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Who Are You?: デムラ克明さん(61歳) 建設会社経営

「そうですよ、フリーターみたいなもんですからね。なんでもしますよ。私はね、ちゃんとしますよ。フザケてるように見えるけどね」
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買ったお弁当って、平にして持ちますよね。でも先日、本を持つように、片手で縦にして歩いているサラリーマンの方を見ました。チラッと拝見したら、やっぱゴハンもおかずもかなーり寄ってましたね。でも一切気にしていないご様子。すげえカッチョいいと思った。漢の中の漢ですね。

日々の生活の中で、私たちはたくさんの人たちとすれ違います。でもそんなすれ違った人たちの人生や生活を知る術なんて到底ありません。でも私も、あなたも、すれ違った人たちも、毎日を毎日過ごしています。これまでの毎日、そしてこれからの毎日。なにがあったのかな。なにが起るのかな。なにをしようとしているのかな。…気になりません?そんなすれ違った人たちにお話を聞いて参ります。

デムラ克明(でむら かつあき)さん(61歳):建設会社経営

こんにちは。今日は車じゃないのですか?

ええ、飲めると思いましたんでね。

あ、失礼いたしました!すぐに用意いたします!!

(プシュッ!)明るいうちに飲むのはね、やはり最高ですよ。

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デムラさん、その節は大変お世話になりました!(注:VICE事務所は、三階建てなのですが、フロアの真ん中に吹き抜けの大きな穴が開いておりました。デムラさんは、その穴を塞いでくださった建築会社の社長さんです)

お仕事ですからね。こちらこそありがとうございましたですよ。それでお酒が飲めるわけ。餌代ですね。こんな塞ぐ工事ね、自慢じゃないけどゼネコンだって出来ないと思いますよ。

(笑)。穴を見たときは「難しいなぁ」と思いました?

そこはやはりアイデアとデザインでね。僕は店舗とかのインテリア・デザインもやっていますからね。これは割とイイ仕事したなって思ってますよ。構造を考えてね、合理性を持ってね、ま、バウハウスもビックリだね。

そうですね(笑)。そしてガラクタからゴミのお片づけまでやって頂きました。

そうですよ、フリーターみたいなもんですからね。なんでもしますよ。私はね、ちゃんとしますよ。フザケてるように見えるけどね。

いえいえ、そんなことはございません。では、今日は色々とお話をうかがって勉強させていただきたいと思います。

いやいや僕も勉強よ。僕はね、こう言っちゃなんですけどね、今だって学生なんですよ。

え!そうなんですか!?どこか行ってるんですか?

ココロの学生ってね。家が学校。

お家で勉強してるんですか?

遊ぶ勉強ね。遊ぶ学部ですよ。東大にもこんな学部ありませんよ。アメリカにはあるかもしんないですけどね。あとジャマイカとかね。そういう学問があってもいいでしょ。

じゃ、お仕事して、そのあとは学生。どんなことして遊んで…いや、どんな勉強しているんですか?

内なるものですからね。いろんなことしますよ。やっぱ人間はイマジネーションでしょ。食欲とか性欲とか、そんな欲望の狭間の中で、時間を生きなくちゃならないんですから。そこでイマジネーションを使って色々とね。遊ぶ勉強ですよ。

お酒はお好きですか?

まあね、酔うのは好きかな。

いつも晩酌されているんですか?

そんな洒落たもんじゃないですよ。僕もほら、今は独身だからね。晩酌なんてのは、奥さんが横にいてさ、お酌とかしてくれるんでしょ。そんな風情はありませんよ。手飲みですよ。

じゃあ、今日はがっちり飲んでください!さてご出身はどちらですか?

生まれは札幌なんですよ。でもね、小学校一年から東京。お父さんが破産したんだね。

(笑)!

博打が好きでね。狸小路で商売やってたんだけど、全部やられちゃってさ、色々あったんだね。それで東京に来たの。

東京はどちらですか?

墨田区の太平町。亀戸天神とかよく遊びに行ってましたね。

ああ、じゃあ、生粋の江戸っ子。

でも小学校は越境入学で永田町に行ってたのね。下町と山手はまったく違うから面白かったですよ。まず言葉が違うもんね。家の近所の子は、「この野郎」にしても「野郎」を巻きますからね。「ヤルルルオゥゥ~っ」って感じかな。

(笑)。

山手は巻かないからね。上品ですよ。

どんなことして遊んでたんですか?

