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Who Are You?: 西川瑛海さん(24歳) 大学院生

「宇宙飛行士になるためには、〈理系の大学を卒業していること〉というのがあるので、それさえ守っていれば募集が来たときに応募しようと思っていたんです」
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子供の保育園で顔見知りになったお父さん。今までほとんど喋ったことなかったのですが、ふとしたキッカケでペチャクチャと。そしたら出るわ出るわ。「SUBLIMEとか聞いてました」なんて言われると、一気に親近感が沸騰ですね。お父さんとはお酒の約束をしましたよ。

日々の生活の中で、私たちはたくさんの人たちとすれ違います。でもそんなすれ違った人たちの人生や生活を知る術なんて到底ありません。でも私も、あなたも、すれ違った人たちも、毎日を毎日過ごしています。これまでの毎日、そしてこれからの毎日。なにがあったのかな。なにが起るのかな。なにをしようとしているのかな。…気になりません?そんなすれ違った人たちにお話を聞いて参ります。

西川瑛海(にしかわ えいみ)さん(24歳): 大学院生

出身はどちらですか?

東京都大田区です。今も実家に住んでいます。

どんな勉強をされているのですか?

現在、修士課程なのですが、地球環境学をやっています。過去の環境変動について調べています。

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……既に難しそうですね。それは大学の時からですか?

分野的には似ていまして、筑波大の地球学類にいました。そこではスイスのアルプス山脈にある周氷河地形っていう……

ショ…ショウヒョウガチケイ??

氷河ですね。氷河があった時代から暖かくなって、氷河が溶けて。それから出来た地形についての分析です。

はぁ、なるほど。大学入学前から、そのようなことに興味があったのですか?

はい。地球全般に興味がありました。

それは小さい頃からあったのですか?

はい。地球が好きだったんです。母が宇宙とか天文とか好きだったので、その影響もあったと思います。宇宙から撮った地球の写真を見たときに、すごく心を動かされたのを覚えています。それでずっと宇宙から地球を見てみたいと思うようになったんです。それで幼稚園の頃から宇宙飛行士になりたいと思うようになりました。

え、それって今の地球学に繋がるのでは?

そうですね。直接ではありませんが。でもどうすれば宇宙飛行士になれるのかをずっと当たり前のように考えていました。でも色々調べても「今、目の前にあることを一生懸命やれ!」という答えしか見つからなかったので、具体的に何をしていた訳ではありません。

その「一生懸命やれ!」という答えはどこにあったのですか?

お母さんに言われたり。あと公益財団法人で日本宇宙少年団というのがあるんですけど、それに入ってまして。そこで宇宙飛行士の若田光一さんの講演に行ったら、若田さんもそうおっしゃってました。

思春期になっても宇宙飛行士の夢は持っていましたか?

はい。ただ中学受験に合格して入学したら、周りが優秀な人ばかりで。自信を持って「宇宙飛行士になる!」とは公言出来なくなりました。結構周りは現実的でしたし。

部活とかはやってなかったんですか?

入っていました。ハイキング部です。名前は可愛いのですが、実際はバリバリの登山でした。最初の頃は体力も無かったので、きつくて泣きながら登ってました。でもアットホームだったし、運動部と体育会系の間みたいで、とても楽しかったです。中高一貫なので、大学受験前まで5年間やってました。

今も登山はされているんですか?

はい。その時の部活の友だちと毎年夏は登っています。

登山をしながら、宇宙飛行士の夢はどうなっていましたか?

そうですね、その夢はふわ~っと…

ふわ~っと飛んで…?

いえ、まぁ、なるんだろうなって。

え、まだ!?

なんて言うんでしょう。まず、宇宙飛行士の募集って不確かなんです。10年に一回くらいJAXA(宇宙航空研究開発機構)が募集をするんです。でもそれがいつ来るか分からないのです。ですから今私は就職活動をしているのですが、知り合いには「あれ?宇宙飛行士になるんじゃないの?」とか言われて。でも宇宙飛行士は就職するものではないんですね。

あ、だから若田さんが「目の前にあることを一生懸命やれ!」って言っていたと!

そうなんです。だから今出来ることをやるっていうのが本当にずっとあったので登山もやって。宇宙飛行士になるためには、「理系の大学を卒業していること」というのがあるので、それさえ守っていれば募集が来たときに応募しようと思っていたんです。

それにしてもすごく意志が強いですね。お母さんも応援されていたんですか?

はい。でも、小学校のときとか悪いことすると「そんなんじゃ宇宙飛行士になれないよ!」って言われてました。その度に傷ついてましたね。

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(笑)お母さんもすごいですね。それで登山期を経て、筑波大学を目指したのはどうしてですか?

