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Who Are You?: ヤマザキさん(24歳) 大学院生

「学園祭に来た女子を他校の生徒がナンパするという図式になってまして。そいつらが食うクレープを俺たちが作っているという」
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photos by SUSIE

ずっと通っていたラーメン屋さん。すごく居心地が良かったので、チャーシューをつまみにして、一杯やって、麺で締めて…。とても幸せな時間でした。しかしある日オヤジが「良く来るね!どこ住んでんの?」「仕事何やってんの?」「こっちの方がうまいよ!」とかとか。あー、オヤジとはすれ違いのままが良かったのに。もう行ってません。でも私はすれ違う人が気になるわ。気になるわ。なのでインタビュー。

日々の生活の中で、私たちはたくさんの人たちとすれ違います。でもそんなすれ違った人たちの人生や生活を知る術なんて到底ありません。でも私も、あなたも、すれ違った人たちも、毎日を毎日過ごしています。これまでの毎日、そしてこれからの毎日。なにがあったのかな。なにが起るのかな。なにをしようとしているのかな。…気になりません?そんなすれ違った人たちにお話を聞いて参ります。

ヤマザキさん(24歳):大学院生

前回の方に続いて…ヤマザキさんも東大の大学院生なのですね! いきなり三回目にしてどうなっているんでしょう。ブーム??

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(笑)。あとこれまでのお二人も中高一貫校だったじゃないですか。私もなんです。

やっぱブームなんですかねぇ。学校は東京だったんですか?

そうですね。住んでいるのは埼玉ですが、学校は練馬でした。

私は中学受験していないのですが、そもそもどうして受験することになったんですか?

うーん、昔から公文式に通わされたりしてて、その延長みたいな感じでなんとなく。

あ、公文式って青いバックのやつ?

いいえ。それは日能研ですね。「N」のバッグの。

これまでインタビューした二人だと、「中学に入ったら周りが優等生ばかりでビビった」というパターンなんですが、いかがでしたか?

そうでも無かったですね。というのも私の学校はテストの順位を貼り出すとかは無く、「好き勝手にやりなさい」みたいな放任主義だったんです。ですので勉強という物差しで見られることはあまりありませんでした。

共学ですか?

いえ、男子校です。

男子校ってどんな雰囲気なのですか?小学校では当たり前のように女子がいた訳ですからギャップとか感じませんでしたか?

そうですね。最初はあまり感じなかったのですが、だんだん嫌になって来ました(笑)。女子がいないからというよりも、高校生男子みたいなのが苦手で。今もそうなんですが…。

え、ご自身も高校生男子なのに?

ええ、今でも集団で電車とかに乗って来るとなんか怖く感じます。なんかああいう感じが苦手だったんです。粗野、というか(笑)。あとこれは男子校が苦手と言う話とはズレるのですが、うちの高校は放任主義でのんびりした子が多い学校でしたので、学校生活に「張り」みたいなものが感じられませんでした。練馬の住宅地にあるのですが、ヤギを飼っていたり、アヒルの親子が敷地の中を歩いていたりして、のどかな学校でした。

え、ヤギ?どろんこ広場?進学校ですよね?

先生が拾って来たらしいです。休日に学校に遊びにいくと「メーちゃん、メーちゃん」って、先生が面倒見てます。

そんな放任主義なのに、生徒のみなさんはどうやって学力を保っていたんでしょう?

そうですねー、やはり根が真面目なのではないでしょうか。「勉強した方がイイんじゃない」みたいな雰囲気はありましたから。

放課後は何をしていたんですか?

大学が併設されていたのでその図書館に行って文芸誌やスタジオボイスを読んだり、池袋に昔あったWAVEってCDショップに行ったり。

何を聞いていたんですか?

あー…、一番最初にハマったのはゆらゆら帝国。中二の頃…

中二でゆらゆらですか!

あとボアダムスとか。

危険な中学生ですねぇ。周りから気持ち悪がられませんでした?

ちょっと浮いてはいましたね。あまり周りにロック…オルタネイティヴなヤツを聞いている人はいませんでしたが、一人GREEN DAYとかOFFSPRINGとか聞いてる子はいたかな。でもゆらゆらと接点はありませんでしたが。

多感な時期。そして男子校。恋はいかがでしたか?

私にはありませんでした。

周りはどうでしたか?学園祭とかで女子高生来たりして。

それが学園祭に来た女子を他校の生徒がナンパするという図式になってまして。そいつらが食うクレープを俺たちが作っているという…。

おしいことしますねぇ。

オタクが多い学校でしたから。リア充はちょっとだけでした。

東大を目指そうと思ったきっかけを教えてください。

言語に関心があったので、言語学とか心理学をやりたいと思っていて。それに合うのが東大だったんです。

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言語学とか心理学に興味を持ったきっかけは何だったんですか?

