アートや音楽、写真、ファッションの世界でも活躍するスケートボーダーは多い。写真をプリントし送りあう、そんなアートプロジェクトが話題を集めるJAI TANJUのインタビュー。

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写真をプリントし送りあう。 スケートボード写真家が取り組む新たな文通

アートや音楽、写真、ファッションの世界でも活躍するスケートボーダーは多い。写真をプリントし送りあう、そんなアートプロジェクトが話題を集めるJAI TANJUのインタビュー。

ルールは簡単。自分で好きな写真を撮ってプリントし、あとは普通に手紙を書くのと同じ。プリントの裏に切手を貼って宛名を書き、自分の住所を書いて、合言葉「P.E.P.」(PRINT EXCHANGE PROGRAMの頭文字をとって)か、「FILM FOR VIDA」を添えて投函するのみ。

そんなプロジェクト、プリント・エクスチェンジ・プログラムを始めたのがサンノゼ在住のスケートボードフォトグラファー、ジャイ・タンジュ。もちろんスケートの世界では著名な彼だが、今回のプロジェクトを始めた意図はどこにあるのだろうか?インスタグラムやフェイスブックなどSNSが発達していくなかで、なぜアナログ感たっぷりの写真を介した文通が大きなプロジェクトとして脚光を浴びるのか?
日本でのエキシビジョンのため来日したジャイ・タンジュのインタビュー。

まず、このプロジェクトを始めたきっかけを教えてください。

自分がこのプログラムを始めたのは、ニューヨークで活動してたレイ・ジョンソンについての映画を観たのがきっかけだった。彼は60年代にメールアートを始め、実際に手紙のやり取りをしてたわけじゃないけど、自身のアートワークを施した手紙をいろんな人に送ることにすっかりハマったらしい。それを観て自分でもやってみたいと思ったんだ。僕はスケートボードの写真家だから、写真をプリントして手紙としていろんな人に送ったんだけど、そうしたら、だんだんみんなが送り返してくれるようになったんだ。

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このプロジェクトをやってみて、今はどんな心境?

とにかく楽しい。もらった写真そのものの価値というよりも、やり取り自体に惹かれてる部分が実際には大きい。毎朝起きて郵便ポストを見に行くのが楽しみでしょうがないんだ。ポストを開けてみて、写真が入ってるのを見つけて、何通でもいいんだけど、そういった過程、全部が魅力的なんだ。もちろん特別お気に入りの写真はあるけど、写真そのものというより、それを受け取って返事を書いたりする、その過程でのやり取りが好きなんだ。もちろん、ポストを開けたら「あ!エド・テンプルトンだ!」って、僕が好きなフォトグラファーでありアーティストから手紙をもらうこともあるから、そういう喜びもあるけどね。

現在ではアーティストとしても著名なエド・テンプルトンが撮った3枚の写真。

今回展示している写真の手紙は全部で何枚くらいあるんですか?

数えてないから分からないけど、多分3000枚から5000枚くらいだと思うよ。そのなかにはマーク・ゴンザレスの写真を送ってくれたジョー・ブルックとか、ブライス・カナイツとか、グレッグ・ハントなど僕と同じスケードボードの写真家や映像作家からの写真もたくさんある。ただ、スケーターでもアーティストでもない、他のたくさんの人々がみんなこのプロジェクトに参加してくれていてみんな同じように嬉しいんだ。

マーク・ゴンザレスが収められたジョー・ブルックからの写真。

家に写真が届くのは嬉しいのはすごく理解できますが、ここまでの規模に広がった理由がいまいちピンと来ない部分もあります。

新しい友達が増えていくっていうのが、このプログラムを支えていたんじゃないかな。もちろんみんな写真を撮ったり送ったりこのやり取り自体に僕と同じように楽しんでくれているからだと思うけど、面白いのは、彼らは彼ら同士でもやり取りをしていること。初めは僕がやり取りをしたくて始めたんだけど、受け取った写真と住所をどちらもネットであげていたら、すぐにみんながお互いに独自でやり取りをするようになった。つまり僕が知らないところで、ホームページを観て良いと思った写真を撮った人の住所に、自分の写真を送る。そんなことを通して友達が増えたりするのは最高だよね。例えば4年間このやり取りを続けてから、実際に去年はじめてあった人がいるんだけど、すでに友達だって感覚で全然初めてあった感じがしなかったんだよね。

なるほど。では例えばインスタグラムなどのSNSとの違いは何だと思いますか?

すごく似てるとは思うけど、ただ手触りがあるかないかの違いだと思う。ソーシャルメディアだと、メールボックスが100件とか溢れてるときがあると思うけど、郵便ポストではそんなことが起きない。せいぜい3通くらい。それも違いかな。

日本には、結婚したときや子供ができたとき、写真を葉書自体にプリントして送る風習があります。それから年賀状も。昔は、そういったやり取りがあったのですが、今はだいぶ希薄になってきています。アメリカにもそういった風習はありますか?

