新鋭映像作家イーフォ・マッカードル(Aoife McArdle)の短編『Every Breaking Wave』。U2の同曲とともに、北アイルランドの内戦混乱期を描いた、ヴィジュアル・エッセイ制作秘話を公開。
*世間では、当然、U2にスポットが当たっていますが、われらがヒーロー、Stiff Little Fingersの「Alternative Ulster」もしっかりフィーチャーされています。

マッカードルにとって、U2の「Every Breaking Wave」の始めのコードは、奇妙になつかしく魅惑的で、彼女の若い頃の北アイルランドの思い出と父の世代の思い出を喚起する。「あの曲の始めには10代の本物のエネルギーがあって、ある種のセクシーさがあります。私はそのエネルギーに身をまかせたんです」とマックアードルはクリエーター・プロジェクトに話している。この映画には、愛、友情、そしてアイデンティティといった若者に典型的な試行錯誤と、80年代初頭のベルファストが巻き込まれた未曾有の混乱が刻み込まれている。

 

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この時期、北アイルランドは、「厄介事」と呼ばれた数十年に及ぶ長い紛争にがんじがらめになっており、英国に留まることを望むプロテスタントの統一党員と、英国から分離して統一国家を確を望むカソリックのアイルランド民族主義者が真っ向から対立していた。爆弾が爆発し、ヘリコプターが庭の上空を飛び、いたるところに軍隊がいる光景をありありと思い出しながら、「ずっと、あのころの話を描きたいと思っていました」と、その余波の中で育ったマッカードルは言う。そこに彼女は、「Every Breaking Wave」のラブストーリーにロミオとジュリエット的な要素も織り込んだ。ストーリーは、カソリックとプロテスタントのカップルを軸に展開する。「ティーンエージャーであるというだけで気が変になりそうなのに、その上、逃れようのない暴力が戸口まで迫っているんですよ。想像してみてください」と更にマッカードルが言う。彼女は、そんな状況のまっただ中で、若者の精神がいかに強靭かを描きたかったのだ。

 

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マッカードルはスピーカーから音楽が聞こえるような脚本を目指している。どの音に会話をかぶせるのか、どの部分には会話を入れるべきでないか、音楽とアクションの最も効果的な組み合わせ、いつ歌詞が物語を語る役目を請け負うのか、ということを熟考する。「ジグソーパズルを組み立てているようなものです」と彼女は説明する。高揚する「Every Breaking Wave」のメロディーが連続再生され、「厄介事」の緊張感の高まりが描写される中、マッカードルは、俯瞰、移動クレーンによるハイアングルからの覗き込み、両者の混用がベストだ、と直観した。「一瞬で、叙情から叙事に変化するんです」

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マッカードルが長年に渡って収集した膨大な創造ネタ帳から引用されたアイディアが、本筋であるプライベートなストーリーを彩った。彼女のプロジェクト用ムードボードは、デレク・リジャーズやギャビン・ワトソンが撮影したパンク・ロッカーの写真、ベルファストの景観、ジル・ペレスやピーター·マーロウらが撮った「厄介事」の写真で溢れていた。マッカードルはまた、自身の読書から、特に、ウィリアム・フォークナーやフラナリー・オコナー、その他アメリカ南部のゴシック派の作家の作品の要素を取り入れた。彼らの中にアイルランドのモダニストと通じるものを見出したのである。また、ミケランジェロ・アントニーニやピエール・パオロからデイビッド・リンチ、ヴィム·ヴェンダース、テレンス·マリックに至るまで広範な映画を鑑賞し、研究している。更に、ドキュメントフィルムの物語を語る技術にも目を向けている。

 