普通のことですよ。線路に石置いたりさ。

普通じゃないですよ(笑)!

あとはね、五寸釘を線路に置くの。したら電車が来てペッチャンコになるじゃない。それをナイフにしたりね。みんなやってたでしょ。

やってませんよ!

あとは山脇学園のキレイなお姉さんがいるでしょ。友達の弟に「ぶつかって来い」とか「スカートの中に入れ」とか指令出したりしてね。面白かったですよ。

自分はやらないんですね。

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小学校五年くらいだからね、さすがにマズイでしょ。

ちょっと悪い子だったんですか?問題児?

そんなことないですよ、軟派指向だったね。どっちかというとね。でももちろん硬派なスピリットもありますよ。仁義、人情、浪花節、浪曲とか落語とか、子供ながらに分かるんですよ。広沢虎造の浪曲なんかいいですよ。ヤクザの人情の世界ですよ、あれなんかはさ。軟派代表はジャン=ポール・ベルモンドとかね。

中学校はどちらに行かれたんですか?

これがね、麹町中学校でね、東大コースの名門でしょ。もう大変で大変でさ、大っ嫌いだったね。ここで僕の勉強は終わりましたね。美術と生物しか面白くなかったですね。あ、でも麹町警察に柔道を習いに行ってましたね。大会で優勝したんですよ。これが唯一の自慢だね。

思春期ですよね?

そうだね。動物になったね。

動物になって女の子に。

いや、まだあの頃は照れてるからね。さすがになかったですね。今だったらどんどん行くんだけどね。青春だねぇ。

(笑)。じゃ、高校で爆発と。

爆発ってことはないですよ。

どちらの高校へ行かれたのですか?

日大三高。男子校でね、坊主ですよ、坊主。だからさ、夏休みとか冬休み前からちょっとずつ伸ばし始めてね、アイパーとかかけてね。それでナンパに行くんですよ。

爆発してると思いますよ。当時はどちらにナンパに行くんですか?

銀座ですね。あの頃はさ、みゆき通りの流れがありましたからね。アイビー・ルックとか。だから女の子もみんな待ってるんですよ。でね、何人ナンパして、何人電話番号聞けたか、なんて競ったりしてましたね。お茶代ばっかりかかっちゃうんだよ。で、携帯なんか無いですからね、電話してお父さん出たら切っちゃうとかね。青春ですよ。

じゃ、相当おイタしたと。

いや、そんなことないですよ。そんなにたくさん出来るわけないよ。

(笑)。

複数は重いじゃない。分かるでしょ?経験なさってるでしょ?

いえいえ(笑)。では趣味とかはありましたか?

ないですよ。

じゃ、何をやっていたんですか?ナンパ以外に。

いくらでもあるでしょ。そりゃ映画観たり、本読んだり、音楽聴いたり。…あ、あと座禅かな。

座禅!?

座禅組んでるのが長かったかな。

座禅を組んでなにか目指すものがあったのですか?

座禅っていうのはさ、目指すものがないから組むんですよ。すでに涅槃に入ったのかもしれないね。

じゃ座禅を経て、なにかを掴みましたか?

うーんと、あのね、座禅って、今初めて言ったからね。

え!嘘ですか?

いや、今考えてみると座禅かなってのがあったってことですよ。

…了解しました。

でもやっぱり美術とかデザインが好きでしたからね、放課後は美術学校に行ってましたね。それにそこは女の子も来るからさ。それだけで楽しかったですよ。

じゃ、大学も美術系に?

そうですね、日大の芸術学部ですよ。デザイン科のインテリア・デザインにね。でも大学時代はなんにもなかったね。面白くなかったなあ。外で遊んでばかりいましたね。深夜喫茶とかさ。

深夜喫茶って何時までやってるものなのですか?

朝5時くらいまでね。新宿のポニーってとこが好きでね。コーヒー一杯でずっとジャズ聴いてるんだよ。アンダーグラウンドな世界ですよ。

大学は卒業されたんですか?

そうですよ、ちゃんと4年で。

そのあとは就職ですか?

はい、デザイン会社にね。一年で辞めましたけどね。

あら、それはどうして?

やっぱ外に出たくなるじゃないですか。それに現代美術とかにも興味が出てきちゃったんだよね。それでニューヨークに行ったんですよ。

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ご両親は反対されませんでした?