結婚式の招待状とか、クリスマスカードとかは送るけど、少なくなってるのは事実だね。今はインターネットで簡単に送れるから。そういったことをしなくなった理由はよくわからないけど、この展覧会を通して、そうしたやり取りの価値を提示できるんじゃないかと思ってる。誰かに何かを送る楽しさとかね。実際にこのプロジェクトをはじめてわかったのは、返事がなくても、見返りがなくても、誰かに何かを送ること自体の良さかな。例えば自分の母親に、自分が笑ってる顔の写真を送ったとして「手紙を送ったから見てね」って伝えて、彼女が郵便ポストを開けたとき、きっと彼女は何か感じるはずだ。冷蔵庫に貼ってくれるかもしれないし、毎日その写真はそこに飾られるかもしれない。携帯でもそうだけど。何かを送れば、何かが変わる。

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アーティスト、クリス・ヨハンソンがアートを手がけている際の写真。

なるほど。おそらく日本では、写真を使った手紙のやりとりをアートっていうより、連絡や報告、礼儀などの意味合いで使っています。強制でも義務でも慣習でもなく、遊びの延長というところが大きく違うのでしょうね。また、あなた自身はスケートボードのフォトグラファーとして著名ですが、スケートボードのトリックの写真と言えばデジタルカメラで撮影した方が理にかなっていて、現在ではほぼ100%に近いくらいデジタルカメラが使用されていると思いますが、アナログで写真を撮って送るって発想が意外だと個人的には感じるのですが。

僕は47歳になったんだけど、自分が写真を撮り始めたときはフィルムのカメラしかなかったから、デジタルカメラが登場してきたときはかなり抵抗して、スケートボードのトリック写真もフィルムで撮り続けてたんだ。ただ、どこかのタイミングでデジタルカメラも使うようになって、今ではスケートフォトを撮るとき、だいたいデジタルを使ってる。確実にトリックの瞬間を収めるためにね。仕事で広告用とか雑誌用に撮る場合が多いから。写真を現像して送ったりするのは、どうしても時間がかかってしまうからデジタルを使う。でも仕事の合間にフィルムのカメラを使って、彼らのライフスタイルだとか、周りで起きてることを撮ってる。良い瞬間とかポートレートはフィルムで収めたいんだ。

ポートレートを撮るときは、フィルムのカメラの方が適していると思うのはなぜですか?

フィルムの方が僕にとってはリアルで簡単だからかな。自然な感じがする。写真を撮るとどうしても被写体に自分自身が投影されてしまうから自分が落ち着いてないと、被写体もリラックスできない。それに撮られてる側も、フィルムの方がリラックスしてるみたいだし。デジタルカメラの機械的な感じが僕に合わないのかもしれない。それにフィルムではプロセスがより重要になる。写真を撮って、フィルムを現像して、イメージが浮かび上がってきたときには、少し驚きがあったり。デジタルは撮ったその場で見られるけど、そこにはミステリーがない。アメリカでも今、時代は遡ってて、フィルムが好きな人も増えてきたと思う。もちろん仕上がりも違うからね。

ちなみに、日本だとフィルムの値段や現像、プリントをするための費用が高くなっています。アメリカでの現状はいかがですか?

値段は上がってるし、写真を現像できる店が減ってきてるのは事実。そういった点では、難しくなってるのかもしれないね。けど、レコードみたいに、今も確かに生き続けてる。それを求める人もいる。値段は高いかもしれないけど、それでもフィルムで写真を撮りたいって人はたくさんいると思う。フィルムの方がカッコいいと思う人も多いから。インターネットとかブログとかもあるけど、それよりフィルムで写真を撮りたいとか、自分で現像したいとか、ジンを作ったり、そういう手触りのあるものが盛り返して来てると思う。だからと言ってデジタルがなくなるってことじゃない、簡単だからね。けど僕の知ってる限り、知り合いや若い子たちも、フィルムを買って写真を撮るようになってる。その理由はさっき話したようにプロセスが楽しいからだと思う。初めはわからなくても、一旦やってみるとハマって、もっとフィルムを買って写真を撮りたくなる。その過程でいろんな驚きがあるし、印象も違うからね。

勝手な印象かもしれないですが、アメリカの社会では古いものとか、手触りとか、温かみとか、そういったものを近年まで求める人が少なかったと感じていました。CDよりもレコード、デジタルよりフィルムといったように、いろんな所で、急にそういう現象が起こり始めてると思うんですが。その背景には何があると思いますか?