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ストーリーとキャラクターを惹きたたせるための撮影アイディアは、絵画からヒントを得た。「おかしなことに、もう一度マックス・エルンストをたくさん観ているんですよ。 主に彼の黄色の使い方のせいです。」と言う。彼女は、荒涼とした背景の描写の中で奇抜な黄色がはじけていることに感銘したのである。エドワード・ホッパーは「露出不足」の美学で絵を描き、鮮やかな色で黒を表現しています、と言う。彼女も同様に最終作品のカラーグレーディングでフィルムの効果を強調している。「顔があまり見えない方が好きなんです。その方が謎めいているし、神秘性が深まるんです」。その他、マックアードルの美学に大きな影響を与えた人物には、画家のフランシス・ベーコンやジョージ・ショー、映画監督アラン・クラークが含まれる。

彼女は、架空の物語にリアリズムを取り入れようと、北アイルランドの素人を起用し、北アイルランドで撮影している。主役の少年には、タフに見えるが、脆さも表現できる少年を探した。「街を歩いていた時、ベルファストの市役所の外で少年2人が、タバコふかしながらぶらぶらしているのが目に止まったんです。そのひとりが、人を惹きつける瞳を持った、とても印象深い表情だったんです。」とマックアードル。彼にオーディションを受けるよう説得し、主役に抜擢した。他のキャストも、ベルファストで生まれ育った子供たちがキャスティングされた。撮影が始まり、進行するとともに、彼らは加速度的に良くなっていきました。紛争余波の中で育ったことから、その生活や感情を演技に結びつけることができたんです、とマッカードル「その中のひとりが『そうだよ、ママは美容室を経営しているから、僕も美容師になると思う』というから、私は『だめよ。俳優になるのよ』っていったんです」

 

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マッカードルは、ベルファスト近郊で育ったので、ロケーションのアイディアには事欠かなかった。例えば、荒廃したハーランド・アンド・ウルフの巨大な造船所。造船業はかつて北アイルランドで繁栄した産業であったが、経済不況の煽りで衰退した。広漠としたコンクリートの砂漠の中の黄色のクレーンや工業用機械が詩的な雰囲気を醸しだしていた、と彼女は振り返った。

 

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感情的に最も難しいシーンは、英国陸軍との交渉破綻後の、暫定アイルランド共和軍による1978年の爆撃、すなわち「血の金曜日」、などのエピソードに啓発されたフィルムの大詰めの部分です、とマックアードルが言う。「実際に血の金曜日を生き抜いた人たちと一緒に映画を創っているわけで、本当に信じられないほど感情的なものになりました」。また「何か浄化作用のようなものがあって」とも語る。シーンに信ぴょう性をもたせるため、マックアードルは1998年8月15日の自分自身の思い出に焦点を絞った。暫定アイルランド共和軍が休戦した4年後、グッドフライデー(ベルファスト)合意に反対する分派が「リアルIRA」と名乗り車両を爆破、29人が死亡し200人以上が負傷した事件の日である。マックアードルは当時10代で、その日はダブリンでオマー爆撃のニュースを聞いた。彼女の弟は、破損したガラスで切り傷ができたものの九死に一生を得たが、多くの友人や隣人はそれほど幸運ではなかった。

 

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休戦後のバイオレンスは以前とは比べ物にならないほど少ないけれど、紛争はつい最近かさぶたができたばかりの傷で、その記憶は未だに「二日酔い」のように後を引いています、とマッカードル。しかし、彼女がベルファストに訪れると、回復の兆しが見られ、若者はより進歩的になっていた。両親や祖父母からのプレッシャーにもかかわらず、過去からの流れに逆らう意思が感じられたようだ。

 

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ロンドンでの長期滞在後、マッカードルは今年、長編映画の撮影のためベルファストへの転居を予定している。「北アイルランドの映画はあまり北アイルランドでは撮影されないんです。おかしいですよね。多くの人は、リアルすぎると感じるようです。または、北アイルランドに行くのを恐れているようです。なぜか分からないけれど」。不況の煽りで職が得られないため、ベルファストを離れる人も多いが、彼女は、物語や映画を創るには絶好の機会だ、と考えている。「北アイルランドにプロジェクトを持ち込めるのが嬉しいです。そこで映画を撮れるなんてエキサイティングです」

 

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