やはり地球を学びたかったんです。特に地学を学びたかったので。それにイメージが良かったんです。筑波には宇宙センターもありますし、自然も豊かでしたし。

それで入学していかがでしたか?

初めて一人暮らしをしたんですが、そこから闇の時代に…。

お!やっと来ましたか!

はい、入りました。学校は大きいし開放的なんですけど、その中だけのことで、筑波村…陸の孤島みたいな感じで、かなり閉鎖的だったんです。それにずっと東京しか知らなかったし、女子の中高一貫だったから大学からの共学にカルチャーショックもあって。頻繁に東京に帰って、中高の友だちとばかり遊んでました。でもそのせいでまた勝手に気持ちが置いてけぼりになったりで。とはいえ大学の子ともみんな仲良くて楽しかったんですが、家に帰ると一人で考え込んでしまって。自分の在り方に悩み、内側に籠っていたんです。

その時期を脱したきっかけを教えてください。

大学二年のときにオーストラリアに語学研修に行って、そこで一緒だった他の学科の子たちと仲良くなったんです。そこから輪が広がって、自分に自信が持てるようになり、抜けることが出来ました。

そして筑波を卒業して、現在は東大の大学院なんですね。それはどうしてですか?

筑波は分野が細分化されていて、それを集中的にやるんですけど、もうちょっと横断的な領域をやりたいと思って探してたら、東大に新領域創成科学研究科というのがあって。そこにある自然環境学専攻っていうのが合うと思ったので入学しました。

宇宙飛行士への道は近づいてますか?

JAXAではないのですが、一昨年転機がありました。ユニリーバの男性用化粧品でAXEというのがあるのですが、そのキャンペーンとして、宇宙飛行士の日本代表を応募したんです。有人宇宙船を作っているアメリカのベンチャー企業でX COR社というのがあるんですが、そことユニリーバが手を組んで始めた企画なんです。世界中の60ヶ国以上の国から、約100名…各国三名ずつが候補としてNASAで行なわれるキャンプ選考会に行って、その中で各国代表として一名が選ばれて、合計23名で宇宙に行くというプロジェクトだったんです。

それはどこで知ったんですか?

Facebookです。知ったときは「本当に宇宙へ行ける!ハァァァ!」って興奮して応募しました。

どういう風に選考は行なわれたんですか?

第一次選考は一般の方からのWEB投票でした。ホームページに私の写真が載っていて、それで投票を募るんです。

そこに西川さんの履歴とかがあって…

いや、それも無いんです。写真と名前だけなんです。

マジですか!

はい。だから私を知らない人が投票するとかよりも、どれだけ私を知っている人、知人とか家族とかを呼び込んで投票させるのか。そんなコミュニケーションとかネットワークの強さを計る感じだったんです。だから会った人はもちろん、SNSだったり、友だちがその友だちに言ってくれたり、本当にたくさんの人が協力してくれたんです。それでWEB投票で8位くらいになって、一次は通ったんです。

何人くらい応募してたんですか?

それが公表されてなくて分からないんです。ずっとスクロールしていっても終わらない感じで。500位くらいまでは確認したんですが、もういいやって。

その次は?

健康診断と面接です。

どんな面接でしたか?

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最初いきなり英語で自己紹介を求められて。あと何で宇宙に行きたいのか?宇宙に行って何をしたいのか?とかです。10分くらいでした。

そこで子供の頃からの夢を語ったのですか?

うーん、他の人は「無重力を感じたい」とか「宇宙の謎を解明をしたい」とかだと思うんですが、私はやはり「宇宙から地球を見たい」って言ったんです。

いいですね!一貫してますね。

はい。「地球大好きキャラ」で。それに面接に強い友だちとかに手伝ってもらって、何度も練習してたんです。そしたら用意していた質問がどんどん来たんで「ヨシ!!」「来た、コレ!」って。

ハイハイハイ!

それで三名に選ばれたんです。

ウォー!マジですか!本当にスゴイ!!それで遂にNASAへ!!!!

はい。世界中から104人の候補者が集まりました。でも国によって選考方法が違ったんです。ある国では「カラダが一番!」ってことで「SASUKE」みたいなことやってマッチョな人が来てたり。素潜りでサメを捕まえられるとか言ってました。あと日本ではあまりこのキャンペーンのことは知られてなかったんですが、ある国では誰もが知ってる一大イベントになっていて、だから俳優とか可愛い娘とか、有名人も来ていましたね。

西川さん以外の日本人はどんな方だったんですか?

二人とも男性で、物理の先生と、東大に通っている宇宙好きの学生さんでした。

どんなキャンプでしたか?