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どうだろう。今も人々は進化を求めてると思うけど、CDのような進化の仕方は、薄っぺらく見えるでしょ?もの自体に価値が感じられなくて、壊れやすかったり、キズが付きやすかったり。進化はしたけど安っぽい。だから、より良いものを求めたくなるんじゃないかな。例えばレコードは良いよね。フィルムを撮るのと似てるけど、レコードを取り出して、プレイヤーに乗せて。CDとかiPodだと、ただ流すだけ。音楽だけを楽しむならいい。その曲とかバンドが好きだとかね。でもレコードを聴くときは、針を盤に落としたり。フィルムで撮るときも時間がかかるけど、そのプロセスを楽しめる。だからCDは長続きしなかったんじゃないかな。ただ、個人によりけりだと思うけどね。

トニー・アルバ、ランス・マウンテン、ジェイソン・ジェシーなど多くの人気スケーターが収められた写真も展示。

なるほど。ではもう少し、このプロジェクトで面白いエピソードがあったら教えてください。

今回日本のエキシビジョンを仕切ってくれてるアーティストのカズヨシは、このプロジェクトで人生が変わったって言ってくれたんだ。サンフランシスコのカルソン・ランカスターっていう写真家がいるんだけど、カルソンはカズヨシが僕に写真を送ってくれていたのをみて、もちろん会ったこともないんだけど、直接カズヨシに東京でブックをリリースしたいからギャラリーを紹介してくれって連絡をとったみたいで、それでカズヨシがカルソンにギャラリーを紹介してそこでエキシビジョンを開いた。そしたら今度はカルソンがカズヨシに、サンフランシスコでショーをやりに来いって誘って、それが去年実現した。僕もそのサンフランシスコのカズヨシのショーを観にいって、初めてあったんだ。それで、今回の東京でのエキシビジョンが実現した。本当に面白いことだよね。

とても夢がある話ですね。いっけん普通のこと、既存にあるようなものを、スケーターの人々はちょっと見方を変えることで、全く別の遊びにしてしまう。また、大きなプロジェクトにしてしまう。そんな魅力があると思うのですが、なぜ、このようなムーブメントがスケートカルチャーから生まれると思いますか?

自分の街にいる友達もそうだけど、東京でもノルウェーでもどこにいても、スケートボード自体、大きなひとつのコミュニティーだからね。クリエイティブなある意識の集合体だと思う。スケートをしてれば、どこへ行っても繋がりができて、簡単に友達ができる。僕の場合は、小さなコミュニティーで育ったんだけど、例えばジェイソン・アダムスっていうプロスケーターが同じ地区のコミュニティーなんだけど、彼が有名になるにつれて僕が彼を撮った写真もメディアに掲載されて広がっていく。一緒にいたヤツらにスポンサーがつくようになって、彼らはプロになったら、僕は彼らの近くで写真を撮ってたから、自然と自分の写真が雑誌や広告に使われるようになった。自然な流れだよね。

スケートカルチャーって、そういう広がり方をしますよね。また、小さなコミュニティーからマーク・ゴンザレスとかエド・テンプルトンとかトミー・ゲレロとか、違う分野でも活躍する人が出てきたりしますよね。それはなぜだと思いますか?

自由だからだと思う。スケートボーダーだったら、あちこちに行って、好きなことをすればいい。スケートボードをしてると、自由になるんだ。クリエイティブなことをするのも、絵を描いたりもね。マーク・ゴンザレスやエド・テンプルトンも自由だったんだと思う。朝起きて仕事をしに会社に行かなくてもいいし、アートスクールに通ってなくてもアートが身近にあって、遊びで絵を描いたり、グリップテープに絵を描いたり。絵を描くのも写真を撮るのも自由だし、方法も学校で習う方法でなくて、自分の好きなようにやればいい。そしてスケートボードをしてる時点で、自分を表現してるわけだから、違う方法でも表現し続けるっていうのは自然なことで。スケートボードやアートでクリエイティブなことをしてるのを見て、自分にもクリエイティブなことが出来るかもしれないって思えば、プロであろうとなかろうと、自分の自由さを見せられる。やっぱり、自由だからだと思う。

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そこもスケーターの面白いところですよね。

このプロジェクトも確実にスケートカルチャー的な要素はあると思う。スケーターは、いろんなものに楽しみを見出していくみたいな要素があると思う。例えば街でスケートをしていて気に入ったものを見つければ、写真を撮りたくなったり。実際にやってみて楽しくて続けてるうちに「手紙を書きたい」と思って書いて、そこでまた何か感じれば続いていくだろうしね。スケートボード、自由、楽しむっていうのは、確実に共通してると思う。人生を気楽に楽しもうっていうね。

JAI TANJU(ジャイ・タンジュ)
ニューヨーク州ロングアイランド出身、サンノゼ在住。写真家、アーティストで自身のギャラリー、シーイング・シングス・ギャラリーのオーナー。スケートボード雑誌を中心に、現在は、ストリートフォトグラファーとしての評価も高い。また、自身が撮影した写真にスケートボードのチップやドローイングを加えるアートワークは、スケートボーダーのみならず、多くのファンから支持されている。
http://filmporvida.blogspot.jp

PRINT EXCHANGE PROGRAM
開催場所:BEAMS JAPAN
住所:東京都新宿区新宿3-32-6 BEAMS JAPAN 6F
TEL_03-5368-7309
営:9月11日(金)から10月4日(日)11時 から20時
www.beams.co.jp/labes/detail/b-gallery