元々は哲学に関心があって…結局今も研究しているのですが。中学受験の勉強をしているときに、ふと、「なんで今僕は勉強しているんだろう。なんで問題を解いているんだろう」って思ったんです。志望校に入学するため、という目的があってやっているのは確かなのですが、では、なんでいい学校に入らなくてはならないんだろう、それは自分のためなのだろうか、親のためなのだろうか。自分のためだとして、勉強は本当に自分にとっていいことなのだろうか、そもそも「いいこと」ってなんなんだ…と、疑問がふくらんでいって、ちょっと何もかも訳が分からなくなった瞬間があったんです。ボーゼンジシツって感じで。更に中学に入って、そういった「なにもわからない」という気持ちが強くなって…。この世界に意識を持っているのは自分だけであって、他者に心は無いんじゃないか、とか考えたり。中学生って、自分以外の人間は本当はみんなロボットなんじゃないか…なんて考えたりするじゃないですか。それが極端に来た感じです。そこで哲学に出会ったんです。

それで更に探求されたと。

はい。デカルトとかアリストテレスとかハイデッガーとか。分からないまま読んで。今も分からないんですけどね。そんな中で、僕たちには他者の心の中をのぞき込めないけれど、言葉を使ってコミュニケーションをとることができるということが、とても面白いことに思えたんです。たとえば、詩とか小説、歌の歌詞とかが人のものの見方を変えてしまったりする。これは面白い、と素朴に思いました。それに、哲学をやっていても「答え」みたいなものにたどり着けないんだろうなと思うようになりまして、実際に実験などを行って理解が進んでいることを確かめられる言語心理学をやろうと思ったんです。

言語学ってどんなんですか?うまく喋ること?アナウンサーとか?

いいえ。文法とか音の変化の規則を調べたりとか、そういったことを科学的に研究するんです。日本語だけではなく、解明されていない少数民族の言語もフィールドワークによって調査します。例えば文字を持たない民族のフィールドワークをするときには、彼らの話す言葉を書き記したり、それを自分でも発音したりできるようになる必要があるので、様々な音の出し方を学ぶ音声学という授業もあるんです。皆でひたすら「ンガ、ンガッ」って喉の奥の音を揺らす音をひたすら練習したり。

あ!ブッシュマン!ニカウさんですね!!

それは存じ上げません。でもちょっとこれは僕がやりたいものではないなと思って、途中で辞めました。

浪人されて東大に入ったと聞きました。挫折みたいなものはありましたか?

んー、これは本当に良くないと思うのですけど、当時は「俺を評価しない東大が悪い!」って思ったので、挫折という感じではなかったですね。ペーパーテストなので自分の責任なんですけど。でもやっぱり悔しかったですね。

そして入学して、女子も登場ですね!

はい。みんな「失われた青春を取り戻せ!」って。

やはり!

僕のクラスは女の子が多かったんです。帰国子女も多くて。5月に学園祭があるんですけど、みんな高校生みたいにウキウキしてました。

彼女は出来ました?

はい。でも浪人時代に知り合った娘なのですが。

ゲっ!やることやってるじゃないですか。

いえ、告白は受かってからです。でも彼女は東大落ちて、違う学校に行ったのですが。

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おつきあいをはどのくらい?

二ヶ月くらいで別れました。

あらー、なんで?

なんででしょう…。今では思い出せないほどささいなことが理由で分かれたと思います。まあ、いわゆる女心が分からなかったからなんでしょうかね…いや、女心が分かるってことがどんなことなのか今も分かりませんが。

それ以降は?東大の娘と付き合ったりは。

はい、ありました。

どんなデートをしてたんですか?

そうですね、駒場キャンパスだったんで渋谷に近くて。例えば松濤でごはんを食べたり。

ショ…松濤っっ!?阿部さんは和民でしたよ!

いえ、もちろんランチですから。夜はもちろんムリです。それに背伸びしたかったんでしょう。

フレンチとか?イタリアンとか?

ええ、ガレットとか。お相手が帰国子女だったんで、普通に食べていたみたいです。

彼女は一人暮らしでしたか?

いえ、実家で。

…と、なると、ガレットの後は円山町の方へ。

いえいえー、文化村で映画を見てました(笑)

楽しそうですね!!アルバイトとかはされていたんですか?

はい。塾講師や、研究所で研究の手伝いをしていました。

さすが東大!阿部さんは和民でバイトでしたよ。どんな塾だったんですか?