空き地みたいなところにテントを張ってベットを置いて…

え、そんな待遇なのですか?

はい、寒かったです。でも選考内容はそれほど厳しくありませんでした。初日はNASAの見物ツアーとかしましたし。でも事前に、宇宙飛行士の訓練同様に6Gの圧力を味わえると聞いていて、とても楽しみにしていたのですが、それが急遽2.5Gに変更になって。それじゃNASAのお楽しみコーナーにある子ども用と同じじゃん、ってガックリしました。更に一番のメインイベントで、飛行機を自由落下させての無重力体験っていうのもあったんですが、それもエンジン・トラブルで中止になって。本当に残念でした。でもプロペラ機での一回転は楽しかったです。

選考はどんな感じで行なわれたんですか?

アスレチック競争とかありました。でもタイムを計っている訳でもないし、審査員の方もユニリーバの方だったので、どこを見てるんだろうってちょっと心配になりました。

具体的ではなかったんですね。

でもこの最終選抜であるキャンプでは、「勇気」「熱意」「チームワーク」を見られると発表されていたんです。それは誰よりも自信がありました。もっと宇宙に関して詳しい人もいたし、面白い人もいたんですけど、この三つには自信があったし、キャンプを過ごして行く中で、それは更に強くなっていったんです。104人が参加していますが、日本からは必ず一人が選ばれるので、私の相手は実際は二人なんです。私は誰よりも本気の5日間だったので、「こりゃ絶対選ばれるわ」って思っていたんです。それで最終日のセレモニーで発表があったんですが、私の名前は呼ばれませんでした。初めてこんなに自分に自信があったのに、初めて自分を信じられていたんですけど、それが叶わなくて。こんな気持ち初めてでした。何を見られていたんだろうって。ただ最後にペーパーテストがあったんですね。それがボロボロで。物理とか、航空とか、NASAの歴史とかの問題で。でも最初の三つで選ばれるって聞いていたので、テストが出来なくても楽観的に思っていたんです。

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辛くなかったですか?

とても辛かったです。それに自分はこのキャンペーンで選ばれることに拘るようになっていたんです。最初から最後まで周りの人たちの支えがあって、大喜びしてくれて…特にNASAに行く直前、大勢の仲間が集まって壮行会を開いてくれて、背中を押してくれて。みんなに応援され期待されていることを直接感じられていたので。なんだか「宇宙へ行く」ことよりも、「ここで選ばれる。23人の中の一人になる」ことの方が、意味があるって思うようになったんです。だからこのキャンペーンで選ばれなかったことが悲しいし、もっとこうしておけば良かったのかな…ってグルグル考えていました。

その気持ちは落ち着きましたか?

帰って来てからもまだ続きました。ずっとFacebookで状況は伝えていたので、みんな落ちたことは知っていて。でもみんな待っていてくれて。みんなには素晴らしい出会いと経験をしてきたことを伝えました。楽しみに聞いてくれたし、たくさん励ましてくれました。ただ、素晴らしい経験をしたから結果はいいか!と立ち直ったわけではありません。悔しいもんは、悔しい。その気持ちを無理に晴らすことはできないし、しなくていいんだと気付いたんです。自分が誰よりも負けていなかったこと、できたこと、それを認めて誇りにする。自分に足りなかったこと、できなかったこと、それを受け止めて成長する。そういう風に考えることで、落ち着きました。

選ばれた23人はもう宇宙に行ったんですか?

行ってないんです、それが。

え?

まだ宇宙船が完成していないようなんです。更に最近他の会社のものも立て続けに事故ってたりして。「…結構まだ先だな」って。

ではJAXAの宇宙飛行士募集を待ち続けると。

いえ、これが実は、JAXAは宇宙飛行士の募集を凍結させちゃったんです。

ゲーッ!!!!それは相当ショックだったんじゃないですか!?宇宙飛行士になりたい…って気持ちはどうなったのですか?

うーん、ずっとJAXAの宇宙飛行士に憧れていたんです。求める理想の人物像とかも。ただJAXAが募集を止めたってことは、これからはみんなが宇宙に行ける時代が近づいた、宇宙へのハードルが下がったってことだと思うんです。民間企業も有人宇宙飛行をさせたり、宇宙旅行も普通になったり。だから宇宙飛行士というのは、ただのパイロットみたいな感じになるのかもしれません。だから別に宇宙飛行士でなくても、単に宇宙で研究したい人が宇宙に行ける時代になるのかなって。それだったら理系とかに拘らず、好きなこと、他のことでも、宇宙でやりたいことをやれるのかなって。今は宇宙で何をやりたいのかを考えています。

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