でまとめなければならない。サイジングもジャストフィットを心がける。葉巻やサスペンダー、サングラス、杖など小物使いに細心の注意を払う。歩き方から仕草まで、全てにこだわり抜く。そして、何よりも紳士であること、つまり、サプールとしての心持ちこそがエレガントなスタイルを形成する。

一方、キンシャサに伝わったサップの文化は、1965年に断絶の危機を迎える。モブツ・セセ・ココが大統領に就くと、国民にコンゴの伝統的な服装を強要した。しかし、キンシャサ・ミュージックのレジェンドであり、今回取材に同行した奥村恵子が参加するバンドのリーダーでもあるパパ・ウェンバによってサプールは復活する。パパ・ウェンバの影響で、都市部の若者を中心に、ヨーロッパ・ファッションが流行し、現在のサプールに繋がったとされている。また、サッカーの衰退もサプールの盛り上がりを後押しした。1974年、サッカーW杯での惨敗に激怒したモブツ大統領が、サッカーの予算を大幅に縮小した。さらに、長年にわたる内戦の結果、サッカーという国家的娯楽が失われてしまう。そこで新たな希望となったのがサプールだ。彼らは、ヨーロッパ大陸と地続きのため、サッカー選手のように引き抜かれることを夢見ている。もちろん、お洒落をしているだけでは儲からない。しかし、誇りは手に入る。

今回の取材で名越啓介奥村恵子は、キンシャサのサプールと触れ合うなか、新たな発見をした。奥村によると、「コンゴ人は日本人が好きだが、中国人が嫌い。例えば、子供の名前も〈けいちゃん〉だったり、バンドの名前も〈なんとかオーケストラジャポン〉とか、〈武蔵野なんとか〉、〈サムライなんとか〉があって、日本人がめちゃくちゃ好きなんですよ。ヨウジヤマモトとかイッセイミヤケとか、ニコルとか、サップたちが日本のブランドが好きだから、その影響が大きい。今、中国人が増えているから、今回の取材では、あたしらも中国人に間違えられて、シノア、シノアっていわれて嫌になっちゃうよね」とのこと。

また、撮影する過程も、コンゴならでは。奥村の知り合いにサプールを集めてもらったが、最初は全く集まらない。本当に撮影すると信じてもらえず、最初は3人しか集まらなかった。最近はサプールが人気になり、多くの外国人写真家がサプールを撮影するため、彼らも撮影に慣れており、多少増長しているのだろう。

キンシャサ・サプールのあいだでは、やはりヨーロッパや日本のモードブランドが人気で、ヨウジヤマモトなどを着ているサプールが目立つ。なかには自ら服をつくる若いデザイナーもいる。「キンシャサはすべてが貧しいけれど、とにかく元気。それと比べるとブラザのサプールは大人しいよね。ブラザビルは、基本は3色以内でコーディネートし、さらにスーツじゃないとダメでしょ。キンシャサは、なんでも良い。ブランドものであれば、なんでも良くて、それをとにかく着崩す。裏っ返して着てみたり、ビーズみたいなアクセサリーを帽子やパンツにカスタムしたり、お洒落だよね。驚くことに、ゲットーだから地面がドロドロなのに、みんな靴がピカピカ。サップのおしゃれは足元から、といわれているからね」

男性サプールのようなスタイルの女性サプールも撮影できた。今回は出会えなかったが、ヨウジヤマモトのレディースなどを着る女性サプールも、少ないながら存在している。

サプールは頭の先からつま先まで完璧を目指すため、髪型にも徹底的にこだわる。街中の至るところに床屋があり、およそ1ドルで髪を切れる。男性サプールは、グラデーションが綺麗に映えるように刈り上げたり、ラインを入れたり、それぞれこだわりがある。一方、女性サプールは、今回の撮影で出会った2人のような、編み込んだりアフロだったり自毛を活かしたスタイルもあれば、帽子のようにカツラやウィッグを付けたりもする。自毛がチリチリだからこそ、ストレートに憧れる女性サプールも多い。

街中でブランド物を売ってるショップはあまり見かけなかった。話を聞くと主には、パリまで買い出しに行くようだ。「イタリアに行くと、高級ブランドの工場があって、ちょっと、ほつれただけでB級品として捨てるらしいんだよね。それをヨーロッパ人が拾って、パリで売ってるから、サップはそれを買い漁って着てるよね」

また、最も驚いたのが、サップが宗教化しているという話。「サップが〈キテンジ〉っていう宗教になっている。つまり、服が宗教になっているんだよね。ニャルコスという人物がキテンジを立ち上げて、洋服が宗教であると説き、神であると流布することで、ファッションに傾倒する人々が増えてるんだよね」

サップは街一番の人気者。「最近人気が出てきちゃったから、海外の人が写真を撮りに来るんだよね。サップが何をしてるかというと、音楽のイベントとかがあるときに、街をくねって歩いて、ランウェイしている。そしたら『サップ、サップ』ってみんな喜ぶし、子供たちはついてまわって歩いてる。ただ見て楽しむ感じ。基本的には、みんなやることがないし、暇だからさ」

ただ、アンチサップもいる。家庭を預かる女性が、貧しいのにブランド物ばかりを買い漁る男性に怒るなど、賛否両論なのは当然だろう。

ちなみにサップの撮影時には、ふたりは警察に2回捕まったそうだ。次回はいよいよプロレス。黒魔術とプロレス、魅惑のポートレート集をお届けします。

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