しないしない、御曹司だからね。

(笑)。お父さんはその頃お仕事はされていたんですか?

してましたよ。また自営でね、もうサラリーマンなんか出来ないでしょ。遊びもやめられないし、博打もね。競輪ばかりやってましたよ。馬はね、ちょっと違うの。山手入ってるでしょ。下駄履きじゃ行けないからね。まぁ、麻薬とおんなじですよ。

ちなみにどんなお仕事だったのですか?

新聞のセールスマンいるでしょ。アレの元締め。よろしくない仕事ですよ。大体あっち系と変わんないですよ。だってね、面白い連中ばっかりなんですよ。出て来た人ばっかでね。ポン中知ってる?ヒロポン中毒ね。買うお金無くて、お茶打ってる人とかね。雨の日なんか、仕事しないのよ。事務所のあっちこっちでゲームしてるからさ。お金が動くゲームね。そんなのを束ねてたんだから、お父さん、凄かったと思うよ。

…御曹司ですね。さてニューヨークではどうでしたか?

楽しかったですよ。英語なんてまったく喋れないけど、やっぱりリアリティーが全然違うじゃない。特に僕がいたのがソーホーでね、友だちのロフトに住んでね、ミュージシャンやアーティストもたくさんいたし、刺激的でしたよ。毎日がアートになっちゃう感じでね。坊主頭にするだけで、それがアートって雰囲気だったんですよ。

どのくらいニューヨークにいたんですか?

観光ビザだったからね、一年ですよ。

じゃ、仕事もしちゃいけない。

そこはもうね、臨機応変にね。お手伝いですよ、お手伝い。

(笑)。どんなお手伝いをしたんですか?

肉体労働…のようなお手伝いとか、ケネディ国際空港近くのクリスマス・ディスプレイ…のお手伝いとかね。あとプッ◯ャーね。

マズイですよ!!

日本人相手だから大丈夫ですよ。常連ですし。

デムラさん、そういうことじゃなくて。

適当に測ってね。モノは良かったです。楽しいですよ。

はい、次に行きましょう。それでニューヨークから帰国したと。

いえ、そのあとは世界一周ね。ビザ切れちゃったからそのまま行ったのね。

スゲエ!どこから入ったのですか?

ヨーロッパ。ネッシー見たかったからね。

ネッシーって!!!!

ネッシー知ってるでしょ。ネス湖の怪獣。今は嘘だったとか、なんだったとか言われてるけどさ、僕、ネッシーの大ファンだったからね。本当はいるんじゃない?大体さ、隕石が落ちて恐竜が絶滅したって言ってもさ、生き残るもんは生き残るしね。ワニだってそうじゃない。ネッシーいてもおかしくないでしょ。だけどよく考えたら、一世代がさ、相当長く生きないとダメでしょ、5000万歳とか?だからあれはどういうことかねぇ?突然変異かねぇ?だってカメさんだって、万年なんて言うけどさ、100年生きるカメさんもそんなにいないでしょ。ところがネッシーがいるってことはだよ、地球外の何かの力もあると思うんですよ。宇宙人が来てさ、ポチャンと上から落としたかもしんないでしょ。ね、僕はそこまで考えていますよ。

素晴らしいです(笑)。ネス湖はいかがでしたか?

いや、行ってないの。

へ?

安い切符が無かったんだもの。だって30万円しか手持ちなかったんだからさ。それでさ、一年よ。ネス湖は無理だよね。

そうですか(笑)。でもお金無くて大変じゃなかったですか?

ヨーロッパ抜けたらさ、アフリカとか中近東とかになるでしょ、あの辺はお金がかからないですから。1円50銭とかで泊まれちゃうんだよ。それにパリでね、カメラ売ったんだな。あれが大きかったですね。それにいろんな知り合いに知り合いを紹介してもらってね、そこに泊まらせてもらったり。でも三日もいるとさすがに嫌な顔されたけどね。言葉もまったく喋れないしね。あ、思い出した。ドイツだったかな、ルーマニア人の女性の家に泊まってね。ちょっと体臭がキツかった人でしたけどね。そしたら朝叩き起こされて、どうやら旦那が帰って来ると。急いで服着て出ましたよ。廊下で旦那とすれ違いましたけど、セーフってね。

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やってますねぇ。怖いこととかありませんでした?

