〈ビール飲みながら競走〉のチャンピオンが手にしたもの

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〈ビール飲みながら競走〉のチャンピオンが手にしたもの

ビールを飲みながら走るスポーツ〈ビア・マイル〉は、1本のビールを飲み干し、1周400メートルのトラックを、4週繰り返し走る競技だ。23歳のコーリー・ベルモアは、ビア・マイルの世界記録保持者であると同時に、カナダの中距離走のトップ選手でもある。

コーリー・ベルモア(Corey Bellemore)、23歳。ビールを飲みながら走る競技〈ビア・マイル(beer mile)〉の世界記録保持者だ。同時に彼は、カナダ陸上競技界のトップ中距離選手であり、将来的には同国代表になる可能性を秘めた選手でもある。

オンタリオ州ウィンザー出身のベルモアが初めてビア・マイルを走ったのは、その催しがただ楽しそうだったからだという。多くの大学陸上部は、シーズン終了のイベントとして、ビア・マイルへ出場し、その年を締めくくる。ある年、ベルモアも同じように出場し、5分27秒でゴールした。その後、同じカナダ人のルイス・ケント(Lewis Kent)が4分47秒17というタイムで世界新記録を樹立した。それを見てベルモアは、自分も世界記録を出せるかもしれないと感じた。アルコールを摂取しない状態で通常レースを走れば、ベルモアはケントよりも速かった。つまり、アルコールを飲んでいても、実力を発揮できれば、当然、ケントの記録を破れる。彼の自信には十分な根拠があったわけだ。

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「コーリー・ベルモアはマーケットに見出された。彼にとってそれは幸運な出来事でした。800メートルを1分47秒で走る選手がどれくらい稼げるでしょうか。たとえ1分44秒で走れても大した額は稼げません。陸上競技界そのものに資本がないからです」。そう説明するのは『Toronto Star』紙の記者モーガン・キャンベル(Morgan Campbell)だ。「ボクシングの世界と同じです。全体の95%の金を、5%の人間が独占している世界なのです」

通常の陸上競技大会で走るベルモア。Photo courtesy Corey Bellemore

「たとえばNFL(National Football League)ならば、『当社のシューズを履いて40ヤード走で記録を出してくれれば100万ドル(約1億円)を差し上げます』と名乗り出るシューズメーカーがあります。陸上選手で、アメフトの40ヤード走の記録を超えるくらい速く走れる選手は何人いると思いますか? たくさんいますよ。しかし、陸上選手がシューズメーカーと1億円規模の契約を結ぶのは非常に困難です。本当に難しいのです。アンドレ・ドグラス(Andre De Grasse)や、クリスチャン・コールマン(Christian Coleman)でもない限り、1億円規模のシューズ契約など舞い込んできません。でも、足の速いアメフト選手はオファーされるんです」。キャンベルはそう語る。

乾杯! Photo courtesy Corey Bellemore

世間は、現在の800メートルの世界チャンピオンを知らない。デヴィッド・ルディシャ(David Rudisha)の名前すら知らない。しかし、キングフィッシャーをガブ飲みしながら、トラックを疾走する男は、Facebookのタイムラインを覗き見したみんなが知っている。