個人経営の塾で、おばちゃんがやってるんですけど、不登校の子とか、勉強に付いて行けなくなった子たちが通う塾でした。勉強を教えるというよりも、悩みとかを聞いて、とりあえず卒業はしといた方がいいよって方向に向かわせる感じでした。

何年くらいやっていたんですか?生徒の年齢は?

4~5年です。小学生から高校生までいました。

教えるにあたって心がけていたことなどありますか?

そうですね、もともと私は怖い先生だったんです。「こっちが真剣にやってるのに、なんで勉強してくれないんだ!」って思っていて。でも、当たり前のことなのですが、結局怒ってもその子が勉強するわけではないし、まずは信頼関係をつくらないと話を聞いてもらえないって思ったんですね。それに怒るっていうのは、相手が勉強して来ないから怒っているんじゃなくて、自分に従わないから怒っているのだと気づいて。これは自分勝手だと強く感じました。今は家庭教師をやっているのですが、まずは仲良くなろうというのを一番に考えています。

大学院への進学を決めたきっかけは?

就職活動もしたんです。内定も頂いて。でも、もともと大学院にも興味がありました。ちょっとおかしいなって思っていたのが、普通、実際に卒業論文を書いて、そのテーマにもっと興味が沸いたり、自分には研究が向いているかもと思ってから大学院への進学を考えるものだと思うんです。でも現実は、卒業論文の前に就職するかどうかを決めて就活をしなくてはならない。大学院に行きたいのかどうかもはっきり分からない状態でです。私は卒論を書いている内に「もっとやりたい」という気持ちが出て来たので、不誠実なことですが内定を断ったんです。

卒業論文はどんな内容のものを?…聞いても分からないと思いますが。

タイトルは「性質の形而上学」と言います。

ハァ。

世の中には「類」みたいなものがありまして、赤いものの類とか、これは金属の類とか。こういう風に物が種類に分かれるってことはどういうことなのかと、哲学者はずっと考えて来たんです。これに対するひとつの答えが、ふだん私たち慣れ親しんでいる「物」とは別に「性質」っていう存在があると考えるというものです。例えば東京タワーとリンゴがともに赤いのは「赤さ」という「性質」が存在して、その「赤さ」を持っているからその2つは赤いんだと。こういう議論は古代ギリシャから現代まで続いているんですけど、僕はそんな「性質」なんてものは存在しない、この世界には「物」しか無いんだ、と言いたくて論文を書いたんです。実は本当はやや違うテーマで論文を書きたかったんですけど、いろいろあってこの論文に落ち着きました。

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そのやりたかったテーマの勉強は今もされているんですか?

はい。修士論文はそのテーマで書こうと思っているのですが、私の先生からは「やめとけ」と言われる気がしています。ただ、来週その師匠との面談なのですが、そこでは自分がやりたいことを伝えようと思っています。

大学院後の進路は決めているのですか?

最初は博士課程に進んでもっと研究を続けようと思っていたんですが、今は考え中という感じですね。まず、文系の研究って言うのは基本的に一人で進めることが多く、孤独なのですが、自分にその孤独な仕事が向いているのか、自信がないんです。また、研究者って経済的にも本当に苦しいんです。めでたく博士号を取ったとしても、その後就職できるかわからないし…。そんなことから、今はすこし心が揺らいでいますね。どの進路を選んだところで、一生心は揺らぎ続けると思いますが(笑)

休日は何をされているんですか?

土日とかはあまり休日って感じでは無いんです。常に勉強しなきゃって思ってしまって。

イヤにならないですか?

いえ、楽しいです。ただ、まわりの哲学を勉強する仲間と比べて、自分はあまり飲み込みがいいという感じではないので、勉強時間だけは長くしないと…って思っています。生活の中での切り分けが出来ないだけなのかもしれませんが。

息抜きとか…お酒とか…

お酒は好きです。あ、そうそう!最近芋焼酎を覚えまして!「茜霧島」というものを飲んで、焼酎ってこんなにフルーティーでおいしいものだったのかと、革命的な体験をしました!焼酎って種類が多いじゃないですか。だからコンビニとか酒屋とか行って、何がおいてあるのか棚をチェックするのが今の趣味ですね!でもコレが趣味なのはちょっとどうなんだろう…と自分では思っているのですが…。

問題ないですよ!

とりあえず、面談までは禁酒しています。でも、終わったら買い込んだ焼酎で飲んだくれたいですね。これが今人生で一番楽しみかも(笑)芋の臭みが好きなんですよねぇ。臭みを味わうために飲んでいるというか。ああ~今はお酒の話をするのが一番楽しいんです!

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