うーん、無かったですよ。でもバカなヤツは多かったですね。どこかの中近東の国境でね、持ち物検査するでしょ。したら並んでる前のパーなヨーロッパ人がさ、俺にダンゴくらいのアヘンを渡すんだよ。

(笑)!デムラさんはどうしたんですか?

俺も後ろに回したよ。

コントかよ(笑)!

まあね、ヒッピーが多いんですよ。あいつら粋がってるからね。本国じゃデモとかやってるけどさ、でも中近東とかでやってたら殺られちゃうからね。あとチュニジアね。チュニジアのチュニス。汽車が無くてね、もう駅に泊まっちゃおうってなったんです。したら中にさ、ホームレスがわんさかいるのよ。それも若いヤツばっかでさ。さすがにこれは寝たらマズイと思ったね。でさ、ホームレス観察してたら、なんかみんな、昔ここはフランス領だったから、オシャレなんだよ。ボーダーのシャツ着て、スカーフ巻いてるような。ホームレスのクセにってね。でも、僕、モロッコで太鼓を買ってたんですけど、それ叩いてさ、結局みんなで大合唱したね。楽しかったですよ。

では世界一周して、一番のお気に入りの国はどこでしたか?

アフガニスタンですね。

その理由を教えてください。

まずガンジャ…

待ってください!

いや、って言うかね、アミューズメントがいっぱいあったと。だって国境にさ、移民局があるでしょ。そこの役人が「どこから来た?」なんて聞くじゃない。「ジャパンだ」って答えると、「なに?ハシシだって?」なんて、みんな爆笑してるんですよ。あとその横にテントで出来た両替所があってね、そこにいるお役人の後ろにも水パイプがあってさ、モウモウとしちゃってるんだから。ホテルでも、従業員のオヤジが持って来てくれるしね。そんな国だったんだよね。今は大変ですけど、僕が行った頃はのんびりしたいい国でしたよ。

結局二年間ぐらいプラプラされて、ご帰国後はどうされたのですか?

今もプラプラですよ。フリーターみたいなもんだからね。まあ、帰ってからは結婚もしましたよ。

どんな奥様でしたか?

アメリカのご婦人。日本に遊びに来ててね、友だちの紹介でね。でも僕は英語喋れない、奥さんも日本語喋れない。よく結婚したと思いますよ。

え、すごい!!言葉無くても大丈夫だったんですか?

いや、多少は要りますよ。でも難しい話は出来なかったかな。いや、難しい話の方が出来たかな。何年かずっと一緒に生活してたんだから不思議ですよねぇ。子供二人ちゃんと育ててね、立派な親ですよ。立派なフリーターですよ。

それで現在のお仕事を始めたんですか?

まあ、一人でやってましたから、会社にした方がいいですよって言われましてね。有限会社ですよ。

いつ離婚されたんですか?

いつだったかな。まだ子供は小さかったですよ。でも近所に住んでいましたし、奥さんはアメリカンスクールの先生やっていましたんでね。子供ともよく会ってましたよ。別に喧嘩別れじゃありません。いい大人なんだからね。

そして現在は、冒頭におっしゃられた学生生活を過ごしていると。

そうです、そうです。

なんだかとても素敵ですね。ちなみに現在アート活動はやられていないのですか?

去年からやってますよ。エアー・アートって銘打ってるんだけどね。空気のことね。ま、その前はさ、何も創らないことが僕のアートだったの。今さら創ってもさ、創り終わったらゴミなんだもの。創っちゃいけないんだよね、コンテンポラリー・アートってのは。僕が歩いただけでアートになっちゃうんだからさ。だけどね、性としてやっぱ好きなんだよね。創るの好きなんですよ。それでね、始めたのがエアー・アート。紙で空気を包装しましてね、それを送ってるんですよ。AIR MAILを船便で。

正しくエアー!!

そうそう。伝票に重量とか書きますよね、そこは¥0だよね。そしてプライスは適当に書いてね。今度MoMAとかグッゲンハイムとかにも送りますよ。そのときはね、一億円でも、いくらでもいいんだよ、一千万ドルとかって書いてさ。それで向こうが受け取ったらね、そこで査定は成立だからね。今は何人にも送ってます。息子の友達にもね。よかったら送りましょうか?住所教えてください。今すぐにでも送りますよ。楽しいですよ。

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